登場人物 殺し屋 死神 警部 妻 パトカーのサイレン、 しばらく続く。 警部 「あーあー、おい入ってる?あー、入 ってる?入ってる、あそうほんじゃ 行ってみるか。ようし、犯人に告ぐ、 犯人に告ぐ、この工事現場は完全に 包囲しました。もう逃げられません ぞ。おとなしく武器を捨てて出て来 なさい!」 殺し屋「うるせー、 俺を捕まえたかったらそっちから来 やがれ、木っ端役人があ!」 警部 「もう、意地張らないでよ。どう見た ってあんたに勝ち目ないんだから」 殺し屋「そんなこと、やってみなけりゃわか らねえだろう。いいから撃って来い よ。レッツパーティ」 警部 「いや、そう言うことじゃなくて、い つもだったら、おつきあいするんで すけど、今夜は娘の誕生日なんです。 みんなでお祝いしようねって約束し てるんですう」 殺し屋「何、緊張感の無いこと言ってやがん でえ」 警部 「いやだから、今夜は・・・」 妻 「ちょっとあなた、何もたもたしてる の?あっちゃん待ってるわよ。早く 帰りましょう」 警部 「お、おい、だめじゃないかこんなと こへ来ちゃ」 妻 「だって、あなたはいつも仕事仕事で 何にもしてくれないじゃないの。娘 の誕生日ぐらいちゃんと帰って来て くれてもいいじゃないの」 警部 「しかたないだろう、私は警察官なん だから」 妻 「警察官は娘の誕生日を祝うこともで きないの!」 警部 「いいから、君は先に帰ってなさい。 すぐに片づけて帰るから」 殺し屋「おーい、そんな所でホームドラマや ってんじゃねえ!主役は俺だぞう!」 妻 「うるさいわね、あんたはひっこんで なさい!」 殺し屋「何だと!」 妻 「大体あんたがこんな所に立てこもっ たりするからでしょ。さっさと出て くればいいのよ!」 警部 「こ、これ、マイクをかえしなさい!」 妻 「うるさい!こら犯人、あんたに家庭 のことがわかるの?娘の誕生日は私 たちにとって大切な大切なことなん だから、ほらこの通りケーキも買っ て来てるのよ!」 殺し屋「何がケーキだ、ばかにしやがって!」 銃声一発。 妻 「ああっ、ケ、ケーキが!」 殺し屋「ははは、ざまあ見やがれ!」 妻 「おのれえ!」 警部 「あ、こら私の拳銃をどうするんだ、 返しなさい!」 妻 「くらええ!」 銃声一発。 殺し屋「おうっ!いてえ・・・。 なんじゃこりゃあ!う、撃たれた、 腹撃たれた」 殺し屋、倒れる。 警部 「ば、ばか、拳銃を返しなさい!」 妻 「フッフッフ、当たった」 警部 「おーい、大丈夫かあ、だから早く出 て来いって言ったのに。救急車を呼 んでやるから、早く降参しろう」 殺し屋「う、うるせえ、こっちにゃ武器がい っぱいあるんだ。マシンガンからバ ズーカまであるんだからな。ちょっ とでも近づいて見やがれ、皆殺しに してやるぞ!・・・とは言ってもな あ」 拳銃のシリンダーを開く。 殺し屋「残り2発か。勝ち目ねえな。うう、 いてえ。こりゃ早く出てって、手当 してもらおう」 ドロドロドロ。 死神 「お待ち下さい、旦那様」 殺し屋「だ、誰だ」 死神 「私でございますよ、旦那様」 殺し屋「何だ、死神か」 死神 「はい、あなたのベストパートナー、 死神にござりまする」 殺し屋「とうとう俺の命を取りに来たか」 死神 「とんでもございません。私、恩返し に出てまいったのでございますよ」 殺し屋「恩返しだあ?」 死神 「はい、私、旦那様に取り憑かせて頂 いたお陰で毎月ノルマを達成でき、 このたびやっと念願のマイホームを 購入することできたのでございます よ」 殺し屋「死神がどこに家立てたってんだ?」 死神 「あの世県あの世市じご区一丁目六道 の辻東入る」 殺し屋「何それ?」 死神 「マイホームの住所でございますよ旦 那様」 殺し屋「そうかい、そりゃよかったじゃねえ か」 死神 「はい、だから私、ぜひとも旦那様に ご恩をお返ししようと思いまして」 殺し屋「そうかい、そりゃ義理がてえこった」 死神 「はい、私、人間ではございませんの で、受けたご恩には必ず報いること にしておりますです、はい。 ところで旦那様、一つお尋ねしても よろしゅうございますか?」 殺し屋「何だ?」 死神 「あの、さっきからそこに這いつくば って、一体何をしておいでなのでご ざいます?」 殺し屋「見りゃわかるだろう」 死神 「あ、はい、えーと・・・あ、わかり ました!コンタクトレンズをお探し なのでございましょう。私、一緒に 探してさしあげます」 殺し屋「ちがわい」 死神 「それじゃ、お金をお探しで」 殺し屋「ちがうよ、撃たれたんだよ」 死神 「撃たれた?」 殺し屋「拳銃で撃たれたの」 死神 「ま、まあ、それはまたお勇ましい事 で、おめでとうございます。どこ、 どこでございます?そのお勇ましい お傷はいずこでございます?」 殺し屋「腹だよ腹」 死神 「腹?おなかでございますね。 