42 パリへ


 リヨンのユースホステルで、シニアパスを使って三カ月間の予定でフランスを旅している人に会った。以前にも書いたが(第29章「マジカル・タンジェツアー」参照)名前は聞いていないのでミスターシニアということにする。シニアパスというのは、六十歳以上の方が使える。
 彼は一年に一回、三カ月の予定で世界中を旅しているそうである。アフリカもインドもメキシコにも、リュックなのか、バックパックなのかを背負って、さらにケースも持って、さすがにリヨンのユースホテルの坂は、ケーブルカーを使って、ごろごろ転がしながらコンクリートの道を下って来たという。
 私もメキシコに行きたいが飛行機が高いと言ったら、一度ロサンゼルスに行ってそこからバスで行くという方法を教えてくれた。ミスターシニアもその方法で行ったらしく、ただしメキシコまで四十八時間くらいかかり、帰りはさすがに疲れてロサンゼルスまで飛行機を使ったということである。うーん、二十四時間くらいなら平気だが、四十八時間はまだ未知の世界だ。
 彼とは、建物と建物を結ぶ外の廊下なのだが椅子が置いてあってテラスのような所とかでワインを飲みながら話をした。夕食も同じでワインと、桃やリンゴのくだものだった。ただ彼のワインは白で私のは赤という違い。私がスーパーマーケットの場所を教えたのだが、午前中ローヌ河岸に市場が立つから、そこのほうが安くて新鮮である。日本ではあまり見ることはできないしなびたリンゴが、よくスーパーマーケットには売ってたりする。

右がテラスのような廊下
 私はインターネットのことで受付のおねいちゃんともめてへこんでいたから、彼に言った。 「どうも受付のおねいちゃんと相性が悪いみたい。」
 「そう思っているから悪くなるんじゃないか。」
 そういえば前回の章で書き忘れたことがあって、インターネットではパリのユースホステルの空室状況を調べられなかったが、そのことをおねいちゃんに告げたら調べてくれたわけで、だからボラれたというのは、私の言いがかりになるが、それでも前回の主旨を変えるつもりはない。
 調べた結果は、Fullということであった。土曜から日曜にかけての休日にあたっているからどこも混んでるみたいだった。

こういう所に市場が立つ
 ミスターシニアは、今回の旅はすべてユースホステルにして、次の泊まる所を現在泊まっているユースの受付で予約を頼んでいるらしく、そういうこともできるのだと思い、もう一度今度は中心部から離れている所(cite des sciences)を調べてもらおうとした。
 ミスターシニアに「自分が相性が悪いと思っているから悪くなるんじゃないか」と言われたわけではないのだが、苦手だからといってやりたいことをやらないのはなんか納得できなかった。
 それで行ったのだが、やはりいやな顔をされて、これは「そう思っているから」ではなく間違いなくいやそうで、さっき調べてやったのにという顔をされて、調べてやはりFullと言われた。
 「All?」
とあわためて訊き返し、
 「All.」
と、おねいちゃんに両手を広げて言われ、私はすごすごと引き下がった。やはりさっきはすべてのパリの予約できるかぎりのユースホステルを調べてくれていたのだ。
 パリのユーホステルがFullであることを、同室のこれからパリに行ってユースホステルに泊まるつもりのオマーンの男性(二十歳くらい)に教えてやったら、自分で確かめに受付のおねいちゃんの所に行ったがやはり結果は同じだった。
 それで彼はリヨンにもう一泊するためにまた受付のおねいちゃんの所に行った。私のほうはもう受付のおねいちゃんと顔を合わせる気になれず、現金も残り少ないし、パリに向かうことにした。
 それにしても、年齢制限のあるユースホステルはあるものの、それがないかぎりにおいては、ユースホステルに年齢は関係ないね。 
 ※イスラム信者の彼は時間になると小さな絨毯をーほんとうに絨毯のように織り込んであるー敷いて祈りをはじめる。写真を撮っていいか、と訊いたら祈りの時間でもないのに、青い絨毯を敷いて裸足になってその上に乗ってくれた。
 どうやって祈りの方向を知るのか、と訊いたら、磁石を使っているという答え。あたりまえことか。いつもやっているから方向がわかるというものでもないらしい。そういえば、タンジェの商人に、サイドバックに付けた百円ショップの磁石を、いい磁石だと誉められて、くれ、とせがまれたっけ。
 それから彼は、アジアカップだったか、で日本と対戦した話をして、惜しくも負けてしまった話をしていた。