あたし

                        喋犬

  あたしは、お化粧するのが好き。お化粧して、神の造形を汚すの。あたしは、神なんて信じていないけど、顔というのは、神の造形だと思っている。あたしがこの顔になったというのは、ただの偶然かもしれないけど、あたしはこの顔と一生、つきあっていくことになるのだから。だから、あたしは、お化粧するのが好きなの。神の造形を汚すのが好きなの。整形した人って、尊敬しちゃう。だって、それは神の造形に対するあがらいだもの。

 上空を戦闘機が爆音を轟かせて飛んでいく。その後に、薄い飛行機雲が美しく伸びていく。

不気味で、美しい身体から排出される排泄物。

 

 あたしは、十才なの。あたしは、十才で殺されたの。だから、いつまで経っても、十才のまま。あたしのママは、あたしが知らない人に殺されたって言っていたわ。知らない人に誘拐されて、殺されたって。でも、あたしは、知っているの。あたしを殺したのは、ママなの。だって、あたしはママ自身だもの。でも、ママは、あたしは、あたしを殺したことを、ママに殺されたことを、認めたくないの。だから、二人でお芝居。あたしもママを愛しているし、ママもあたしを愛しているの。

 

 前方に高架橋が見えた。緑色のペンキがところどころはげ落ちている。白色で文字が書いてあった。それは、数字の羅列で、意味がくみ取れなかった。それを見上げていると、上から音が降ってきた。その音は、周りの空気の粒を揺らし、私の身体の表面に作用した。

 あたしの娘は、いやらしい男に誘拐され、殺されたの。たぶん、首を締めて殺したんだわ。だって、ほら、見える。あたしの手首に傷が付いているでしょう。これは、たぶん、あたしの娘が犯人の手に付けた傷なの。娘の怨念が、あたしの肌に、それと同じ傷を浮き上がらせているのよ。ねえ。ほら。ちゃんと見て。

 

 なめらかな手についたかすかな醜い傷痕。湿った手についた乾いた傷痕。女のような男の手ではなく、女の手についた傷痕。

 

 あたしには、時々、声が聞こえるの。怒った男の人の声で。

 

「お前は誰だ。」

 

 笑っちゃうわよね。あたしはあたし。