菅野奈都子 Natsuko Sugano 2008

6月 / 風を連ねて
耳打ちをされて真紅の薔薇香る
泥んこの帽子も靴も夕焼けぬ
明易しグラスに残る紅の跡
鈴蘭の香る新婦の手紙かな
ふるさとの風を連ねて鯉のぼり

5月 / 八十八夜
みどりなるもの総立ちに穀雨かな
若夏や応援団長胸を反り
修司忌のたはむれに吸ふメンソール
春愁ひバニラエッセンスの小瓶
八十八夜堰越えし水の音

4月 / 花の冷
帯解いてくれなゐ匂ふはうれん草
転勤の辞令一枚春疾風
片恋や茹で過ぎてゐるアスパラガス
函入のフランス人形花の冷
万愚節舐めて封する遺言状

3月 / 花のごとく
校長のポケットチーフホワイトデー
桜餅ひとつ置かれて母の留守
西行忌花のごとくに雲湧けり
薄氷ひとさし指で弾くピアノ
黒板に余す落書卒業す

2月 / 光一条
クリオネの生まれて海のすきとほる
縄跳の大波跳んで寒の晴
雲間より光一条久女の忌
音立てて刻む青菜や寒明くる
クリオネのくれなゐ透けて夜の底

1月 / 乗車券
かたはらの小さき寝息去年今年
海山の恵みに雑煮祝ひけり
団欒の膝から膝へ春着の子
芭蕉忌の果てて一日乗車券
梵鐘をひとつ鳴らして山眠る