谺俳句1


作品


「毬栗」 (相模原) 山本一歩

枝々に散らばる朝日小鳥来る
視線うろうろ赤い羽根つけられて
裏山を素通しにして障子貼る
誰もをらぬこんなに小豆干してゐて
口笛を吹けば広ごる花野かな
懸命といふにはあらずちちろ鳴く
秋風を行く黒猫とその影と
虫すだく電波望遠鏡直下
落葉松の林人過ぎ霧が過ぐ
蜂の子食ふ心構へのなくはなし
縦横に稲架組み何を企むや
冷ややかや朝の畳の踏めば鳴る
色鳥や河原の石の白ければ
鏡中に続いてをりし鵙日和
毬栗の一触即発とも思ふ

「新松子」 (横 浜) 有馬五浪

頑固さのまだまだ青し花梨の実
逢ひに来て大かまきりに迎へらる
いとど跳び引き摺つてゐるもののあり
さびしさに尾を振つてゐる猫じやらし
穴まどひまだ見たきものありにけり
美しき指を立てれば蜻蛉来る
母連れて富士を見てをり秋彼岸
新松子先行き少し見えてきし
母の座に母すはりをり茸飯
人間を黙らせてゐる野分かな

山巓集


「花野」 (盛 岡) 古澤貞夫

水底のやうな夕ぐれ白芙蓉
男郎花過ぎたることは口にせず
生涯の終章つづる花野かな
蛇穴に入りて城垣残りけり
眉描かれこけしの秋思はじまりぬ
花蕎麦やこの間道はマタギ道
冷やかに水音くもる旦暮かな

「秋」 (福 山) 宮澤千恵子

畦道のすつぽり隠れ稲の秋
山門を色なき風とくぐりけり
夕顔の奥の呼鈴押しにけり
秋の灯や部屋に集うてゐてひとり
こともなげに蟷螂の斧掴みをり
トロ箱の窮屈さうな秋刀魚かな
勝ちにゆく赤でありけり唐辛子

「稲の花」 (横 浜) 吉田善一

大いなる空したがへて島は秋
私のいつもの小道稲の花
倒れある稲のそこより稲雀
虫の音のまだ揃はざる机かな
選りに選り二尾の秋刀魚を買ひにけり
鳥威し二階の僕が見えますか
缶珈琲とりだしてゐる秋遍路

「小海線」 (横 浜) 大関 洋

秋冷を運んでゐたる小海線
雨降れば雨に立ちたる案山子かな
引き際を考へてゐる秋の蛇
庭石の大きく座る星月夜
まつすぐに日の落ちてくる赤とんぼ
長老のあとついてゆく茸とり
どの蔓を引いてみようか烏瓜

山間集(抄)


「秋賛ふ」 (横 浜) 大山誠二

無意識に口笛生まれ秋賛ふ
願ひごとせぬ間にひとつ星流れ
お喋りの人も無口となる花火
入口の小さな質屋秋愁ひ
腕に抱く赤子重さう揚花火

「薪神楽」 (花 巻) 川村住子

火の粉飛ぶ薪神楽や夜の秋
釣瓶落し山の稜線輝きて
天高し雲の帯締め早池峰
小鳥来る写経はつねに真直ぐに
星月夜ひろひ集めて七ツ星

「コスモス」  (善通寺) 木村多美子

風船をつれてコスモス畑に入る
寝ころんで猫と見てゐるいわし雲
父さんに肩車され鰯雲
ちらほらと櫻紅葉や護摩火立つ
白波がさざめくごとく蕎麦の花

「秋草」 (横 浜) 小林比奈子

秋草のなべて俯き加減かな
念仏の声の澄みゆく萩の花
山裾に白き風吹く蕎麦の花
薮がらし島に一つの信号機
賑やかに揺れて淋しき花芒

「小鳥来る」  (福 山) 榊原素女

秋晴や心ゆくまで浜にゐて
道づれは波の音なり秋日傘
小鳥来るベンチや遠く波がしら
住職の出で立ちけふは麦藁帽
涼新たなり仏前にある俳誌




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