備忘の都 2000 −APRIL〜MAY−  ◆

感動は心に止まつて消えようとはせず、
而もその実在を信ずる為には、
書くといふ一種の労働がどうしても必要の様に思はれてならない。
書けない感動などといふものは、皆嘘である。

小林秀雄「ゴッホの手紙」


036.で,近況037.女王陛下の修正ペン038.風の神様
039.僕らのウォーゲーム040.バナナようかん

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 036.で,近況

2000/04/19(We) 

子が生まれて2週間が経った。
その間に,マダムE(僕は不在だったのだが,まずはとにかく呆れてたらしい。そりゃ一緒にごはん食べたその夜だからねえ)やN山夫妻にお見舞いにも来てもらい,ポスペやメールや電話や面と向かって色んなひとから祝ってもらい(とんくん,サイト掲載どうもありがとう),5日目には早々と退院もし,即日犬山からおかあさんに来てもらって瞬く間に我が家はピカピカになり(無礼なのを承知で,ひょっとするとこういうひとをメリー・ポピンズと呼ぶのかもしれない),小文さんは見事右團治さんに生まれ変わり,「怪盗きらめきマン」は小山脚本で躍進を続け(少なくともおかあさんには好評なようだ…ったのだが,今日の放送を観乍ら「あの三人が正義の味方では面白さが半減する」と苦言を呈されたことを付け加えておく),ついでに云うと日記の更新もずいぶん長いこと滞った。

退院当初は「ミルク」「おしめ」だけでしか泣かない,非常にものわかりの良かった赤子も一昨日くらいから,ただ単に「抱け」「かまえ」と泣くようになった。多少,外界への認識度が高まると(まだ目は殆ど見えていないからね)「抱きぐせ」は必然なのか。
先日の訪問検診では,お医者から通常の1.5倍のいきおいで体重が上昇していると云われ(そういう家系なんだよ)健康面では全く問題が無いということだった。奥さんの疲労度は高いが,そりゃ産後にしちゃ動き過ぎなのかも。おかあさんが来ていなかったらと思うとぞっとすることしきりである。おとうさん,ご迷惑をおかけしますです。

それにしても,この日記の前々回の「出産(1)(2)」は意外に読まれていて驚く。
あくまでも極私的な記録に過ぎないネタな割には大ネタだったのは確かだが,あんな長くて読みにくいものをウチの産院の先生や助産婦さんも読んでたという話を聞いた時はさすがに眩暈がした。思わず家帰って慌てて日記読み返したりして。どうやら病院の悪口だけは書いていなくてほっとしたけれど,日記の記述中にはシロート(加えて半可通)の思い込みや誤解が多々紛れている筈だから,それをプロフェッショナルな方々に肩をすくめつつ読まれてたりしたらイヤーン。
あと,あめんさん,郷土(くに)のおかあさんに印字して送るのだけはやめなさい。何なんですか,それは。

そう云えば帰宅したら,奥さんがJASの航空券3万円ぶん当ててた。母になっても,このひとはスゴい。

という訳で,日記リハビリ中なんで,今宵はこのへんで。

今日までの読書:斉藤由貴「赤ちゃんあいしてる」(小学館文庫):まさにタイムリー。出産の描写なんかこれが手にとるように。
宮本輝「ひとたびはポプラに臥す(6)」(講談社):ああ、おつかれさまでした。父子鷹、見せてもらいました。
ホーマー・ヒッカム・ジュニア/武者圭子訳「ロケットボーイズ(上)」(草思社):子供の頃の読書ってこうだったんだよ。むさぼるようにはい,おかわり。



 037.女王陛下の修正ペン

2000/04/21(Fr) 

場での話。
名前は敢えて秘すが,ある先輩がフロッピーディスクに貼ったラベル面へ懸命に小型のスティックを擦りつけていた。
手書き文字が書いてある箇所を集中的に擦っている処を見ると新手の修正ペンのようである。
スティックには…えーと「消えいろPIT」と読める。

「いや,子供の机の上に置いてあったんでかっぱらってきたんだけどね」
「メーカーは? やはりコクヨのヨコク…」
「トンポ鉛筆みたいだね」
「よく消えるんですか」
「液が乾くと透明になるって書いてある割に,全然消えんのよね」
「おかしいですね」
「普通の修正液だとどうしても塗りムラが盛り上がったりして汚いからさ」
「液が乾くと透明になる方がきれいですものね」

先輩はとうとうフロッピーのラベルを指で擦り始めたが,青いスティックで塗り潰した文字が消える様子はない。
ので,とりあえずスティックを受け取って説明書きを読んでみる。

