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『おまけのこ』
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『おまけのこ』 畠中恵 新潮社

 『しゃばけ』『ぬしさまへ』『ねこのばば』と続いてきました若だんな一太郎と妖達の人情推理帖。
 『こわい』『畳紙(たとうがみ)』『動く影』『ありんすこく』に表題作を加えた五篇収録の短編集です。

 これまでのお話よりもぐっと苦さを増した感じのある『こわい』が今巻収録されている内では一番胸に残りました。
 関われば災いを呼ぶとわかっていながらひとりぼっちの狐者異(こわい)を捨て置けない若だんな、おしまいの「もうすぐ雨になるのに……」という呟きが何とも切ない余韻をもたらして。
 若だんなの優しさが痛いくらいに感じられるお話でした。

 「しゃばけ」シリーズは数多出て来る妖達より誰よりも主人公の一太郎という人物が魅力的な存在で、そう設定されているからではなく描写によって読者をも惹きつけるというか…ふんわりと優しい気性の中に強さも弱さも混じり込んで戸惑いながらもまっすぐであろうとする若だんなはやっぱりすごいヒトですよねぇ。

 『動く影』はそんな一太郎のこどもの頃のお話なんですが若だんなはこの頃からもう立派に若だんなだったのだなぁと。ほんわかあったかくなるような思い出話です。欲を言えばその話を聞いてからの仁吉さんと佐助さんの反応まで書いて欲しかったかも。

 それにしても今回もまた仁吉さんや佐助さんや鳴家(やなり)達がもう色々と大盤振る舞いですよ!(何)

 竹皮の上の饅頭をぱくりとやった鳴家が、いきなりひっくり返ってしまった。首を傾げた次の一匹が食べる。やはり目をむいて、ぱたりと倒れる。三匹目が倒れたところで、他の鳴家達がぴいぴいと悲鳴を上げ、一斉に饅頭から離れた。今日の菓子は、まさに恐ろしい出来であった。
「鳴家達が食べられないとは、こりゃあ、食べ物とは呼べませんね」
 仁吉は、およそ栄吉には聞かせられない一言をあっさり言うと、饅頭を包み直し懐に入れる。

 どんな餡子の作り方してるのさ栄吉さーん!(衝撃)
 もう、あれだ、栄吉さんの餡子は饅頭に使うより魔除けとかにした方が売れるんじゃないだろうか。

「お前さん長崎屋で、昨夜あたしといる内に泣いたと言っただろう。おかげであたしはお雛さんが帰った後で、若だんな達に、何をしているんだと問いつめられたんだよ」
「それで殴られたの? あの優しい若だんなに?」
「まさか。ただ少しばかり不味い返答をしちまって……」
 分かりもしないのに五月蠅いことを言うなと、若だんなを突っぱねたのだ。
「そうしたら何様のつもりかと、あの仁吉が、あたしを殴り飛ばしたんだよ!」
 若だんなが止めなかったら、佐助にも殴られたところだと言って、屏風のぞきは不機嫌な顔をしている。

 そろそろ学習しようよ屏風のぞき…!
 このままじゃあそう遠くない未来に屏風のぞきがあの二人に引き裂かれて焚きつけにされてしまいかねません。えらいことです。

「あの頃も寝付いてばかりだったし……妖達もいなかった。寂しかったよ。今は皆がいてくれて、凄く嬉しいよ」
 そう言って若だんなは、鳴家達の頭を撫でる。「きゅんいーっ」鳴家達はそれが気持ちがいいのか、皆で手のひらの下に潜り込もうとする。それで若だんなの膝の上では、鳴家が大きな団子の塊のようになってしまった。
「邪魔だよ。重いだろうが」
 そう言って、佐助が払いのけている。

 鳴家が! 鳴家がー! やっぱり払いのけられるのね鳴家! 何匹いるのさ鳴家!

「若だんな、仁吉、ごちゃごちゃ考えてもしょうがないですよ」
 いろいろ思っても面倒が増すだけだ。しかも事が終わらないと、若だんなが気を揉む。
「あたしが二人を、塀の内から廓の外へ放り投げるから、仁吉が受け取っておくれな。それで全部が終わるさ」
 佐助があっさりと言うのを聞いて、若だんなが目を丸くした。
「佐助や、大丈夫かい? 廓の周りには堀が巡らしてあるみたいだよ」
「分かってます。鉄漿溝ですね。なに、そいつも飛び越すぐらい投げればいいだけの話で」

 佐助さん、かえでちゃんは心の臓に病が! そんなにぶん投げたらショック死しちゃうよ佐助さん!(愕然)

「佐助、とにかく早く、二人を外に出しておくれ。頼んだよ」
 そう言うなり! 若だんなは突然、陰になっている暗い場所から飛び出して走り出す。囮になるつもりであった。
 案の定、その焦ったような姿を見つけ、何人かの男が後を追い始める。
「若だんな!」
 兄や達は一寸、唇を噛んだ。
「仕方ない」
 佐助は二人をひっ?むと、もの凄い勢いで塀際に連れてゆき、あっという間に外へ放り投げてしまった!
 それからもう振り返りもせず、若だんなの行った方へ駆けだす。「ひえっ……」投げられた二人は、悲鳴すら直ぐに消えて無くなる勢いで、塀の上を消えて行く。

 佐助さん、せめて今から投げるとか一言でいいから警告ぐらいはしてあげて…! いくら若だんな第一だからって佐助さん…! かえでちゃんは心臓が弱いんだから…ッ!(慄然)

「ねえ、仁吉、まさかこの堀に落ちたんじゃないよね。鳴家って泳げたっけ」
「泳げるのと、泳げないのといますね。風呂場でご覧になったことがあるでしょう?」

 …個体差…ッ!(驚愕)

「だって、うちの子の声がした気がするんだよ。ほら、あの声がそうじゃないかい」
「……若だんな、あのきゅわきゅわ、ぎゃいぎゃい鳴いている声の、聞き分けがつくんですか?」

 妖にも聞き分けられぬ声を聞き分ける若だんな。「うちの子」認定だったんだ鳴家。

(若だんなだ。鳴家の若だんなだ。ちゃんと我の声を、聞き分けてくれた!)
「ぎゅわわわわわ……」
 しがみついたあと、とにかくもうはぐれるのは嫌だとばかりに、鳴家は若だんなの袖に潜り込む。そうしたら、そこには思いがけず、饅頭や花林糖が入っていた。急に腹が減っていたことを思いだし、鳴家はさっそく花林糖を抱えて、がりがり食べ始める。すると佐助の厳しい声が聞こえてきた。
「こらっ、鳴家! 若だんなの袖の中で菓子を食べちゃあ、駄目だろうが」
 かすが袖の内に散らばるからと、手が突っ込まれてきて、つまみだされそうになる。鳴家は袖の中で逃げ回る。

 可愛すぎる…鳴家が可愛すぎるよ…可愛いよ鳴家…!

 「しゃばけ」シリーズはほんわかあったかい名作なのに何故私の感想はこういう方向で毎回終わってしまうんでしょうか。大いなる疑問を抱えつつ次作も楽しみに待ちたいと思います。

20051227

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