月とチェリー / 山口晃展「売らん哉」 / ネバーランド
トダマタワンマン / 石川鷹彦 アコギサウンドの世界
▼ 2004年12月の都を旅する
週末なのに生憎の雨。しかも極寒。
こんな日は妻子の留守宅でぬくぬくと過ごすに限るのだが、今日を逃すと観れなくなる映画や個展があるので、テキトーに朝飯をこさえて食べて、「いつ笑み」の白井晃を観てから渋々家を出る。傘を差して渋谷の繁華街を歩くと思うだけで気鬱である。
「月とチェリー(2004・日/タナダユキ)」 渋谷シネ・ラ・セット
先月まとめて観た[ラブコレクション]のうちの一本にして、「ジョゼと虎と魚たち」でのアート系・唯我独尊姐さん振りに打ちのめされた江口のりこ主演作。エロス過剰であり乍ら決して脱ぎ要員ではなく、冷静沈着にしてオトコに決して尻尾をつかませない彼女のオーラにあてられたくって足許の悪い中、足を運んだと云っていい。
続けて「ネバーランド(2004・英米)」を観るか逡巡するも、やはり先に開催が今日までの山口晃個展を押さえるべく渋谷駅(東横線)へ向かう。
いきなり江口のりこ讃になってしまうが、このひとは写真では決してその魅力が伝わらない。眉根ひとつ動かさずにぬけぬけと大胆不敵な言動に出る処や、さまざまな感情をぶっきらぼうというスタイルで表現してしまう豊饒さは是非銀幕の中の彼女から確認して欲しい(て、云うか彼女が出演する舞台もきちんとチェックしなくちゃだな)。
物語はひょんなことから官能小説サークルに入った大学生(永岡佑)が、創作の為には手段を選ばない同い年の女流作家(江口のりこ)にリサーチの為に童貞を奪われ、様々な風俗体験をさせられる中で彼女に心惹かれていくが肝腎の彼女は…というもの。邪推を承知で書かせてもらえば、ヒロインの真山はおそらく監督自身がかなり反映されたキャラなんじゃないかと「あたし料理苦手だから」とインスタントラーメンをこさえて、賞味期限不明の生卵を田所に食べさせてしまうアバウトさを見ていてそう思う。反面、真山の極北にある茜ちゃん(平田弥里)の如才ない愛らしさを支える独占欲と計算高さに監督のルサンチマンを感じるのだがどうか。て云うか、海のものとも山のものとも知れないシロート官能(!)作家のしかも処女作を「ううん、楽しみィ♪」などと鈴を転がす時点で、この要領のいい女の目的がオトコの狩猟にある事が知れる。尤も、こういう視点がそもそも「負け犬(他にテキトーな言葉が思い浮かばない)」視点で、性別は異なれどひどく共感しちゃったり。
作劇的にも、情けなくも性欲に全面降伏してしまう男の生理を利用した襖越しの「告白」とか、女性監督の限界に挑んだかのような唸るシーン多々。しかしラストまで青カンで〆なくとも良さそうなものを。所謂体当たり演技でお笑いに徹するというのも意外に70年代の低予算映画的ナンセンスを感じさせたり。江口・永岡の丁々発止の台詞応酬劇と肉弾戦に惜しみない拍手を。あとSMクラブの女でピンポイント出演した内田春菊姐さんにも割れんばかりの喝采を(好きだねえ、あのひとも)。
傘を差したり閉じたりせわしないこと夥しい。
この項、続く。
容赦なく降る氷雨に悪態をつき乍ら、中目黒ミヅマアートギャラリーへ。
先週末、休館日に行くという失態をしでかした山口晃展「売らん哉」の雪辱戦。何しろ、今日が最終日なのでもう後がない。
