8月のにっき(2)

私の居住区であるC市の市民税課普通徴収係から送付されてきた
『手引き』の一行に、こんな表現があった。
〈前年中に学生・病気・失業等で、所得がまったくなかった方〉
学生は、怒ったほうがいい。

江國滋「日本語八ツ当り」(新潮文庫)

8月20日(金) 関門海峡サンセットクルーズ
8月19日(木) 31歳,乙女座で童貞
8月18日(水) 「天動説10号」来たる
8月17日(火) 玉砕ける
8月16日(月) あたかもウォーホルの如き電話生活
8月15日() 夏服を買う
8月14日() 神田川俊郎は汚名を晴らすか
8月13日(金) 冷風機を買う
8月12日(木) セックス障害者たち
8月11日(水) セイシをかけた闘い


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8月20日(金)「関門海峡サンセットクルーズ」

久々にお会いしたS木さんに「くらっさん『ライオンキング』は買いですよ」と力説される。
此処で云う「ライオンキング」は今度ビデオ用に粗製濫造されるアニメのパート2ではなく,劇団四季のミュージカルのこと(尤も,四季だって事業拡大のあおりで大概粗製濫造になっているウワサは聞いている)。S木さんはこの夏休み,大阪に家族4人で「ライオンキング」観劇ツアーに行って来たんだそうだ。「くらっさんは劇団四季は鬼門だそうだけど『ライオンキング』だけは違う,『キャッツ』なんかよりうんと面白い。とにかく買いだから観てください」ととにかく熱い。でも,大阪なんですよね,S木さん(笑)。
勿論,今の処,福岡公演の予定は聞かない。奥さんは観るなら本場で観たいとか云うんだろうなあ。て,事はあと4,5年は「ない」という事だ(わはははは)。

16時15分。早めに会社を引けて,Aさんとともに小倉方面へ。
早引けったって,僕に限った話ではない。この時季,ウチの社の恒例行事であった「夏祭り」が,これまで会場として使用していた空き地が道路用地に持っていかれて,廃止を余儀なくされたので,代替行事として今年は「関門海峡サンセットクルーズ by 関西汽船」になった今日はその当日なのだ。ちなみにずっとこの日を楽しみにしていた奥さんは折りからの絶不調にあえなく断念。「ピザが食べたい」「マクドナルドの半額のチーズバーガーが食べたい」と同じ抑揚で「あたしも乗りたい」といつ果てるとも知れない呪詛を繰り返していた(ごめんな…)。
交通渋滞を逃れ,砂津港前17時受付に間に合わせようと車を急がせたら,あっけなく16時半に現地到着。
家族と落ち合う予定のAさんと別れ,受付終了ぎりぎりまで原宿ラフォーレ小倉で時間を潰す。船に乗って,関門海峡を越える以外なあんのイヴェントも無いと脅かされていたので(事実,無かったのだが)暇潰し用に(て,そんな事を考えるのがそもそも間違っているのだが)U-BOOKSで中村勘一郎他/小田豊二・構成「中村屋三代記 〜小日向の家」(集英社文庫)を買う。

18時過ぎ堂々出航。
元々800人乗り込む予定だった船だけに,確かに広いし,部屋割りなどやっていなかったので,皆好き勝手にしていいのだが,独り者には肩身の狭い船内であった。老若男女,社員の家族が大挙して乗り込んでいるのはいいが,海を見渡せる個室を占拠されている場合,如何に自由とは云え,よそさまの家族の輪には入っていけない。で,気付くと独り者(独身者あり,単なるひとり参加者あり)で,窓もない中央のごろ寝専用の2等客室に集まっていたりして。
で,する事も無いので,独り者連はいきなり弁当に手をつける。
800人の予定が500人に減ってしまって,且つ,色んな船内イヴェント企画もぽしゃったという事で,弁当に負荷価値がついてしまった。何しろ,和紙包装による重箱3段重ね,一人前3000円也である。ほか弁の焼肉弁当5人ぶんである。フォルクスでも結構いい晩餐が楽しめる値段だ。これがガストやジョイフルになると…(もういい!)。と,皆でぼやく程度の無駄な弁当だった訳である。

