有事3法案に関する政府見解



武力攻撃事態対処法案にいう「武力攻撃事態」について 2002年5月16日
指定公共機関について 2002年5月16日
武力攻撃事態における憲法で保障している国民の自由と権利について 2002年7月24日


武力攻撃事態対処法案にいう「武力攻撃事態」について
2002年5月16日

 一 武力攻撃事態について

(1)武力攻撃事態とは、
 1「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」と、
 2「武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む。)が発生した事態」を指すものである。

(2)ここで、武力攻撃とは、我が国に対する外部からの組織的、計画的な武力の行使をいうものである。また、武力攻撃を加えてくる主体としては、国だけでなく、国に準ずる者もあり、攻撃の規模の大小、期間の長短や攻撃が行われる地域、攻撃の態様等も様々であり、武力攻撃の態様は一概に言えないものである。
 武力攻撃事態対処法案において、現実に武力攻撃が発生した事態に加えて、「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」及び「武力攻撃のおそれのある場合」を含めて武力攻撃事態としているのは、国民の生命、身体及び財産を守るため、武力攻撃に対して時機を失することなく効果的に対処し得るようにするとの考え方に基づくものである。

(3)また、武力攻撃事態対処法案においては、武力攻撃事態の認定は、対処基本方針に定める事項とされている。さらに、この対処基本方針は、閣議で決定された後、直ちに国会の承認を求めることとされている。

 二 「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」について

(1)「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」とは、自衛隊法第七十七条の防衛出動待機命令等を下令し得る事態である。
 これは、その時点における国際情勢や相手国の動向、我が国への武力攻撃の意図が推測されることなどからみて、我が国に対する武力攻撃が発生する可能性が高いと客観的に判断される事態である。

(2)「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」とはどのような事態であるかについては、事態の現実の状況に即して個別具体的に判断されるものであるため、仮定の事例において、限られた与件のみに基づいて論ずることは適切でないと考える。
 その上であえて申し上げれば、例えば、「武力攻撃のおそれのある場合」には至っていないが、その時点における我が国を取り巻く国際情勢の緊張が高まっている状況下で、ある国が我が国への攻撃のため部隊の充足を高めるべく予備役の招集や軍の要員の禁足、非常呼集を行っているとみられることや、我が国を攻撃するためとみられる軍事施設の新たな構築を行っていることなどからみて、我が国への武力攻撃の意図が推測され、我が国に対して武力攻撃を行う可能性が高いと客観的に判断される場合は、「事態が緊迫し、武力攻撃が予測される事態」に該当すると考えられる。

 三 「武力攻撃のおそれのある場合」について

(1)「武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む。)が発生した事態」は、自衛隊法第七十六条の防衛出動を下令し得る事態である。
 ここで、「武力攻撃のおそれのある場合」とは、同条の規定する防衛出動下令の要件の一つである「武力攻撃のおそれのある場合」と同じである。
 これは、その時点における国際情勢や相手国の軍事的行動、我が国への武力攻撃の意図が明示されていることなどからみて、我が国への武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していることが客観的に認められる事態を指すものである。

(2)武力攻撃のおそれのある場合とはどのような場合であるかについては、上記二(2)と同様、事態の現実の状況に即して個別具体的に判断されるものであるため、仮定の事例において、限られた与件のみに基づいて論ずることは適切でないと考える。
 その上であえて申し上げれば、例えば、ある国が我が国に対して武力攻撃を行うとの意図を明示し、攻撃のための多数の艦船あるいは航空機を集結させていることなどからみて、我が国に対する武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると客観的に認められる場合は、「武力攻撃のおそれのある場合」に該当すると考えられる。


指定公共機関につい
2002年5月16日

 一 武力攻撃事態対処法案(以下「法案」という。)第二条第五号において、指定公共機関は、「独立行政法人、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、政令で定めるもの」と定義されている。

 二 ここでいう「公共的機関」とはその業務自体が公共的活動を目的とする機関をいい、「公益的事業を営む法人」とはその業務目的は営利目的等であるが、その業務が公衆の日常生活に密接な関係を有する法人をいうものと解している。

 三 法案第六条において、「指定公共機関は、国及び地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事態への対処に関し、その業務について、必要な措置を実施する責務を有する」ものと定められている。また、指定公共機関が実施する対処措置については、法案第二条第六号において、「法律の規定に基づいて実施する」ものと定められている。

 四 実際にいかなる機関を指定公共機関として政令で指定するかについては、今後、まず、個別の法制において、指定公共機関に実施を求めることが必要となる対処措置の内容を具体的に定めた上で、個別の法制が定める事項ごとに当該機関の業務の公益性の度合いや、武力攻撃事態への対処との関連性などを踏まえ、当該機関の意見も聴きつつ、総合的に判断することとなる。

