新・鳥獣保護法からトドを除外することに
反対する緊急声明



2002年4月15日

北海道海獣談話会
(代表 大泰司 紀之・北海道大学大学院獣医学研究科教授)


北海道海獣談話会は、北海道大学、帯広畜産大学などの動物学や水産学の専門家からなり、1960年代よりトド・アザラシ類・ラッコなどの調査やゼニガタアザラシの保護活動を行ってきた総勢50名の研究者団体です。

現在、国会では鳥獣保護法改正案が審議されていますが、改正案・第80条の法律適用除外対象種として、トドが候補に挙げられていると聞き及びました。しかし、わたしたち海棲哺乳類の専門家は、将来にわたってトドと人間が共存するためには、以下の理由で、トドを鳥獣保護法の対象種として保護管理すべきであると考えます。



新・鳥獣保護法からトドを除外することに
反対する理由

千島列島および北方四島で繁殖するトドの個体数は、1960年代には2万頭以上であったが、現在は約5,000頭にまで減少した。これに伴い北海道沿岸においても、60年代初頭は全道で毎年1,000頭以上が駆除されていたのが、現在では、来遊頭数そのものが400−500頭になるまで減少している。

このように個体数が激減した理由は、1958年〜1993年までに北海道沿岸で行われてきた無制限な有害駆除により、合計22,725頭(年平均631頭)捕獲された結果であると強く示唆されている。

現在、トドの繁殖場を持つロシアおよび米国においては、トドを絶滅危惧種として手厚く保護しており、繁殖地一帯の海域は漁業が禁止され、航空機の飛行なども制限されている。一方わが国では有害駆除が続けられており、1994年度以降は、北海道連合海区漁業調整委員会が漁業法に基づいて有害駆除の捕獲枠を116頭に制限している。

しかしその捕獲枠は、1989年〜93年の5年間で駆除後に陸揚げされた年間平均頭数の80%と算定されたもので、資源管理学的な根拠によるものではない。トドは来遊する海域によって群の性別および年齢構成が異なるにも関わらず、性や年齢の区別なしに射殺され、これらの駆除が個体群に及ぼす影響は全く考慮されていないのが現状である。

野生動物の個体数をコントロールする場合は、例えばエゾシカやエゾヒグマで行っているように、捕獲の影響をモニタリングしながら、性別および年齢群ごとに捕獲数を決定するのが常識である。さらに、新聞等で報道された様に、射殺後に水没した個体は捕獲頭数としては計上されていないため、正確な駆除数すら把握されていない。

1993年以前については、水揚げされた数の約2倍の水没個体数が記録・公表されているが、現在水没については触れられていない。このように適切とは言い難い管理となっている理由は、水産資源として価値のある海洋生物のみの管理を目的とした漁業法を拡大運用し、トドの漁業被害対策を行っているからであろう。

トドは国際的な絶滅危惧種だが、一方で、多額の漁業被害を引き起こす有害獣という側面を持つ。したがって、トドの保護対策と漁業被害対策を合わせて行っていく必要がある。「新・生物多様性国家戦略」でも、海洋の生物も含めた多様性の保全・漁業資源の持続的利用などが強調されている。

当然、トドも海洋生態系の一員として漁業と両立させて行くべき存在である。たとえば、1999年改正鳥獣保護法では、シカやクマなどによる農林業被害と野生生物保全とを両立させるため、特定鳥獣保護管理計画制度が創設された。この制度を利用して、現在、全国で特定鳥獣保護管理計画が策定され、農林関係行政と環境行政の協力のもとで、さまざまな被害対策が開始されている。

もちろん、トドによる漁業被害に対しては、これまでも水産行政によって対策が講じられてきたが、鳥獣保護法のこうした制度をトドにも適用することによって、漁業者や水産行政だけではなく、環境関係行政機関、ワイルドライフマネジメントの専門家、一般市民などが協議連携して、その成果を保護管理政策に反映出来るような体制が整備され、より一層効果的な漁業被害対策が可能になると確信している。

以上
(あざらしメーリングリストの投稿より転載)



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