近松確定作77編のうち、内容がほぼ同じの改作は筆者流に整理して、74編を上演時代順に挙げてみました。なお参考作は、一番最後に題名だけ一括してまとめました。(上演座を書いていないのは、すべて竹本座)
| 上演年 | 題 名 | メ モ |
|---|---|---|
| 天和3年(1683) 宇治座 | 「世継曽我」(よつぎそが) |
近松が31歳の時、最初に書いたとされる確実な時代物。曽我兄弟の敵討ち後日譚で、遊女の虎と少将が兄弟の郎党2人と力を合わせて活躍。当世風の廓情緒も生き生きと描き出した。宇治座で初上演のあと、改訂して竹本座の旗揚げ興行に上演。 |
| 貞享2年(1685) | 「出世景清」(しゅっせ かげきよ) |
初めて竹本義太夫のために書いた提携第1作。源氏に反抗する悪七兵衛景清を主人公に、景清にからむ遊女阿古屋らを人間的苦悩にあえぐ生々しい登場人物として描く。その新手法から、それまでの古浄瑠璃と区別して「新浄瑠璃の初めなり」とされる。(詳しくは「作品解説」を) |
| 貞享3年(1686) | 「三世相」(さんぜそう) |
大坂・新町の名妓・夕霧太夫の9年忌を当て込んだ作品。夕霧の娘・春姫をめぐる古浄瑠璃的なお家騒動仕立てで、春姫の母への追慕や廓勤めの女性たちの哀愁を描く。「夕霧三世相」「遊君三世相」とも呼ばれる。 |
| 同 | 「佐々木大鑑」(ささき おおかがみ) |
内題は「佐々木先陣」。源平藤戸の戦いの先陣争いで、佐々木盛綱が浅瀬を土地の男から聞くが、戦功をあせり、この情報が漏れるのを恐れてその男を殺す話。道行が好評で、以後義太夫節と持てはやされる。この作品の正本に初めて「作者・近松門左衛門」と署名する。 |
| 同 | 「薩摩守忠度」(さつまのかみ ただのり) |
平忠度は清盛の末弟で歌人。寿永2年の平家都落ちに際し、忠度が師の藤原俊成に詠草1巻を託して、その中の1首「さざ波や志賀の都は荒れにしを 昔ながらの山桜かな」が勅撰の「千載集」(せんざいしゅう)に「読み人知らず」として載った挿話がからむ。また「菊の前」と「三日月」という2人の女性が話の展開を彩る。竹本座のあと「千載集」と改題して宇治座で上演。 |
| 同 | 「主馬判官盛久」(しゅめはんがん もりひさ) |
「薩摩守忠度」の後編。平家の侍大将・平盛久は、妻を見逃してくれた恩に応えるため、堀弥太郎近経に須磨の浦で捕われ、鎌倉に送られる。盛久処刑の日、鶴が岡八幡に参詣した頼朝の面前で、 飛んできた鳥を射落とした家来が悶絶、鳥が千手観音と化した。そこへ盛久の体に太刀が通らなかったとの注進があり、頼朝は観音の霊験と知って、盛久の命を助けるのであった。宇治座でも「盛久」の題名で上演。 |
| 貞享4年(1687) | 「今川了俊」(いまがわ りょうしゅん) | お家騒動物。了俊は室町時代の武将で歌人。青砥五郎藤次を抜擢し、後事を託して死ぬが、了俊の子・仲秋を欺いて叔父貞廣が反旗を翻し、仲秋と恋人の千鳥の前は脱出。追撃されるが、橋守りを味方につけて切り抜けたうえ、逆に駿河城の貞廣を攻めて陥れ、父の跡を立派に相続する。 |
| 元禄2年(1689) | 「津戸三郎」(つのとの さぶろう) |
判官物の一つ。源氏の武将・津戸三郎が33歳で出家、法然上人の弟子になり、割腹して壮烈な大往生を遂げた話に、義経の家来・佐藤継信・忠信兄弟の恋と死をからめ、屋島の合戦などを描いた作品。 |
| 元禄3年(1690) | 「烏帽子折」(えぼしおり) |
謡曲を経由。義朝敗死後、常盤御前は幼児3人を連れて大和に落ちる途中、伏見の里で平宗清に救われる。そのあと牛若丸は成人して、烏帽子屋五郎太夫方で東雲の情で左折りの烏帽子を求めて元服し、奥州に下る話。 |
| 元禄4年(1691) | 「大覚大僧正御伝記」(だいかくだいそうじょう ごでんき) | 京都・妙顕寺の開祖・日像上人350年忌の法要を当て込んだ作。近衛経忠公の子として生まれ、幼くして両親を失った大覚大僧正(俗称・月光)が、日蓮宗の高僧・日像の徳を慕って法華宗の行者に。ある日、寺院を襲撃され、勅命と偽って日像とともに海に沈められようとしたが、法華経の効力で難を逃れ、日像の法統を継いだ様子を描く。「女人即身成仏記」と同じ。 |
| 元禄5-6年 | 「本朝用文章」(ほんちょう ようぶんしょう) |
日野中納言資朝は、後醍醐天皇の企てに加わり、北条相模入道を討たんとするが、重臣の反逆で敵に攻められて捕われ、佐渡に流される。資朝を慕う菊姫と資朝の子・阿新丸(くまわかまる)は、資朝を救うため佐渡に渡るが、菊姫に郡司が懸想し、拒絶されるや怒って資朝を殺す。菊姫らは縛を切って逃れ、資朝の仇討ちを果たして都に帰るという話。 |
| 元禄5年(1692) | 「天智天皇」(てんじてんのう) |