どれどれ・・・。あら、このヌルっ とした物はなんでございます?・・ 血、血でございますう、ああ、ばっ たり」 死神、失神して倒れる。 殺し屋「おい、死神が血を見て失神してどう すんだよ」 死神 「うーん」 殺し屋「おい、おい!」 死神 「あ、はい、これはお恥ずかしい所を お見せいたしました。もうしわけご ざいません」 殺し屋「恩返ししてくれるってんなら、早く してくれねえか」 死神 「承知いたしました。まずはその傷の 痛みをとってさしあげます」 殺し屋「おお、そりゃいいや、早くやってく れ」 死神 「それでは、痛み解消機を取り出して、 この先端を傷口に当てまして」 殺し屋「おい、それってスタンガンじゃねえ か?」 死神 「ははは、形はよく似ておりますが、 これは死神の必須アイテム、痛み解 消機でございますよ」 殺し屋「そうかわかった、早くやってくれ」 死神 「はい、それではスイッチオン」 電気ショック。 殺し屋「ギエー!」 死神 「スタンガンでございました、申し訳 ございません」 殺し屋「お、お前なあ」 死神 「えーと、あ、これこれ、今度は大丈 夫でございますよ」 殺し屋「うあー、く苦しい」 死神 「それではこの先端を傷口に当てまし て、スイッチオン」 オルゴールの音楽。 殺し屋「おお、痛みが引いていく」 死神 「いかがでございますか?」 殺し屋「うん、すっかり楽になった、 ア、コリャコリャ」 死神 「あ、あの、お踊りにならない方が」 殺し屋「何で?」 死神 「痛みがとれただけで、傷が治ったわ けではございませんのですよ」 殺し屋「あ、そうなの?」 死神 「そうなの」 殺し屋「ほんじゃ、俺の傷は?」 死神 「はい、残念ながら」 殺し屋「だめなのか?」 死神 「はい、弾丸はおなかの中をグルグル 廻り、腸をズタズタに破壊しており ます」 殺し屋「そうか、いよいよ俺も終わりってわ けか。 思えば、ハードボイルドな一生だっ たなあ」 死神 「大丈夫でございます。これからがご 恩返しの本番でございますよ」 殺し屋「助けてくれるってのか?」 死神 「ええ、厳密に申し上げるなら、そう でございます」 殺し屋「ここから逃がしてくれて、医者に連 れてってくれるのかい?」 死神 「いえ、それは私でも無理でございま すし、第一、旦那様の命は、あとわ ずかでございます」 殺し屋「それじゃ意味ねえじゃねえか」 死神 「実はでございます。地獄の法律に、 五十人以上殺人を犯した者にはもう 一つ命を与えると言う条項がござい まして」 殺し屋「と言うと?」 死神 「生き返るのでございますよ」 殺し屋「ははは、ばかな。人殺しが優遇され るなんてそんなばかな事があるはず がない」 死神 「何とおっしゃる旦那様、地獄は悪人 が大好きでございますよ」 殺し屋「でも、何だかなあ」 死神 「どうぞ私をお信じ下さいませ。よろ しいですか?今までに旦那様は四十 八人の人間を抹殺しておいでです」 殺し屋「ほう、もうそんなになるか」 死神 「はい、だからあと二人、あの警官た ちの内のどれでも結構でございます。 狙ってお撃ち下さい。私が弾丸を誘 導いたしまして警官に当てるように いたしますから」 殺し屋「ふん、どうせ終わりの命ならお前の 言うことを信じて見ようか」 死神 「そうでございますとも」 殺し屋「ようしやるぞ!」 死神 「さ、構えて」 警部 「おーい、いいかげんにしろよう。 早く出て来いよう、ちゃんと医者の 所へ連れてやるからあ」 殺し屋「レッツパーティ!」 銃声2発 警部 「あ、おいしっかりしろ!」 妻 「あ、こっちでも倒れたわ!」 殺し屋「やった!」 死神 「お見事です、旦那様!」 殺し屋「しかし俺、なんだか頭ン中が白く なっていってる。ボーっとするんだ」 死神 「あの、それは死期がせまっているか らでございます。でも大丈夫、旦那 様には私がついております。どうぞ、 ご心配なくお亡くなりくださいませ」 殺し屋「本当に信じていいんだな?」 死神 「もちろん、私、人間ではございませ ん。従って約束はどんなことでも守 ります」 殺し屋「あ、いよいよだめだ」 殺し屋、倒れる。 死神 「・・・ご臨終。ありがとうございま す、旦那様、これで今月のノルマを 達成する事ができました。お約束は 必ず果たします。ははは、ヤホー!」 時間経過。 殺し屋「うーん、あ、俺は生きてる。ははは、 死神め、ちゃんと約束を守りやがっ た。傷口はと。あ、治ってる。さ、 そうと決まれば第二の人生の第一歩 と行くか、まずは起きよう」 ゴン。 殺し屋「ん、何だ?」 ドンドン。 殺し屋「どこだ、ここは?狭いなあ・・・箱? 箱か?棺桶?棺桶だよこりゃ、 ばっかだねえ、あいつ。棺桶ん中で 生き返ってもしょうがねえだろう。 おーい、誰かあけてくれ、俺は生き てるんだあ!」 ボッ 殺し屋「うそ」 ゴーッ 終