備忘の都 2000 −JUNE−  ◆

その(「エリタージュ」でディナーした)夜は、
「一生懸命小説を書きますので、今日の贅沢を許して下さいね」
と神様に唱えて、寝ました。

村上龍


051.悲しいお知らせ052.猛者共のモサド
053.夕食バンザイ054.25人がぴったりの小旅行
055.「ちんちろまい」モニター試写前夜

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 051.悲しいお知らせ

2000/06/03(Sa) 

BCシネマで朝から映画を2本立て続けに観て,いつものように遅い昼食を食べに「ふきや」に行ったら,あろうことか店が潰れてた。
店の前に,流暢な筆文字の大きな張り紙がしてあって「この度色々な事情がありまして,五月末で店を閉める事になりました」とあった。予告も素振りもなかった。余りにあっけない幕切れである。「残念です」ともあったから,店舗移転もなければ,店側も不本意な閉店であるらしい。「思えば二十七年…」て,そんなに長かったんだこの店。僕だって遥か昔,予備校時代の昼メシで使い始めたのが最初だから,足掛け14年の付き合いだった。途中,店舗改築があったものの潰れる可能性なんてこれっぽっちも考えなかった。かなりショックである。
店内は唯一厨房にだけ灯りが白々と点り,じっちゃんがいとおしそうに鉄板を磨いているのが見えた。じっちゃんはこの店のお好み焼きに男性用と女性用というサービスを浸透させた当人であり,赤坂の裏寂れた路地にもう一店舗だけある(かつて西新店も存在したがこちらは早くに閉店している筈である)「ふきや」の店主でもある(一回だけ店の脇を通りかかったことがある)。創始者かどうかまでは知らないが,「ぬし」であるのは間違いない。そのじっちゃんが鉄板を丁寧に磨いている。閉店したのはもう3日も前だ。立つ鳥,後を濁さずか。
…夢じゃない。本当に,潰れたんだ。

思わず,PHSで奥さんに報告した。何だかとっても切なかったので。

張り紙には「店を閉める本当の理由は,閉店した後ビルの前で説明します」とあったけれど,ショッパーズの店先をうろうろしても,くだんのメッセージを見つけ出すことは出来なかった。ひょっとすると赤坂の店は残るのかもしれないが,交通の便が悪過ぎて,コストパフォーマンスが信条のお好み焼きを「気軽に」食べるのはもうあたわなくなった。あの,バカ安くてバカでかくてクセになる「ふきや」はとうとう世紀(とし)を越せなかった。
此処の手作りマヨネーズは絶品だったのに大好きだったのに。

今日観た映画:「ナージャの村(1997・日ベラルーシ)」「フェリシアの旅(1999・英加)」「いちげんさん(1999・日)」



 052.猛者共のモサド

2000/06/07(We) 

事中にイスラエル大使館から電話がある(おいおい)。
ものすごく流暢な日本語だったが,微妙にクセのあるアクセントだったので,あれは間違い無く死海の国の女性だ。
どういう訳か大使館主催で行なわれる昼食会の招待の話になったので,「此処は九州なんですが」と申し上げた処,イスラエル大使が今度来福する予定があるので,情報通信サービス業界のひとを招いて話を聞かせていただきたい,というのが趣旨らしい。とりあえず,総務に振るが,何故ウチの部署に電話がかかってきたのだろう。云いたかないが僕だってイスラエル映画祭を観に行った事ぐらいあるんだが(それがどうした)。

もう昨夜の話になるのだが,ついに残るクインシーメロンで奥さんにポタージュをこさえてもらった。
今度のポタージュは目にも鮮やかなサーモンピンク。果肉に赤みが射しているのだから当たり前だが,なるほど見た目がメロンらしくない(味はおそろしくメロンらしいのだが)。今回も美味。云わずもがなか。「子供の離乳食にいいんじゃないかなあ」って奥さん,ガキは余り口を肥やさないが吉ですよ。



