備忘の都 2000 −NOVEMBER−  ◆

僕は自分の小説が映画になるのが好きじゃなくてだいたい全部断ってるんですが、
それは自分の書いた科白がそのまま音声になるのが耐えられないからです。

村上春樹・柴田元幸「翻訳夜話」


101.巻き爪2102.巻き爪3
104.シベリア収容所的食卓を囲むしあわせ105.そんなに私が悪いのか

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 101.巻き爪2

2000/11/6(Mo)

年休を取ったので今日で4連休。
午前中は中間AMCで「スペース カウボーイ(2000・米)」
月曜日は野郎に限って1000円ご奉仕デーだったからである。何でそんなサービスがあったのかは映画を観れば分かる。
ネタは明かせないが,漢(おとこ)の,少年(おとこのこ)の映画である。老人映画に外れなしの法則はこれでまたひとつ更新された。
という訳で,思い切り奥さんに薦める。これを観なけりゃ漢じゃないぞ。で,急遽,彼女も次の日曜に映画を観る事に。
それにしても,ジェイムズ・クロムウェルってひとはどうしてこういけ好かない役しか廻って来ないんだろう。



それから妻子を社宅で降ろし,昼飯も食べずに病院へ。
今日休んだのは,残りの左親指の巻き爪の手術のためである(映画はあくまでモノのついでだ)。
右親指の包帯は今日までという事で,包帯を外してもらって半月振りの親指をしげしげと眺める。
僕はてっきり生爪身包み剥がされたくらいに感じていたのだが(手術の間はずーっと目を閉じて歯を食いしばっていた)実際は,爪が肉に食い込んでいた爪の両サイドの部分のみ切り離しただけだったらしい。ボーリングのレーンで云うと(云うな)ガーターが出来た状態というか。両脇の肉は盛り上がっているので溝にはなっていないけれど。傷痕の見映えは悪いもののもはや痛みは無い。

「局麻とハサミ用意して」
続けて「はい,そちらの診察台に横になってください」と看護婦さん。

…手術の実況中継は省略(もうええやろ,きみ)。
でも,あれだよ。目ェつむって手術の進行が分からないと,何処で息抜いていいんだか分からないから延々歯を食いしばってなきゃならない,それがツラい。だからって,局部麻酔打たれて生爪剥がされるさまをじっと見られるほど僕の心臓は毛深くないし。料理は目で食べるものなどと云うが,痛みだって目で感じるものだ。でなきゃ「愛のさかあがり」に臆する必要なんて全然ないわい。
帰りに「エスプリ」に寄って,シャンテーニュとミルフィーユを買う。
家ではずーっと傷口がじんじん疼いておさまらない。右足の時はそんな事無かったのになあ。

夜,半月振りに右足を湯船にひたす。ふう。そういうしあわせもあるさね。

今日観た映画:「スペース カウボーイ(2000・米)」



 102.巻き爪3

2000/11/9(Th)

診察室で巻き爪の包帯の付け替えをしてもらっていると,順番待ちのあんちゃんと目があった。
二十歳くらいかなァ,金髪ロン毛でモスグリーンの作業服を着たあんちゃんがじいっと僕を睨んでいるのだ。慌てて目をそらすが,暫くしてチラリと盗み見るとやはり僕を睨んでいる。朝っぱらから黒の上下(しかも茶系のピンストライプ)という服装が彼に波紋を呼んだのか。それにしても目つき悪いなあ,ヤダなあと思い乍ら,ちょきちょきと包帯にハサミを入れる看護婦さんのうなじに目線を移すと,そのあんちゃんの名前が呼ばれた。
あんちゃんは僕を睨んだまま立ち上がった。脇から先生の声。

「局麻とハサミ用意して」
続けて「はい,そちらの診察台に横になってください」と看護婦さん。

気が重そうにスリッパを脱いだあんちゃんの右の素足の親指には目にも眩しい包帯の白。何だ,巻き爪仲間じゃん。
しかも,今からくだんの「生爪を剥がす」手術が行われるらしい。はっきり云うけど(云わなかったけど),ナチスが拷問に採用するくらいには痛い。
包帯を巻き終わった僕は診察室を出て行きがてら,あんちゃんに会釈した。
ロン毛のあんちゃんは診察台に座ったまま照れ臭そうに笑った。
…でも,笑っていられるのは今のうちです。



