真性粘菌のページ

−宇宙生物? 巨大アメーバ−

1992年3月版

目   次            ページ

1.真性粘菌・紹介編

2.入手・培養方法

4.実験・観察の方法

5.教師のための基礎知識



1.真性粘菌って何?

 真性粘菌は、「…菌」とつくので、菌類(カビ
の仲間)のようですが、カビにはない、ヘンな性
質がいろいろあります。
 ある科学者は、「これは最初、他の星からこの
地球に、落ちてきた、動植物の原型ではないかと
思った。」と言っています。誕生したばかりの、
まだ生物のいない地球に、この真性粘菌が落ちて
来て、いま地球にいる動物や植物が進化してきたのかも知れないと思ったのです。というのは、この生物、動物と植物の両方の性質をもっているのです!

(1).動き回るカビ?−変形するから変形体−

「カビが動く」なんて、信じられますか?
 真性粘菌は、森の枯れ木や枯れ葉の中に住んで
います。そこで、細菌などの有機物を食べていま
す。成長しつつある真性粘菌は、形が大きくなる
ばかりでなく、形を変えて移動します。と言って
も、1時間に数pですが…。そのため、この時期
の真性粘菌を、「変形体」と言います。

(2).多核の巨大アメーバ!

変形体は、細胞壁のない、たった1個の細胞です。成
長にとともに、核は何回も分裂して増えますが、細胞分
裂は1度もしません。その結果、手のひらほどの変形体
が、何億という核を持った超巨大な1個の細胞というこ
とになります。まさに、巨大なアメーバなのです!

(3).植物なのか、動物なのか?単細胞か、多細胞か?

 ここまで読んだ人は、「真性粘菌って動物なのか!」と思ったでしょう。ところが、光をきらい、湿ったところに向かっていた変形体は、成熟すると正反対の行動をとるようになります。より明るく、乾いた所へ向かって行き、そこでキノコやカビのような胞子のう(胞子の袋)を作ります。これを「子実体」といい、胞子をばらまいて、仲間をふやします。このような点は、真性粘菌が植物であることを示しています。 さて、真性粘菌は、植物なのでしょうか、動物なのでしょうか?
 また、子実体は当然、多細胞生物です。変形体は巨大な単細
胞生物です。このように、真性粘菌は、単細胞生物の変形体の
時期と、多細胞生物の子実体の時期を両方もっている「ヘンな
生き物」なのです。

(4).真性粘菌が赤ちゃんをつくる

 真性粘菌の胞子が発芽すると、水が多い時は精子のようなベン毛をもった細胞が生じ、少ない時はアメーバ状態の細胞が生まれてきます。この2つ状態は、水の量によって、簡単に変身します。これは人の場合の精子や卵に当たります。
 これらの細胞は、細菌などを食べ、分裂して増えます。こんな細胞にも、(外見では区別できませんが)オスとメスがあります。オスとメスの細胞は接合し、アメーバ状態の接合体となります。これが、人の場合の受精卵に当たります。
 この接合体のアメーバは、エサを食べながら成長を続けます。そして、核分裂をしたり、くっいたり(接合)をくり返し、大きな変形体になります。

(5).水が不足すると冬眠する−菌核に変身−

 生物は、水がないと生きて行けません。細胞壁のない変形体は、水分がなくなると、すぐに乾燥してしまいます。そこで、まわりが乾燥してくると、変形体の内部に、たくさんの仕切りができ、多細胞の状態になっていきます。やがて、個々の細胞は、まわりにかたいカラを持ち、その中で冬眠します。このかたまりを、「菌核」と言い、1年以上も寿命があります。そして、水を与えれば、また変形体にもどります。



2.入手方法

 フィザルムの変形体は、乾燥させると簡単に菌核という休眠状態になり、1年以上生きています。保存にはこの方法が便利で、多くの研究機関からも、この形で分けてもらえます。野外で見つけるのは、大変です。

3.培養方法

 培養は、すごく簡単です!滅菌も必要ありませんし、水も水道水でOK。季節は、春や秋が適しています。9〜11月が変形体の発育が最も盛んで、次が3〜5月です。25℃以上の高温が続く夏季や、15℃以下の低温が続く冬期は、定温器を使っても発育が良くありません。また、エサとしては、クェーカー社製・雪印乳業販売の「クェーカー・オーツ」という、オートミールを使います。また、漂白剤を使ってないものなら、ソバ粉やパン粉などでもエサになります。 変形体に明るい光は厳禁です!!1時間以上当てると、子実体になります。