色つきだからムラなく塗れて塗ったところがひと目でわかる。塗れば透明,きれいな仕上がり。

…何かが違う気がする。ていうか,違うだろ。

【OA対応】感熱・感圧紙,写真などを変色させない。

このあたりも,まぎらわしいと云えば,云えなくもない。でも,しかし。
いつかひとは真実に直面しなければならない。

「えーと,これスティックのりですよ」
「え,修正スティックだろ」
「でも,強い粘着・速い接着!!って書いてありますし」
「だって別にベタベタしないよ」
「速乾性ってことみたいです」
「…マジ?」

残念乍ら,それはマジであった。ちゃあんとブルーのスティックのりと書いてある。先輩が一旦,修正ペンと思い込んだが最后,スティックのりの取説の一字一句まで奇跡的に修正ペンの文脈で読めてしまった。塗れば透明になるのはインクじゃなく,青に着色されたのり自身の方であった。乾いてしまえば,のりの跡が分かりにくくなるし,べたつかない。それは確かに「きれいな仕上がり」と云えるかもしれない。
先輩はおでこをぽりぽり書いて僕を見た。

「恥ずかしいとこ見られちゃったなあ」
「ええ。しかもこの僕に」
「おまえ,メールで皆に配信したりするなよ」
「まさか。そんなことしませんよ」

そんなことはしないが,此処でこうして日記に書いている。いや,いいんだ。先輩,この日記知らないから。
此処を読んでる職場関係者も決して無用な詮索はしないように。ていうか,するな(笑)。


っさんか右團治さんが話してくれたのだろう,恐れ多くも文治師匠から,出産祝いに武者人形(桃太郎)の色紙が届いた。
知らないひとのために説明しておくと,噺家・桂文治は著名な南画の大家でもある。何しろ書壇院南画部審査会員だ。雅号は籬風。やんごとなきお方に画を献上した事もあると書けば分かっていただけるだろうか。戴いた色紙は,右團治さんの真打昇進・襲名披露の口上書きの中表紙の図案で,勿論印刷だが,眦(まなじり)の切れ上がった隈取と,鎧兜の上から羽織った羽織には,師匠の手で改めて朱が入れ直してある。断るまでもないが名と落款は印刷なんかじゃない。色紙を包んだ封筒も師匠がSUZURANの包装紙を裏返したお手製のものだが,達筆の宛名書きがあっては,嗚呼,捨てられるものか。
ちゃあんと気にかけていただいて,もう何をどうやってお礼を申し上げてよいものやら。
ひとつだけ云えるのは悠都,おまえはしあわせ者だってことだ。
で,初節句お祝いという事でいただいたのだが,実は赤子の初節句は来年である(端午の節句の三ヶ月以上前に生まれないと来年持ち越しになるらしい)。という訳で,来年にも色紙を一枚…嗚呼,ごめんなさいごめんなさい。欲をかいた私が悪うございました。

とりあえずは心をこめた礼状を差し上げなければならないが,並々ならず書画に長けた師匠に,どのツラ下げてうすらみっともない字や,子供騙しのイラストをお見せすれば良いものやら,あああああ,つらいわあ。

余りにも勿体無いので同封された師匠の手紙の話はまた後日。




 038.風の神様

2000/04/22(Sa) 

ちゃんからのお祝いメールを紹介しておく(2000/04/21 0:36付)。
あ,本人には今朝,電話で「使うから」って告知してあります。

−前略−

実は、そろそろかなと思って、4月1日に、佐賀県の中原町にある綾部神社というところで(勝手に)安産のお参りをしておきました。でも、後で人に聞いたら、そこは風の神様が祭ってあるところで農家の人たちがお参りすることで(佐賀ではかなり)有名な五穀豊穣系の神社らしく、ちょっとした勘違いだったということに気づき、その翌日に、佐賀市内で安産祈願で有名な(ところらしい)竜造寺八幡宮僕註:今朝,電話で話した処「実はたいして有名じゃなかった(笑)」と「改めて」困ってた)というところで再度お参りし、お守りまで入手してたんですが、もたもたしているうちにお生まれなったらしいことを知り、さてお祝いになにをを贈ろうかと再びもたもたしているところです。
貴家頁を拝見していましたが、なかなか安産だったご様子で、これも、五穀豊穣系の神様のご利益かなと(勝手に)思っていたりもしています。
ちなみに、O迫という馬鹿な友人がいまして僕註:そー云えば,いつだったかO迫くん処のこころちゃんの出産祝いを買うの,付き合いました)、そいつの娘が生まれるときも綾部神社でお参りしてお守りを贈ったら、(そのお陰かどうかは分かりませんが)そこの産婦人科開業以来のすごい安産だったらしく、ご利益があるなと(勝手に)思っていたんですが、そのときは風の神様だなんてぜんぜん知りませんでした。

