谺賞


第8回谺賞 大関 洋


第8回谺賞(平成21年) 大関 洋

<略歴>

昭和十六年五月二十七日 横浜市生れ
昭和六十二年四月 「時」(横浜市瀬谷区発行、小林三青主宰)入会、作句を始める。
平成元年 「時」同人
平成四年 横浜俳話会幹事 
平成十七年四月 「時」退会
平成十八年一月 「谺」入会、十九年同人
俳人協会会員、横浜俳話会幹事長

<受賞20句抄>

「冬の蝿」

冬の蠅午後の予定のなかりけり
放課後の二年二組の兎かな
大くさめ誰かが誉めてゐるらしく
園児らのをらねば寒きすべり台
日本橋京橋銀座日脚伸ぶ
食卓の花瓶水色春を待つ
啓蟄や沓脱ぎ石の角丸く
花の昼寺苑に熊手竹箒
春愁や薬白くてまあるくて
スコップにこつんと石や夏に入る
短夜の枕は高くして眠る
父の日の庭石座りやすきかな
包丁のよく切れ四万六千日
三食をきちんと食べて暑に負けて
阿夫利嶺の上を元気な旱雲
向日葵に発火装置のやうなもの
叶はざる夢は花野にあづけ置く
コントラバスの立つてをりたる夜長かな
穴惑ひとうとう暮れてしまひけり
母逝けばきりもなく降る木の実かな

第7回谺賞 堀江野茉莉


第7回谺賞(平成20年) 堀江野茉莉

<略歴>

 昭和十七年一月一日、広島県に生る。戦争が烈しくなり豪農の長男坊だった父は米の飯が食べられない嫌さで母方の山形県米沢市に疎開。そのまま豪雪の地にて育つ。 故に性格強情・少々偏屈。惚け防止にと、桃木東互氏(故人)に勧められ昭和五十四年「嵯峨野」入会。村山古郷先生に師事。平成六年「谺」入会。俳人協会・横浜俳話会会員。

<受賞20句抄>

「車椅子」

つるの湯の開業時間小六月
豊の秋その真中に小学校
アルバムや母とふたりの夜の炬燵
数へ日のひと日ひと夜を母見舞ふ
初笑ひ初泣き面会日の子等は
初電話犬の一声入れにけり
冴返る鼻の頭といふところ
みなこちら向いて隣家の紅椿
春光や歩道に正座して研師
花も葉も大きく白つめ草であり
渋柿の花といへどもうすみどり
東京に島の数多や炎暑来る
車椅子の業者来てゐる暑さかな
暑中休暇果つ病棟に子を帰し
今朝生れたり秋蝉として鳴けり
金刀比羅座の奈落へ通う秋の風
金刀比羅へ紫苑咲く角曲りけり
忽と消へし瀬戸の島々秋ついり
無花果に舌吸はれたる心地かな
茶の花や顔見せて母泣かせゐる

第6回谺賞 宮澤千恵子


第6回谺賞(平成19年) 宮澤千恵子


<略歴>

昭和二十一年十二月十二日 広島県生れ。
昭和六十三年 「嵯峨野」入会(村沢夏風主宰)。
平成五年 「嵯峨野」若竹集同人。
平成十一年 「嵯峨野」月光集同人。
平成十三年 「谺」入会
平成十四年 「谺」同人。
俳人協会会員。


<受賞20句抄>

「ヒロシマ」

春の灯や千代紙ビー玉絵蝋燭
不機嫌な空を支へて梅の花
春寒やどこかで鳴つてゐるピアノ
ケーキ買ふはずの鶯餅を買ひ
園長先生草餅を捧げ来る
指先よりほぐれし春の愁ひかな
筍を一本提げてよろけたる
間際まで植田の迫る駅舎かな
十薬を殖やし長生きしてをりぬ
そら豆へ伸びる小さき手大きな手
尻餅をつきしところに茗荷の子
噴水を見下ろす美術館ロビー
ささやかな幸や食後の葛桜
八月や「ばくだんがここにおちたん」
八時十五分日傘を閉ぢて祈りけり
箸置の色の空いろ秋気満つ
寺紅葉魚板の喝の字を打てる
法名は圭吟大姉小鳥来る
蕪蒸し宿の女将のよく笑ひ
左義長の火入れを石に座して待つ

第5回谺賞 古澤貞夫


第5回谺賞(平成18年) 古澤貞夫


<略歴>

大正十四年十一月十四日 福島県生れ。
昭和十六年 句作を始め村山古郷に師事。「東炎」後に「べんがら」に入会。「べんがら」廃刊と同時に句作中断。
昭和五十九年 嵯峨野入会(主宰・村山古郷)。
平成四年 嵯峨野同人(十二年退会)。
平成八年谺入会。同九年同人。
俳人協会会員


<受賞20句抄>

「冬薔薇」

縄文のいろに夕野火立ちあがる
犬ふぐり陽のあるうちは花殖やす
産土の鳥居の見ゆる春田かな
はくれんの一片くづる怒涛音
なめらかに貝の道ある日永かな
葱坊主うしろの正面誰もゐず
駆け出してより春風に包まるる
花茄子の紺天変にかかはらず
緑蔭の一塊として牛寝まる
夕顔や闇いちまいのうす衣
磯馴れの松の屈曲月涼し
夕焼けのわけても子安地蔵尊
光陰のすなはち桐の一葉かな
山畑に誰か火を焚く秋の暮
絵硝子のイエズス鵙の鋭声かな
石垣の石のふぞろひ草紅葉
蜜々と雲の圧しくる寒暮かな
枯菊を焚き誰からも遠くゐる
身のうちに幾つもの崖寒燈下
冬薔薇いま黙契の耐えどころ