する事もなくなって,甲板に上がって,I本くん,T田くん,K野くんら独り者連で固まってあとは帰港まで。結構,海を眺めてバカ云ってるだけで時間は持つものである。全社あげての行事だから,なかなか珍しいひととも邂逅出来たし。
帰り着く20時頃にようやく美しい夜景が水平線に散りばめられる。でも,これからって処でお開きになる。今夜23時にまた出航するという事で2時間しか使用許可が降りなかったんだよな。ちなみにレンタル料は150万円。高いんだか安いんだかよく分からないが,花火くらいどーんと打ち上げて欲しかった(この身の程知らず)。

夜,とんくんから電話。
まあ,人にはそれぞれ思惑があるという事で,色々と反省する事しきり。



8月19日(水)「31歳,乙女座で童貞」

宮本輝「ひとたびはポプラに臥す(5)」(講談社)読了。
とうとうパキスタン領へ,フーミンちゃんともお別れの巻。しかし,見事に「草原の椅子」とリンクしているのだな,これが。帯には2000年春最終巻刊行予定とあるけど,地図を見る限りではあと1冊で完結するとはどうしても思えないんだけど。「(5)」なんか,1冊でたかだか3,4日しか進んでいないもんな。最終巻は1.5倍くらいの厚みにはなるんじゃないか。半年間はお利口さんにして待つしかなし。

さすがに今夜こそはレイトショウに行く。奥さんの具合が絶好調とは云わないが,いても何をするでもなくというのがほぼ掴めてきたし。
元々「パラサイト」の予定が,22時ちょっと前の上映に恐れをなして「ウォーターボーイ」を観る。
ま,近いうちに「パラサイト」を観る事になるのだが,最近22時近く開始のプログラムが多すぎやしませんか > AMCなかまさん。

「WWW(ワイルド・ワイルド・ウエスト)」の予告編を初めて観たがなかなか面白そう。
但し,去年の「MIB」も予告はたいそう面白そうだったから,そのへん眉に唾つけなくてはならじ。
でも,敵役は近頃ワーカホリックが売りのケネス・《黒ひげ》・ブラナーだぞ。

さて,「ウォーターボーイ」のお話。
アメリカ南部,ルイジアナ州の大学アメフト・チームで給水係を勤める31歳,乙女座で童貞(バージン*2,というギャグらしい)の冴えない青年ボビー・ブーシュ。ピュアだけど(だから)頭が弱くて,いじめられっ児で強度のマザコンで唯一美味い水つくりだけに生き甲斐を見出していた彼に訪れた無敵のタックルマシーンとしての転機。あとはアメ公おとくいの弱小アメフトチームが彼と共にビクトリーロードを…というひどく分かりやすい展開とカタルシス。て,くさしてるようだけど,根がシンプルなもので実はこういう芸風に非常に弱かったりする。
自作自演(主演,脚本おまけに製作総指揮)のアダム・「ウェディング・シンガー」・サンドラーは「オースティン・パワーズ」のマイク・マイヤーズと同じく,アメリカの人気TV番組サタデー・ナイト・ライブ出身の人気コメディアン。ギャグのネタの大部分は本人のアイデアらしいがさもありなん。
ムツカシイ事なんか何ーんにも考えずに「あー面白かった」というのには最適な邪悪青春コメディである。
僕はひとまず気に入った。ニグロの選手が力まかせにKKKの生首蹴っ飛ばす処とか(をやをや)。

帰宅後,「天動説10号」引渡しの件で,近頃めでたくトランタンを迎えた野坂医師にミッドナイトコール。
最近,1歳下の弟さんの結婚式で会う人ごとに軒並み「妹さんですか?」と訊ねられたそうである。紛れもなく,会う人ごとにである。
もはや,ユダヤの陰謀かもしれない。彼女自身がそう云った。



8月18日(水)「『天動説10号』来たる」

ワガママなユーザーのワガママにさんざん付き合った一日。
皆んなして,大いに怒る。ま,せいぜいそれくらいが関の山なのよ。

東京からようやく「天動説10号」小包が届く。実は待ちかねていた。
実に8年振りのSF研正会誌は,何と瀬戸口くんお手製のカラー表紙に生まれ変わっていた。ストーンヘンジの遺跡を用いたあたりに,瀬戸口くんの正会誌への並々ならぬこだわりが感じられる。きっと突貫作業だったのだろうなあ(心当たりあり)。本が10冊にCD-ROM版が3枚。とりあえず,配布残ぶんについては福岡支部として確保しとけとの事だが,まずは福岡在住部員の皆様にばらまかねば,と思うと気が重い。これは単なる億劫病というヤツなので,きちんと働きます。> 瀬戸口さま。
るりださんには,本版の表紙イラストがほとんど白紙で無きに等しい状態になってしまっているので,本とCD-ROM版のいずれかを選んでもらう必要がありそうだ。あくまでも個人的な嗜好を云えば,僕は旧世代なので紙媒体の呪縛からは逃れられないタイプ。ちなみに電話して訊ねたら,英ちゃんも同様だった。