−後略−

まずは,ポン友の友情に感謝。って,折角お守り貰ってくれてたんなら送ってよ。ぶーぶー。
処で綾部神社のページによると,神社北部にある白坂公園の,白坂奥の院に通ずる参道には約200本余りの桜があり,地元の格好の花見スポットとある。英ちゃんは職場の永久宴会部長((C)三木のり平)だから,此処で場所取りもしたのかもしれない。「風の神様」については詳細な解説を見つけられなかったので,英ちゃんには更なる調査を求む。

竜造寺八幡宮の方は成程,余り有名ではなかったらしく検索に引っかからなかったけれど,肥前領主であり佐賀城主であった水ヶ江竜造寺家(しまいには鍋島家に持ってかれるのだが)を祭った神社ではないかと推測する。

ちなみにウチの奥さんが「わざわざ私たちのために…」と感激していた事を付記しておきます > 英ちゃん。

今日観た映画:「シャンドライの恋(1998・伊)」「カリスマ(1999・日)」



 039.僕らのウォーゲーム

2000/04/23(Su) 

る人ぞ知る「オケピ!」一般前売初日。
東京の熾烈極まるチケット争奪戦に,遥か西国,九州の片隅のローソンから朝メシも抜いて映画版「デジモン」の如く,僕らのウォーゲームを展開するもまるで非力。発売開始から40分もしないうちにばったばったと「完売しました」メッセージが僕を射貫く。ロッピィって所詮,繋がらなきゃ家でリダイヤル繰り返すのと倦怠度において大差なし(そりゃ完売してなきゃブロック単位で空席状況が見られる訳だが)。最初繋がった時に,慾をかいてA席(だって2階席の最後尾ブロックなんだもん)を押さえなかったのも敗因のひとつ。

ロッピィがすっからかんになったのを確認(11時前頃)してから,駄目元で黒崎・井筒屋のチケぴに移動して(近頃でこそご無沙汰しているが実は結構馴染みである),おそるおそる空席状況を見てもらう。
ややあって,プレイガイドのおばさんが頓狂な声を出した。

「あらァ。ぜーんぶ完売になってますよ。アリの子一匹入る隙間もないわね」
「一枚残らずですか」
「ええ,あきれたことに」

まったくあきれた話である。

「どうしてもっと早く来なかったの?」
「いえ,それはかくかくしかじかで…」とロッピィでの顛末をもごもご説明すると,

「そうだったのォ。今朝は店頭発売初日のぶんがなくて此処ヒマだったのに」
「そうよ,こっちにすれば良かったのよ」と別のおばさん。

確かに福岡で今日が初日なのは宇多田ヒカルのツアーだけで,しかも店頭売りはなかった。それを全て承知していて尚,ロッピィを選んだのは,扱ったことのないメディアに根拠の無い過信を抱いた僕の全面的なミステイクである。おばさんたち,あなたがたが正しい。あまつさえ皆に気遣ってもらったりして心遣い痛み入る。
プレイガイドのエレベーター脇から,悄然とマダムEに惨敗結果を報告する。26日に別の会員特電があるそうで,彼女はそれに参戦するからと慰めてくれたが,其処も激戦区なのは間違い無いしなァ。あとは予約キャンセルぶんゲットの道もあるにはあるが,アレは基本的に8日あとの10時からだから,つまり5月1日の午前中からかァ。んで,予約流れの予約流れが5月9日,上手い具合に息子の1ヵ月検診で休みをとる予定ではあるが,いずれにしても過分な期待は抱かぬが吉。ひょっとして年端も行かぬ子供を置いて上京する僕への神の鉄槌だったりしたらイヤだなァ。
ひとりで行くんじゃ淋しいけど,これは大阪夏の陣も視野に入れなくては。

ちなみにドコモのインフォチャンネルの星占い,我が山羊座は「×:衝動による失敗」であった。


れで2日続けて遊び呆けた罪滅ぼしに「トオイ」で各種ケーキを買って帰る。
シュークリームじゃない普通のケーキを買うのは久々だったが,奥さんお得意の「福岡のケーキはレヴェルが高い」発言が頻出するくらいには,それぞれがそれぞれに好評を博す。処でおかあさんはボンクラ婿のためにわざわざお昼にカレーをこさえて待っていてくれた。あヽ,ごめんなさいごめんなさい。