東宮となった斉明天皇の二の宮・葛城の大君(のちの天智)は、帝位争いしている兄の逆目(さかめ)の王子と対立。恋人の花照姫との結婚を邪魔されて2人は落ち延びるが、姫の家来の金輪五郎に助けられ、帝位につく話。金輪五郎が殺されたり、生き返ったり、奇抜な趣向の多い作品である。 |
| 元禄6年以前(1693) | 「蝉 丸」(せみまる) |
琵琶の名手・蝉丸は、嫉妬に狂う北の方の呪いで盲目になり、逢坂山に放逐されるが、最愛の直姫に再会し、追手も討ち果たす数奇な運命を描く。謡曲「蝉丸」から登場人物は借りているが、主題・構成は全く違った作品。 |
| 元禄7年(1694) | 「大礒虎稚物語」(おおいそのとら をさなものがたり) |
曽我物の一つ。大磯に売られ遊女になった虎は、兄の小柴勝重から父の非業の死を聞いて父の仇・番場の忠太国久を討たんと廓を脱出。その途中、じっこんの仲の曽我十郎祐成と会って3人で五郎時宗の許に。時宗は母の勘当を許されて、兄とともに親の仇討に出立、母は兄弟に小袖を贈る。虎らは富士の狩場で土民に扮して国久に近づき、首尾よく父の仇を討つ。 |
| 元禄10年(1697) 宇治座 | 「曽我七以呂波」(そが ななついろは) |
曽我兄弟の敵討ち前の苦心談を中心に、兄弟を助ける虎御前を一分を守って意気地を貫く遊女として描くなど廓情緒も濃厚。平範頼が兄弟の援助者として活躍する。竹本座では「義経追善女舞」と題して上演。 |
| 同 | 「吉野忠信」(よしの ただのぶ) |
判官物。義経の忠臣・佐藤忠信が逆境に立たされた主君を守って、頼朝勢と奮戦する話に、遊女若紫、花紫が登場し廓風俗もからめて描く。義経が色好みの当世風男に仕立てられているのが特色。 |
| 同? | 「十二段」(じゅうにだん) |
浄瑠璃の源泉となった「浄瑠璃姫物語」を骨子として、謡曲などの趣向を織り込む。牛若丸と金売り吉次の奥州下りやその途中の浄瑠璃姫との出会いなどを経て、牛若丸改め義経の挙兵までの経緯を描く。 |
| 元禄12年(1699) 宇治座 | 「最明寺殿百人上臈」(さいみょうじどの ひゃくにんじょうろう)」 |
上下2巻物。上巻は最明寺殿こと北条時頼が諸国行脚に出たすきに、弟・時定が時頼の子・天女丸(時宗)を討って政権を奪おうとするが、却って滅ぼされる話。下巻は雪の夜、隠棲中の佐野経世の留守宅を訪れた時頼が、妻女から秘蔵の鉢の木を火にくべてもてなしを受ける「女鉢の木」の話になっている。この院本を読んだ霊元法皇が、歌人として名高い公卿らを前に「いずれも秀才なりといへども、近松とやらんには劣れり」と言った(「南水漫遊」)とか。 |
| 同 | 「日本西王母」(にっぽん せいおうぼ) |
桃園染五郎豊舟は大納言の次女・二位姫と会って相思相愛の仲となり、一子をもうける。ところが豊舟は、二位姫の父に容貌醜悪な姉・薄雲御前と結婚させられそうになり、逃げ出したが、二位姫との関係を知って嫉妬に狂った薄雲は、二位姫を絞め殺し、その薄雲を怒った豊舟が殺す破目になる。豊舟は身の不幸を歎いて剃髪、仏の教えに心を開くという話。西王母とは中国で古く信仰された女仙。 |
| 同 | 「曽我五人兄弟」 |
曽我物。5段物の各段に十郎と虎、二の宮の姉、五郎と少将、弟の禅師坊、異父兄の京の小次郎の5人兄弟を配し、さまざまな趣向をこらして敵討までの動向を追う。全体の筋より各場面の趣向が面白い。 |
| 元禄13年(1700) 宇治座 | 「団扇曽我」(だんせん そが) |
曽我物。富士の裾野で曽我五郎が敵方に怪しまれ、「勧進帳」よろしく「傾城請け状」を読んで危機を免れる趣向、兄弟討ち入り後、遊女の虎と少将が団扇(うちわ)売りの姿になって、兄弟の母に仇討ち成就の知らせにかけ参じる趣向が特色。 |
| 同 | 「百日曽我」 |
曽我兄弟の5百年遠忌物。「団扇曽我」の5段目を書き改めて、改題したもの。2段目の節事「傾城請け状」が好評を博すなど景事多く、変化に富む作品。「浄瑠璃譜」に「大入りにて百日余りも勤める故、縁起を以って百日曽我と改める」とある。 |
| 元禄14年(1701) | 「天 鼓」(てんこ) |
元禄12年宇治座で上演された「丹州千年狐」を改題し、竹本座で上演したもの。楽人の娘・おもだか姫と、家宝の千年狐の皮で張られた鼓をめぐるお家騒動。伯父ら悪人が再三、鼓を奪おうとして姫を苦しめるが、その都度、姫の愛人や家来が現われて助けるという構成。近松が歌舞伎作者として最も活躍していた時期に上演されたものの一つ。 |
| 宝永2年(1705) | 「用明天王職人鑑」(ようめいてんのう しょくにんかがみ)」 |
からくりが得意の竹田出雲が竹本座の座本となり、新体制で取り組んだ近松中期の代表作。出雲の興行方針を大胆に取り入れて、道成寺系の「鐘入りの段」など人形や舞台装置にからくりを多用し、興行的に新工夫した。 |
続いて次の30編へ
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