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206.城健三郎(朗)ともいう
2001/8/18(Sa)
時々莫迦な夢をみるが、今朝のは特にひどかった。
気がつくと、蒲団にごろりと横になった若山富三郎に馬乗りになっている。
それまでの記憶だとか、脈絡は一切ない。部屋の明るさから云うと昼間らしかった。
若山さんは微動だにせず「あー、俺の髭をあたってくれ」と、枕の脇に置いてあるカミソリを指差す。僕は僕で、それを不思議とも思わず、彼に馬乗りになったまま、胸にしがみつくような格好でじょりじょりと髭を剃り始めた。
大きなお腹越しに伝わる体温と、頬にかかる鼻息とをいやに生々しく憶えている。
「俺はこう見えて血にはうるさいんだ。傷でもつけたらぶっとばすぞ」
眼光鋭く云い放った若山さんはそのくせ、顔の何処だかが痒いらしく、まるで僕をいたぶるかの如く、剃刀のあてる先あてる先を先回りして、顔の筋肉をひくひくと動かす。こんなの傷つけるなっていうのが無理だ。しかも若山さんの肌は髭を剃る前から剃刀負けしている。これは絶対何かの罠だ。などと胸のうちで罵りつつ、若山さんと僕の顔はずっと10cm程の距離を保っている。
そして僕がどんなに髭を剃っても、若山さんの頬も顎も頤(おとがい)もずっと胡麻をぱらぱらまぶしたかのような髭ヅラなのだった。
「時におまえ、年は幾つになる」
「今年で33歳です」
「そうか、元服までにはまだ間があるな」
いや、20年近く遅れをとっているような気がするが。
「おまえのかあさんには世話になったんだよ」
「初耳です」
「そうだろう。固く口止めしてあったからな」
「(そうだったのか、かあさん)」
「おまえ、今のうちに何か俺に訊いておく事はないか」
「若山さんにですか」
「他に誰がいるんだ」
「映画の感想とかでもいいですか」
「おまえ、慾がないなあ」
ひょっとして若山さんはランプの精か何かなのだろうか。
「僕、『衝動殺人 息子よ』の若山さんが凄く好きだったんです」
「あんなのは小手先だ。ちょちょいのちょいだ。芝居なんてものじゃない」
若山さんのお腹が、僕の股の下でくくくと上下した。
実際、若山さんは不敵な笑みを浮かべて僕を見ている。
僕は剃刀の手を休めて、彼の頬をつるりと撫でた。駄目だ、全然剃れてない。
「俺のほんとうの芝居を観たければあんなんじゃ駄目だ」
「駄目ですか」
「駄目だ駄目だ」
嗚呼、木下恵介監督は草葉の陰で泣いておられるに相違ない。
「では、若山さんの自己ベスト作品とは何ですか?」
まさか「シルクハットの大親分」では? …いや、それならそれで別に構わないが。
そんな僕の心の声を見透かしたように若山さんはじろりと僕を睨みつけた。
「オレのファンだったら×××を観ろ」
「え、すみません、よく聞こえない」
「何度も云わせるな。オレのファンだったら」
そこで悠都に顎を蹴られて目が覚めた。それが6時前。
って一体どういう寝相なんだよ。
結局、若山富三郎の自己ベストを訊き損ねた。
それだけが悔やまれてならない。
お互い下戸同士だし、仲良くなれそうな気がしたんだけどなあ。
今日観た映画:「蝶の舌(1999・スペイン)」「RUSH!(2001・日)」
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