(1).大量培養法

 簡単に、しかも大量にほしい場合は、この方法が便利です。用意するものは、菌核、15.5l程度の青いポリバケツ、白いペーパータオル、オートミールです。
 @.ポリバケツとフタの内側を、70%アルコールで消毒し、水で洗い流します。
 A.この中に、右の図のようにペーハータオルを入
  れ、底と側面に静かに水道水を流し込んで、はり
  つけます。この時、ペーパータオルは全体をぬら
  し、ポリパケツの内側の壁との間に、すき間がで
  きないようにして下さい。
 B.水が、ポリバケツの底のデコボコ面に、少し残
  る程度に入れておきます。底に変形体か菌核を置
  いて、餌としてオートミールを数粒まいておきま
  す。フタをして、暗い所へ置きます。はじめはエ
  サに集まりますが、やがて、それをさけるように動き回ります。
 C.室温にもよりますが、1日程度で側面をはい上がろうとしてきますので、
  そのつどオートミールを底にまくと、そこに集まってきます。まき忘れると、
  そのまま、フタまで、上がってきてしまいます。気をつけて下さい。
 D.これを4〜5日くりかえして培養します。オートミールの量は変形体の大
  きさに応じて、増やして下さい。しかし、多すぎると、カビなどが生えやす
  くなります。また、食べ残したエサは、もう食べません。
 E.側面を登ってくる変形体の、厚くなっている所をペーパータオルごと切り
  取り、実験に使います。底にいるものには、他の微生物がくっついています。
 F.1週間以上培養を続けると、環境条件が悪化するためか、エサをやっても、フタまで、
  はい上がってき ま す。その前に変形体を取り出し、また@から培養を始めて下さい。
 G.保存する場合は、ペーパータオル全体を、ポリバケツから取り出し、不用の新聞紙の
  上などに置いてくだ さい。これを、例えば部屋のすみなど、薄暗い所で自然乾燥すると、
  2〜3日で菌核になります。この時、明  る い光が当ると、子実体になってしまいます。
 H.これを乾燥した所に保存します。
 *1.月曜日に培養を始め、金曜日の放課後、取り出しておくと、翌週の月曜日には菌核を
  つくっています。 この状態で1年以上保存できます。
 *2.寒い時期には、このサイクルもゆっくりになります。

(2).大形シャーレによる培養法

 「大量培養法」は、簡単で、便利な方法ですが定温器には、入りません。そこで、冬の寒い時期などには、この方法で、定温器などに入れて、培養してください。成長は遅いですが、年間を通して培養できます。
 次の物を用意します。12〜15cm径のシャーレ(洗面器、写真用バットなどでも代用できます。その場合は、アルミホイルなどで、フタをします。)、9cm径のシャーレ、9cm径のろ紙、菌核、オートミール。
 @.大きいシャーレの中に5〜10mmの深さに水を入れ、9cm径のシャーレのふたか身を伏せ
  て入れます。
 A.水でしめらせたろ紙をのせ、水とろ紙の間を、長方形に細長く切ったろ紙でつなぎ、底
  の水が上のろ紙に上っていくようにします。
 B.ろ紙の中央に変形体か菌核を置き、ふたをします。暗い所で20〜25℃に保温します。変
  形体の場合は1時間くらいでろ紙の上に広がりますが、菌核では、半日から1日くらいか
  かります。
 C.変形体が広がったら、オーミールを何粒かろ紙の上にまきます。また、古いろ紙は取り
  のぞきます。
 D.1週間くらいで、新しい培地に移し変えます。変形体の先端の厚くなっている部分を、
  ろ紙のまま1〜4cmぐらいに切り取り、新しい培地の中央にのせ、広がりぐあいを見て、
  オートミールをまいてやります。
 *.保存の方法は、(1)と同じです。

