山本一歩の俳句


一歩略歴


昭和28年11月28日 岩手県生れ。
昭和48年12月 職場の句会「水引」に参加俳句をはじめる。
昭和52年2月 「泉」「嵯峨野」寒雷」に参加。小林康治に師事。
昭和55年5月 康治「林」創刊に同人参加。
昭和63年12月 句集『一葉』刊。
平成4年6月 康治逝去(2月3日)により「林」終刊。
平成5年5月 「林」の有志とともに「谺」創刊。
平成8年6月 作品「指」により第42回角川俳句賞受賞。
平成10年5月 「谺」主宰。
平成10年11月 句集『耳ふたつ』刊。
平成12年2月 句集『耳ふたつ』により第23回俳人協会新人賞受賞。
平成18年4月 句集『一楽』刊。
現在、「谺」主宰。俳人協会会員、横浜俳話会副会長、日本文藝家協会会員。

『一葉』抄


七月の騎馬警官に蝶来たる
四五人が別れしぐるるバス通り
真白な釦を拾ふ二月かな
乾ききつたる俎に天道虫
太宰の忌酌めば雨降る習ひかな
馬肥ゆる鍛冶はむかしの音放ち
窓開けて無月の風を通しけり
函館の零番乗場花吹雪
川鴉梅雨のつばさを使ひをり
セーターに首を通していきいきす
熱帯魚見てゐる下駄の男かな
篝火に雨の見え来る酉の市
山栗のまだ青空に執着す
一掴み雪を入れたる初湯かな
大試験東京雪となりにけり
一枚の青田の青の色違ふ
酢牡蠣食ふおのれの舌のごときもの
牛の尻押して七月逝かすかな
北窓を開きて息をたしかむる
ひとつ叩きて入学の吾子の尻

(昭和63年12月12日 牧羊社刊 1,000円)

『耳ふたつ』抄


てのひらに出して大きな枇杷の種
松過ぎの箒あらあらしく使ふ
空落ちて来るやうな雨枇杷熟るる
風鈴の蛇笏の音を吊りにけり
空軽くなりしと思ふ沢桔梗
耳ふたつあればふたつの寒さかな
雪道へ出るための雪掻きにけり
畦道のどこもやはらか祭笛
枇杷の種枇杷の形をしてをりぬ
大き石に大き影ある端午かな
炎天といふ水色の空があり
茸山父の匂ひのしてをりぬ
水澄むや浸して指の美しき
ゐのこづち父の背中に移しけり
坂道の木の実転がり始めけり
鉛筆を置けば転がる師走かな
数へ日の日の当りゐる机かな
整然と歌留多を並べ姉を呼ぶ
大寒や外して重き腕時計
白鳥の羽ををさめてより大き
かたつむり少し大きな葉に戻す
吊革を握る十一月あたたか
咳一つ二つ両手よりはみ出す
卒業の日の靴揃へられてあり
鳥雲に母の誕生日でありし
紫陽花を力いつぱい見て清し
ふつくらの穴子を食べて出れば雨
向う側からも金魚を覗きゐる
がちやがちやや勝手口から母が来て
まだ売れぬ南瓜が楽しさうに待つ

(平成10年11月1日 谺発行所刊 1,500円)

『一楽』抄


ときめいてゐる薄氷に触れし指
梅雨寒や顔に右利き左利き
地下道を首より出づる炎暑かな
道灼けてしまふぞ誰か通らねば
みな秋の顔をしてゐる仏かな
たんぽぽの絮毛飛ばさぬやうに折る
担任の先生の夏帽子かな
丁寧に拭く稲妻を見し眼鏡
木の実落ちし辺りどきどきしてをりぬ
ひとしきりふるへて独楽の廻り出す
新しき橋のかかりて稲の花
母の日や口を大きく母を描く
炎昼のシーツに燃ゆるやうな影
きりぎりす異端の声を発しけり
たそがれの色白鳥に及びけり
福耳に少し足らざる耳の秋
枯野そろそろ枯山となる辺り
思ひ出し笑ひなりけり初笑
大石と小石と孕雀かな
まだ時の流れに乗れぬ仔猫かな
亀鳴くといふどの亀のことならむ
浴槽に余る菖蒲を買ひにけり
ダムの水万緑へ解き放たるる
みなうしろ姿でありし稲光
出勤簿押すオーバーをまだ脱がず
埋火の一夜を経たる声ならむ
花衣は恋の衣ぞ脱ぎ捨てむ
ハンカチの真赤をさり気なく使ふ
ぱせりぱせりぱせり線香花火かな
じやんけんに勝つて胡桃を貰ひたる

(平成18年4月3日 文学の森 2800円)




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