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『ヴィシュバ・ノール変異譚 此糸森の章』 水杜明珠 コバルト文庫

「他のことなど、どうでもいいが、彼女を悲しませ、攫ったことは許せませんね」

 「他のこと」ってのは花魁蜘蛛の妖怪がピーコックを糸玉に変えてしまったりマゼンタを操って彼の寿命を奪い取ったりしたことですかガディルさん。
 それって結構大変なことのように思えるんですが「どうでもいい」と一言で切り捨ててひたすらマルーシュ命のガディル・リュスト氏が活躍する『ヴィシュバ・ノール変異譚』第六弾です。このお話の主人公はマルーシュ・ミモリです、念のため。

 『白銀の織姫』マルーシュ・ミモリにある布を織らせようとする花魁蜘蛛の妖怪(クロソウ大夫って名前があるんですけど漢字が出せない)。マルーシュをさらうことには失敗したものの(だってガディルがいたからね)マルーシュの友人ピーコック・ホライズンを緑色の糸に変えて連れ去ってしまいます。ピーコックの恋人マゼンタ・高屋敷がその後を追いますが消息不明に。
 自分を狙ってあの妖怪はやって来たのだからピーコックやマゼンタがあんなことになったのは自分のせいだとひどく落ち込むマルーシュ。ついには花魁蜘蛛の誘いに乗ってガディルの屋敷を飛び出して行く始末。

「あの二人を無事に助け出さなければ、いつまでも泣いているでしょうからねえ。マールは」

 ピーコックとマゼンタを助けるためではなくもっぱらマルーシュのために行動を開始するガディル。確かガディルにとってもピーコック達は友人のはずなんですがそれはそう見えるだけで本当はそうじゃないんでしょうか。マルーシュ以外はホントにどうなってもいいんですねガディルさん…!

「こーんなときに、あーんな小娘に、あーいうことして」
「かわいいだろう?」
 ニッと口端を引くように笑うガディルには、何の悪気もないようだ。
 疲れたように、がっくりと肩を落としたトウセツが、
「……お前、ほんっっとに、変わったな」
 と言うと、
「羨ましいか?」
「そんなわけあるか!」

 花魁蜘蛛のすみかに囚われたマルーシュのもとにあっさりとやって来て顔を合わせるなり何の脈絡もなく彼女の唇を奪った後のガディルとトウセツの会話です。
 本人にはそのつもりはないんでしょうがみるみるガディルの手下その1になりさがっていくトウセツがいっそ見事でした。トウセツ好きだなー。ずっとガディルの影の中にいればいいのに(笑)。
 トウセツがピーコックじゃなくマルーシュに恋したらもっと面白くなりそうだったとか思いかけてそんな展開になろうものならトウセツが消されちゃうよ跡形もなくと打ち震えます。ガディルならそれぐらいやりかねません。しかも指先一つで。いや視線だけで。

 さて花魁蜘蛛の妖怪ですが、ガディルが目の前に現れていざ対決というシーンで『黒霧海域の章』の幽霊船の船長と同じく異様なまでに脅え始めてしまい今回も勝負にも何にもなりませんでした。かわいそうに。
 一体ガディルって何者なんでしょうか。第六巻目にもなると言うのに全然語られてなかったりする。それはマルーシュについても同じで、二人とも未だに正体不明なんですよねえ…マルーシュも不思議な力を持っているようです。そのおかげでトウセツのプライドがぼろぼろに。笑える。

 ピーコックとマゼンタのカップルも何気にいい感じだし、『ヴィシュバ・ノール変異譚』はホントに良いですねー。
 残りが少なくなってきてるので大切に読んで行こうと思います。

20040728

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