広島県中部〜東部の変位地形を
伴うリニアメントについて

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2002年8月 記

 広島県三次市と府中市の間、江の川と芦田川の上流域に拡がる隆起準平原地帯に、これまで報告されていない、変位地形を伴う活断層の可能性のあるリニアメントが集中して分布している事に気付きました。


●リニアメントの特徴



 この付近には「新編・日本の活断層」に、北北東−南南西の御調断層や山内断層などの活断層やリニアメントが記載されており、今回の調査でも同じ方向の多くのリニアメントが検出されましたが、いずれも連続性は悪いものでした。それとは別に、西北西−東南東方向のより連続性の良いリニアメントも複数検出されました。いずれにも、尾根や水系に系統的なズレが明瞭で、北北東−南南西のリニアメントは右ズレを示し、ズレの大きさは明瞭な5箇所の平均で約900m、大きなところでは約1400mに達しています。西北西−東南東のリニアメントは左ズレを示し、ズレの大きさは北北東−南南西系統よりさらに大きく、明瞭な6箇所の平均で約1300m、大きなところでは約1900mに達します。また、北北東−南南西のリニアメントは、東北東側低下の低角衝上と思われる垂直ズレを伴うものがあります(特に南東側の御調断層沿いものが顕著)。西北西−東南東のリニアメントは最も北側のもののみ垂直ズレと思われる地形が見られますが、部分によって落ちのセンスが変化しているようにも見え、確実ではありません。


●地震活動との対比

※使用ソフト:SEIS-PC for Windows(Ver1.24)
 震源データ:気象庁震源データ(1926〜1999)/地震年報1999年

 気象庁データとSEIS-PCを使用して、過去の20km以浅で発生した地震活動と対比しました。まず、1990年1月1日〜1999年12月21日までのM0以上の地震をプロットしたのが左上の図です。これには2000年鳥取県西部地震及び2001年芸予地震の活動が含まれていませんが、この地域の活動状況の特徴に変化はありません。中国地方では、古生代後期〜中生代の付加体のナップの断面が東北東−西南西にほぼ平行して分布しており、その間の断層沿い及び、北縁に分布する大陸断片との間に列状の地震活動帯が分布しています。特に後者の活動は活発で、過去にM7クラスの大規模地震が多く発生しています。また、それと直行する北北西−南南東方向にもクラスタ的な地震活動が発生しており、2000年鳥取県西部地震や1930年・1978年などの三瓶山〜三次を結ぶ線状で発生した群発活動がそれにあたります。北北西−南南東方向活動は東西に伸びる地質区内で収まり、それを超えた活動が発生した記録はありません。今回検出されたリニアメント群は古生代後期の付加体分布域にあり、中国山地脊梁部以北の地震活動とはやや異なった傾向を示します。位置的には、三瓶山〜三次を結ぶ地震活動域の延長上にあたりますが、地震活動は北北東−南南西方向の短い列状の分布が西北西−東南東方向に雁行状にならび、リニアメント群の分布と非常に良い一致を示します。

 次に、1926年以降のM4以上の地震をプロットしたのが左下の図です。この期間において、上記の三瓶山〜三次を結ぶ地震活動域が、1978年の群発地震まで活発な活動を継続していた事がわかります。ところが、その後は活動度が急激に低下し、1990年頃以降はM4以上の地震は全く発生していません。M-T図(右上)及びN-T図(右中)を見ると、その様子がよくわかります。これは、2000年鳥取県西部地震の前兆的な静穏化の可能性もありますが、S-T図(右下)を見ると、鳥取県西部地震の変動域を超えた静穏化であり、現在でもM4以上の活動が復活していない事を含めて考えると、別の原因も考えられます。

※「付加体」が造った大地/伊藤笙(最新・地震学 50億年のダイナミクス,P37,1993,朝日新聞社)より


●重力異常との対比


※2000年鳥取県西部地震震源域の重力異常とそれから見た震源断層の特徴/本多亮・平松良浩・河野芳輝(地震 第2輯.第55巻.第1号,P83,2002.7,地震学会)より一部加工