ちょうど1年前の今頃、東京都現代美術館「MOTアニュアル2004:私はどこからきたのか/そしてどこへ行くのか」で一連の作品を観て以来、家族して山口晃が気に入ってしまった(ちなみに息子のランチョンマットは森美術館で買ってきた山口晃「六本木昼圖」である)。このひとのワークスは現代アートのカテゴリーに入るが、敷居の低さゆえ非常に分かり易い。このひとが得意とする大和絵アート(誤解を恐れずに書けば、一種のパロディである。文学にパスティーシュがあるように適当な呼称があるのかもしれないが、そこは門外漢なので)には、ジャパニメーションの影響下にあり乍ら(何しろ同世代だ)日本画家としてのスキルに裏打ちされた圧倒的なディテールと、鳥獣戯画や風刺画家ビゴー的なエスプリやノーマン・ロックウェル的な物語や仕掛けが随所に凝らしてあり、大和絵の手法への温故知新と相俟って観飽きるという事がない。このひとのエンタ指向とサービス精神は、転び方次第で次世代型の大友克洋に化けていたかも知れないなどと思う。あとこのひとは文豪のような風貌の自画像も楽しい随筆漫画がいい味なのだな。余技が一ジャンルを築いてしまっている処は、その昔宮崎駿や安彦良和がライナーノーツ的に描き散らしていたあの感じ。もしも山口晃がマンガを描いたなら会田誠の露悪(偽悪)なそれ(「ミュータント花子」はまたあれでありだと思うが)とはまた違う自嘲と気品に満ちた、内省的で面白いものが出て来る気がする。
話が横道にそれっ放しだが、この年末に三越が2005年企画福袋として「山口晃氏による私の自宅&家族の大和絵図(1,050,000円)」(購入者の自宅と家族の日常を題材に大和絵を描く)を出した時には、はっきり云って夫婦してうろたえた。お互いに「いいね…」と呟かせた後、続けて妻に「買うんなら電話するけど」と云わせたシロモノだ。おそらくイエモチ(勿論、徳川14代将軍のことを云っているのではない)であれば、迷わず発射スイッチを押していたが、荷物の置場もない賃貸マンション暮らしでは、自然アイゼンハワーとフルシチョフにならざるを得ないじゃないか(て、何の話をしているんだ)。
ミヅマアートギャラリーは、やたらと時代の入ったオフィスビル(?)の2Fにある。
鬱蒼とした薄暗い階段の先に、トランクルームと貸事務所が一緒になったようなテナントを改造したようなスペース。ギャラリーはメイン作品が並ぶ体感10畳程度のエキシビションルームと、中央にチラシや関連書籍を置いたテーブルを据えつけた体感6畳程度のギャラリースペースからなる(更にその奥に手狭な事務所がついている)。壁と天井はまばゆいばかりの白に塗装してある。
入口の処に作品マップを兼ねたギャラリーの見取り図が貼ってあり、呆れた事に(呆れちゃいけないが)8点ある全作品が完売している。ゼロが6つ、下手すると7つはついた作品ばかりなのに、さすがは「売らん哉」、豪気な事である。入ってすぐのエキシビションルームは時計回りに、
「歌謡ショウ圖(2004〜2005)」
此処まで書いて息が切れたので、後は手短に。
古色床しきオペラハウスを思わせる劇場に、美空ひばりに酷似した歌姫と大仰で和洋折衷な座付楽団、アリーナ席とボックス席の聴衆(ボックス席毎に時代がシャッフルされている)という図案の右半分のみが描かれ、左半分は鏡に映った写像で完成品を楽しむ趣向(隣室の「売らん哉」ライナーノーツによると、場所塞ぎになる大作の省スペース化を狙ったらしい。て、きっと鏡は別売りだな)。
売れているにも拘らず、本作は未完で、脇には絵具を並べたイーゼルが置いてあり「実演中」と貼り紙がしてある(最終日なのに)。スタッフの女性に聴いた処、山口さんはシャイな為(誰だって創作中、物見遊山でじろじろ見つめられるのは辛いと思う)「実演中」と云い乍ら実際はギャラリーがクローズした後に来てこそこそと描いているそうで、昨夜は楽団員の燕尾服あたりが着色されたとの事。次の作品展まで時間がなく、作品の撮影の都合もある為、山口さんにはあと一週間でと締め切りの沙汰が下ったらしい。買い主とは勿論下絵段階で交渉が成立したそうで、着色にかなり力が入ってしまった為「もうちょっと高くしとけばよかった」なんて裏話も。
「胎内めぐり圖(2004)」