昨日書いた領域圧迫の件だが,niftyに調べてもらったら,全10M中,現在6.6M程度使用してあるという事で,あと1/3は余裕がある事が分かった。ひとまずは安心である(そう遠くない将来に再燃する問題ではあるが)。奥さんによると,長尾さんがご自分で借りられているsiteを提供してもいいという申し出があったという事で,誠にかたじけない事です。メールじゃなくて日記でお礼を云ってしまうあたりが横着度500カノッサ



8月17日(火)「玉砕ける」

社外研修の合間にシンパシー学院へクリエーター・フォーラム参加申込の電話。
外部参加が少数だからかも知れないが,余りに根掘り葉掘り訊かれるので少しだけ不安になる。こちらの腹づもりとしては単純に無責任な外野としてロサンジェルス映画祭報告を聞きにいくだけなんだが,まさか帰ろうとしたら出口で金子修介が通せんぼするんじゃあるまいな(な訳ねーよッ)。

宮本輝「ひとたびはポプラに臥す(4)」(講談社)読了。
類まれな中国人の雑食文化に触れたあたりから,話はいつか開高健の短編「玉砕ける」に及ぶ。
何百年間も火を絶やしたことの無い西安(シーアン)の大鍋屋の話。大学時代に毎冬をストーブの上にかけた豚汁だけで過ごしたヤツを知っているが,それの拡大版である。即ち,スープが足りなくなったら,水を足し,具が足りなくなったら,肉を野菜を足し,灰汁をとる。ついには初めの豚汁がなくなるのを見届けられぬまま,豚汁は新陳代謝を繰り返し,コクと旨みを称え,いつもと変わらぬ貌で煮立っているという寸法だ。「碗に何が入っているかはそのときの運次第。三百年前の鶏の足かもしれないし、きのうのニンジンかもしれない」
で,輝さんはいつだか西安に行った折りに,現地スタッフにくだんの大鍋屋を探してもらい,その幾星霜を経て尚,西安の人々の胃袋の唸りを静めてきた鍋から盛られたごった煮と対決するのだな。そして「茶褐色の,濃いゴマ油のような」スープをすすり,とても食べきれなかった「毛の生えたクラゲのような」豚の鼻に視線を落とす。「中国4000年」という呪文はどうやらこのあたりに潜んでいるらしい。そりゃ,探せば人参果だって見つかるかもしれん。

今夜はレイトショウで「パラサイト」を観る予定だったが,あんまり奥さんがもがき苦しむので延期する。
尤も,僕が家に居たからってどうなる類の苦しみでもないのだが,つい気の毒で…。
折角なので,奉納落語の画像ネタの最終仕上げをして(素材作りの下ごしらえは昼間奥さんがしておいてくれた),遅れる事10日目にして「平さん」奉納落語レポートを追加する。ひどく重いページになってしまったので,ファンの方には申し訳ないこと限りなし。処で画像ネタがサイトの領域を食いまくっているので,早々に引越し先を探さねばならない。何しろまだ寝かせたままで待機中の画像ネタが笑っちゃうほどある。真打披露パーティーも時期を損ねたし,こないだやっさんの実家から,楽屋スナップを含む各真打披露興行の虎の子の写真もどっさり借りてきてあるので,領域不足は切実な問題である。奥さんによると,今のところASAHI-NETが有望みたいだけど,も少しばかり比較検討が必要か。



