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037.女王陛下の修正ペン
2000/04/21(Fr)
職場での話。
名前は敢えて秘すが,ある先輩がフロッピーディスクに貼ったラベル面へ懸命に小型のスティックを擦りつけていた。
手書き文字が書いてある箇所を集中的に擦っている処を見ると新手の修正ペンのようである。
スティックには…えーと「消えいろPIT」と読める。
「いや,子供の机の上に置いてあったんでかっぱらってきたんだけどね」
「メーカーは? やはりコクヨのヨコク…」
「トンポ鉛筆みたいだね」
「よく消えるんですか」
「液が乾くと透明になるって書いてある割に,全然消えんのよね」
「おかしいですね」
「普通の修正液だとどうしても塗りムラが盛り上がったりして汚いからさ」
「液が乾くと透明になる方がきれいですものね」
先輩はとうとうフロッピーのラベルを指で擦り始めたが,青いスティックで塗り潰した文字が消える様子はない。
ので,とりあえずスティックを受け取って説明書きを読んでみる。
色つきだからムラなく塗れて塗ったところがひと目でわかる。塗れば透明,きれいな仕上がり。
…何かが違う気がする。ていうか,違うだろ。
【OA対応】感熱・感圧紙,写真などを変色させない。
このあたりも,まぎらわしいと云えば,云えなくもない。でも,しかし。
いつかひとは真実に直面しなければならない。
「えーと,これスティックのりですよ」
「え,修正スティックだろ」
「でも,強い粘着・速い接着!!って書いてありますし」
「だって別にベタベタしないよ」
「速乾性ってことみたいです」
「…マジ?」
残念乍ら,それはマジであった。ちゃあんとブルーのスティックのりと書いてある。先輩が一旦,修正ペンと思い込んだが最后,スティックのりの取説の一字一句まで奇跡的に修正ペンの文脈で読めてしまった。塗れば透明になるのはインクじゃなく,青に着色されたのり自身の方であった。乾いてしまえば,のりの跡が分かりにくくなるし,べたつかない。それは確かに「きれいな仕上がり」と云えるかもしれない。
先輩はおでこをぽりぽり書いて僕を見た。
「恥ずかしいとこ見られちゃったなあ」
「ええ。しかもこの僕に」
「おまえ,メールで皆に配信したりするなよ」
「まさか。そんなことしませんよ」
そんなことはしないが,此処でこうして日記に書いている。いや,いいんだ。先輩,この日記知らないから。
此処を読んでる職場関係者も決して無用な詮索はしないように。ていうか,するな(笑)。
やっさんか右團治さんが話してくれたのだろう,恐れ多くも文治師匠から,出産祝いに武者人形(桃太郎)の色紙が届いた。
知らないひとのために説明しておくと,噺家・桂文治は著名な南画の大家でもある。何しろ書壇院南画部審査会員だ。雅号は籬風。やんごとなきお方に画を献上した事もあると書けば分かっていただけるだろうか。戴いた色紙は,右團治さんの真打昇進・襲名披露の口上書きの中表紙の図案で,勿論印刷だが,眦(まなじり)の切れ上がった隈取と,鎧兜の上から羽織った羽織には,師匠の手で改めて朱が入れ直してある。断るまでもないが名と落款は印刷なんかじゃない。色紙を包んだ封筒も師匠がSUZURANの包装紙を裏返したお手製のものだが,達筆の宛名書きがあっては,嗚呼,捨てられるものか。
ちゃあんと気にかけていただいて,もう何をどうやってお礼を申し上げてよいものやら。
ひとつだけ云えるのは悠都,おまえはしあわせ者だってことだ。
で,初節句お祝いという事でいただいたのだが,実は赤子の初節句は来年である(端午の節句の三ヶ月以上前に生まれないと来年持ち越しになるらしい)。という訳で,来年にも色紙を一枚…嗚呼,ごめんなさいごめんなさい。欲をかいた私が悪うございました。
とりあえずは心をこめた礼状を差し上げなければならないが,並々ならず書画に長けた師匠に,どのツラ下げてうすらみっともない字や,子供騙しのイラストをお見せすれば良いものやら,あああああ,つらいわあ。
余りにも勿体無いので同封された師匠の手紙の話はまた後日。
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