 五 したがって、今後整備される個別の法制においては、指定公共機関に実施を求めることが必要となる対処措置の具体的な内容が法定されることから、指定の対象となる公共機関の範囲も明らかになるものと考えている。

 六 放送事業者については、警報等の緊急情報の伝達のために指定公共機関として指定することを考えている。民間放送事業者が指定される可能性はあるが、現時点では、日本放送協会(NHK)を主として考えている。また、新聞については、警報等の緊急情報の伝達の役割を担うことは一般には考えにくい。
 なお、テレビや新聞等の報道機関に対し、報道の規制など言論の自由を制限するようなことは全く考えていない。

 七 自然災害の場合と武力攻撃事態とでは、講ずべき措置の内容は異なるが、災害対策基本法の指定公共機関を参考にしつつ、指定の対象とする公共機関について検討する考えである。
 なお、災害対策基本法の規定に基づき、現在六十の指定公共機関が指定されている(別紙―略)。




武力攻撃事態における憲法で保障している国民の自由と権利について
2002年7月24日

 一 武力攻撃事態対処法案(以下「法案」という。)第三条第四項において、「武力攻撃事態への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合は、その制限は武力攻撃事態に対処するため必要最小限のものであり、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない」と明記し、武力攻撃事態への対処と国民の自由と権利との関係に関する基本理念を述べているが、これは、憲法における基本的人権についての考え方にのっとったものである。

 二 すなわち、憲法第十三条は、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、……立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定めているところである。他方、同条自体が「公共の福祉に反しない限り」と規定しているほか、憲法第十二条その他の規定からも、憲法で保障している基本的人権も、公共の福祉のために必要な場合には、合理的な限度において制約が加えられることがあり得るものと解される。また、その場合における公共の福祉の内容、制約の可能な範囲等については、立法の目的等に応じて具体的に判断すべきものである。

 三 したがって、武力攻撃事態への対処のために国民の自由と権利に制限が加えられるとしても、国及び国民の安全を保つという高度の公共の福祉のため、合理的な範囲と判断される限りにおいては、その制限は憲法第十三条等に反するものではない。
 国民の自由と権利の制限の具体的内容については、この基本理念にのっとり、今後整備する事態対処法制において個別具体的に対処措置を定めていく際に、制限される権利の内容、性質、制限の程度等と権利を制限することによって達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合的に勘案して、定めることとなる。また、損失補償を含め、救済措置等についても、その際に定めることとなる。

 四 このため、具体的な対処措置がすべては定まっていない現段階において、武力攻撃事態において制約される自由・権利と武力攻撃事態において制約されない自由・権利を確定的に区分することは困難であると考えている。

 五 ただし、例えば、憲法第十九条の保障する思想及び良心の自由、憲法第二十条の保障する信教の自由のうち信仰の自由については、それらが内心の自由という場面にとどまる限り絶対的な保障であると解している。しかし、思想、信仰等に基づき、又はこれらに伴い、外部的な行為がなされた場合には、それらの行為もそれ自体としては原則として自由であるものの、絶対的なものとは言えず、公共の福祉による制約を受けることはあり得る。
 また、憲法第二十一条第二項にいう「検閲」とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解しており、検閲について公共の福祉を理由とする例外を設ける余地がないものと解している。

 六 このような絶対的に保障されている基本的人権以外の自由・権利の制約については、今後整備する事態対処法制において個別具体的に定められることとなるが、例えば、テレビ、新聞等のメディアに対し報道の規制など言論の自由を制限することは全く考えていない。

 七 国民の自由と権利に制限が加えられる場合の救済措置としては、行政上の不服申立て、行政訴訟、国家賠償についての一般的規定として、行政不服審査法、行政事件訴訟法及び国家賠償法が存在している。武力攻撃事態への対処においても、行政事件訴訟法及び国家賠償法は適用され、行政不服審査法も、例外的に不服申立てができないと法律上規定されている場合を除き、適用されることとなる。一方、損失補償については一般的規定がなく、必要がある場合には個別法律に明文の規定を設けることにより救済措置が講じられることとなるが、このような明文の規定がない場合においても、司法による救済が否定されるものではない。

 八 なお、武力攻撃事態における対処措置は、法案第二条第六号に定められているとおり「法律の規定に基づいて」実施するとされていることから、対処措置の根拠となる個別の法律の規定がないにもかかわらず、法案のみを直接の根拠として、国民の権利義務にかかわる対処措置が実施されることはない。