8月16日(月)「あたかもウォーホルの如き電話生活」

中学から続く刎頚のポン友・あっちゃんから電話。電話で話すのは1年振りくらいか。
「引越しの挨拶状を書いてたら,とんくんちの住所が分からなくなったから教えてくれ」って後ろで,息子をあやす奥さんの歌声が聞こえてくる。当のとんくんから,彼が長崎方面に転勤辞令が出た件は聞いていた。あっちゃんは元々長崎の諫早出身だし,尚且つ長崎を溺愛していたから,さぞかし満足してるだろうと思いきや,転勤先は平戸で,今まで博多で都市生活を送ってきた身にとっては色々と不便も多いそうだ。近くに寄った際は是非,って紋切りを云われたが,それはまずない(きっぱり)。そのうち「ハウステンボス」に行くから,佐世保まで下って来いと逆にけしかけとく。
あと,早くネットに繋げとも(あっちゃん,パソコンは持ってるんだよ)。
彼とは話したいこと,話さなくちゃならないことが山ほどあるんだが,お互い身重になったもんだ。
そう云やあ,今年は浜省のライヴも一緒に行けなかったけど,もう暫くは叶わないなァ…。

えーいと発奮して,溜まりに溜まっていた懸案の郵便物を片付ける。
山口さん,瀬戸口くん,それに文治師匠。日頃の怠慢が祟って,用意していたお中元が軒並み残暑祝いに貌を変える。
長いもので3ヶ月目にさしかかった宿題も片付け,性質の悪い便秘を治した気分。
夕方,郵便ポストにやっさんからカブトムシ成虫Ver.の絵葉書が届いてた。「平さんがゆく!」の画像ネタも長く棚上げた懸案である。
そー云えば,やっさんも来週あたり誕生日なんだよな…。

夜,英ちゃんに電話をかける。いつもお母さんにはご迷惑かけています。
この土曜のシンパシー学院主催のクリエーター・フォーラム参加のお誘いと,ナイロン100℃のチケット支払いの件,あと「天動説10号」強制購入依頼など。今週末からシネ・リーブル博多駅で連続上映される「ゴタール特集」については「これは毎週通わねば」と決意を新たにする英ちゃんであった。でもきっと3割バッターが関の山だと,僕は此処で自信たっぷりに予言しておく。

此処んところ,ただの備忘録が続く。えーい,構うもんか。



8月15日()「夏服を買う」

終戦記念日。
朝,惰眠を貪っていると瀬戸口くんから電話。何と有明のコミケ会場からだった。
後ろで井上陽水「夢の中へ」をBGMにインフォメーションが流れているのが聞こえる。要件は,刷り上がった会誌のSF研福岡支部送付先(つまりウチなんだが)の最終確認との事だったが,コミケ処女の僕にコミケ会場の喧騒を聞かせてやろうという優しさだったと邪推する。脇に居るというはるさんに替わってもらって,愛ちゃんにメールを出すよう督促する。はるさんと話すのもひょっとして正月以来じゃないか。
当日のコミケ56レポートは瀬戸口くん本人が此処に写真つきで書いてあるので,興味の湧いた方はご覧あれ。

奥さんのつわりは相変わらず絶不調なのだが,盆休みの間じゅう一度も外に出ないのはヤだいヤだいヤだいとあんまり地団太を踏むので,兼ねてより懸案の(そんなんばっかしなのだが)「GRAND-BACK」へ僕の服を買いに出かける。赤と黒のツートーンなポロシャツに黄色い縦縞のカッターシャツ,それに黒のデニムパンツと全く原色な買い物をする。やっぱり晩夏はコントラストくっきりと過ごさねば(意味不明)。

たかだか片道40分程度のドライヴだったのだが,奥さんは帰宅後「マックで食べたポテトに胸焼けした」とかで完膚なきまでにゲロゲロしていた。
いやあ,どんなに爽やかなものを口にしたって胸焼けするのは,もう重々了解しているんだが,やはり,目の前の食べ物には勝てないらしい。
近頃ではうわ言のように「ピザが食べたい」「天麩羅が食べたい」「お寿司が食べたい」「山かけが食べたい」「名チカで赤福氷が食べたい」「でも目の前に置かれたら食べられない」とふせっている。お腹の子が生まれたあかつきには,この日記をよくよく読んで,うんとおかーさんに感謝するように。人生の愉しみの8割は「食」だと云って憚らないおかーさんなのに,食べたいものも食べられずに蒲団の上で七転八倒しているのだよ。この時点,現在進行形で。
いずれにしても,当分遠出は無理なようです。奥さんには可哀想だが仕方がない。

