「辺野古海上基地ボーリング調査差止請求事件」訴状


訴 状


2004(平成16)年12月27日
那覇地方裁判所民事部 御中
原告ら訴訟代理人 弁護士 池宮城紀夫
             他 29名

原告の表示     別紙原告目録記載のとおり(68名)
原告代理人の表示  別紙原告代理人目録記載のとおり
被告の表示
    〒100-0013  東京都千代田区霞が関1丁目1番地1号
           被 告  国
           上記代表者法務大臣 南野知恵子
(送達先)〒900-0022  沖縄県那覇市樋川1丁目15番地15号
            那覇地方法務局訟務部門


辺野古海上基地ボーリング調査差止請求事件


    訴訟物の価格  金160万0000円
    貼用印紙額   金  1万3000円


 請 求 の 趣 旨


被告は、別紙目録記載のボーリング調査を続行し、弾性波探査を行ってはならない。
訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求める。


 請 求 の 原 因

第1 当事者

 1 原告

(1)久志地区に居住する原告

 原告目録<1>記載の原告らは、別紙目録記載の地質調査(ボーリング調査及び弾性波探査、以下「本件ボーリング調査」という。)の実施地点に近接する沖縄県名護市久志地区に居住する者である。
 このうち、原告東恩納琢磨及び原告西平伸は、本件ボーリング調査地を含む辺野古沖海域(以下「本件海域」という。)及びその周辺一帯の豊かな自然を一般市民に体験してもらうエコツーリズムを業とする者である。

(2)名護市内に居住する原告

 原告目録<2>記載の原告らは、沖縄県名護市内(久志地区を除く)に居住する者である。
 このうち、原告大西照雄は、本件海域及びその周辺一帯の豊かな自然を一般市民に体験してもらうエコツーリズムを業とする者である。

(3)本件海域近隣で漁業を営む原告

 原告山城善勝(原告目録<3>)は、国頭漁業協同組合に所属する漁民であって、本件海域の周辺において漁業を営む者である。

(4)その他沖縄県内に居住する原告

 原告目録<4>記載の原告らは、沖縄県民であり、平和を愛し、本件海域を含む沖縄の自然を享有する者である。


 2 被告

 被告は、本件ボーリング調査の実施主体であり、具体的には、被告の一機関である防衛施設庁が本件ボーリング調査を実行している。


第2 本訴訟の目的


 1 序論

 本件ボーリング調査は、沖縄県宜野湾市に存する米軍普天間飛行場(以下「普天間基地」という。)の代替施設と称する、辺野古海上基地(「以下「本件新基地」という。)建設の一環をなすものである。
 本件新基地建設は、米軍基地の過重負担にあえぐ沖縄県民に新たな基地負担を押しつけるものであると同時に、豊かな自然環境が奇跡的に残る本件海域及びその周辺に壊滅的な破壊をもたらすものである。
 2004年8月13日、普天間基地所属のCH-53D型ヘリコプターが同基地に隣接する住民地域に墜落炎上した事故が顕著に示す通り、直ちに閉鎖しなければ市民の生命に対する具体的かつ差し迫った危険を回避することが不可能な普天間基地を継続使用したまま、その代替基地と称して、辺野古地先を埋め立て、海上基地を建設しようと、本件海上ボーリング調査が強行されている。沖縄県民は、日常的に繰り返される、爆音、汚染、その他の基地あるが故の様々な被害にさらされ続け、米軍人軍属による、女性や子どもたちの尊厳をまで脅かす犯罪の繰り返しに対して、基地をなくせと求め続けてきた。
 本件新基地は、その規模、機能をとってみても、普天間基地の代替基地に止まるものではなく、沖縄の本土復帰後、はじめて日本政府によって強行されようとする、新たな米軍基地の建設であり、沖縄への新たな米軍基地の押しつけに外ならない。

