明治座のビルののつぺら冬晴るる餌台に大鳥小鳥日脚伸ぶ浜日和ひとつ穴より蟹ふたつ行者にも似て炎天の亀ひとつジーンズの穴へ台風一過の陽法螺の音を滝が掻き消す滝開き北窓閉づ来し方隠すには非ず
たつぷりとある短日のいとまかなひねもすをラジオかけおく室の花家中の時計を正す入り彼岸吊橋のどこにもふれず夏の蝶サングラスかけて大きな袋かな沢水のぞつこんうまし濃山吹帆船のいま帆が上る端午かなあづかりし鈴虫五泊六日かな
若草のはや川風に意に添へり独活の香の拡がつてきし忌の厨花ざくろ夕日重ねし色ならむ凌霄花の火照りをさます夜の雨人肌のぬくみありけり稲架の径冬座敷まづは忌明けの風通す
包丁を当つる決心大海鼠買物のメモに胃ぐすり花曇ハンカチを折目正しく旅に出んパセリ摘む朝のオムレツ焼き上げてあの人も猫背寒夜をすれ違ふ大寒の真正直といふ寒さ
遣水の潺々と寒明にけり喨々と満月のぼる松の花三伏の闇に水音かよひけり虹消えて無聊の顔にもどりたる貞任の柵寒禽の声尖る凩の木となり星を咲かせたる
冬桜ひそかに期すること胸にばら色の電話ボックス薔薇咲いてふぞろひの貝の箸置祭笛秋麗やけりへとにほと眼の検査割烹着きて左義長の酒を受くさざんくわの散る山茶花に触れて散る