「女神の自由」もとうとう買いそびれた(勿論「ザ・短編」も)山本先生だが,早くも次回作「十三の魔王」が来月26日に発売されるらしい。
今度のコンセプトはついに山本版「なごやはええよ・やっとかめ」が収録される企画物特集。もう長い間,針の穴に糸を通すかのような極々マニーな作品集を放ち続け,セールス的にも(僕個人はあくまで指標のひとつに過ぎないのだけど,結果的に新曲が出しにくい状況になるのも困る。事実,山本正之文庫もそうやって打ち止めになった)先細り感のあった先生だが,「きらめきマン」のシングルを始め,久々にストライクゾーンの広い娯楽作となるか。「大不況行進曲」「イヤイヤ社員旅行」「おミズの数え歌」…本当に期待してもいいんだよね?

今日観た映画:「遠い空の向こうに(1999・米)」



 053.夕食バンザイ

2000/06/11(Su) 

の7時に帰宅すると約束しておき乍ら,9時過ぎても何の連絡もせず,心配する奥さんを尻目に上機嫌で帰る。

「こんなに遅くまでどうしてたの?」
水道工事のイタリア人に夕食に招かれて,こんな時間になった。いやあ,愉しかった」
「連絡くらいしてくれたっていいでしょう!」と奥さんはぶち切れた。

…らしい。今朝,起き抜けに彼女にそう聞かされた。
「で,何食べてきたのよ」って,あなたのにまで責任は負えません。> 奥さん。

曜に引き続き,息子をチャイルドシートに乗せて軽いドライヴ。
何より普段は家から出られない奥さんの気分転換にもなるし。
たまにこうして連れ出さないと,今度はスペインの賄い婦の家で昼御飯をごちそうになった僕が責められないとも限らない。
最近オープンした明屋書店で「たまひよいちおし本舗」(ベネッセ)斎藤貴男「カルト資本主義」(文春文庫)を買い込んだ後,給油してから,高須パン工房でランチ用に初めてコロッケを買う。これは美味しい。何より揚げたてだし。

「デパ地下のコロッケみたい」とは奥さんの弁。
こないだ「Z−SIDE」で買ったデビッド・クロケットの一口サイズよりも,僕はこっちの方が好みかも。価格帯も間尺に合ってるし。牛肉とピーマンの炒めものを挟んだ白パン。トマトとクリームチーズのイタリアンサンドもバジルが効いて美味しかった。此処のパンはいい意味で噛みごたえがあるというか,顎が丈夫になる。

イトショウで「クロスファイア(2000・日)」
基本的には満足。でも,例えばこれを石井隆が撮影したら(期せずして新作「フリーズ・ミー(2000・日)」も本作同様,女性による陵辱した男たちへの復讐の物語なのだな。陵辱されるのが本人か親しいひとかという相違はあるが)どうなっていたかなどとふと夢想してしまう。或いは望月六郎でもいい。率直に感じたのは青木淳子を怒りに掻き立てる動機を説得するだけの情念,或いは業の深さみたいなものの物足りなさ。もっと云えば,女の子たちがガーディアンに陵辱される描写自体に手心を加えてあるというか。
或いは金子監督自身がそれを必要としていないのかもしれないのだけれど。

いや,分かってはいるのだ。これを石井監督張りにハードな表現にしてしまうと,間違いなくR指定が入って客層を必要以上に絞り込んでしまう。到底,ヴィジュアルエフェクトにカネをかけられる作品ではなくなってしまう。エンターテインメントとして文句の無いストライクを狙い,且つ娯楽作として,その狙いはどんぴしゃだと僕も思うのだけれど,暴投すれすれのストライクというのも「あり」だし,試して欲しいと思うのは贅沢かしら。

金子さんは大好きな監督だけに,くれぐれも大味にだけはなってくれるなと切に願う(大森さんへの要らぬ心配も,根っこは同んなじなんだよな)。

今日観た映画:「クロスファイア(2000・日)」



 054.25人がぴったりの小旅行

2000/06/12(Mo) 