                  
 2 沖縄の基地負担

(1)沖縄県は、琉球列島と呼ばれる鎖状の列島で構成された日本最南端の県であり、沖縄、宮古、八重山の3つの諸島に分類される72の島からなっている。
 総陸地面積は神奈川、佐賀と同等で約2265平方キロメートル、日本の総陸地面積のわずか約0.6%にすぎない。
 沖縄本島の陸地面積に限れば、約1180平方キロメートル、日本の総陸地面積の約0.3%にすぎない小さな島であり、そこに、広大な米軍基地が存在するのである。
 県土面積に占める米軍基地の割合は、11.3%だが、これは基地のない西表島なども含むためであり、沖縄本島に限ると、20.2%を米軍基地が占めていることになる。
 県下53市町村のうち、基地を抱える市町村は25市町村、自衛隊基地を併せると33市町村が基地を抱えることになる。
 本土における、県土面積に対する基地面積の割合は、静岡県の1.2%が最大で、その他は1%にもみたない。この事実は、沖縄がいかに過重な基地負担を強いられているかを如実に示している。
 そして、基地の重圧に苦しめられる沖縄に、さらに広大な新基地建設を強行するものが、本件新基地である。

  (2) 沖縄の基地形成過程

 <1> 沖縄に存する「異常に広大な基地」を理解するには、その形成過程を無視することはできない。
 沖縄は、太平洋戦争において、「本土防衛・国体護持」の捨て石とされ、皇軍は、住民を盾として長期にわたる消耗戦を展開した。
 戦闘は凄惨を極め、住民の犠牲は16万人を越えた。その中には、強制された集団死やスパイ嫌疑による斬殺など、皇軍の犠牲となった多くの住民が含まれている。
 これらの背景には、琉球処分と、異常なまでの皇民化教育という沖縄の特異な歴史がある。

<2> 沖縄に上陸した米軍は、旧日本軍が建設した軍事基地を次々と占領し、住民らを収容所に収容した状態で、軍用地として必要な土地を占領していった。住民は、接収を免れた土地にしか帰ることができず、戦後60年を越えた今日に至るも、未だ多くの人々が自らの土地に立ち入ることすらできない状態が続いている。
 1951年、講和条約締結により日本の占領状態は終結したが、それと引き換えに、沖縄は県民の反対を無視して日本から分離され、米軍による排他的軍事支配下に置かれた。
 沖縄は、軍事的拠点、「要石」として要塞化の道を歩まされ、その後今日まで、住民は基地あるが故の様々な被害と人権侵害を受け続けることになる。

<3> 沖縄県民は、日本国憲法制定後も、その保護から排除されて米国の軍事支配下に放置され続け、人としての基本的人権も無視され続けた。
 「諸悪の根元」と言われる米軍基地の接収の根拠は、実質的な軍政府であり、絶大な権限で沖縄を支配した米国民政府が、沖縄統治の為に出した「軍命」である布告、布令であった。
 米民政府は、これらの法令を発して、軍用地として「必要な土地を、必要なだけ」、沖縄県民から接収し、奪い取っていったのである。

 ア 講和条約発効前米軍は、ヘ?グ陸戦法規を根拠に接収をおこなっているが、そもそも同条約は、戦闘継続中に関する規定であり、戦闘終了後はすみやかに返還することを求めているのであって、米軍による土地接収が国際条約に反することは、明白である。

 イ 講話条約発行後、米軍は、日本の独立と引き替えに「売り渡された」「施政権」に基づいて、土地収用、使用に関する一連の布告、布令等を連発した。

(i)布令91号「契約権」(1952.11.1)
 同布令は、琉球政府行政主席が土地所有者と土地賃貸借契約を結び、自動的に米国政府に転貸されることと扱うとした。
 しかし、県民の反対にあって契約をすることができなかった。

(ii) 布令109号「土地収用令」(1953年4月3日)
 この布令によれば、収用告知後30日以内に土地所有者は土地を米軍に譲渡するか否かを回答しなければならない。
 拒否する事はできず、応じなければ、30日の経過により収用宣告が発せられ、土地に関する権利は米国に帰属する。
 さらに、上記期間中といえども必要があれば直ちに立退命令を発することができるという、明白に違法かつ極めて強権的な土地強奪令であった。
  しかし、このような簡単な手続でさえも現実の運用面では守られず、銘苅部落の土地接収の場合など、収用告知書が村当局に届いた翌日、武装兵による強制収用が行われたのである。
 真和志村安謝、銘苅、小禄具志、伊江島真謝、宜野湾伊佐浜が次々と接収されていった。
 「銃剣とブルドーザー」による土地収奪が行われていったのである。

