降矢とも子 Tomoko Furuya 2008

7月 / 虎
襖絵の虎梅雨闇のその奥に
傘乾くひまなき旅路花菖蒲
青田川ふたたび青田街に入る
石垣に添ひし滴り寺の町
髪かきあげてコパトーン香らする

6月 / それぞれの空
筍の明日には竹となりぬべし
花菖蒲ひとりづつゆく橋の幅
袋掛それぞれの空仰ぎつつ
鈴蘭のかばひ合ひたるごと揺るる
ほとぼりの冷めガスパッチョ食べごろに

5月 / 春の暮
ごみ箱に丸めし葉書昭和の日
ステッキの歩みに蝶の生れにけり
修司忌の川面に投げる石礫
豆腐屋の半分閉ぢし春の暮
母の日の母はやばやと送り出す

4月 / 春の土手
アスパラガス少年の夢折れやすし
お彼岸の坂会釈して名を知らず
しやぼん玉くるりと空を裏返す
無造作といふは楽しき春の土手
浪人を決めて大河のほとりかな

3月 / 屋上
ものの芽や堤防に犬遊ばせて
云ふほどの苦労は見えず桜餅
卒業のポケットにあるハーモニカ
風船の遅れて角を曲がりけり
屋上に並ぶ三人ホワイトデー

2月 / 梅の香
受験子であるらしパンをひとかぢり
寒明のミルクの滴はねにけり
立春の四方に散りし銅鑼の音
膝抱けば悲恋の心地室の花
梅の香の生れては風となりにけり

1月 / 暦売
マスクして犬の利口を誉めてをり
オルガンの奏でる霊歌雪催
雑踏の中の陽だまり暦売
去年今年時計に小人隠れたる
振る舞ひの酒や雑煮や国自慢