勤途中,FMで聴いた民主党のCM。


子「おとうさん。ニッポンは神の国なの?」
父「えっ誰がそんなこと云ったんだい。ニッポンは民(たみ)の国だよ」
子「そうかァ。民の国で良かったね」


ちっとも良くない。父が小学生相手にしらばっくれるのも胸糞が悪いが,その後韻を踏んでみせるのにも虫唾が走る。「民の国で良かった」とうそぶく,モノが解ってんだか解ってないんだかよく解らないこの子もたいがい薄気味が悪い。
はっきり云うが「あくまでも」CMセンスだけを問うならば,自由党の小沢さんが殴られるCMの方が500倍は気持ちが良い。
何より殴られた小沢さんの表情がかなり小気味良い(これこれ)。

「神の国」から続く一連のステゴザウルス発言を看過していいとは決して云わないが(これは思想信条の問題というより,森総理が「舌禍のひと」だという一事による。釈明会見が定例行事になっている「国民に常に好意的解釈を強要する」ひとにサミットの議長をやらせてはサミット開催国としての誠意が疑われる),対抗勢力のカウンターパンチがこの程度では,植木さんじゃなくたって泣けてくる。

ついでなので(おいおい)同じ時間帯に流れている北九州のローカルCMを紹介しとく。


「あーら奥様,この間,スピナの小型バスで温泉旅行に行って来ましたのよ」
「スピナってショッピングセンターの?」
「衛生放送にカラオケでしょ。ちょうど25人くらいの旅行にぴったり」
「ウチは子沢山だから,スピナの小型バスね」ちゃんちゃん(本当にそんなジングルが流れる)。


「25人くらいの旅行にぴったり」という,バスの乗客定員に合わせた無理のある人数設定も秀逸だが,その後「子沢山」に連結させる乱暴なサゲには10人が10人とも「おまえはウミガメか」と突っ込んでしまいそうになるブービートラップのようなCMと云える。
ま,民主党もスピナもCMだけ取り上げれば,さして変わりがない。

で,今年の遊◎機械の秋公演「メランコリー・ベイビー(新作)」だが,全国ツアーをやらないという悲しいウワサ。
自動人形師ムットーニ氏の操るオートマトンが出るというので楽しみにしていたのだが,どうもゲストに筒井「王様のレストラン」道隆が出演するというのがネックだったら余計悲しい。しかし,こないだの「世界でいちばんパパが好き」つながりのハギワラと西田尚美といい,最近の遊◎機械は,豪華ゲスト路線驀進中である。で,福岡来るの?来ないの?(涙目)

先週の長妹に続き,今日は僕の留守中に次妹が赤子の顔を覗きに来る。
ふくぶくしく,表情も豊かになった甥っ子に満足して帰ったとのこと。
グリーンゲイブルズのケーキ,旨かったでし。どーもありがと。




 055.「ちんちろまい」モニター試写前夜

2000/06/16(Fr) 

間ではウィットに富んだ金正日語録や皇太后さま崩御の話題で持ちきりだが,それはひとまず置いておく。

は明日,天神アクロスで博多ムービー「ちんちろまい」のモニター試写会がある。筈である。たぶん。
ハリウッドでは,一般上映の前に希望者を募って,このモニター試写会を行なうことが多い。一旦完成した映画をモニター試写会の俎上に上げ,モニターたちに忌憚の無い意見を云ってもらい,余りにも作品の評価が低い場合には映画の内容自体をいじってしまう。観客に総スカンを食らう映画など興行的にペイしえないから,予めチェック出来る処は改善してしまおうというのだ。例えば,物語の最后でヒロインが死んでしまう作品の場合,観客の大半が「死ぬのはあんまりだ」「つまらない」と裁定を下せば,数ヵ月後に公開された映画では,ヒロインが溌剌としてエンドマークが出てくるという仕組みである(無論,その逆のケースだってある)。それがモニター試写会の本来の目的。映画は監督のものであるとする,作家至上主義とは真っ向から対立するため,大体娯楽作品で行なう場合が多い(ってハリウッドは殆どが娯楽作品なんだけど)。
実際,今回の「ちんちろまい」のモニター募集要綱にも