(iii) 布告第26号「軍用地域内における不動産の使用に対する補償」(1953.12.5)
 「黙契」(implied lease)により借地権を取得したと擬制するというものであり、米国の土地を保有する権利は、不可侵であり、米国は自らこの権利を登記することができるというのである。

(iv) 布令164号「米合衆国土地収用令」(1957.2.23)
  土地の使用料として地価相当額を一括して支払い、そのかわりその土地を無期限に使用するという、いわゆる「一括払い方式」を盛り込んだのである。
  しかし、県民は猛然と反発して、「アメリカ合衆国による土地の買い上げまたは永久使用、地料の一括払い」に反対し、「島ぐるみ闘争」に発展していった。

    (v) 布令20号「賃借権の取得について」

  同布令は、琉球政府が土地所有者と契約し、契約が成立すれば、琉球政府が合衆国と統括賃貸借契約を縮結して転貸するのを原則とするが、契約締結できなければ、高等弁官が収用宣告書を提出して強制収用することができる。
  米国が緊急に使用する必要のある場合は、いつでも「即時占有譲渡命令」を発することができるというものである。

ウ このように、米軍基地の形成は、極めて違法不当な土地強奪によっておこなわれたものである。
  しかし、復帰前、日本国政府は、沖縄県民に対して何ら日本国憲法に基づく、「保護の責に任ずる」ことはなかった。
  日本政府は、沖縄の施政権返還に際して、国際法及び日本国憲法に違反していることが明白な米軍基地をまず県民に返還し、日本国憲法の適用の実効性をはかり、違法状態を解消すべきであった。
  ところが日本政府は、.違法に強奪された米軍基地の継続的存続を容認し、「公用地法」によって違法状態を追認し、さらに、米軍用地収用特措法によって強制使用を継続することなったのである。
  このような国家による違法行為の継続が、今日まで広大な基地を存続させ続け、他府県と比較しても異常に広大な米軍基地を沖縄県民に押しつけ続けているのである。

 (3)本件新基地の特徴

 (1) 本件新基地建設は、もともと名護市東側に存在するキャンプ・シュワブ及び辺野古弾薬庫と一体となり、効率的な軍事行動及び訓練を可能とする海上基地を新設するものであって、老朽化した普天間基地施設に代わって最新の技術を投入した新施設を建設するものである。極めて危険性が高く、普天間基地に配備が困難な、垂直離着陸機オスプリの配備すら予定されている。
 これは、沖縄県に新たに恒久的な米軍基地を建設することを意味し、沖縄県民の悲願である米軍基地負担軽減とは相反する、新たな基地負担の押しつけであることは明白である。

(2) 本件新基地は、辺野古弾薬庫、キャンプハンセン、キャンプシュワブと一体のものとして、広大かつ強大な海兵隊基地を構築することになる。

 ア 辺野古弾薬庫
   キャンプシュワブに隣接し、二重フェンスに囲まれたNBC弾薬庫がある。核、化学兵器の整備能力を持つ部隊が駐留し、弾薬庫内に探知機代わりのヤギが放し飼いにされている姿が撮影されている。

 イ キャンプハンセン、キャンプシュワブ
 連続する広大な演習基地である。
 戦車、装甲車を陸揚げし、戦車砲の訓練がおこなわれる。毎日のように、小銃、機関銃等の小火器の訓練が繰り返されている。
 辺野古の海には、波の音とともに、機関銃を連射する音が響いてくる。砲弾の射程距離内に住民地域があり、住民地域に銃弾が打ち込まれる事故も頻繁に生じている。
 北部の水源涵養林を切り倒し、赤土を海に流し込む元凶となっている。

