2002年11月3日
衆議院憲法調査会中間報告書に関する批判声明
大阪憲法5団体
大阪憲法会議
憲法9条の会・関西
9条連・近畿
護憲・大阪の会
憲法を生かす会・大阪
 衆議院憲法調査会は、このたび、衆議院憲法調査会中間報告書を公表した。
 衆議院憲法調査会は、調査会規程(2条)により、調査の経過を記載した「中間報告書」を作成し公表できることになっており、当調査会の審議は、確かに審議予定の5年の半ばに達したといえる。しかし、中間報告書は必ずしも公表しなければならない性格のものではないし、記載内容に客観性や公平さを欠くものであれば公表すべきではない。
 実際、「基本的人権」「政治の基本機構のあり方」「国際社会における日本のあり方」「地方自治」の四つの個別テーマで審議する小委員会については、本年1月に始まったばかりであり、中間まとめをするほどの調査や発言がなされているとは思われない。
 他方、今回の中間報告書は、調査会における改憲派委員数の多さや参考人の人選の片寄りを反映して、改憲論と護憲論が両論併記されていても、改憲論に有利な発言が多く掲載されている。また、調査会における発言の論点整理や項目設定の仕方においても、改憲論に関心のあるものが目立つかたちで取り上げられたり、恣意的に引用されている。それは、中間報告書をまとめるにあたり、発言者の発言を全体の文脈から切り離して、バラバラに引用する方式をとっていることにも関係している。このようなことから、中間報告書は記載内容に公平さを欠いているといわざるをえない。
 中間報告書の特徴的な問題点を、以下に、いくつか指摘しておきたい。

@「総論的事項」にかかわって、「憲法を改正すべきか」の項目では、憲法改正必要論が12項目にわたって引用されているのに対し、憲法改正不要論はわずか4頁しか引用されていない。これは、改憲論に有利な印象を与え好ましくない。

A調査会における発言は、日本国憲法の条文にそって約400頁を使って論点整理されているが、憲法9条にかかわる「安全保障及び国際協力」の項目には100頁あまりも割り当てているのは、全体の割合からしてアンバランスである。これは、憲法9条を最大の論点にしようという意図のあらわれといえる。
 より子細にみると、例えば、「安全保障」の項目の発言では、軍事力による安全保障論がほとんどで、非軍事的な安全保障論はほとんど引用されず、「平和主義」という項目からまったく切り離されて整理されている。これは、「平和主義」と「安全保障」が全く別の次元の概念のような印象を与えるものであり疑問である。
 また、戦力不保持の平和主義と戦力保持の平和主義、集団的自衛権の否定論と容認論などの引用においては、いずれも後者を支持する発言の方が多く引用され、改憲論に有利に
なっている。

B基本的人権の分野では、「人権総論」の項目の人権概念の本質に関するところでは、「自然権思想」を批判する一人の保守主義者(伊藤哲夫参考人)の発言でほとんどがうめられているのは、いかにも奇異である。自然的思想批判は学問的にはありうるが、「中間報告書」は、「公共の福祉による人権制限」と「国民の義務」を強調し正当化するために、自然権思想批判を引用しているとしか思えない。そして、「国防の義務、徴兵制」に関する項目では、賛成論とそのための改憲必要発言だけを引用しているのである。
 憲法に明文規定のないプライバシーや環境権などの「新しい人権」に関する項目では、「新しい人権」規定を憲法に明記すべきだという改憲論に結びつける発言を圧倒的に多く引用している。「教育を受ける権利」の項目でも、日本的伝統や文化の教育を重視し、教育基本法に批判的な保守主義者の発言ばかりを引用しているのは問題である。

C調査会はその設立目的にそって、幅広く、国会と内閣に関する論点を取り上げるべき任務があるのに、「政治部門」の国会と内閣に関する30項目にわたる発言のうち、「首相公選制」の項目に10頁も当てられている。それは、このテーマが改憲論の主要論点の一つとされたことに関連していると思われる。
 「政党の憲法的編入等」に関する項目では、政党条項を憲法に明記する改憲論だけを取り上げ、批判的発言を取り上げていないのも問題である。
 裁判所制度に関しては、違憲審査制度の改善策として「憲法裁判所」について賛否両論取り上げられているが、いずれも多くの発言が引用されているので目をひくところである。
しかし、これも改憲論議を引き立たせるためのものといえる。
 財政の項目では、改憲論議にかかわる「私学助成」に関する賛否両論が併記されているにすぎず、財政に関する調査、審議が広く行われたのかは、「中間報告書」からはうかがわれず、問題である。

D「憲法改正手続きの要件緩和」に関しては、賛成発言を3頁にわたり引用しているのに対し、慎重発言は1頁くらいしか引用されていないという、引用のアンバランスがある。

E最高法規のところで、改憲論にも結びつくような「抵抗権」に関する発言を短く引用しているが、人権概念の本質論(上記B)と切り離して、しかも一人の参考人の「抵抗権」発言だけを取り上げているのは問題である。

F「その他」項目として取り上げられているのは、「緊急事態に関する法整備」すなわち「有事法制」の是非であるが、改憲論に結びつける有事法制必要論が、有事法制消極論よりも多く引用されている。

 以上のような点からだけでも、今回公表された中間報告書には問題があるといえる。したがって、私たちは、中間報告書にとらわれることなく、また、中間報告書が国会内外における憲法改悪の方向に利用されないように注視していくとともに、憲法の理念を現実の生活や政治に生かしていくことが重要と考えている。