(3).寒天シャーレによる培養法

 大型シャーレを使います。ちょっと面倒ですが、そのまま顕微鏡で観察できて便利です。また定温器などに入れて、年間を通して培養できます。 次の物を用意します。12〜15cm径のシャーレ(洗面器、写真用バットなどでも代用できます。その場合は、アルミホイルなどで、フタをします。)、寒天、菌核、オートミール。
 @.2%の寒天の水溶液を作り、加熱して溶かします。ツブツブが見えなくな
  ったら、火か下ろします。
 A.これを大型シャーレに5〜10mm程度流し込み、冷やします。
 B.冷えて固まったら、変形体か菌核を置き、ふたをします。暗い所で25℃程
  度で保存します。
 C.オートミールをまいて、水で湿らせます。変形体の場合は1時間くらいで
  オートミールに集まりますが、菌核では、半日から1日くらいかかります。
 D.1週間くらいで、新しい培地に移し変えます。寒天ごと2p角程度に切り
  取り、移します。1日後、古い寒天を取り除きます。
 *.寒天水溶液は100ml程度の量で十分です。
 *.保存の方法は、(1)と同じです。寒天をそのまま新聞紙の上などにおき、
  暗い所で乾燥させます。

4.実験・観察の方法

 観察には、「寒天シャーレ」が必要です。用意するものは、ビーカーと9cm径のシャーレ数個、寒天、加熱用具一式(ガスバーナー、三脚、石綿金網。ただし、電子レンジがあると便利。)です。
 ビーカーに水を入れ、1.5%の寒天を加えて加熱します。寒天のツブツブが溶けて見えなくなったら、シャーレに流し込んで、冷えるのを待ちます。例えば 200ccの水に3gの寒天で、8枚くらいできます。

(1).変形体の原形質流動−ゾル・ゲル転換−

 変形体は、どうやって移動するのでしょう?目で見ただけでは、わかりません。
顕微鏡で見ると細胞の中身(原形質)が流れている様子が観察できます。
 @.寒天シャーレをつくります。
 A.変形体をペーパータオル(ろ紙)のまま、切り取り、シャーレの中央に置きます。
 B.1時間程度で、薄く広がったところ(ペーパータオルからはみ出したところ)を顕微鏡で観察します。
 C.シャーレのフタを開けず、さかさまにして、ステージにのせ、 100倍程度の倍率で行います。
 D.枝分かれした網状の構造が見られます。網が管になっていて、内部をたくさんの粒子が流動しています。
 *1.この流動には規則性があり、往復運動をしています。この周期は何秒くらいでしょう?また、隣りの
  通路では、流動の方向は、同じでしょうか?
 *2.管の部分も、流れている部分も同じ原形質です。管の場所の、わりと固体っぽい部分を「ゲル」、
   流れている液体部分を「ゾル」といい、この2つの状態は、簡単に
   変化します。ためしに、管の部分を棒などで切ってみて
   ください。ゾルが流れ出て来ますが、すぐにゲルに変化
   します。これを「ゾル・ゲル転換」と言い、アメーバ運
   動にともなって起こります。しかも、この流動の原動力
   は、私達の筋肉の収縮と同じしくみで生じるのです。こ
   れについて、もっと知りたい人は、参考文献(3)を読ん
   で下さい。

(2).走性

 走性という言葉を知っていますか? 生物が、刺激に対して、その刺激の方向に進んだり(正の走性)、刺激源と反対側に進んだり(負の走性)することをいいます。変形体は、エサがなければ、上に登ろうとします。これは、重力(地球)と反対の方向に進むので、負の走地性と言います。
 @.(1).のシャーレ半分を黒い紙でおおい、明るい方に行くか、暗い方に行くかで、
  走光性を調べることができます。1日おくと結果がわかります。栄養状
  態によって、走光性も変化します。
 A.数%のNaOHやHClをろ紙にひたし,(1)のシャーレの寒天上に置いて、
  調べてみます。化学物資に対する走性を走化性と言います。このとき、
  変形体とろ紙の間は、できるだけ離して下さい。4cm以上あれば良いでしょう。
  この実験を行う時には、光条件を除くため、シ
  ャーレ全体をアルミはくや黒い紙でおおうか、真
  っ暗な場所に置いて下さい。
   また、ブドウ糖、ショ糖などでも調べてみると
  おもしろいです。濃度は、0.5M程度が良いです。
 