(3) 米地上軍の日本本土からの撤退と、沖縄への基地集中化

 1957年、アメリカは、日本から一切の地上戦闘部隊を撤退することを約束した。
 しかし、日本から撤退した地上戦闘部隊、とりわけ海兵隊は「日本でない沖縄」に移駐した。日本本土の米軍基地は、1952年の安保条約成立から1960年の改訂までに4分の1に減少したが、その負担は沖縄に担わされ、沖縄の米軍基地は2倍となったのである。
 キャンプハンセン、キャンプシュワブ、北部訓練所などの北部海兵隊基地は、日本本土からの地上戦闘部隊の移駐先として新たにつくられていった基地である。これらの海兵隊基地が沖縄の米軍基地の半分以上を占めている。

 (4) 「SACO合意」を口実とする新基地建設

 ア 住民地域に存在し、世界でも最も危険な普天間基地を返還する条件として、本件新基地建設が要求されている。
  しかし、その実態は、単なる基地移設ではなく、老朽化した基地機能を更新した、「新たな基地建設」を目的とするものである。

  イ 1997年9月22日、アメリカ国防省は、「日本国沖縄における普天間航空基地のための国防総省の運用条件及び運用構想」を出しているが、その中には、オスプリの配備が第1に考慮されている。

  ウ 米軍は、復帰前の1965年にすでに「沖縄内における施設の移転可能」と題した書面で、辺野古地先海上基地を予定していた。普天間基地返還を口実に、米軍の新基地計画案が実行されようとして
いるのである。

 (5) 仮にこのまま本件新基地が建設されれば、周辺住民は、現在普天間基地近隣住民が苦しんでいるのと同じ恐怖を感じ、被害を受けることになる。また在沖米軍は、基地提供施設内にとどまらず、沖縄県内の公共道路を利用し、沖縄県周辺の広範な水域・空域を訓練等に使用しているのであって、その他の沖縄県民にとっても、現在受けている加重な基地負担が恒久化されることを意味する。

(4)在沖米軍基地の機能

 (1) 在沖米軍は、日米安保条約上の駐留目的さえ超えて、世界的な米軍の活動拠点となっている。そして、米軍が現在イラクにおいて展開している軍事活動にも、在沖米軍基地から部隊が派遣されている。
 今般のイラク戦争は、アメリカ・イギリスの国際法違反が明白であり、現在もイラクにおいて多くの罪のない人々が米軍によって虐殺され続けている。そして被告は、このようなアメリカの活動を支持し続け、自衛隊をイラクに派遣することによって米軍の行為に荷担している。
 このように、沖縄を拠点とする米軍がイラクを揉欄していること、しかもかかる行為に被告が荷担していることによって、心を痛めている沖縄県民も決して少なくないところである。
 本件新基地建設は、このような米軍に対し、新たに最新鋭の活動拠点を提供することになるのである。


3 本件海域及びその周辺の豊かな自然

(1)沖縄の自然とその特質

 沖縄県は琉球列島(または琉球弧)と言われる北緯30度50分から24度付近に至る弧状の島嶼に属する。琉球列島のうち、鹿児島県側の島嶼は大隅諸島、トカラ列島、奄美諸島に分けられ、奄美諸島は主に奄美大島、徳之島、沖永良部島、与論島からなる。沖縄県側の島嶼は、沖縄諸島、宮古諸島、八重山諸島などに分けられる。
 沖縄島など、琉球列島の奄美大島以南には、中国大陸起源の古い動植物が遺存的に残っており、また、他では見られない固有種も多く、生物地理上の特異な地域であり、生物多様性の観点から極めて重要な地域で、東洋のガラバゴスとも讃えられ、世界自然遺産の候補地でもある。
 しかしながら、近年においては、本土復帰後のリゾート開発や公共事業、パルプチップや開発のための森林伐採などにより、沖縄の海も山も現在は著しく荒廃している。沖縄島周辺のサンゴは既に95%以上が死滅したとさえ言われる。

