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047.満月物語
2000/05/23(Tu)
吉岡たすくさん,逝去。死因は肺がんって云うけど85歳なら大往生ですね。
子供の頃「テレビ寺子屋」で,吉岡先生が黒板の前で生徒とのエピソードを語るのを聞くのが大好きだった。
という事はあの頃,既に先生は60を越えていた訳か。でも,そんな感じだったな。
あのあったかい語り口がもう聞けなくなるのは,今の教育現場にとっても大きな損失かもしれない。合掌。
薄井ゆうじ「満月物語」(ハルキ文庫)読了。
薄井作品を読むのは久々かも。あ,1冊だけ本棚に積ん読になった「狩人たち」(双葉社)が陽の目を見ずに眠っているな。
新刊は次々出ているのだけど,数が多くて今の僕には手が出ない。今回,久し振りの文庫落ちだったのと,「竜宮の乙姫の元結いの切りはずし」(講談社文庫)読了直後(もう4年近くも前の話だ)に,ベネッセから本書がハードカヴァーで出た時,姉妹篇と判ってい乍ら台所の事情で涙を呑んだ,曰く因縁付きの本だった(という程のもんでもないが)というのが大きい。
内容は「いまかぐや姫」。と云ってしまうと身も蓋もないが,一口で片付けてしまえるのは本作の美点かも。
「竜宮の乙姫の元結いの切りはずし」もそうだったが,このひとのセックス描写は,描写する事への照れ故か,或いはご自分のロマンチシズムに手を焼いている故かとにかくおどける。で,その道化振りがちょうど僕の鳩尾を直撃するエスプリというかウィットがあって好きだったりするのだけど,これって村上春樹にも似たような処がないか。
因みにそのシークエンスの結びの文章「降りるとき、彼女が小さく何かを唄っているような気がした。だがそれが泣き声だと気がついたのはしばらく経ってからだった」は本作中いちばんのフェイバリットかもしれない。
それにしても,ハルキ文庫は高すぎる。200ページで560円というのはあんまりなのではないか。
まあ,春樹社長が,小松先生に「虚無回廊」再開させて完結させようと企んでいるから,暫くは我慢するけど。
青空文庫で海野十三を読んでいる。
いや,これがなかなか面白いんだわ。古びているんだけど,古びていない部分は変わらぬ光を放っているというか。
おじいちゃんになってしまったかつての少年たちが手に汗握り,胸を高鳴らせて読んだというのがよく解るもの。
怪奇,幻想,そして僕らが未だ見ぬカガクの力が,此処にある。子供たちをコロッと騙すだけの筆力とゴタクと迫力が此処にある。
今日読んだのは,以下の4本。
「生きている腸(はらわた)」
生きている腸(はらわた)なんて云うから,てっきりドイルの「まだらのひも」みたいな話かと思ったら,本当に腸が生きちゃってるんだもんなあ…。マッドサイエンティスト寄りの医学生吹矢隆二とチコの同棲一二〇日間の恋の物語。たとい,リンゲル氏液にゆらゆらしていても,その心は処女(をとめ)なの。嗚呼,チコに幸あれ。
「千年後の世界」
一千年と169日,冷凍睡眠から覚醒した科学者フルハタが見た仰天の三十七世紀見聞記(という程の長さでもないが)。過ぎ去った一千年を計るのにラジウム時計が出てくる。ううむ,放射炭素年代測定法ですか。寿命の克服については「人体に関する生理学の研究が進歩して、いっさいの病気が電気学によって診断され、そして電気的療法で癒ることになった」…電気,電気がありがたかった時代の産物か。僕が電気療法と聞いて思い付くのはマッサージくらいである。
「放送された遺言」
SETIなんか小さい小さい,宇宙からのメッセージを捉える超短波長廻折式変調受信機で異星からの遺言を聞いてしまった天野祐吉の悲(喜)劇。どうやらこのひとはエスペラント語に堪能だったらしいが,個人で愉しむぶんには日本語デコードでも良かったのに。いや,素晴らしいオチだと思う。「まだらのひも」はむしろ,この作品だったのかもしれない。処で当時,宇宙は四千億光年あると信じられていたのですか。
「人造人間(ロボット)殺害事件」
大国間の思惑が錯綜する暗都・上海を舞台にした「陸軍中野学校」みたいな軍事スパイもの。思わず,雷蔵サマをキャスティングして読んでしまいました。彼ら(敵国)になくて,我々だけが持つ武器を超えた武器,それはサイエンス,サイエンスだと気焔をあげるくだりは泣けてきますなあ。人造人間殺害事件…何の事かは最后まで読むとよーく得心出来る。
今日の読書:薄井ゆうじ「満月物語」(ハルキ文庫)
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