京都清水寺の胎内めぐり。地上部分は実際の清水寺にかなり忠実だが、地下部分の胎内めぐりは作品を変形サイズにする程の力の入れようで、心の臓や胃腸まで祀ってあってディテール満載。いかにも山口晃らしい一作。
「無残ノ助(2004)」
腐敗しきった現代のさまざまな莫迦共を、サムライたちが一刀両断にしていく「必殺」或いは「SFソードキル」的天誅戯画。一枚絵であるものの、色々な天誅シーンが折り込まれており、このへんで同じ「こたつ派」の会田誠と臍の緒が繋がっているというか。
「ドローイング(2004)」
未題。オープニングレセプションで、山口さんが観客の前でパフォーマンスしたもの。ご本人は途中迄描けばいいくらいに思っていたらしいが、事前に実演パフォーマンスと銘打っていた為、本来の苦手意識を投げ打ってサービスで思い切り筆を走らせたもの。スタッフの話だと、山口さんと好対照なのが会田さんで、彼は好んで客前パフォーマンスをやるらしい(あのひとは露悪に走りそうな処がやや引きそうだが)。
「日月圖(2004)」
「日圖」「月圖」の2点が対になった大作。
2作並べると陰陽の阿修羅(?)が睨みあった構図になる。他と比べてパロディ色は薄い。
隣の小スペースには、紙を切り足し切り足しして拵えた双六系ライナーノーツ漫画「当世絵かき気質」(新作の中で作家の意向でこれだけは非買となったらしいが、分からないでもない。興味のある方は「美術手帖」の最新号に掲載されるのでそちらをどうぞ)から連なる「売らん哉」のアイデアたち(残念だったのは、山口さんが描いた下絵を購入者が「塗り絵」して完成させる作品が盗難にあっていたこと。山口さん曰く「腹が立つというより、悲しい」)。中でも白眉は、全てが山口さんの信じられないくらい細緻な描き込みによる「ポストカード兼2005年カレンダー」。1枚が2ヶ月分のカレンダー(勿論、山口さんの手描き)になっている6枚綴りで、とりわけ5・6月と川のほとりの癒し系と11・12月の下町ドールハウスな図案は商品化しないのが害悪な程の秀逸な仕上がり。
スタッフに尋ねた処、実際に商品化は検討していたのだけど(買い手は快諾)作品が上がったのが年の瀬だったし、検討しているうちに新年を迎えちゃった為に、今更ポストカードを拵えても既にひと月食い込んじゃってるしで、お客様のご要望が多ければ…との事だったので、「欲しいです」と力強くプッシュしておく。商品化のあかつきにはホームページで告知するとの事なので心して待て。参考までに6枚綴りの原画の価格も教えてもらう。……開催初日に売れたという事でひどく口惜しかったり。これくらいの贅沢ならオレはオレを許してしまう気がするな。
折からの雨もあり、東京大学出版会から出た作品集は今日は見送る事にする。
どうせ東京都現代美術館のショップに置く筈だし。
ギャラリーを出ても興奮がさめやらず、中目黒の駅から犬山の妻に電話する(莫迦)。
この項、続く。
渋谷へ戻っても雨。
行き交う人たちの吐く息が白い。
試写会会場で「泣きました」「感動しました」を連呼するあざといCM(顔立ちの綺麗なOL風の「一般客」が銀幕を凝視して涙を流す)効果か、「ネバーランド」大盛況。シネフロントは指定席制だから並ばないでいいのとTUTAYAで時間を潰せるだけ日比谷で観るよりマシかもしれぬ。実はこの木曜日に試写会ハガキが廻ってきたのだが、新年会とかち合って泣く泣く流した作品。ま、おつきあいは大切ですから。
「ネバーランド FINDING NEVERLAND (2004・英米/マーク・フォースター)」 渋谷シネフロント
この次の金曜にある「トダマタワンマン」のライヴチケット受け渡しの為、雨の中、新宿へ移動してはるさんと落ち合う。
劇作家ジェームズ・バリ(ジョニー・デップ)の代表作「ピーターパン」創作秘話。