(前略)地域性溢れる楽しい映画に更に観客の視点を取り入れて面白い作品にするため、この度モニター募集を行うことと致しました。

とあったので,此処でのモニター試写会の解釈もほぼ上記通りで間違いない筈である。
本作の演出自体,大森一樹始めとする4人の監督の合議制(正確には不明だが,おいおい明らかになるだろう)という,四騎の会が最初に掲げた野心に近い変則スタイルで撮了している筈なので,作家という「個」のファクターは,最初から分散している。この4人の監督に加えて一般のモニターの意見を取り込む事で更なる「みんなでこしらえた」映画づくりを夢想しているのかもしれない。以上は,勿論全て僕の憶測である。

個人的な旨みとしては,「ちんちろまい」初号機は今回しか観られないかも,というのがある。
そりゃモニターが諸手を挙げて絶賛すれば別だが,上記趣旨で試写を行なう以上,9月の福岡先行公開時にはストーリー自体とまでは行かなくても,微妙に,或いは大胆にヴァージョン・チェンジした「ちんちろまい」二号機に変わる可能性が大きい。武田・大森両作品ファンとしては,映画の進化の過程を見届けるまたとないチャンスである。

ァージョン違いと云えば,当の武田鉄矢作品にくだんの品がある。
それは「刑事物語」と作品数では肩を並べた長寿シリーズ「プロゴルファー織部金次郎」の第一作目である。当時,公開時期と同じくしてWOWOWが放送開始したのだが,その時の目玉プログラムのひとつがこの「織金」WOWOW先行ロードショーであった。通常,一般にロードショー公開する作品を同時に,或いは先行して放送するなど当時は(無論,今でも)考えられなかった。しかも,劇場公開版とはラストシーンを変えましたというのが,本プログラムの更なる売りだった。
当然,当時の僕にWOWOWに加入する財力があろう筈も無く,番組冒頭の武田さん本人による解説の後(この部分のみ加入しなくても観る事が出来た。隣に財前さんが座っていたような気もするが,もはやさだかではない),スクランブルのかかったにも拘わらず,未練がましく何度もチャンネルをいじっては覗き見し,とうとうエンドクレジットまで付き合ってしまったという情けない思い出がある。
誰か,当時のVTRをお持ちのひとはいませんかねえ(いつかDVDの特典映像とかに入ればいいが…まずそもそもDVD化してもらえるかだな)。

を元に戻す。
モニター募集期間が7日〜13日までだったというのに,モニター試写会はもはや明日だというのに,此処に到って未だ当落の通知が来ない。
とうとうしびれを切らして,会社の昼休みに「博多ムービー」製作委員会福岡事務局に電話で問い合わせてみる。

「モニター試写会の件なんですけど,募集の当選発表は行なわないんでしょうか?」
「あ,丁度この後の会議で決定するんですけど」と事務局のおねえさん。
「実は募集人数が少なくてですね,どうしようかと」

募集人数が少ないだろうとは,僕も踏んでいた(応募動機にはそれもある)。
だって,宣伝してなさすぎるもの。(少なくとも)僕が知る限り,モニター試写会の告知は,公式サイトでしか行なっていない。雑誌広告もCMスポットも(僕は)知らない。宣伝費は徹底的に安く上がるが,一時期ひどく更新頻度が落ち込んでいたサイトだけに,此処を訪ねるリピーターも激減していたのではないか。或いは,いつぞやの金子修介トークショーの閑散とした会場の惨状の二の前かもなどと勝手に危惧はしていた。しかし,そんなに少ないのか。二桁に満たないとか(…ありうる)。ひょっとして,試写会時期の仕切り直しをするつもりだろうか。

「じゃ,延期されるんですか」
「いえ,場所は既に押さえてあるので延期ということはありません」
「では,連絡していただけるんですね」
「ええ。メールアドレスをお送りいただいた方にはメールで,そうでない方にはお電話で。
 でも,人数が少ないから電話でお知らせできると思います。
 いずれにしても,今日中にご連絡いたしますので(結局,夕方,自宅にメールが届いた)」

ひとまず胸を撫で下ろしつつ,電話を置く。ついでに切なさもこみ上げて来たりして。
この項,明日へ続く。



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