エッセー集


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神の森 待ち合わせ
川真珠貝




神の森

東の空が白み始めた頃、携帯のアラームが鳴り出した。
窓を開けると、若い緑の匂いが、すっと車内に広がった。
少し頭が重い。

夕べ、自宅を出たのが6時頃だった。
途中夕食を取り、最後の集落で酒とつまみを買い、ここまで来た。
地図を読みながら決めた、初めての場所。
上流に民家は無く、ブナの森が山を創っている。
昨日の雨も森が吸収し、濁りも出ていない。
明日の釣果に、何度も乾杯を繰り返した。
空には星が、水しぶきのように、散らばっている。
星の数だけ魚が居ることを期待し、寝袋に潜り込む。
酒でほてった身体がひんやりとして、気持ちがいい。
寝袋と体温が一緒になる頃、眠りに落ちていった。
どれぐらい、たっただろうか。
ざわめきで、眠りから引き戻された。
しかし、窓の外は風も無く、雨も降っていない。
おかしい。
さっき、確かに気配を感じた。
まだ目覚めていない身体を引きずり、車の外に出て見た。
ひやりとした、空気が身体にまとわりつき、森の中からは
"シーン"と言う空気の音が聞こえる。
聞こえるはずのない音。
森の中からは、無数の視線が感じられる。
一枚の葉、一本の枝、幹、そして山全体から。
キュッと背筋に緊張が走る。
あわてて、車の中に戻る。
夕べ、川を守ってくれる山には、乾杯しなかった。
残っていた酒をコップに注ぎ、山と森に乾杯して、一気に飲み干した。
寝袋の中でじっとしていると、さっきの酒が眠気を誘ってくれた。

すっきりしない頭も、川辺に立つとなぜかシャンとする。
雲一つ無い空が、今日の釣果を約束しているようだ。
何か、特別な一日に成りそうな気がする。





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待ち合わせ

仕事が順調に進み、定時に会社を退社出来そうだ。
今日は、数日ぶりに天候も回復し、気温も20度以上に成ったかも知れない。
風も今の時期にしては穏やかな気がする。
社長は、軽米町に行っているが、連絡が来ない。
5時40分、会社のシャッターを降ろし、電話を転送設定に切り替えた。
駐車場から車を発進させ、バイパスを南下する。
今日も混雑がひどい。
今頃の時間が一番渋滞するから、俺は嫌いだ。
だか、今日はちょっとした待ち合わせが有るために、そうも行って居られない。
FMからはラジオドラマが流れている。
渋滞のイライラを緩和するには、ちょうど良い内容だ。
ウインカーを左折に出し、ハンドルを切る。
通いなれた道だ。
ラジオドラマが終わる頃、待ち合わせの場所に着いた。
駐車スペースを見つけ、エンジンを止めた。
回りはまだ明るい。
まだ、相手は来ていないようだ。
タバコに火を付け、ぼんやりとしていた。
夕暮れが近づいて来た頃、窓の外に気配がした。
車から降りて、辺りを見回した。
しかし、気のせいだったようだ。
橋の中程まで歩いた。
サングラス越しに見える川は、前日までの雨の為か、少し濁っている。
じっと水面を見つめるが、なにも変化はない。
肩にカゲロウが停まりすぐに飛び立った。
水面には沢山の虫が舞っている。
しばらくすると、サングラスの前をヘッドライトをつけた車が通りすぎた。
今日は、振られたようだ。
彼女は気まぐれだから...。





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川真珠貝

釣りを続けていると、気に入った川や場所が見つかる。
ここに行けば絶対はずれが無いとか、行くと気持ちが休まるなど。
そんな川の一つです。

水蒸気で白くなった車の窓から、まだ暗い川をのぞいた。
昨日の夜に着いた時は、霧雨が降っていた。
しばらく雨が降っていなかったから、本当はもっと降って欲しかったが、釣りが出来ないのも困る。
それでもこの辺りは、山がしっかりしているから、極端に水位が下がる事は無い。