夜,愛ちゃんと電話。
近頃ネット指南ということで,奥さんとはさんざん電話しているようだったが,巧妙に避けられていたらしく僕との会話は久々である。
案の定,長電話になる。…だからか。



8月14日()「神田川俊郎は汚名を晴らすか」

大阪系の朝のワイドショーで,神田川俊郎が衆人監視の中,な,何と前髪を梳いてみせた。
懐からささっとコームを取り出して,どやどやどやどやとばかりに流麗な包丁さばきならぬ櫛さばきで髪型を整える。シザーリーグに出てくるカリスマ美容師だって,こうは思い切った行動に出られないぞ。で,確かにあるんだ,生え際が(つくづく失礼な表現である)。少なくとも露骨なカツラを装着していないことだけは確かだ。神田川さんがカツラだというのは,僕らのうちでは(何処だよ,それ)定説だったので,まさしく驚天動地の映像であった。「本当にカツラじゃなかったんですね」とオドロキの声をあげた渡辺徹の声はそのまま僕らの声でもある。あー,オドロいた。
脇に居た盟友・浅香光代「このひとは髪型が悪いのよ」と援護射撃。
カツラKGBの水道橋博士あたりは見解も気になる処だ。ブラック・リストから,グレー・リストくらいへ格落ちさせるのか(幾ら何でも完全なシロと断定するには早計だよねえ…と,かように一旦抱いた疑念はなかなか払拭し難いものなのだ)。

朝から晩まで福岡に出て,エーガ,エーガ,エーガと計3本。
レイトで観た「富江(98・日)」は,元々犬山行きと重なっていたので諦めていた一本。
瀬戸口くんに「はっきり云って観る価値ない。何であんなものに客が入ったのか」などと釘を刺されてはいたものの,映画が始まってモノの数分で,彼の云わんとする処を思い知る,全くの「オススメできん」映画であった。おそらく菅野美穂をフィーチャーリングした時点でこの映画のダメへの遁走は始まっていた筈である。役者・カンノの起用はともかく,前半は彼女のネームバリューに依存して見世物小屋的に物語を構築してしまった処に,後半は彼女の演技力におんぶでだっこを決め込んだ作劇に致命的な敗因がある。「CURE」ではあれほど佳かった洞口依子も,同じ女医役を演っているにも拘わらずダメ(使い方が下手すぎー)。役者単体で観るとなるほど味わいが際立つ田口トモロヲも,その余りの物語への活かしきれなさに腹立たしさがつのる。そもそも富江の最期,ありゃ何だ。カネがなくたって「ありゃ何だ」とだけははっきり云っておくぞ。傘が貫通してた温水羊一とかね,絵づくりの工夫は随所に観られるんだけど総合的にダメ。頑張ってるんだけどダメ。唯一,体当たり演技をしていたからという訳でもないが,留美という新人の女の子はなかなかの有望株。是非是非もっとまともなキャリアを積んで大成していただきたく切に願う。

最后に「セレブリティ」の変形大判パンフ。
タブロイド紙を意識してこさえた狙いは分かってあげるが,機能性悪すぎ。



8月13日(金)「冷風機を買う」

今日は,サー・アルフレッド・ジョセフ・ヒッチコック,100回目の誕生日。
今年,ヒッチが傘寿の歳に作りかけて未完になった遺作を20分くらいに編集して特別上映するのは,はて何処の映画祭だったか。

黒崎ベストで持ち帰り品の冷風機(サンヨー)を購入(というか冷風機はこれ1台しか置いてなかった)。
毎夜,パソコン部屋で2リットルの汗をかき乍ら日記を更新し,メールを書き,ネットを泳ぐ身としては,とうに我慢の臨界点を振り切っていた。ましてや「平さんがゆく!」の写真素材が溜まったものの手付かずの現状は急を要した。加えて奥さんが妊娠した以上,彼女にとってもパソコン部屋の酷暑はゆゆしき事態である。来年,子供が産まれた後の2000年夏対策もある(さすがに赤ちゃんにはクーラーは使えない)。
残る懸念は,居間のクーラーと,パソコン部屋のパソコン&冷風機を一斉に使うとブレーカーが落ちるのではないかという事だが,ひとまずはよしとするしかあるまい。当分は冷房の在る処,民族大移動在りの生活が続く。

