短編:11月の裏松姫

短編シリーズ2

紅葉の峠
「紅葉(モミジ)でも植えればよかったな」
松姫峠はどこか我々の「聖地」みたいな場所で、一気に1000m登るこの壁坂は今も濃厚に記憶に残る。
これまで、何度も来たこの峠。でも裏側からアクセスすると、また違った顔を見せている。

裏から登る・・・と言うのは、私の場合、北側から登る事を示す。
この日の松姫は紅葉が訪れ始め、モミジは赤々と染まり、楓は黄色味を帯び始めた。
ランナーズハイの中、足は悲鳴をあげるが脳内はまだ余裕があるので景色ばかり眺めている。

いくつ曲がっても終わらない峠。足は「早く終わってくれ」と願うが目は「まだまだこの眺めを見て
いたい」と訴える。

そのうち、足の限界具合が末期を迎える。
惜しいことに脳内は足の限界指令を受け取って、「もう終わりにしてくれ」といい始めた。

そんなころに峠に到着。
心身ともイッパイイッパイになっていたので、貧血気味になりながら道端に座り込む。
しばらくの間、動かない「峠地蔵」になる。

しばしの休憩の後、下りながら「いつか見た景色は、変わっていくものだな」と感じる。
知らぬ間にダムが出来上がり、道は広くなり、直線的な道が続く。
あのくねくねした峠は、こんなに立派になったんだな。

帰りの電車で外を眺めながら思う。
「あのモミジ、ウチにあったらな」
・・・でも、ウチにモミジがあってもこの感激はないのだろうな。
そう思い直す。

【短編なので完】

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