疾走砂漠

北川幸司作


         疾走砂漠
     登場人物
    タカシ(暴走族の少年)
    ユウ (謎の少女)
    タカシの友達A
    タカシの友達B
    タンクローリーの運転手


 1 夜更けのコンビニエンス・ストア

    十人ほどの少年少女が店の前にたむ
    ろしている。
    そのグループから少し離れた所に黒
    いレザースーツに身を包んだ長い髪
    の少女「ユウ」が立っている。
    少し強い風がその髪をなびかせて過
    ぎる。

ユウ「あ、この風・・・・・・」
    数台のオートバイの音。
    目を上げるユウ。
    やがて三台のオートバイがユウの前
    に止まる。
    いずれもユウと同じ年頃の少年達。
    先頭の少年がヘルメットを取る。
    そのハンドルにはもう一つヘルメッ
    トがぶらさがっている。
   少年の名は「タカシ」
タカシ「ユウ、乗れよ」
   タカシが投げたヘルメットを両手で 
   受けたユウが少しほほえみながら
   タカシに近付く。
   しかし乗ろうとはしない。
タカシ「どうしたんだよ?」
ユウ 「うん」
タカシ「なんだよ、早く乗れったら」
ユウ 「タカシ、今日さ、やめた方がいいと思う」 タカシ「なぜ?」
ユウ 「風がね」
タカシ「かぜ?風邪ひいたのか?」
ユウ 「ちがうよ、風だよ」
タカシ「乗れよ、早く」
     ユウ、素直にうなずき、ヘルメット
     をかぶるとタカシのうしろにまたがる。
タカシ「さあ、いこうぜ!」
     けたたましい爆音と共にオートバイ
     が走り去る。
     店から出て来た中年の店主がはきす
     てるように言う。
店主 「うるせえな、毎晩毎晩」
     たむろしている少年達に向かって、
店主 「こら、お前らもさっさと帰んな」
     少年達はちらっと店主を見ただけで
     動こうとはしない。


 2 夜の道路

     ヘッドライトの群れの中を縫うよう
     に疾走して行く三台のオート
     バイ。
タカシ「どうだいユウ、俺のテクは!」
    ユウ、タカシの背に顔を押し付けた
     まま。
ユウ 「最高」
タカシ「聞こえねえよう!」
ユウ 「サイコー!」
     大きな声を出した後、ユウのつぶや
     き。
ユウ 「さびしいね、バイクの音って」
     しばらくしてタカシの視界を遮るよ
     うな10tトラックの荷台。
     タカシが舌打ちした時、風が吹いた
     ヘルメットの後ろから長く伸びた
     ユウの髪が左から右へ誘うように流れ
     る。オートバイが右に傾く。
     その少し後ろ、センターライン寄り
     を走っていた仲間の少年には対向車
     線のタンクローリーが見える。
少年A「タカシ、やめろ!」
     無論、聞こえるはずもなく、タカシ
     は対向車線に出る。
     眼前に迫るタンクローリー。
     タカシの悲鳴。


 3 真昼の砂漠

     タカシとユウを乗せたオートバイが
     ギラギラした太陽に向かってすべる
     ように走っている。
タカシ「な、なんだァ?」
     慌ててブレーキをかけるタカシ。
     だがきかない。
     それどころかスピードは増すばかり
ユウ「止まらないよ。ガソリンが切れるまで」
タカシ「ユウ、どうしちまったんだ俺達」
ユウ 「タカシの望み通りになったの」
タカシ「なに?どう言う事だよ!」
ユウ 「タカシとマシンとが一つになった」
    その時、前方の砂が盛り上がりミイ
    ラのような人間が浮き上がるように
    姿を現す。
タカシ「わあっ、何だありゃ!」

     ハンドルを切ろうとするが一瞬遅く、
     オートバイはそれをはねてしまう。
     ミイラは粉々の灰になって飛び散り、
     そして消える。
タカシ「やっちまった。なんなんだあれは」
ユウ 「亡者」
タカシ「モウジャ?」
     また一人、砂の中から亡者が現れる
タカシ「わあっ、まただ!」
     また、よけようとするタカシ。
     だが遅く、はねてしまう。
     飛び散る亡者。
ユウ 「未練を残し、死に切れない人達」
タカシ「何言ってんだお前!」
     その間にも次から次へと亡者が出て
     来る。
     その度にはねては消して行くオート
     バイ。
ユウ 「はねておやりよ。これで彼らは本当
     に死ねるの」
     わけのわからないまま亡者をはね続
     けるタカシ。
     始めは恐怖に脅えていた目が、やが
     て喜びの光を帯び始める。
タカシ「面白い・・・・・・」
     タカシ、今度は自分から亡者を求め
     てハンドルを切って行く。
ユウ 「楽しそう、タカシ」
タカシ「ああ、ゲームみたいだ!」
ユウ 「そうね、ゲームね、ずっと」
     まるでテレビゲームのように現れる
     亡者達。
     次々と跳ね飛ばして行くタカシ。
ユウ 「でもねタカシ、亡者を一人消すごと
    に、あんたは一つづつ年をとるのよ」
タカシ「なぜ?」
ユウ 「亡者が年をくれるの」
     タカシの顔に灰が何度もふりかか
     っては消える。

タカシ「どう言う事だよ!」
     灰に見え隠れするガスメーターの針
     がEに近付いている。
ユウ 「あの世へ行けるのが嬉しくて、あな
     たも早くおいでって」
タカシ「ユウ、お前、一体・・・・・・」
     ガスメーターがEを越える。
     ゆっくり停止し、倒れて行くオート
     バイ。


 4 元の夜の道路

     タンクローリーの前でメチャメチャ
     になっているタカシのオートバイ。
     数メートル離れた所にタカシが倒れ
     ている。
     タンクローリーの運転手が飛びおり
     て来て、タカシを抱き起こす。
     駆け寄る仲間の少年達。
少年A「タカシ、タカシ!」
少年B「しっかりしろ!」
     少年A、思い出したように辺りを見
     回す。
少年A「ユウは、ユウはどこ行っちまったんだ?」
運転手「救急車だ!」
     と叫んだ運転手が駆け出して行く。
    必死にタカシの名を呼ぶ少年達の後
     ろにユウが現れる。
     少年達は気がつかない。
ユウ 「タカシ・・・・・・」
     ユウ、少年達の体を通り抜けてタカ
     シの頭の方に立つ。
少年A「おい、ヘルメットを脱がせろ」
少年B「わ、わかった」
     少年Bの手がヘルメットにかかりゆ
     っくり脱がせて行く。
     同時に悲鳴をあげる二人。
     しわだらけで、真っ白な髪のタカシ
     の顔。
       無表情に見下ろしているユウ。
ユウ 「運命は変えられないって人は言うけ
    どあれは嘘。
    タカシ、あなたはその年まで生きるは
    ずだった。変えたのはあなた自身」
     タカシの体から淡く光る綿のような
     物が浮き出てくるが細い光の糸で体
     とつながっている。
     すっと伸ばしたユウの右腕が段々細
     くなる。
     やがてそれは長く鋭い鎌に変わり、
     ギラリと光る。
     光る綿を左手に持ったユウ、鎌を振
     り上げ、光の糸を断ち切る。
ユウ 「今夜はやめたらって言ったのに」
     ユウ、そのまま立ち去り、やがて闇
     の中に消える。救急車とパトカーの
     音。エンドマーク。


   
                                      終 

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