周囲から大人の作家として信じて疑われなかったバリの「内なる少年」を引き出した、未亡人シルヴィア(ケイト・ウィンスレット)と、ピーター(フレディ・ハイモア)をはじめとする4人の息子たちとの交友と悲しい別れを、「ピーターパン」の源泉となるバリとディヴィズ一家の妄想(ティム・バートン監督「ビッグ・フィッシュ」程のバカバカしさはないが、バリが扮する海賊船の船長が結果的に「パイレーツ・オブ・カリビアン」のセルフパロディになっているのがかなり可笑しい)を織り交ぜ乍ら、抑えたタッチで綴っていく。実を云えば、ディヴィズ兄弟の中で唯一ピーター役のフレディ・ハイモアだけどうしてもいけ好かなかったのだが、パンフではジョニーもケイトも彼の演技を題絶賛。どうも世間の評価と僕の好みは大いに異なるらしい。長男ジョージ(ニック・ラウド)が祖母であるデュ・モーリエ夫人(ジュリー・クリスティ)を罵倒するシーンなんか素直にドラマに乗っかれたんだけどなあ。
バリの妻メアリーを「ピッチブラック」の闘うヒロイン、ラダ・ミッチェルが、他所の女と運命的な出会いをして作家として開眼していく夫に懊悩そして絶望する背中を見事に演じている。夫の裏切りが許せなくとも(夫が故意にそれを裏切りだと気付いていない処が更に許せない)「ピーターパン」が傑作なのは彼の長年のパートナーとして十二分に理解出来るという無間地獄。バリとシルヴィアの関係が、お互いが気持ちを打ち明けず、プラトニックである程、メアリーにはその強い絆がよーく見えるのである(勿論、シルヴィアの母親モーリエ夫人にも見えている)。何しろ今から100年前のお話だ。
興行主チャールズ・フローマン役のダスティン・ホフマンは、観客が心配するくらい余計な事を一切していない。存在感で映画からはみ出すことなく、与えられた役を誠実にこなし、物語を裏から支えているのが頼もしいような淋しいような。あと劇中劇のピーターパンを「トレイン・スポッティング(1996)」のケリー・マクドナルドが演じているのがちょっと嬉しいぞ。イギリス映画だなあ。
ひとつ忘れてた。ちゃんと確認はしていないが、おそらく「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル(2003・米)」以来1年半振りのケイト露出度調査隊の出動となる(誰も憶えちゃいないって)。断わるまでもなく、露出は皆無であった。ま、そういう映画じゃなかったんで。
何故新宿かと云えば、転宅準備中の彼が、高島屋のハンズで色々物色したかったからだ(購入ではなく、あくまで物色なのである)。
閉店30分前集合して(ぉぃぉぃ)駆け足で物色。収納やカーテン、照明機器に防災用品。たまにハンズへ行くと、たくさん珍しいものが見られるのであきないが、中でも照明コーナーにあったデザイナーズ・ライトの古典SFメカっぽいデザインにふたりしてしびれる。メタリックな円筒を取り囲むように10本の触手(長い触手が5本、短い触手が5本)が伸びていて、触手の先が電球になっている。紐を引っ張る毎に、長い触手のみ点灯、短い触手のみ点灯、全部点灯が繰り返される。触手のかたちはいじれるので、長短の触手を上手に配置すれば3パターンの照明が楽しめるようになっているというなかなかすぐれものだ。それでいて9000円台は決して手の届かない価格ではない。転宅先は2部屋あるというので、強く勧めておく。本人も結構その気になっていたが結果や如何に。
閉店したハンズに追い出されたので適当に其処らへんのお好み焼きへ入って、豚キムチ系のもんじゃ焼きやモダン焼きなどつまむ。鉄板の上で客が焼くスタイルなのだが、店のおねえさんが豚肉を鉄板の縁に落としても「あ、すいませーん」と取り替えることなく退場したのでちょっとムッとする。次に来た時も何だか落としてはるさんの怒りを買ったんだが、もうちょっとどうにかならないものか。