黒崎クエストで,宮本輝「ひとたびはポプラに臥す(5)」(講談社)「マタニティ9月号」
「ひとたびは…(5)」,僕自身は「(4)」を読了していないのだが,奥さんが読破してしまっているので。
「マタニティ9月号」は,妊婦さんがターゲットの雑誌は「たまごくらぶ」を始め何誌かあったが,まだまだ妊婦ビギナーということで「妊娠のトラブル解決大特集」特集の本誌を選んだようだ。僕もあとでパラパラとめくってみたが,これがなかなか面白い。いやあ,僕如きの知らない世界なんて,こんなほんの身近で息を潜めて待ち構えているのだ。

遅い昼食のあと,先週長妹にハウステンボス土産にもらったタンテ・アニー「カース・ケイク」でお茶にする。
タンテ・アニーとは「アニーおばさん」のこと。オランダのミデルブルグに実在したかもしれない,眼鏡をかけたケーキづくりの名人のおばさんアニーが営んでいたケーキ屋の名前もまんま「アニーおばさん」。「カース・ケーク」はホーム・メイドのチーズ・タルト。乾燥剤が入った保存のきくチーズ・ケーキとしては絶品の部類に入るのではないか。とにかく旨い。「アタリ」である。食のすすまない奥さんもこいつだけはばくばくと食った。ゲンキンなものである(笑)。
という訳で,妹さまにはたいへん感謝をしております。ありがとう。



8月12日(木)「セックス障害者たち」

社外研修のツケがたまりにたまって大忙しだった一日。
とても一日でさばける量ではなかったが定時退社(笑),しかも,明日は盆休みをとる。いーや,とる。尤もお盆の犬山行きが無くなったので月曜は出勤する事にしたから,そこで取り返す。て,誰に向かって云い訳してるんだか。

折尾でリッター82.5円のガソリンを入れた後,最寄りの白石書店へ。
岬兄悟:大原まり子編「SFバカ本ペンギン篇」(廣済堂文庫),まさかの文庫化バクシーシ山下「セックス障害者たち」(幻冬舎アウトロー文庫)
文庫の表紙がヘアヌードってのは今迄だったら考えられなかった(今でもあんまり考えられない)。しかもモデルの女の子のあっけらかんとしてること。尤も文庫の表紙になるという手軽さと浸透度を何処迄解っているかと云えばアレなのだが。
実際,永沢光雄「AV女優」(ビレッジセンター)に登場する40余人の女の子たちのスナップの何割かには一冊の本にまとまった時点で(元々はAV専門誌に連載しているインタビュー記事なのだ)モザイクが入った(勿論,彼女たちの意向だけではなく,OKを諾ろうにも消息不明のケースもあっただろう)。最近文庫に降りたようだが,おそらくモザイク顔の女の子が増えたのではないか。モザイクのページは,プライバシーのために変えてある音声を思い浮かべるのがこの本の正しい読み方である。などとほざいてはいるが,僕自身は2年前に買って1/3読んだ処で積ん読行きにしたままである。いつのまにか奥さんの方が読了して「面白かった」と云っているくらいだ。気が付いたら続編の「おんなのこ」が出てしまってるもんな。そー云えば,これも文庫化を予想だにしなかった一冊である。

話がそれた。
バクシーシ山下「セックス障害者たち」(太田出版)はずっと気になる一冊だった。別に高橋源一郎が褒め称えていたからではない(そー云えば,このひとは「AV女優」も絶賛していたのだった)。「セックス障害者たち」の基本コンセプトは,自分の作品のライナーノーツである。メイキング裏話や楽屋話,出演者のエピソードなどを淡々と語っている。云ってみれば,桂平治の「噺の穴」であり,さだまさしの「歌枕」である。問題は,高橋が文庫版の解説で「『遠近法』がない」語る,その語り口の淡々度で,ジャンルAVとも云うべき作品群の内容の熾烈さもその牧歌的口調によって,個々の女優,男優,スタッフたちの駄目人間度,製作現場の間抜け度・莫迦莫迦しさだけをレリーフしていく。彼の文体と(少なくとも本文で語られる)監督としてのスタンスにはエロへの執着や過剰な修飾,タブロイドな惹句が一切ない。これは「AV業界」というバブリィで何処か素面じゃいられない,或る種の後ろめたさのたゆたう世界の,其処の住人からしてみれば,何てことのない「日常雑記」である。僕も含めて,をかしくもかなしきひとびとは何処の世界でも隔てなくヒエラルキーを超えて在る。ただ,此処では「をかしくもかなしき」というフリーキーが意匠として可視化しやすいから,あとはバクシーシ山下みたいな,優れた随筆書きの登場を待つだけだったのだ。