(3).子実体の形成

 変形体は成長し、光をあびると、胞子を作るための
子実体に変身します。
 @.充分成長した変形体を、前日あたりから餌を与
  えないで飢餓状態(腹ペコの状態)にしておきま
  す。
 A.変形体をペーパータオル(ろ紙)ごと切り取っ
  て、寒天シャーレにのせ、明るい光(直射日光はさける)を当てておきます。
  光源は螢光灯でもよいです。フタはやや開けぎみにします。
 B.3〜4日で、5mm程度の黒っぽい子実体を形成します。
 *1.子実体形成には光だけでなく、温度や湿度も関係してきます。温度は少
   し低めに、湿度は乾燥気味が良いでしょう。条件によっては、菌核になっ
   てしまいます。
 *2.変形体の黄色がいくらか濃くなったら(だいだい色に近い色)、次の朝
   には子実体になっています。
 *3.確実に、子実体をほしいときは、1週間程度培養を続けた容器を明るい
   場所に出して、ポリバケツはフタを開けて、培養を続けてみて下さい。
 *4.子実体は、湿っているときは、図のようになってますが、乾燥すると、
   紙にはりついて、黒いシミのようになってしまいます。

(4).胞子の発芽・ベン毛を持つ細胞・アメーバ状態の観察

 胞子を発芽させてみましょう。胞子のカラをやぶって出てくるのは、どんな生き物でしょう?
 用意するもの:胞子、時計皿、ガラス棒、蒸留水、スポイト、顕微鏡。
 @.(3)の方法で子実体を得ます。
 A.時計皿に、1〜2mlの蒸留水、胞子のかたまりを入
  れ、ガラス棒(先を丸めたもの)などでつぶします。
 B.これを寒天シャーレにまき、1晩おきます。
 C.胞子の多い所をそのままか、カバーガラスをかけて
  顕微鏡で観察します。
 D.発芽しない胞子、発芽して殻だけ残っている胞子、
  ベン毛をもって泳ぎ回る細胞、うまくいくと発芽中の
  胞子が見つかる事もあります。
 E.この時期ではアメーバ状態の細胞、つまり接合
  体がみつかる事は少ないですが、次の日あたりは、
 かなり多くの接合体ができています。
*1.水が少ないと、アメーバ細胞が生じます。こ
  れが観察しにくければ、シャーレに水を加えて、
  1日以上おいて、ベン毛細胞にしてください。
*2.アメーバは、小さいため、また透明なため、
  アメーバ運動までは観察できません。
 *3.条件によっては2〜3日かかるし、発芽する胞子はそんなに多くはあり
  ません。
 *4.この胞子は、シリカゲル(乾燥剤)の入った容器(デシケーター)で長
   期間保存できます。必要なときいつでも、このような細胞を観察できます。
   しかし、胞子の発芽には保存状態や温度条件が、かなり影響を与えます。
 *5.他の微生物が、まぎれこんでいる場合もあります。注意して観察して下
   さい。

(5).菌核の観察

  (4)と同じようにして、菌核を観察できます。ただし、水を吸うと細胞膜がやぶれやすくなります。乾いた菌核を細かくくだいてから、水を加えてください。
 また、数時間で、菌核の細胞が休眠からさめ、アメーバとなります。それが集合し、変形体になって行きます。
 @.時計皿に菌核を置き、ガラス棒の先でつぶして、粉
  末にします。
 A.ここに、蒸留水1〜2lを加え、寒天シャーレに、
  まきます。
 B.そのまま、顕微鏡のステージをのせ、観察します。
 C.数時間ごとに、観察しましょう。


教師のための基礎知識

1.分類

 教科書に出てくる細胞性粘菌(正式には、ディクチオ型細胞性粘菌)は、生活史が似てますが、真性粘菌のように、多核になるようなことはありません。一生、細胞の形態を失わないので、細胞性粘菌といいます。かつては、ふつうに粘菌とか変形菌とか呼ばれるのは、真性粘菌だけでした。その後、細胞性粘菌など他の粘菌が見つかり、それぞれに、「細胞性…」とか「真性…」がついたのです。
 フィザルムの和名は、モジホコリカビといいます。学名は、フィザルム・ポリケファルム(Physarum polycephalum)ですが、研究者の間では、「フィザルム」で通っています。粘菌の分類学的位置づけは、下のようになっています。