16時に割り込んできた資料のレビューがなかなかのナンブツ(しかもキビしい2月を予感させる)で、19時過ぎ迄喧々諤々。資料の修正は来週回しにさせてもらうも、さすがに表参道19時半着にはムリがあって(といっても5分遅れだったけど)、整理番号15番がフイになる(はるさん着は19時57分くらい)が、それでも4列目中央をキープ出来るあたりは喜んでいいんだよなっ(ちなみにFABでは最後尾のテーブル席に座っても充分アーティストを身近に感じる事が出来る)。客席はほぼ満席(安堵)。ドリンクチケットでレモンスカッシュを受け取りに行くと、バーカウンターには種ともこ、長谷川都のそれぞれから贈られた花が飾ってあった。
何しろ4年半振りのアルバム(しかもセカンド。しかも7曲入り)に3年半振りのワンマンライヴ。音楽業界のキビしさが身にしみる今日この頃、トダマを知ったのも何かの縁(予想にたがわず種ともこ常連ファン多数。はるさん「何でこんなに種ファンぱかりなんだよ」僕「おそらく僕らと同じ理由かと」)。断言してもいいけど、今夜は戸田和雅子音楽活動史に残る歴史的な夜だった筈。
「トダマタワンマン 〜water strings〜」 於 表参道FAB
OPEN 19:30/START 20:00
以下、セットリスト。
(ひとまずネット上の書込みを掻き集めて拵えたが、トダマネットで戸田さん本人がレポートした時点で最新版に更新予定)
【Vo.G】戸田和雅子、【Gt.】石成正人、【Bass】大神田智彦、【Perc】佐藤正治、【Cho.】ありましの
アンコールこみでほぼ2時間弱の、まごうかたなきワンマンコンサート。
M1 話したくない訳じゃない
M2 その瞬間を
M3 いまだけは
M4 ポピー
M5 十一月
M6 PASSING
【Vo.G】戸田和雅子、【Gt.】石成正人、【Cho.】ありましの
M7 夜明け前に決めたこと(仮タイトル)
【Vo.G】戸田和雅子
M8 My Favorite Things
【Vo.G】戸田和雅子、【Gt.】石成正人、【Bass】大神田智彦、【Perc】佐藤正治、【Cho.】ありましの
M9 わたしの妄想
M10 (新曲)
M11 あめのせい
M12 レモネイド
M13 でかけよう
M14 霧雨
(アンコール)
M15 うららかるらら
M16 夜空に
(はるさんが「某女性アーティストにも見習って欲しい」とぼやく事しきり)
ソングライターとしてのクオリティとボーカリストとしての力量(元々アカペラグループ出身)、弾き語るには充分なギターテク。これまで何度か参加したギグでアーティストとしての彼女には絶大な信頼を寄せていたけれど、これだけのアーティストパワーを持ち合わせていても、大きなうねりに繋がっていかない現状を歯痒く思う(アンコールの手拍子にすぐ応えたMCが「アルバムはお待たせしたので、そのぶんアンコールは余り待たせない方針で」。て、自虐ネタを冴え渡らせてどうする・笑)。僕はトダマ外様な事もあって、アルバム製作を中断した理由のひとつに前任のマネジャーの突然死があった事を知らなかったのだが、秋田さんの死を悼む彼女の瞳が一瞬潤んだのを見逃さなかった(あとアンコールの1曲目で涙ぐんだのも)。
MCは彼女がいっぱいいっぱいでいるのが程なく露見したが、ご自身は否定する天然キャラが客席をほのぼのとあたためてくれるのが良。次の曲の準備までの間が持たずにひそひそ声で「喋ってもいいんですよ〜」を2連発したり(2発目は「しつこい?」とひとりツッコミをしていた)、(自分の)緊張を解きほぐす為に、突然ストレッチ(?)を始めてガニ股になってみたり、何処までも愛らしいひとだ。
あとアコースティック編成とは云え、バックはひそかに新進気鋭にして錚々たる面々。