ということで,誰にでも薦められるという本でもないが,薦めとく。
あと,昔立ち読みした,全国の美味いライスカレーを食べ歩きしながら,各地でナンパした素人娘を「ハメ撮り」してくフォト旅行記も,確かバクシーシさんじゃなかったかな。此処でも「をかしくもかなしき」娘たちのいとなみを,「常人の感覚で」冷徹に観察する(て,ちっとも常人じゃないんだけど)彼の目線が秀逸であった。「淡々と」がいつか乾いたドラマチックを構築していくのだ。これはすごい。
バクシーシ山下って,「をかしくもかなしき」のウオッチャーであり,ファーブルなんだな。
夜更けまでかけて読み上げる。



8月11日(水)「セイシをかけた闘い」

フィルターの掃除をしたばかりなのに,昨夜はエアコンが効かなくてもー,と鳴いていたら,さにあらず,昨夜沸かしたお風呂がお湯のままだった。
エアコンがフォロー出来ないくらいの熱帯夜だったのねん。

どーも妊娠と分かった途端に,奥さんのムカムカがひどくなった。
プラシーボでもあるまいに,やはりつわりが重いひとなのだろう。Kさんの奥さんは子供を産むたびにひどいつわりで入院していたというし,此処んところ重いつわりの話ばかり聞いている気がするのだが,これこそ気のせいというヤツか。

「たけしの万物創世期」で,ヒトの受精のメカニズムをやった事がある。
で,僕はその時まで全然知らなかったのだけれど,ヒトの精子には役割分担に応じて3タイプあるらしい。
曰く,「エッグ・ヘッダー」「キラー精子」「ブロッカー」。何だかネーミングを聞くだけでN特「人体」のメカニカル然としたCGが立ちあがってくるではないか。
受精とは,数億から居るチーム全員が一丸となって,遺伝子を後世に伝えるべくゴールを目指す『まさにセイシをかけた』ゲームらしいのである。
まず,「エッグ・ヘッダー」が子宮進入への突破口を開き,すかさず「ブロッカー」が膣の表面をブロックして,他遺伝子を持つ精子チームの追撃をかっちりガードする。仮に鉄壁のガードが破られたとしても,次に控えし「キラー精子」が自らの先端に装備した鋭い針をライバルに突き刺し,化学物質を注入してライバルを粉々に破壊してしまうという穏やかならざるアタック(尤も,通常は女性が不特定多数の男性と間を置かず交接しない限りは「キラー精子」の出番はない訳だ。まさか白血球並みに膣内に進入してきた雑菌を退治まではしてくれないだろう,て,根拠あっての意見ではないので,碩学なひとの解説を待ってます)。で,そんな風に鍔迫り合いをしている間に,チーム中から選抜された「エッグ・ヘッダー」がゴールシュートを決める。一旦卵子に着床してしまえば,もはや他チームの付け入る隙はない。ゲームセットである。
これがまさしく「セイシをかけた」天文学的なチームプレイのあらまし。
「One for The All,All for The one」とはよく云ったもので,たかだかセックスにもその水面下で三国志にもまさるかくも壮大な合戦絵巻が展開しているのである。「頼んで生んでもらった訳じゃない」というレトリックがあるけど,こういうのを聞くと,それは真っ赤な嘘だってよく分かる。受精そのものが既に或る生存競争なのだ。はっきり云って僕らの中には誰ひとりとして「頼んで生まれてこなかった」ヤツなどいやしないのである。

くだんの9mmもそんな思いをして今此処に在るのだから,母体にも,それを全力で受け止めるエネルギーと気概が要るのだよ。
などとうそぶいてみても,奥さんの気が休まる訳でなし。
すまんけれども(長くて)春まで堪えてくれんさい(と何故,此処で広島弁なのだ)。

読売新聞が「実は奉納落語がかくかくしかじかでー」と事情を話したら,何とロハで8月8日付の新聞(勿論,九州ローカル版)を送ってきてくれた。
読売,見直した。読売,えらい。しかも,熱演するやっさんの向こうで,こっそり僕が写っていた。恥ずかちィ



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