 中国地方のブーゲー異常の分布は、東北東−西南西に並ぶ付加ナップで構成された地体構造及び付加後に貫入した火山岩体によって複雑な強度分布を示します。深く均一な基盤の連続する北縁の大陸断片は強い正のブーゲー異常を示しますが、付加体の中でも厚い向斜構造を示す舞鶴帯も断続的ながら強い正のブーゲー異常を示します。貫入岩体は均一な構造である事と密度が低い事から一般にフラットな負のブーゲー異常を示します。定常的な地震活動の多くは、正のブーゲー異常の周辺部(急勾配部)で起こっており、フラットな負のブーゲー異常の領域ではほとんど地震活動が見られません。大規模な地震のほとんどは、北縁の大陸断片南側の強い正のブーゲー異常の周辺部で発生していますが、鳥取県西部地震などの北北西−南南東方向の断層が動いた地震は、必ずしも強い正のブーゲー異常との相関はありません。むしろ、貫入岩体の中の弱い正のブーゲー異常領域で発生しているようです。今回の調査で検出されたリニアメントの分布域も、そのような領域であると思われ、特に西北西−東南東のリニアメントの内、北端のものは弱い正のブーゲー異常領域の南側のトレースと良く一致しているのは注目に値します。


●GPS歪み速度との対比

※明治期以降の歪み集中帯/鷺谷威(日本海東縁の活断層と地震テクトニクス,第9章 P142,東海大学出版会)より

 中国地方は、GPSによる地殻変動が観測されるようになって以降については、面積歪み速度(垂直変動と関連)及び最大剪断歪み速度(横ズレ断層と関連)ともに小さい領域に位置しています。中国地方で発生した大規模地震や活断層のズレのセンスはほとんどが横ズレである事から、最大剪断歪み速度の大きな領域の存在が期待されますが、鳥取県西部地震の震源域などは日本国内で最も小さい領域になっています。このような不一致が起こる理由として、GPSで水平剪断歪み速度が小さく観測される領域は上部地殻強度が大きく塑性変形しにくく、歪み速度の大きな領域は強度が小さく塑性変形しやすいのではないかと考えました。同様な広域応力下にあった場合、塑性変形しにくい領域は潜在的な歪みエネルギーが蓄積されている可能性があるのではないでしょうか。この場合、定常的な応力解放は不均質構造の周辺域で微小地震として起こり、大規模地震は下部地殻との境界領域に存在する流体の状態の変化がトリガーとなって、デタッチメントの活動を促すことによって発生するのかもしれません。

 上部地殻の強度に注目した場合、四国下の上部地殻下層には固結度の低い四万十層群相当層が広く分布しており、プレートとのカップリングも強いため塑性変形を強く受けています。そのため沈込み部で最大の歪み速度を示し、北西方向に向かって漸減していく傾向となると思われます。また、上部地殻上層に存在する古生代後期〜中生代中期の付加体のナップは固結度が強く、下層と上層の塑性変形強度の差からその境界部分で定常的に微小地震が発生していると思われます。ナップ間断層が地表面に現れた黒瀬川構造帯のような断層はデタッチメントとは切り離されているために、大規模な地震を起こす可能性は少ないと考えられます。中央構造線より北側の上部地殻下層には、固結度の低い領域はほとんど分布しておらず、中央構造線は下部地殻との間のデタッチメントと連続しているため、南側の上部地殻の塑性変形の影響はほとんど受けないと思われます。

 中国地方のGPS最大剪断歪み速度を良く見ると、今回の調査で検出されたリニアメントの分布域の南端付近では、西北西−東南東方向が「右ズレ」が最大となる方向になっており、しかも中国地方では最も大きな値を示しています。これは、調査の結果検出された変位地形のズレのセンスとは逆になっています。しかし、そのすぐ北側では歪み速度が非常に小さい領域になっており、歪み速度の変化勾配が大きい領域なのかもしれません。

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