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006.コリオリの力
2000/01/15(Sa)
ナイロビから,エチオピアハイウェイに沿って3時間程走った処にナニュキという町がある。
此処は赤道直下に位置していて,赤道標識の傍にはそれを売りにしたみやげ物屋が軒を連ねる(お約束)。
1997年5月14日,僕らを載せたステーションワゴンはアバーディア国立公園からナクル国立公園へ移動途中,休憩のために此処に立ち寄った。
みやげ物屋へ行くと何処でもそうなのだが,此処の親父はひときわ愛想が良かった(コカコーラのボックスに凭れているのが彼だ)。
両手に小型のポリバケツとプラスティック製のボールを携え,車を降りた僕らの許にニコニコと近づいてくる。ボールはかなり使い込んであるらしく,子供が遊ぶままごと道具を思わせた。しかも底には小さな穴が開いている。
男は開口一番「あなたがたはコリオリの力を知っているか」と訊ねてきた(此処まではウチのガイドが通訳してくれた)。
1828年,フランスの物理学者コリオリが提唱した「動向力」というヤツだ。回転運動をしている座標系での物体の運動に垂直にはたらくとされる。高校の物理でやったが,もはやうろ覚えである。ウソ書いてたらゴメン。親父曰く,緯線と磁極が異なることから北半球と南半球では台風の渦巻きの向きが反転するのだ。親父は「それを手っ取り早く実験してみせるのでついてこい」と云う。
まず,赤道の看板から北へ10mほど移動してしゃがむと,バケツの水をボールで掬った(底の穴は指で塞いである)。足許の芝生をちぎってボールに乗せ,穴から水を流してみせる。
「ほーら,此処では水が左巻きに流れ落ちるだろう? あなたの国でも水は左巻きに流れ落ちる。だろ?」
「だろ?」と云われて一所懸命思い起こそうとするが,どうしても思い出せない。髑髏売りの親父の手口に引っかかった小学生の心境に近い。
「ではこちらへ」と今度は赤道の看板から南へ10m地点で同じ実験をする。勿論,水は右巻きに落ちていく。得意満面の親父。僕らはどーしてもそのタネが分からない。最後には看板の真下へ。ボールの中の葉っぱは渦を巻かずにすーっと底に開いた穴に吸い込まれていった。
「どうだ,これがコリオリの力だ」
してやったりのエンタに思わず歓声をあげる僕ら。しかしこれはむしろ,狐狸檻の力と云うべきか。
で,親父はいきおいに乗って「今日,此処に来た記念に『赤道証明書』を発行してあげる」と来た。小汚い紙切れが200ケニアシリング。
充分楽しませてもらったから1枚買ったものの,あれ何処にしまっちゃったんだっけね > 奥さん。
処で,赤道直下での台風の立場はどうなるのだろう。…日和見か(笑)。
どうして今頃こんな思い出話を書くかと云えば,今朝起き抜けにテレ朝でやってた「世界パフォーマー」という15分番組で,くだんの親父とTVでとは云え,3年振りの再会を果たしたからである。親父の長広舌に衰えは無かった。番組のスタッフも「専門家に訊ねたが,赤道からたかだか10m単位で渦が反転するなどという事はありえないと断言された」らしいが,彼らにもタネが解からなかったらしい。コリオリの親父に遠い極東の空から「よくやった」と云ってやりたい心境である。
因みに「地球の歩き方」(ダイヤモンド社)を読むと赤道標識のあるみやげ物屋は全部で3箇所あるらしい。
このうち1軒の赤道標識は,観光客に外貨を落とさせるための「ビジネスの赤道」らしいので,注意が必要だ。
勿論,此処ではコリオリの実験は行っていない。新参者にしては志が低いというか工夫が足りないわなァ。
昼からは,北九州市立美術館にて「いわさきちひろ展」。
4日に行きそびれた(あろうことか休館日だった)雪辱戦,つい3日前に来場者数2万人を突破したとかで今日も大いに盛況であった。
僕が記憶しているちひろとの出会いは非常に遅くって,小学2年の国語の教科書の表紙が最初だと思う(その1年前に彼女は亡くなっているから,ぎりぎり間に合わなかったということか)。いや,1年の教科書にも載っていた気はするのだが,そこらへんになると僕の記憶はかなり怪しくなる。咲き匂うチューリップの林から垣間見える少女の絵だったのだが,今日15年目にしてその原画とお目にかかる事が出来た。それにしても,あの丸みを帯びたやわらかな子供のラインは何処から出てくるのか。くびれのない腰のライン,あらぬ方向に折れ曲がった膝のライン,どれをとっても子供の中の天使性のみを濾過・抽出した,陽の光に翳すかのように淡く,でも確かな体温を伴った絵。イラスト描きから見れば,あの線が描けないのだ。数ある選択肢の中から選び取ることが出来ないのだ。それでも,初期の彼女の絵を見るにつけ,スタイルの完成に到る道程と努力を思う。彼女自身「昔の若かった頃に戻りたいなどとは決して思わない。ましてあんな絵の下手な頃に戻るくらいなら自殺した方がましだ」とはっきり書き残している。天賦の才とは,高みに登り続けようとする強靭な意志をキープし続ける事。やれやれ,最も僕の苦手とする分野である。いずれにしても,夫婦ともども至福の時間を過ごす事が出来ました。
やっぱり,ちひろ(漢字で知弘書くのだと今日初めて知った)の絵ってすごいよね。
一回りして休憩していると,昔ウチの部署だったJ先輩に肩を叩かれる。脇には奥さんとちっちゃなお子さん。Jさんは家族サービスだと笑っていた。
そー云えば,TSBの「ラヂオの時間」もポール・マッカートニーのライヴもJさんと行ったんだっけなァ,と暫しの間,回想モード。
今日の読書:大槻ケンヂ「大槻ケンヂのお蔵出し 帰ってきたのほほんレア・トラックス」(角川文庫)
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