たとえばギターの石成さんとウッドベースの大神田さんは平井堅「Ken’s Bar」のバックだし(大神田さんは中島美嘉のバックも務めている)、パーカッションの佐藤さんは加藤登紀子やZabadakをサポートしつつ、さりげなく新生ヒカシューのメンバーだったりもする大ベテランだ(トダマが佐藤さん宅に楽譜を届ける際、ついでにエプソンのスーパーファイン紙を買いに行かされた挿話は普段のふたりの関係を知る上でなかなかお買い得であった)。
でも何と云っても、今回いちばんの収穫はコーラス参加したありましのさんだった。
長谷川都つながりで去年一年で急速に仲良くなったらしい新進シンガーソングライター。
コーラスワークしか聴けなかったけど、大人のオンナを感じさせる、トダマさんとは極北の位置関係にある(失礼!)ムードを始め、彼女しか醸すことの出来ない存在感と、トダマが歌唱の間中、笑みを絶やさない表情の豊饒さにははっきりゆってシビれました。何しろ恰好いい。文治師匠の江戸弁講座に則ると「ようすがいい」。いつか彼女のソロライヴも聴いてみたいが、さすがに24日夜開始の渋谷カフェへ参加するのはちょっとキツい。
ライヴ終了後、速攻でアルバム「water strings」を購入し(売り子は何と留袖で決めたトリマトリシカのおふたり)、はるさんとふたりしてサインを貰う列に並ぶ(はなから今日はサイン会があると踏んで出てきた)。後で聞くと井尻慶太@アルケミストが一緒に並んでいたらしい。列に並んで「そうだ、座右の銘を書いてもらおう」「『毀誉褒貶』とか『天網恢恢』とか何か難しそうでもっともらしいこと書いてもらおう」とか好き勝手な事をくっちゃべってたら、ふたり前のお客にサインしていたトダマさんがこちらを仰ぎ見て「そんな難しいテーマ出さないでくださあい」とダメ出しされる。「そういうのはまた今度静かなときにゆっくり」。──本当だな。信じていいんだな(笑)。全くひどい客である。
やむなく普通にサインを貰って(て、当たり前なんだよ)CD完売宣言に胸を撫で下ろしつつ会場を出て、FABを出た路地の先にあるロイヤルホストで満足度の高い「選べるイタリア定食(1,580円)」でプチ打ち上げ。ちなみに僕がチョイスしたのは「エミリア風小さなラザニア」「カプチーノ仕立てのパンプキンスープ」「イタリアンポークカツレツ with ライス」「抹茶セサミ バニラアイスクリーム添え」の4品。いつもの如く、鼎談ひとくさり。
食事を終えて店を出ると、ギターの石成さんの車が目の前を通っていった。
はるさんとふたり顔を見合わせると、今度はFABの店先からトダマさんが車を出す処であった。
詳しくは書かないが、色々な意味でオドロく。
零時過ぎに帰宅すると、以前お約束いただいた「恋人父娘 とっておきの青春」(日本放送出版協会)が井沢先生から届いていて感激する。かつて愛してやまなかったドラマの、夢の著者献呈本である。その余りにも物量の伴ったハイクオリティにと学会を震撼させた「絹と立方体」と云い、今週は胸躍る書籍小包に事欠かない。おっと、右團治さんからもHP原稿が届いている。こちらの方も話を進めなくちゃなあ。
風呂上がりに「water strings」をひと通り聴いてから寝る。収録時間26分だし。
やっぱり「霧雨」は佳い曲だと思う。
去年の11月、某掲示板で石川さんのコンサート無料招待(100名限定)の情報を見かけて「こんなのがあるらしい」と紹介した処、さっちゃんが応募してくれて、見事、今年に入ってから当選ハガキが届いた。「なにわバタフライ」といい、恐るべきクジ運である。全く彼女には足を向けて寝られない。引越しの準備におおわらわなはるさんに詫びつつ、自由席・先着順という事で開場にはちょっと早い14:30過ぎに西荻窪駅でさっちゃんと落ち合う。
駅北口からほぼ一本道で迷う事無く、あっさりと西荻地域区民センターに到着。