東千代之介,逝く。享年74歳。往年の時代劇スターがまたひとり欠けた。
齢をとっても,かつての紅顔振りの分かる面差しであった。
TVはともかく,映画の最后の出演作はよりによって林海象「ジパング」だったのでは。
ああ,これはちゃんと調べてみないとはっきりした事は云えない。ともあれ,合掌。




 104.シベリア収容所的食卓を囲むしあわせ

2000/11/12(Su)

朝(つったって11時だが)気が向いて朝食をこさえる。
朝昼いっしょのブランチならヴォリュームがあっていいよねという事で,キムチ入りの玉子焼きともやしとベーコンの炒め物(と云いつつ他にもこっそり色んなものが入っている)。奥さんはその間に洗濯をすませた。

こないだも書いたが,僕の料理はどうにも味が濃い。これは一重に実家がごはん党だった事による。兄妹が揃っていた頃の我が家の白米消費量は,米屋のお得意様リストの二番目に名を連ねていたらしい(ちなみに個人としては一位だったらしい)。察するにハハの味付けの濃さがごはんのおかわりを誘発していたのではないかと思われる。逆説的だが,ごはんを沢山食べる為の料理の味付けの濃さという云い方が出来そうだ。
いずれにしても,奥さんは自分の抽斗にない味付けという事で僕の拵える惣菜は好きらしい。ま,たまにしか作らないのと,ひとが作るごはんは旨いという心理もたぶんに僕に味方している筈だ。彼女に云わせると冷蔵庫のありあわせでちゃっちゃと惣菜をこさえるというスタイルが良いのだそうだ。分かるような分からんような。

昼からはお決まりの買い物〜給油に高須方面へドライブ。
奥さんがスーパーなかので買い物している間に,明屋書店の店内を流れる浜田省吾のベストアルバムを一通り聴き終える。ファン投票で曲を決めたらしいが「J.BOY」以降ごっそりアルバムが抜け落ちているのが不満と云えば不満。でも,確かに選曲的には妥当と云えるかも。売り上げだけを取れば,こちらも出たばかりのビートルズのベストアルバムを抜き去ったらしいからなあ(あくまでも国内の話ではある)。

高須のパン工房でティータイム用のパンを買い込んだ折りに,奥さんが切り立てのパンの耳を貰ってくる。
帰宅後,お茶にして暫く昼寝をした後,ふと思い立って再び台所に立つ。我乍らこんなことは珍しい。
この週末いきなり寒くなったので,先ほどのパンの耳を使ってあたたかいスープをこさえようと思ったのだ。ホールトマトの缶は沢山ストックがあるし,ミネストローネというか,むしろもっと貧乏臭くシベリアの収容所でロシアの政治犯が食べるような,申し訳程度に具の入った水っぽいインチキ・ボルシチだけど身体だけは内側からぽかぽかあったまるぞみたいなヤツ。

冷蔵庫を開けると人参だけは料理するくらいあったので,ひとまず一本まるまる切り刻む。夜はレイトショウに行くつもりだったので早く熱が通るようになるべく小さめに切った。じゃがいもも小さい処を二個ばかり見繕って,これまた煮崩れてかたちがなくなるのを狙って小さく刻んだ。この時点で思ったより具沢山になりそうなのでアセる。
水っぽいスープと云えば白菜だが,無かったのでキャベツをこれまたなるべく細かくして使う。鍋にお湯を沸かしてベーコンとコンソメでだしを取ってから,具を入れるとこれはどうあっても具沢山のスープとしか思えない。一缶ぶんのホールトマトを入れた時点で,この鍋の運命はトマトシチューに転生する事に決定した。誠にいきあたりばったりだが,別に誰も困らない。
ホールトマトだけでは味に自信がなかったので,ビーフシチューの素をふたかけら足して,時々灰汁を取りつつ,ひとまず弱火で小一時間ほど煮込む。下拵えで少々失敗しても,時間をかけて煮込めばどうにか挽回出来るアバウトさが煮込みもののいい処。ずぼらな僕のようなものにはぴったりの料理と云える。鍋の水位が1.5cmほど下がった処で,くだんのパン耳を親指大にちぎって放り込む。
塩胡椒で味をととのえて出来上がり。

