このごろの「谺」


「俳句四季」(20年5月号)

<今月のハイライト・「谺」創刊15周年>

〇「牡丹」 山本一歩

山はいつも胸を張りゐる青嵐
牡丹を見る牡丹の高さにて
蟇石になり損ねたるらし
老鴬の声山風に遅れけり
祭から帰りし水を飲みにけり
竹皮を脱ぎこんなにも日が眩し
章魚干されありし怒りの脚ならむ
万物の呼吸整ふ植田かな
雷の止みたるさみしさは言はず
緑蔭やどかと坐りし石に冷
近寄れば命あやふし夜の百合
いろいろな帽子いづれも夏帽子

〇「谺」60人

雪降つて降つて康治の忌日かな 有馬五浪
登頂の杖をひとまづ雪に刺す 秋山幸子
案内書のとほりに歩く街薄暑 芦田みさを
迷はずに散る山茶花の真白かな 家田あつ子
夢は明日香に翔んでつるりと心太 石井淳子
芝神明め組が仕切る年の市 稲石 実
春浅し富士に敬礼して出掛け 梅津大八
梅雨入りの空が静かに降りてくる 遠藤伸治
百歳の墨蹟確か風薫る 遠藤良子
陽炎が曲げてしまひし母の腰 大関 洋
あたたかや五人も乗れる乳母車 太田敏子
海光のゆたかさに熟れ夏蜜柑 大山誠二
柿たわわ会津白壁しんとして 尾崎せつこ
人影は白山茶花のうしろより 上林松代
木守柿三つ数へて陽の落ちる 川村住子
セーターの保母の両手に抱き取らる 北林隆明
真白なりけり着水の鴨の胸 木村多美子
カーテンをすべり落ちたる冬の蜂 纉c道子
もう誰も入らぬ墓や鳥くもに 小林比奈子
結納と隣合せの雛の間 小松原敦子
公園はわたしの書斎風薫る 榊原素女
教会の十字架浮けり夜の梅 坂本キミ子
手相見の準備整ふ花の昼 作田和子
クラシック育ちの茄子と書かれあり 桜井登美
四温リポストの上に猫眠る 桜田清子
甲斐の山の迫り来る丘桃の花 佐竹茂市郎
石一つのけて植田に水通す 佐藤磯子
黄葉を分けて六十尺の滝 澤川梅の
長靴の二つ並んで日向ぼこ 思案橋紅鳴
白樺の百幹の空今朝の秋 鈴木隆子
もうそこに冬の来てゐる背中かな 隅田晶子
よく揺るる吾妻線や夏終る 関田独鈷
人日や雲中に浮子遊ばせて 高尾峯人
人形の瞳見開く寒さかな 島かづえ
三月やロダン大きく考へる 高山宏和
山寺の樹より岩より秋の声 田中ひろし
蛇ひそむ辺りの辿り易きかな 田村ふみこ
どぶろくに天動説を諾へる 長瀬 雅
いい加減を通して元気寒の晴 似内慶子
質蔵の開かずの窓や燕来る 根岸文夫
明治座のビルののつぺら冬晴るる 蓮見澄男
紙漉にそつと手をのべ子は麻痺児 羽多埜ふじ江
谺して四次元空間花吹雪 平田雄公子
生きるとは声出すことや行々子 古澤貞夫
茶の花や顔見せて母泣かせゐる 堀江野茉莉
吊橋の真ん中滝をまのあたり 増田悦子
山里の目覚めを誘ふ野焼かな 松沢玲子
馬鈴薯の盛上がる葉の上に花 皆川千代子
落葉踏む母の歩みを待ちながら 南 一晃
ばら色の電話ボックス薔薇咲いて 宮澤千恵子
残り菊和尚は留守であられけり 村田弥寸女
南に口開けてゐる巣箱かな 森  新
落款のごとくに椿落ちてをり 森 竹美
春は何色真白なキャンバスに 山本一葉
母の日やかあさん指の絆創膏 山本みよ子
父に似て祭好きなり一の酉 吉川みつ子
水洟をすすらず孫のごとく立つ 吉田善一
葉桜となりし母港に帰り着く 吉見和典
ひかるものばかり商ふクリスマス 和田順子
目借時るるんるるんと時計鳴る 渡辺時子


「俳句四季」(17年5月号)


 「俳句四季」5月号に「平成生まれの注目の結社」として「谺」が採り上げられた。投句者はどう数えなおしても四十数名、まったく淋しい限りだが、掲載された30人の句は決して恥ずかしくない句である。
今後の成長をまさに「注目」したいのだが……。


山本一歩10句

牛の尻押して七月逝かすかな
耳ふたつあればふたつの寒さかな
炎天といふ水色の空があり
水澄むや浸して指の美しき
白鳥の羽ををさめてより大き
梅雨寒や顔に右利き左利き
ひとしきりふるへて独楽の廻り出す
母の日や顔を大きく母を描く
きりぎりす異端の声を発しけり
豊年の笑つてばかりゐる子かな