第4回谺賞 渡辺時子


第4回谺賞(平成17年) 渡辺時子

<略歴>

昭和14年12月23日 愛知県生れ。
平成5年 「木馬」入会(主宰・藤田三平)。
平成8年 「木馬同人」
平成10年 「ランブル」入会(主宰・上田日差子)。
平成12年 「谺」入会。 同時に「ランブル」退会。
平成13年 「谺」同人。
俳人協会会員。横浜俳話会会員。

<受賞20句抄>

「風鈴」

赤福を食べて年賀の集ひかな
春宵や母と分ちし碗の粥
言葉無き母を看取るも春立つ日
老幹に梅咲きそろふ気魄かな
草萌ゆるかな高らかに管楽器
小手毬の一枝を活け書見の間
和太鼓の乱れ打ちなどして花見
鴟尾眩し栴檀若葉なほ眩し
緑さす大歩危小歩危見て車窓
風鈴のまだ意にそはぬ五月かな
灯すごと三つ四つ花の糸瓜棚
この音はしだれやなぎぞ遠花火
黒姫山はやさしき容秋ざくら
もうコロン造らぬ糸瓜育てをり
里祭り山ほどけづる鰹節
桔梗の蕾をはじき所在なし
月山の頂き白し野紺菊
数へ日の一日予定のなかりけり
雪を恋ひ雪を疎んじゐて母郷
鎌倉や寒念仏に三度遇ふ

第3回谺賞 芦田みさを


第3回谺賞(平成16年) 芦田みさを

<略歴>

昭和18年6月1日、福岡県生れ。
昭和54年12月「嵯峨野」(高桑義生主宰)に入会。
平成2年1月「嵯峨野」若竹集同人。
平成5年1月「嵯峨野」月光集同人。
平成8年8月「谺」に入会。
平成13年4月「谺」同人。
俳人協会会員。

<受賞20句抄>

「水葵」

桜餅秘密もらしてしまひけり
鏡台の小抽出より種袋
花冷えの一日大事に使ひをり
留守電の声明るしや桜草
一村の星の出誘ふ田の蛙
はや絡む濁世の風や菊の苗
案内書のとほりに歩く街薄暑
柿若葉江の電大きく曲りけり
月涼し耳をそばだて鬼瓦
神々の私語かも風のお花畑
竹煮草迷はず男坂を行く
泣きさうな空を支へて水葵
走り蕎麦師を失ひし月日ふと
どこからとなく秋の野となりしかな
潮騒を共に束ねて今年藁
赤とんぼ山は暮色の影正し
鵙鳴くやふと動きたる仁王の眼
毛糸編む夜の雨音に心寄せ
帰り花降つてはすぐに晴るる谷戸
禁煙席分かつやポインセチアの緋

第2回谺賞 吉田善一


第2回谺賞(平成15年) 吉田善一

<略歴>

昭和12年高知県生れ。神奈川県在住。
平成4年3月 「嵯峨野」(主宰・村沢夏風、師系・石田波郷)に入会。
同12年同人(主宰死去に伴い同年十二月退会)。
平成10年1月 「谺」入会。同年同人。
俳人協会会員、横浜俳話会会員。

<受賞20句抄>

「自然薯」

むざうさにして雑炊を等分に
水鳴つてゐる薄氷のそこかしこ
前足を放りあげなどして仔馬
春の夢誰かが幹にかくれゐる
遍路ひた歩く岬の風の中
刻かけて父の背流す花の昼
ゴールデンウイーク骨董屋をのぞく
帰国いま主翼の先に五月富士
甚平や脛に幼きころの傷
からからと振つて思案のラムネ玉
出航の時刻となりし夜涼かな
五つある帽子の一つ秋はじめ
踊見の後ろに立てる消防士
小鳥来る河原の石の白ければ
人生まだまだ自然薯を堀りつづく
結局は髭落しけり文化の日
ゆるやかに朝のはじまる冬菜畑
枯萩を焚きをり父を守りてをり
五人目の孫はよく泣く竜の玉
玉子酒人間みんな旅をする

第1回谺賞 蓮見澄男


第1回谺賞(平成14年) 蓮見澄男

<略歴>

昭和9年 埼玉県生れ。
昭和63年9月 「木馬」(主宰・藤田三平、師系・秋桜子・山口草堂)に入会。
平成3年10月 「木馬」同人(11年8月まで)。
同11年3月 「谺」に入会。
同12年4月 「谺」同人。
俳人協会会員、横浜俳話会会員。

<受賞20句抄>

「子蛙」

丹沢の今朝また白し柳の芽
塔の上に夕日とどまる彼岸寺
かりそめの百円眼鏡萬愚節
玄白の墓へ子蛙踏まぬやう
鶏鳴の一つの長し麦の秋
水芭蕉群れて揃はぬ苞の向き
満々と水飄々と夏やなぎ
里山の暮れて祭りの笛澄めり
百態の河童親しき施餓鬼寺
家ぬちのどこか虫鳴く妻の留守
年寄と幼なと風船かづらかな
硯箱あつて用なし文化の日
秋日和猫日和ともいふべしや
墓一つ尋ねあぐねて紅葉濃し
閑職となりセーターの少し派手
小春日のほか何も無き誕生日
百尺の佛見てきし青木の実
菜園の瑞瑞しさといふ淑気
放ち鶏ひよんなところに寒卵
明治座のビルののつぺら冬晴るる

谺賞について


 「谺賞」は前年一月から十二月の間に、山間集において最も優秀な成績を収めた同人に贈られる賞で、毎年5月号誌上において発表される。




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