スーパーカブツーリング序章

スーパーカブとは?
 言わずと知れた小型ビジネスバイク。世界中ですでに6000万台売れているベストセラー。6000万台ですよ。一つの車種でこんなに売れているのもちろん一番。しかも発売以来50年、いろいろ改良は加えられているけれど、スタイルはほとんど変わらない。ビジネスバイクとして知らない人はないくらい有名です。
 日本はもとより世界の道をちょこちょこ走るようになったのは、その徹底的に考え詰められた設計がものを言っているんですね。
 一つはその頑丈さ。これについてはいろんなまことしやかなうわさがあります。
 いったん水没したカブにそのまま乗っていて、オイル交換をしようとドレンボルトをゆるめてみると、水が出てきたとか。
 おじいさんが何十年と乗ってきたのを譲ってもらって孫が乗り続けているとか。
 要するに機械的な意味での信頼性の高さ。
 カブがこれだけ幅広く売れている理由のもう一つに、燃費がどえらくいいということがあります。50CCで平均70KM/l。ダッシュは遅いし、パワーがあるわけでもない。でもそんなことはどうでもよくなるような燃費のよさ。
 さて、そのスタイルはそっけないものです。実用一点張り。またがりやすいようにガソリンタンクはサドルの下。足を振り上げなくてもすぐサドルに座れます。チェンジペダルは、普通のバイクと違って、蹴り上げる動作がありません。仕事で使いやすいようにという配慮です。だから靴が傷むこともありません。自動変速じゃないのにクラッチレバーがないのは、その昔、左手で岡持ちを持ったままで運転できるように配慮したからだと言います。ペダルを踏むと自動的にクラッチが切れる仕組み。


 だれが見ても仕事と直結。媚びるところがない。逆に最近はそんなところが受けているらしく、いろんなかわいらしい色のやつが走り始めてます。うまさんはその実用性に向かって磨き上げられたスタイルにぐいと心をつかまれてしまうのにそうかかりませんでした。最初のうちはツーリングで、普段着を着て非日常に出掛けていく、その違和感を楽しんでいたんですが、いつのまにかそんな違和感なんか全く感じないように。つまり、ツーリングしていても不都合なところはあまりないということが分かったんです。東南アジアに行けば、これに家族全員乗ってサーカスと見まがうような格好で乗っています。それも頑丈で、たくさん荷物を積めるからなせるわざでしょう。なんでも、東南アジアではあまりに名前が浸透し過ぎてHONDAは固有名詞ではなく、ヤマハのHONDAなんて言い方があったとらしい。もともといっぱい荷物を積むようにできているんだから、いっぱい荷物を積むツーリングもへっちゃらだったわけです。
 音はどうでしょう?スピードを出せば、ぎゅいーんと息が切れて壊れそうな音を立てるけど、誰でも知っているのどかな音でぽこぽこぽこぽこゆっくり走れば、それはそれは気持ちがいいことうけあい。50CCの時代は、田舎道を制限速度かちょいとそれを越えたくらいで、100CCになってからは、50キロか60キロで流しているのが一番ごきげんな音を奏でてくれます。

なれそめ
 そんなカブと出会ったのは、実は、たまたまです。愚妹が乗らなくなったのを譲ってもらったのが、50ccのスーパーカブ。最初はこだわりや思い入れがあった訳ではないのです。ところが、毎日、職場の最寄り駅から丘の上の職場まで乗っているうちに、体に馴染んでしまってもう手放せない。

カブの旅
 そんなふうにカブに乗り始めて数カ月。毎日片道4キロの坂道を通勤の相棒としているうちに、こいつに乗ってどっか遠くに行けるのじゃないかという気持ちが湧いてきます。もとより旅は大好き。スーパーカブでツーリング。

遠くへ行きたい

 行くならいっそ遠くがいい。大好きな東北がいい。のろのろいろんな峠を越えながら、一度も見たことのない風物を楽しむ。予定は未定。走りながら決めればいい。うんうん、これはいけそう。

行くなら東北へ・・・恐山にて

 ふと頭の片隅に浮かんだ小さな考えは日増しに大きくなり、消し去ることができなくなるまでそんなにかかりません。春に手に入れて、夏の休暇にはもう一抹の不安をかかえながらいざ出発。第一回スーパーカブツーリング、目的地は東北。