(2)本件海域の自然

 このような危機にある沖縄の自然にとって、本件海域及びその周辺は、奇跡的に良好な自然が残されている地域の一つである。ジュゴンのような草食の大型海洋哺乳類が生息すること自体、本件海域及びその周辺の自然度の高さを示している。
 本件海域にはリーフが存在し、リーフ内の一帯にはアマモ等(海草)が藻場を形成している。海草の群落は、海の生物の産卵場であったり、稚魚が成長する場でもあったりして、海洋生態系の保全上も極めて重要である。また、海草はジュゴン、ウミガメの餌ともなっている。
 本件海域は、以上のような自然保護上の重要性に照らし、沖縄県の「自然環境の保全に関する指針(沖縄島編)」により、評価ランク(i)の「自然環境の厳正な保護を図る区域」に指定されている。すなわち、本件海域は、同指針の「図面番号14」中の「沿岸区域番号3・4」の海域に含まれるが、いずれも「保全性分級区分名」が「自然環境の厳正な保護を図る区域」とされており、その「自然環境」として「辺野古地先に藻場(約173ha)が分布する」ものとされている。評価ランクは(i)から(iv)まであり、評価ランク(iv)の地域は自然保護が最も厳しく要請されるものである。

(3)沖縄ジュゴン

  本件海域及びその周辺は、地球上のジュゴン生息区域の北限に当たり、日本国内で唯一の生息地である。ジュゴンは、骨の出現や伝承などから、かつては奄美大島以南に多数棲息していたが、現在では、沖縄島中部以北の本件海域等にわずか数十頭の個体群のみを残すのみとなった。この地域個体群は北太平洋の他の個体群とは孤立しており、フィリピンなど他の地域個体群とは遺伝的にも異なる可能性があると指摘されている。法的には、文化財保護法上の天然記念物、種の保存法上の国際稀少野生動植物種、鳥獣保護法上の保護鳥獣、水産資源保護法上の捕獲禁止対象種に、それぞれ指定されている。しかしながら、沖縄に生息しているジュゴン(以下、沖縄ジュゴンとも呼ぶ)は現在絶滅の危機に瀕している。
  一般にジュゴンは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドデータブックによると、「絶滅種」「野生絶滅種」「絶滅危機種」「準危急種」のうちの「絶滅危機種」とされ、「絶滅危機種」の中では、「危急種」(野生状態で中期的に絶滅する危機をはらんでいる種)に分類されており、世界の多くの場所で捕獲禁止とされている。ワシントン条約(正式名称「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」)では、オーストラリア個体群を除いて、最も厳しく規制される附属書(I)に属し、個体群の状態が比較的に良好とされるオーストラリア個体群でさえ、附属種?に属せしめられている。日本哺乳類学会は、沖縄ジュゴンについて、個体数が50頭未満であるとの判断のもとにIUCN基準上の「近絶滅種」(近い将来に高い確率で野生では絶滅に至る危機にある種)に相当する「絶滅危惧種」に指定している。水産庁の「日本の希少な野生水生生物に関するデータブック」でも、「絶滅危惧種」に指定されている。
  本件新基地建設は、直接にリーフや藻場を破壊し、建設工事に伴う土砂の流出は、日光を必要とするアマモなど海草類にも壊滅的な打撃を与えることになる。また、本件新基地建設による騒音・振動などは、ジュゴンやウミガメなどの野生生物に悪影響を与える。さらに沖縄ジュゴンは、リーフを横切り、リーフの内外を移動するという行動パターンで生活のサイクルを作っているところから、ジュゴンの行動を遮断する本件新基地建設は、餌の取得という生物にとって最も重要な作業を妨害することになり、ジュゴンに対して致命的な打撃を与えることになる。

(4)漁業に与える影響

 本件海域及びその周辺は豊かな漁場であるが、本件新基地建設は、直接本件海域を破壊するだけでなく、周辺海域にも悪影響を及ぼす。
 本件新基地建設のごとき巨大な埋立は、直接にリーフや藻場を破壊し、建設工事に伴う土砂の投入や流出は水質を悪化させ、サンゴを死滅させる。
 また、大規模な埋立により、潮流が劇的に変化することが予想される。
 そして、埋立面積の広大さ、破壊されるサンゴ礁や土砂流入の大規模さからすれば、上記のような本件新基地建設に伴う悪影響は、本件海域にとどまらず、周辺の広大な海域に及ぶと考えられる。