ロビーには既にかなり長い列が出来ていたが(盟友イルカさんから花が届いていた)、ハガキと引換えにもらった座席指定券は4列目左ブロック通路側と、指先のデリケートな動きから細かい表情までつぶさに窺う事が出来るかなりのベスト・ポジション。しかも受け取った石川さんのステージ写真が印刷されたチケットには、田代さん、有田さんを始め、倉田さん、岡沢さん、川瀬さんという名だたるベテランミュージシャンのクレジットがあり、そこで初めて今日のライヴがフルバンド編成である事を知り、驚愕する。ひょっとするとサイドギターに田代さんがつくかも、位の予想はしていたが、まさかこれほどまでにゴージャスな布陣で臨むなんて。殆どさだまさしのツアーバンドそのものじゃないか。つーかギターパートの充実振りはそれを圧倒的に上回る。幾らフォーク界の巨匠、石川さんの人徳とは云え、たった一晩の為にこれだけのメンツを揃えて(確かに倉田、岡沢、川瀬の3名は同じ「恋文」ツアーメンバーなのでネゴは取り易いだろうが)、しかもそれをロハで聴かせてもらえる僥倖。西荻窪の侠気を見たね。とまれ、さっちゃんと顔を見合わせて相好を崩したのは云うまでもない。佐世保のYさんにも聴かせてあげたかったな。
開演前に場内アナウンスで、改めて石川さんのフォーク界の巨匠としてのプロフィールが紹介される。けれど、此処に来ているオーディエンスの、たぶん7割方は石川さんがどんなギタリストか重々理解しているひとたちばかりだと思われるが(さだまさしファンが多いというだけでなく、やはり何気に客層が濃いのだ。あとで知ったが、北は石川さんの出身地である北海道からもわざわざこのライヴに駆けつけたファンが居たらしい)、よく分かんないけど無料だから聴くかという一般の西荻窪区民向けの気配りか。
気を持たせるだけ持たせて、御大たちがステージに登場、全員が楽器を手に持った処で、舞台中央の石川さんが周囲をちらりと見て景気良く「ワンツースリフォー」とカウントしておいて、1曲目がソロ演奏(「イーハトーヴの朝」)だったのに思わず噴き出す。石川さんのお茶目振りは出だしから健在であった。
「石川鷹彦 アコースティック・ギターサウンドの世界」 於 西荻地域区民センター
OPEN 15:30/START 16:05
以下、セットリスト。
【A.G】石川鷹彦、【A.G】田代耕一郎、【A.G】有田純弘、【Key,Pf】倉田信雄、
【Bass】岡沢 章、【Perc】川瀬正人
石川さん、最初のMCに入るなり「西荻窪××丁目在住の石川鷹彦です」。
M1 イーハトーヴの朝
M2 Running Water
M3 メヴラーナ・闇夜の旋舞
M4 無憂樹
M5 今も想いは変わらぬままに
M6 チャーリーの長靴
M7 果てなき想い
【A.G】石川鷹彦、【A.G】田代耕一郎、【A.G】有田純弘
「次は、若手三人のコーナーです」
M8 うたたね
M9 夜空ノムコウ(作曲:川村結花、1コーラスのみ)
M10 Black Mountain Rag(作曲:Doc Watson)
【A.G】石川鷹彦
M11 Clione
M12 Dori
M13 Anji
【Arpa】志賀昭裕
M14 めぐり逢い Comme au premier Jour(作曲:Andre Gagnon)
【A.G】石川鷹彦、【A.G】田代耕一郎、【A.G】有田純弘、【Key,Pf】倉田信雄、
【Bass】岡沢 章、【Perc】川瀬正人、
【Arpa】志賀昭裕(M15のみ)
M15 砂塵の舞
M16 正夢
M17 Marimo
M18 エスカルゴ
(アンコール)
M19 再会
…そ、そーだったのか。遅れ馳せ乍ら、僕らはようやく今夜のライヴの趣旨を得心したのだった。
「最初はひとりで演るつもりだったんだけど、どうせならギターをもうひとり、いやふたり欲しいなあ。じゃあ折角だからピアノもパーカッションも欲しいし…ベースは(岡沢さんを振り返って)ま、いっか(爆笑)」
