谺俳句1


作品


「蓑虫」 (相模原) 山本一歩

畑に人残して釣瓶落しかな
見ゆるもの見えぬもの稲架組みしより
稲刈の途中を話込んでをり
柿熟るる地にすれすれといふ高さ
人類の滅びしあとや水澄める
蓑虫に耳をすましてファーブル忌
明日は知らざり啄木鳥の打ちに打つ
木の実掌に転がし少し考へる
瀬の音と野菊と白きベンチかな
遠ざかる船や秋の日まだ残り
迷ひなき朱でありけり吊し柿
洗濯に始つてゐる冬支度
さみしさの残る虫には及ばざる
すれ違ふときマフラーの端が触れ
柱時計鳴つてをりたる寝酒かな

「綿虫」 (横 浜) 有馬五浪

花梨の実みな違ふ顔してをりぬ
迷ふ者ひきつけてゐる鳥兜
木犀につきまとはるる夜なりし
柚子の香を閉じ込めてゐる袋かな
もやもやの大きくなりぬ秋の雲
柿熟るる伸ばして暇な長梯子
漬物の樽洗ひゐる冬支度
冬薔薇奥まつてゐる門構へ
綿虫を追ひし眼の遊びをり
白鳥の雪舞ふごとく降りて来る

山巓集


「赤い羽根」 (横 浜) 渡辺時子

藁塚のほどよき間合ひ保ちをり
ほぐれ初む雲の鱗片冬隣
花芯より萎えて百日草の秋
手アイロンかけつつ畳む秋灯
人形も腹話術師も赤い羽根
青色の瓦斯の炎の芯秋深む
鉛筆の芯を尖らす星月夜

「秋の暮」 (横 浜) 大関 洋

遠富士の上に群れゐて赤とんぼ
ほんたうは芯が強くて秋桜
手から手へ渡るバトンや天高し
一日を雨の匂ひの金木犀
唐辛子風の磨きし赤となり
鶏小屋の上ににはとり秋の暮
本棚の整理も冬の支度かな

「秋惜しむ」 (福 山) 榊原素女

秋草に沈みて海へ向くベンチ
風呂敷を上手につかひ豊の秋
平凡な夢をゆめ見て衣被
横浜にけふもあそんで走り蕎麦
馬車道にジャズの流れて秋深む
富士山に遠慮がちなる秋の雲
遥かなる富士を車窓に秋惜しむ

「からす瓜」 (盛 岡) 古澤貞夫

頬杖のロダン秋声聞きゐたり
蔓引けば提灯吊りのからす瓜
鵙の贄夕日に四肢を張りにけり
破れ蓮の余白に水の冥さかな
まつさきに夕日とびつく烏瓜
牡蠣〓に潮のふくらむ十三夜
紅葉且つ散る岩肌の曼陀羅図

山間集(抄)


「釣瓶落し」  (花 巻) 川村住子

小春日を背負ひて俳誌ひもとけり
けなげにもまだ咲かうとして朝顔
朝顔の最後の蔓を引きにけり
小春日にまぶた重たき午後なりき
目ばたきて釣瓶落しを見て居たり

「穂芒」 (善通寺) 木村多美子

穂芒にいくたびか触れ手折らざる
くわりん熟れその香を庭に放ちゐる
ふる里に近づいてゆく柿の秋
朝霧に羽搏くものの声ほのか
雲に乗り雲を離れて十三夜

「姨捨」  (横 浜) 小林比奈子

姨捨の空に道あり鳥渡る
月の川音に淀みのなかりけり
落ちさうで落ちぬ大きさ今日の月
月光の滴る石に坐りけり
その奥に寺一つある月の道

「綿の実」 (福 山) 作田和子

綿の実のぱつくり割れて空晴れて
張り切つてかかし祭の案山子かな
芋掘るやポンポン船の音の中
秋夕焼鎮守の杜を包みこむ
行く秋の夜汽車の音の遠くより

「ぶだうの郷」  (花 巻) 桜井登美

ぶだう狩食べ放題と云はれても
番犬の子熊に似たるぶだう園
カーナビに道の一筋里の秋
田仕舞の煙の中を幾くぐり
頂に雪の来てゐる岩手山




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