固まっている体をほぐしながら、ゆっくりと準備を始めた。
使い慣れた道具ばかりだから、すべてが体にしっくりとくる。
空も、夜から朝へと準備を始めたようだ。
気持ちを整えるために、お気に入りの缶コーヒーを開けた。
キャップをかぶると準備完了。

いつもの入渓点まで、五分ほど川岸を下る。
釣り人の踏み後が、しっかり付いているが、かまわない。
今日は、俺が一番乗りだ。
川に降り立ち、パイロット・フライを結び第一投。
これが一番緊張する。
ここで、木に引っかけたりすると、一日中何となく調子が出なかったりする。
又、第一投で魚が出たりすると、出来すぎた感じにもなる。
無事にキャストをし、魚が出ることもなく、いつも通りにスタートした。

この川は、川真珠貝が生息している事で有名だ。
地元の小学校では、長年にわたり観察を続けていると、テレビの番組で見たことがある。
しかし、最近は水質の悪化や繁殖の仲介となるヤマメの影響か解らないが、個体数が減ってきているようだ。
入渓点から少し釣り上がると、川真珠貝が生息している場所がある。
川底に並んでいる貝は、容易に見つける事が出来る。
水の透明度も高いので、偏光レンズを通して見れば、少し開けた口の中の、白っぽい部分が見える。
貝を踏まないように、気を付けて歩かなければ。

大きな淵に、たどり着いた。
川通しは無理なので、一度道路まで上がらなければならない。
数年前に、ちょうどこの場所に来たときに、蛇に逢ったことが有る。
夏の暑いさかりだったから、蛇も涼みに来ていたのだろうか。
川岸の一抱えも有るような岩の上で、ちょうど木漏れ日が当たっていた。
気持ち良さそうに、寝そべっている。
なんか、じゃまをするのが可愛そうなので、50メートルほど下流の急な坂まで戻って道路に出た。
今日はまだ気温も低いから、出て来ていないだろう。
岩の上を見ても何もいない。
けれども、ちょっと岩の横を見ると、蛇の抜け殻があった。
綺麗に脱皮している。
1メートル以上は有るだろうか。
せっかく寝ているのを起こすのも可愛そうだから、50メートルほど引き返した。

日も少し西に傾いてきた頃、右から支流が入っている所まで来た。
橋のたもとの雑貨屋に、飲み物の自動販売機が有る。
水分補給にちょうど良いと、一度川から上がった。
店の中をのぞくが、人の気配はしない。
棚の上には、洗濯石鹸・トイレットペーパー・魚や果物の缶詰・インスタントラーメン・電球などが並べられている。
缶コーヒーを飲んで一息ついた。
意外なほど、のどが渇いていたのか、とてもうまかった。
気温も最高で25度を超えただろうか。
店の横には、町内の連絡掲示版があった。
それによると、熊が数日前に、この地区に出没したようだ。
出来れば、逢いたくないよな。
今日は朝から十分に釣りが出来たから、そろそろ切り上げることにした。

車の場所までは、3キロくらいだろうか。

車まで戻り、早い食事の準備を始めた。
スパゲッティーとワインとソーセージとチーズの簡単なものだ。
ワインが空になる頃には、辺りは真っ暗です。
小さなランタンの明かりでは、自分の手の届く範囲だけが照らされています。
聞こえるのは、川の音だけです。

なんとなく川の方を見ていると、光が走りました。
しばらくたって、また光が走りました。
確かめるために、川岸まで行ってみると、蛍がいっぱい居ました。
何匹くらいでしょうか、二百・三百って、くらいでしょうか。
こんなに蛍を見たのは、小さい頃に田んぼで見たとき以来です。
私の家の周りが田んぼだった頃は、毎年当たり前のように見ていました。
いつの間にか、家の中に入り込んでいた事も有りました。

蛍を楽しみながら、2本目のワインに手を付けてしまいました。
酔っぱらわないうちに、片づけをしてしまいましょう。
明日も魚に遊んでもらわないと...。





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