  界(Kingdom)     門(Phylum)             亜門(Subpylum)               綱(Class)                亜綱(Subclass)
                        真性プロチスタ        寄生粘菌類(Plasmodiopholina)
 プロチスタ           (Euprotista)                                        アクラシア型細胞性粘菌
 (Protista)                               動菌類                               (Acrasea)           原生粘菌
                    ジムノミキサ            (Mycetozoa)                                          (Protostelia)
                       (Gymnomyxa)                                       真性動菌類              真性粘菌
                                                                                       (Eumycetozoa)           (Myxogastria)
                                                           ビリンチュラ類                     ディクチオ型
                                                          (Labyrinthulina)                                                   細胞性粘菌
                                                                                                                                     (Dictyostelia)
 
 
 しかし、Whittakerは、粘菌をプロチスタ界でなく、菌界のなかに、しかも進化の大筋道からはずれたグループに位置づけました。確かに、植物界、動物界、菌界のいずれにも、粘菌のもつ形質を発展させたと思われるような生物群は見当たりません。このことから、粘菌は、粘菌として地球上に誕生してから、進化の行き止まりの中を今日まで生き延びてきた生物群のようです。 粘菌は、子実体を作り、その胞子や柄細胞が細胞壁をもつことから、植物として、しかも従属栄養を示す点から、菌類のように見えます。しかし、他の特徴、例えば栄養体は、細胞壁のないアメーバ状で、食作用を行う、などは原生動物であることを示しています。Oliveは、他の生化学的特徴も考慮して、粘菌を菌界からプロチスタ界に移しました1)。

2.原形質流動のメカニズム

 原形質流動の速度は、約14mm/時(25℃)ですが、瞬間的には、1mm/秒を上回ることもあります。また、約30〜40秒で流れがほぼ停止し、逆方向に速度を上げてもどる往復運動をしています。この周期は約2分で、規則性があります。また、隣の通路では、逆方向に流れている場合もあります。
 変形体の原形質流動の原動力は、筋収縮と同じメカニズムにより生じていると言われています。変形体の収縮タンパク質を抽出し、ATPの添加による超沈澱も観察されています。収縮タンパク質の分布に差があり、扇状に広がった原形質の前部に近い場所や毛管の壁部分は、ATPの添加で収縮が見られ、電子顕微鏡でもアクチン繊維が見られます。このことから、そのような部分が収縮することにより、内圧の差が生じ、原形質が流動すると考えられます2)。

3.変形体における核分裂の同調性

 変形体の核分裂は、核膜の消失はなく、核内核分裂です。栄養
条件が良ければ、核分裂サイクルは、8〜10時間です。そのうち、
約20分間、核分裂(M期)が進行します。
 同一変形体内で、数億の核が同調的に分裂することが確かめら
れています。また、変形体を無菌的に液体中で振とう培養すると、小さな変形体の破片になります。これらの核は、同調して分裂しません。しかし、これらを融合させると、再び、同調的に核分裂するようになります。この事実は、細胞質内に同調化因子があり、しかも拡散しやすい物質であることを示しています。原形質流動の往復運動は、その物資を拡散させ、変形体内の環境を均一化する意味もあると思われます1)。

4.子実体形成

 子実体の形成については、なかなか確実性のない面もあります。環境条件、特に湿度が微妙のようです。むしろ、変形体の培養をしていて、不注意に光を当てて、子実体にしてしまうケースが多いです。

5.汚染された変形体の処置

 変形体に菌類など微生物が付着すると、菌核や子実体にしてもなかなか取れません。菌類などで汚染された変形体は、pH 4.5の 1.5%無栄養寒天培地(寒天シャーレ)で1〜2日移動させるときれいになります3)。

6.参考文献

(1).前田みね子・前田靖男(1978)粘菌の生物学 東京大学出版会
(2).太田次郎(1989)科学のとびら9.細胞はどのように動くか 東京化学同人
(3).J・M・アシュウォーズ,J・ディー(1980)粘菌の生物学 朝倉書店
(4).沼宮内耕作(1977)粘菌の取扱いと実験法 教材生物ニュース29:415-417