谺30人

着膨れて電車の中にかしこまる 有馬五浪
番犬に大きパラソル立てて留守 秋山幸子
十一や天守は朝の日をよろひ 芦田みさを
春風がめくる数学ノートかな 家田あつ子
満開の花のむかうにある妖気 石井淳子
大寒の用心の柝を入れにけり 梅津大八
江の島を丸洗ひして夕立去る 大山誠二
神在りといふ無しといふ冬の月 上林松代
大噴水日比谷公会堂自若 久保川輝昭
胸の裡までも映して秋の水 小林比奈子
激論の真ん中に置く西瓜かな 榊原素女
鷺翔つや伊吹の裾の大青田 坂本キミ子
牡蠣すでに売り切れてゐる牡蠣祭 作田和子
喪の家の障子につるし柿の影 桜井登美
大瑠璃や父祖の地汚れなかりけり 隅田晶子
居心地のよき距離夫とほととぎす 妹尾圭子
秒針の音に強弱明易し 高山宏和
語り部の語りほのぼのつくつくし 田中ひろし
花嫁の白でありけり白牡丹 田村ふみこ
昵懇の一病日向ぼこりかな 長瀬 雅
夜は少し息抜き給へ君子蘭 蓮見澄男
亀は万年人は天年暑気払ひ 平田雄公子
怨念のほむらが冥し鶏頭花 古澤貞夫
あの頃のそれからのこと燗熱し 堀江野茉莉
耳成も香具山も深眠りかな 宮澤千恵子
茄子の馬ははは歩いて帰りけり 山口正男
春は何色真白なキャンバスに 山本一葉
二人から始まつてゐる踊かな 吉田善一
枯菊を焚くやしきりに母のこと 和田順子
里祭り山ほどけづる鰹節 渡辺時子


「俳句四季」(17年1月号)


「三寒四温」30句

三寒の四温へ雨となりにけり 山本一歩
手を浸す水やはらかき四温かな 有馬五浪
背伸びして五体膨らむ四温かな 秋山幸子
三寒の雲の寄り合ふ山の肩 芦田みさを
寒晴れや富士の裾野の丸見えに 梅津大八
芳しき四温の雨に出で立てる 家田あつ子
三寒四温五感するどくなりにけり 大山誠二
谺して山の明るき四温かな 上林松代
甍波谷戸向き向きに四温光 久保川輝昭
引出しの小物を整理して四温 小林比奈子
鶏小屋に玉子ころころ四温晴 榊原素女
三寒を凌ぎ四温にくつろぎぬ 坂本キミ子
公園に弾む話や四温晴 作田和子
賜れる四温に家事の捗れる 桜井登美
水際まで魚干してある四温晴 隅田晶子
三寒に父の四温に母のこゑ 妹尾圭子
くくくくと電柱倒れさう四温 高山宏和
小面を漏れゐる息の白さかな 田中ひろし
水音の丸くなりたる四温かな 田村ふみこ
先生のお腹目立てる四温かな 長瀬 雅
街路樹の確かな息吹四温光 蓮見澄男
耳痒くなりて三寒四温かな 平田雄公子
三寒のしんしんと空あるばかり 古澤貞夫
遺されし素焼きの壺や四温光 堀江野茉莉
ふはふはの食パン抱え四温晴 宮澤千恵子
豊作を占ふ氷柱太からず 村田弥寸女
夕朧業平寺のあたりかな 山口正男
雪少なければそれなりの雪だるま 山本一葉
雨戸繰る四温の音を走らせて 吉田善一
三寒に四温に母の機嫌かな 渡辺時子

横浜俳話会報(16年5月1日)


「俳誌紹介」……山本一歩

 「谺」は平成五年五月、同人誌として横浜に産声を上げた。師系、小林康治(石田波郷門)。その康治が平成四年二月三日急逝し、主宰誌「林」は六月に終刊。康治の一周忌を待って、地元横浜から形あるものをと、数名で協議した結果が同人誌「谺」であった。その後、平成十年五月の五周年を期に山本一歩の主宰誌に移行、現在に至っている。
 「谺」の目指す俳句は、もちろん波郷、康治と一貫した伝統俳句である。「切字」は大いに結構、調べを整え、一語一語を大切に詠む。人に感動を伝える、それが俳句の第一義である。
 会員数は約六十名。地元神奈川や東京以外に岩手、京都、福山、香川などに複数の会員が居り、それぞれ地域で活動を行うとともに、定期的に吟行会を行い、東京、神奈川などを含めて交流を深めている。
 雑誌はこの四月号で通巻百三十二号を迎えた。投句欄には「山間集」(同人)と「谺集」(同人・会員)とに別れ、「山間集」の内、優秀な四名については別に「山巓集」を設け、投句全句(七句)を掲載している。読み物としては俳論を中心とした主宰「やまびこ雑記」、有馬五浪副主宰の随筆、平田雄公子の句集鑑賞「我田引句」、梅津大八、宮澤千恵子隔月の「俳句あれこれ」などがある。総ページ数三十九ページであるが、「谺」以外の結社から刺激を受けるべく、総合誌、結社誌、句集等の秀句に多くのページを割いている。
 平成十三年には谺賞を制定し、年間を通じて最も活躍した同人を顕彰することとした。第一回蓮見澄男、第二回吉田善一と地元横浜が続き、第三回となる今年は始めて女性、千葉の芦田みさをが受賞した。
 句集は山本一歩『耳ふたつ』(平成十年十一月刊・俳人協会新人賞受賞)、木村とき江『晩夏の砂』(平成十三年三月刊)の後、十周年を迎えた昨年、妹尾圭子『円相』(四月刊)、田村ふみこ『白梅』(十月刊)、吉田善一『蝉時雨』(平成十六年一月刊)と相次いで出版されている。
 表紙絵は康治同門である大森たけし氏のご好意に甘えている。弱小「谺」にとっては何よりの励みである。




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