4 小括

 以上のとおり、本件新基地建設は、米軍基地の過重負担にあえぐ沖縄県民に新たな基地負担を押しつけるものであると同時に、豊かな自然環境が奇跡的に残る本件海域及びその周辺に壊滅的な破壊をもたらすものである。本件海域はジュゴンやサンゴの棲む豊かな海で、沖縄だけでなく世界の宝である。この宝の海を人殺しにつながる基地の建設によってつぶすことは断じて許されない。各種世論調査によっても、沖縄県民の大多数が辺野古沖への普天間基地移設に反対している。また、沖縄県内のみならず、日本中・世界中の人々が本件新基地建設及びそれと不可分一体の本件ボーリング調査に注目し、被告による強引な本件ボーリング調査着手に反対の声を上げている。
 ところが被告は、このような声に耳を傾けることなく、また環境アセスメントの手続きを経ることなく、本件ボーリング調査を強行し、そしてすでにスパット台船がサンゴ礁を踏みつぶし、単管足場によっても環境が破壊され始めている。
 本訴訟は、このような沖縄県内、日本国内、そして世界の声を代表し、本件新基地建設の違法性を明らかにしつつ、これと不可分一体をなし、かつそれ自体深刻な環境破壊をもたらし原告らの権利を侵害する本件ボーリング調査の差し止めを求めるものである。


第3 本件新基地建設計画の経緯及び本件新基地の概要


 1 本件新基地建設の経緯

 沖縄県宜野湾市に存する普天間基地は、人身事故の危険や近隣被害が著しかったことから、かねてよりその撤去が重要な政治課題であった。沖縄では、いわゆる少女暴行事件を契機に、1995年より基地反対運動が高揚し、その対応として、日米両国政府は、普天間基地に代わる施設が提供されることを条件に、その返還につき合意に達した。この代替施設として、本件海域、すなわち、沖縄県名護市辺野古沖に、本件新基地を建設することが決められたのである。
 その経緯を年代順に並べると以下の通りである。

1995年9月 沖縄少女暴行事件。それに伴う基地反対運動の高揚。
同年 11月 沖縄に関する特別行動委員会(SACO)設置
1996年4月 橋本・モンデール会談により普天間基地全面返還の合意
同年 12月 SACO最終報告発表。普天間基地返還の条件として、代替ヘリポートの建設条件などがまとめられた。
1997年12月 名護市住民投票。防衛施設局職員が約200名も動員されて住民意思決定への介入がなされたにもかかわらず、投票の結果、本件新基地受け入れ反対の住民が多数を占めた。これを受けて、大田昌秀沖縄県知事(当時)は本件新基地反対を表明した。
1999年11月 大田知事は選挙で敗れ、新知事である稲嶺恵一は基地移設受入れ表明。但し、軍民共用、15年後の返還を移設受け入れの条件とした。
同年 12月  名護市議会の基地移転促進決議、岸本建男名護市長による基地受け入れ表明。但し、沖縄県と同じく、軍民共用、15年後の返還を移設受け入れの条件とした。これを受け、政府は、「普天間飛行場の移設に係る政府方針」を閣議決定した。
 上記閣議決定の実施作業のため、国や沖縄県、名護市等の関係自治体で構成される代替施設協議会が設置され、同協議会において、具体的な意見調整が行われることとなった。開催経過は以下の通りである。

2000年8月25日 第1回代替施設協議会
 同年10月3日 第2回代替施設協議会
2002年7月29日 第9回代替施設協議会

 ここで普天間基地代替施設の基本計画が決定され、本件事業が具体的に進められることとなった。
 上記基本計画決定に基づき、2003年1月からは、建設作業を推進することを目的とする代替施設建設協義会が設置されて現在に至っている。

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