処が昼下りに食べたパンによる膨慢感のせいでちっともお腹が空かない。
尤もこの手のシチューは時間が経てば経つほど美味しいと相場は決まっているので,映画から帰宅后,遅めの夕食にする事にする。

という訳で,よよと泣き崩れる妻子を振り切ってAMCなかまにて「シャフト(2000・米)」
新世代のブラック・エクスプロイテーションかどうかはともかく,これは期待にたがわぬ傑作なので,八幡のサミュエル・L・ジャクソンこと武闘派のT中さんは絶対鑑賞の刑。こういう映画は存外に仇役がおざなりにされるものだが,本作のジェフリー・《バスキア》・ライトは悪漢キャラに全然手を抜いていないので,こちらも期待して観るように。ああ,シリーズ化してくれい。

帰宅してから,奥さんにパスタを一人前だけ茹でてもらって,適宜シチューと合わせるなどして食べる。
で,これが実に美味しかったりする。とりあえず奥さんには好評だったようで,ほっとひと安心。
寒い夜にはやっぱりシチューですね(因みに井沢先生宅は豚汁&シチューだったらしい)。

今日観た映画:「シャフト(2000・米)」



 105.そんなに私が悪いのか

2000/11/13(Mo)

会社から帰宅して奥さんに録画してもらったテレ朝「そんなに私が悪いのか」を観る。
わざわざビデオに録ってまで観たのは,番組の内容(三田佳子バッシング擁護)もさる事乍ら,井沢先生が出演したからというのがいちばん大きい。ちなみに番組の裏話は井沢先生の11月11日の日記に詳しいのでそちらをさくさくっと参照の事(何しろ全6回連載の大長編だ)。
しかし,普段BBSでお話をさせていただいている人とブラウン管の中で再会するというのはなかなかに妙なものだ。文治師匠とはまた違うものがある。失礼乍らついつい身内意識がわいてしまうのは一緒だけど(たいしたつきあいでもないくせに)。奥さんは先生のマオカラーな黒のスーツのコーディネートがお洒落だと盛んに褒めていた。彼女にはこないだのワイドショーで観た先生の和服姿の印象がかなり強かったらしい。
尤も,先生自身は会食に出かけてて生のオンエアは観なかったそうだが,番組を観た加藤治子さんから電話をもらったとの事。この人脈が大脚本家の大脚本家たる所以だよなあ。

番組の感想は省略(所謂きちんきちんとしたディベート系の番組では決してない)。
でも,次回もついつい観てしまいそうな気がする。

そう云えば,三谷さんが婦人画報の別冊「向田邦子」で加藤治子さんについて語ってたっけ。
褒め言葉なんだろうけれど,あのひとは一所懸命演技してますという力みのない役者さんで,そこがいいんだみたいな話(おそらく「古畑」の犯人役に選ばれた所以が此処にある)。加藤さんと同じカテゴリーにいるのが杉浦直樹さんでこないだの「合い言葉は勇気」に出てもらったのも三谷さんのたっての希望によるもの。要するに彼らの持つ飄々とした風情や空気を愛しているという事なのだろう。してみれば大昔,「えんぶ」のインタビューでいつか竹脇無我主演のホンを書いてみたいと答えていたのもあながち冗談ではなかったのかも。

三谷版「だいこんの花」みたいなドラマなら観てみたい。



やっさんから電話を貰う。寂光院落語会の件,伸治さんに承知していただいたとのこと。
蝙丸さん,伸治さんと出演していただいているのが,知らず知らず文治一門弟子入り順なのが怖い。
それで行くとやっさんの寂光院入りは再来年ということに…。ううむ。



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