「じゃ、ひとりだけ仲間はずれにしたら可哀想だから」と石川さん特有の愛のある云い廻しで今夜のバンド成立の経緯を語ってくれた。しかしDVD化された「Premium Live 2003」のサポートメンバー+有田さんと志賀さん(志賀さんとは彼がアルパの修行に来ていたパラグアイで知り合ったそうだ)という、さりげなく空前の座組みになっているあたりが、今夜のスペッシャルたる所以である。
仮に石川さんが不在だったとしても、サポートメンバーひとりひとりが充分にピンで成立する凄いスタジオミュージシャンばかりである。「さくら(独唱)」を歌う森山直太郎の後ろで背中を向けてピアノを弾いていた倉田さんが、今日はこんな近距離でしかも真正面から華麗なピアノ裁きを披露してくれるのだ。
近頃の手持ちCDでは高泉さんのニューアルバム「After You've Gone」での演奏が記憶に新しい有田さんが、米国のバンジョー・コンテストで優勝した腕前のバンジョーを事もなく弾いて聴かせてくれる。比喩ではなく全身をせわしなく駆使して沢山の楽器を操る川瀬さんのパフォーマンスは目にも楽しい(鳥のさえずりからはばたきといったSEまで全て楽器で再現してくれる)。ちょっと小ぶりなハープといった風情のアルパを掻き鳴らす志賀さん(心持ち、ヨン様系?)はその奏法といい、佇まいといい、ただただ恰好良かったし。
石川さんのオリジナル曲ばかりのライヴは初体験だったが、1st、2ndアルバム(「WORDS1・2」)を持っていれば、存分に愉しめるメニューだった(さっちゃんには事前にCDを貸しておくべきだったかもしれない)。まさか「Running Water」「正夢」を生音でしかもフルバンドで聴ける日が来ようとはなァ…。ギタリスト3人による壮絶な速弾き競演「Black Mountain Rag」の、スリリングなアンサンブル(石川さん曰く「失敗するからまた楽しいんだよなァ」)。確かに区民センターの音響なので、ノイズが入ったり、設備的には決して万全ではなかったが、それをあげつらうのは無粋というものだろう。何より、当の石川さんが本当に気持ち良さそうに演奏していて、アンコールの時に思わず「毎月22日はライヴの日に」と口走ったくらいだ。石川さんを寛がせることにかけては、おそらく西荻窪の右に出る土地はない。超・拡大解釈すれば、自宅で開くサロンコンサートの延長線にあると云えなくもないんだし。
某歌手とは違って純粋に演奏を聴かせますと笑わせ乍ら、毒舌とすっとぼけMC炸裂の石川さん、18曲演奏して2時間弱のステージは成程まごうかたなき音楽家のコンサートであった。ステージの中央に居ると、皆んな(サポートミュージシャン)の顔が見えないからひどく孤独だ、いつも此処にいる皆んな(歌い手)の気持ちが分かったよと照れ笑いしたのが妙に印象的に残った。あと「此処にお越しの大部分は区民の皆さんだと思いますが、パチンコ屋で見かけても声なんかかけないでください。今夜のことは今夜だけにして(爆笑)」とか。これで間違いなく区民に火をつけたと思われる。きっと石川さんがフィーバーしている処を狙いすましたかのように「あの日、聴かせていただきましたよ」と突っ込まれるのに5000ガバス。そう云えば、田代さんが石川先輩を見つめる眼差しがたまらなく嬉しそうだったなあ。
兎に角、久し振りに石川さんの匠の魅力にすっかりあてられちゃった一夜。
二夜続けてキモチのよい音楽に浸らせてもらうなんて、この上ない贅沢だ。さっちゃん、ありがとね。
コンサートの興奮と熱気を、意外にもグルメ処の多そうな西荻窪の通り沿いを歩き乍ら、冬の夜風で冷ます。
この項、続く。
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