 そうやって実際に旅を始めてみると、幹線国道はちと走りにくい。ばんばんスピードを出す車を尻目に遠慮がちに道路の隅っこをのろのろ。いきおいそんな道を避けて通るようになります。そもそも幹線道路は新幹線と同じ。いかに効率よく大量の車を走らせるかを考えて改良し、あるいはバイパスとしてまちなかや集落を避けて通しているところがほとんどだから、車は多いわ、弱小カブは走りにくいわ、果ては人びとの生活から遠いところを通るわで、おもしろくないのが多いんです。でも、横道を走り出したとたんいろんなおもしろいものがじゃんじゃん現れて、いちいち止まって見ていると本当にのろのろ旅になってしまいます。土地の人の暮らし、畑の匂い、その土地らしい風物。ううん、これこそ旅の醍醐味。まあ、それについては本編でおいおい語ることとして・・・。
 そうそう、カブが旅に適していることがまだありましたよ。それは、ものすごく小回りがきくこと。ぷるぷるぷると田舎の集落を走っていて、古い建物やいい風景を見つけたとたんそれに近づけます。通り過ぎても、すぐにUターンして戻ってこれます。狭い道でもへっちゃら。

狭い道もへっちゃら

 カブに出会って、また旅の選択肢が増えたわけなんです。
 不便な点があると言えば二つほどあるかも。ひとつめ。燃料タンクの容量がとてもちいちゃいこと。3.5リッターしか入りません。でもギリギリまで走るのは、特にいなかではこわいので、少し減ると給油しなくちゃいけません。大体100キロちょっとで次の給油。ちょっとこれはめんどうです。特に旅先はいなかが多いから、24時間ガソリンスタンドが開いているとは限らない。ガソリンの携行缶を持っていくことでこの問題は解消です。

自分で給油(2台目タイカブ)

 ふたつめ。高速道路を走れないこと。目的地が遠いと、どうしても先を急いでしまいますから、幹線国道を通っていやな目に会うことも。なら、高速で一気に・・・。と思ったこともありました。でも目的地だけを目的だと考えなければいいわけで、それなりに目的地までの道のりを楽しむことにしてなんとかなってます。あれ?不満じゃないか。こりゃ失礼。

二代目タイカブ

 記念すべき第一回東北ツーリングは、大成功のうちに幕を閉じたわけですが、こんどはちょいと物足りない点が。それは50CCという排気量です。どうしても幹線道路を走らなければならない時、大都市の何車線もある道を右折しなければならない時、50CCだとどうも不便です。30KMの制限速度と、二段階右折。これ、両方とも気を使います。ちょっと車の流れに合わせてスピード出して罰金持ってかれるのはいやです。信号の直前になって急に「二段階右折禁止」の看板があったって、急に車線変更できる訳じゃあるまいに。高架道路の入り口に「原付きだめ」の標識があるところもいっぱいあります。これもはっきり言って鬱陶しい。気づいてから側道に逃げるのはかなりの危険を冒さないといけないことが多いから。
 なら、もひとつ排気量の大きいのに替えてしまおうか。そう思い始めるともう止まりません。調べると、候補は二つ。90CCと、100CC。100CCのは、タイのホンダで作られて、逆輸入されたモデルらしい。
 決め手は、変速ギアの数でした。90CCは3速なのに対して、100CCのタイカブは4速。ちょこちょこギアチェンジをするのがすきなうまさんが軍配を上げたのは、4速チェンジつきのタイカブ。ただ、これはもう輸入されていないので、中古を探すしかありません。が、そこはネット社会。ネットで検索すると、ほどなく近所でいいのを見つけることができました。愛着もあったんですが、どうも道路状況が初代カブにはあってないので泣く泣く売ってしまいました。

やってきたタイカブ

 で、やってきたのがタイホンダ謹製100CCのカブです。走行距離はもう3万3千を越えていて、バイクとしては結構な数字でしたが、カブは丈夫だという伝説を信じて購入に踏み切りました。
 日本産と違って、ほんの少し無骨さが和らいでいるというのが第一印象。スタイルは前の方がいいです。こっちはなんだか中途半端にかっこつけようとしている感じ。例えば、ハンドル回り。前から見ると、ウインカーがハンドルからニョッキリ飛び出しているのがよく見かけるカブなんですが、スクーターのようにハンドルの中にウインカーが埋め込まれています。後ろのウインカーも一緒。やっぱり埋め込みタイプ。ここがちょっと好みではないんですが、まあ、よしとしましょう。
 そんなちょっとだけの不満も走りだすと吹き飛んでしまいます。流れにのって走っていてもつかまる心配をしなくて済むというのは、精神衛生上すこぶるよろしい。50CCに比べてちょっとだけ野太い音を響かせながらばたばた走ると、気分も上々。
 それからもう2年半。北は稚内から南は枕崎まで、あちこちに相棒として、連れだって旅しています。 走行距離は5万キロに届こうとしていますが、大きなトラブルはありません。さあ、今度はどこに行こうかしらん。


2009年1月

 上記「まことしやかなうわさ」はヨーロッパをスーパーカブで旅したtaku様のページの記事が元になっています。
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