後はすっかりへこんだ気持ちを静めるためにホーマー・ヒッカム・ジュニア/武者圭子訳「ロケットボーイズ(下)」(草思社)を読み下す。嗚呼,至福。嗚呼,甘露。そして充足。心許した仲間たちとロケットを打ち上げる,というある種の文科系的スポ根ドラマ(ロケットを打ち上げるのは別にスポーツじゃないんだけど,そこはそれ,テス根とか実験根とか呼称するといよいよワケが分からなくなるしィ)もさること乍ら,最后の最后に小躍りする親父の愛らしさ(そして,また何事も無い翌日が来るのだ)と,僕らには永遠に手の届かないマドンナ,ドロシーの横顔と(実は「今夜,宇宙の片隅で」の飯島直子がこれにあたる)。なかなか気の利いたことを書けないのがもどかしいが,これこそ青春小説の金字塔であると云える。ほおら,何て陳腐な事しか書けない。で,読後,ひとまず朝の失意が棚上げ出来るくらいにはオレって単純なのだった。

今日の読書:ホーマー・ヒッカム・ジュニア/武者圭子訳「ロケットボーイズ(下)」(草思社)



 040.バナナようかん

2000/05/08(Mo) 

これがウワサのバナナようかん 休明けのおみやにY田さんから,かねてよりそのウワサだけは耳にしていたバナナようかんを戴く。
これは以前,同じようにY田さんから頂戴したイチジクようかん同様、英彦山(ひこさん)限定物件のひとつ。
英彦山麓にある土産物屋に同じく陳列されてあるらしい。
正直を云えば,前回口にしたイチジクようかんは果肉のぷつぷつ感があるのはともかく,羊羹として今ひとつの味であった。というか,あれは本当に羊羹だったのだろうか。色こそ羊羹らしく黒々と光ってはいたものの,干し柿系と云うか,亜ゼリー系というか,羊羹の定義そのものに踏み込むような,不思議な味覚であった。しかも不思議なだけで美味しくなかった。
其処に来て,この変わり羊羹第2弾である。はっきり云って「味の」期待はしていなかった。

「で,味の方はどうなんです?」
「そうだな…少なくともイチジクようかんよりは美味しい」

あ,ちょっとだけ期待出来そう。

パッケージには,田川郡は添田町の秀島本店と記載してある。まごうことなき英彦山限定物件に相応しいシロモノである。しかも秀島一生と店主の個人名を出ているあたりがなかなか心憎い。いちばん気になっていた原材料をチェックすると「白双糖・餡・寒天・水飴・香料」とあってなかなか羊羹らしさを醸している。これはイケそうだ。尤も,肝腎のバナナの名前が無いが,これは香料で風味付けだけしているという事か。

夕食後,早速デザートとしていただくことにする。
色は,どちらかというと白餡系の色に近い。熟れ過ぎたり,床に落としたりして黒ずんだバナナの果肉が丁度こんな色かもしれない。
とりあえず,一口。…うむ,ちゃんとした羊羹である。しかも,ちゃんとしたバナナでもある。結構イケる。
何処かで食べたことがある味だなァ…と暫し黙考してから,思わず膝を叩く。
正式な名前は知らないが,子供の頃よくバナナのかたちをしたスポンジのバナナまんじゅうを食べたものだが,あれに入ってた白餡が丁度こんな味だったじゃないか。そっか,あれに似てる。元ネタがあんこ系なら,なるほど,羊羹の味は保証されたようなものだ。

ちなみにバナナ羊羹は本当に英彦山物件でしか存在しないのか。念の為,ネット検索したら,意外にもかなり近場に同名のお菓子が存在してた。
門司名物「バナナ羊羹」。勿論,メーカーは違う。そうだよなあ,バナナの叩き売り発祥の地を標榜している門司なら,何らかのバナナ菓子があったっておかしくない。これは一度食べ比べてみる必要があるかも。

何はともあれ,Y田さん,美味しいお土産ありがとうございました。


ナナで思い出したが,或るフランス料理の掲示板でプロのパティシエの方が「メロンのポタージュ」というのを紹介してた。
これはメロン一個丸ごと使うらしく,メロンを真っ二つにして種をとって,次に4分の1をポタージュの具用に一口大の大きさに切って,残りの4分の3を砂糖と一緒にフードプロセッサーでピューレにして,冷蔵庫で良く冷やす。食べる直前に生クリームと甘口の白ワインをあわせ具のメロンをいれて出来上がり。何だかとっても美味しそうである(その方が仰るには「デザートと云うよりオードブルの一品に相応しい」とのこと)。

試してみたいのは山々だが,メロンまるごとというのは手痛い(というか,豪奢を超えて無謀な使い方だ)。これで稀代の名女優・桜崎節子に食べさせるともなれば「メロンと云ったら夕張でしょう」「ワインと云ったらボルドーでしょう」と無邪気に冷酷にあしらわれるのは確実である。
あ,マンゴー2個とかで応用してみるという手はあるな。マンゴーのポタージュというのも,これから夏に向けて美味しそうなメニューである。
機会あらば,是非試してみたい処。ていうか,誰か試さない?



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