〜ジブリ天井画制作風景〜

2001年10月1日「三鷹の森ジブリ美術館」がオープンしました。この美術館は、ジブリアニメーションの作者、宮崎駿監督の夢の美術館といえるでしょう。
壁画LABOはこの美術館のエントランスホールの天井をフレスコで飾りました。

 

T <壁画のための模型作り>

ジブリ美術館のエントランスホール(通称ケーケハウス)は変形卵形ドーム天井で、約70平米あります。
おそらく日本で最大級のフレスコです。
何度かの原画の上での打ち合わせを経て、一枚の原画ができました。
原画の主題は「ジャックと豆の木」で、豆の木に様々な花や、果実や、虫や、アニメキャラクターが配されています。
仕事はまず下絵をいかにしてドームに写すかという議論から始まりました。
私達はまず、このドームのほぼ10分の1の模型を制作することにしました。

@ 作戦会議

A 模型のためにスタイロフォームをカットする。

B 接着して、模型を形成する。

C 石膏を塗り、下絵を貼り付ける。

D 監督の点検

U <下絵拡大>

次は下絵の拡大です。
下絵の拡大についても、投影機を使って拡大する方法や、コンピューターを使う方法なども検討しましたが、
一番アナログ的な手作業によって、人の手を使って、作品を作っていこうということに決定しました。
全部の下絵に色をつけて、東京映像社茨城倉庫の2階にある大広間に約1週間、6人から7人での合宿です。
下絵は70枚に及びました。40畳ほどの広間にすべての拡大図を並べ、となりとの関係を修復し、1枚の大下図を作り上げました。
造船にも使われるといわれる、極めて収縮の少ないフィルムを調達し、下絵を写しました。
下絵のアウトラインに沿って釘で穴あけです。
これは、フレスコの技法の中で、スポルヴェロという粉打ちのための穴で、下絵を画面に写すときに下絵の紙の上から、
粉を打つことによって、塗られた石灰モルタルの上にアウトラインの点線を写し取ることができます。
色についてはメンバーの意思統一をするために各色に番号を付けて、色番指定にしたがって着色をすることにしました。
色番指定は基本色だけで60を越えました。

@ 下絵拡大

A 原寸下絵を並べての作業

B 原寸下絵の上にフィルムをおいて穴あけ作業

V <制作に向けて>

壁に石灰モルタルを塗って、実物大のシュミレーションに取り組みました。
1日にメンバーが描ける面積を割り出すこと、必要な人数、色番指定による色の発色の具合など検討しながら、
原画の「豆の木」の幹の部分を描きあげました。こうして各自ばらばらだったタッチも統一しました。
さらに、モチーフの細かい部分図については、スタジオ・ジブリにお願いして、さらに詳しい絵を描いてもらって、
拡大に耐えられる状態を作りました。
主にキャラクターを描くメンバーも決まりました。
春にははりめぐらされた塀囲いの中で、巨大な穴だけが掘られていた三鷹の現場でも、工事は着々と進み、
鹿島建設との折衝です。巧左官の鈴木さんたちがフレスコのための下地の仕事に入りました。

@ 下図フィルムを使って実際の壁に制作

A ジョルナータ(1日分)2日目制作中

B パネルでの制作

C 色番指定のマップ制作

W <ジブリ美術館エントランスホール下塗りから描画壁まで>

5月30日から、美術館のエントランスホールのフレスコ画の下塗りです。
構造体は、トラスウォールという型枠を使わないで鉄筋をドーム型に組み、天井面にラスを張ってコンクリートを打ち込む構造です。
3次元アール面なので継ぎ目なしで一気に塗り付けます。
 
<下塗り使用材料>
食添用石灰 3袋
湿式消石灰 6缶
硅砂6号 4袋
白竜3厘 8袋
 
約3週間の養生期間をおいて6月24日から中塗りです。
 
<中塗り材料>
食添用石灰 3袋
湿式消石灰 6缶
白竜一厘 2袋
白竜二厘 8袋
白竜三厘 8袋
 
<上塗り材料>
食添用石灰 3袋
湿式消石灰 10缶
白竜一厘 2袋
白竜二厘 13袋
白竜三厘 13袋
 

@ 折り上げ天井部分 なめらかな局面にする。

A 全面にシノピア(下描き)をする。

B 太陽から描き始める。

X <制作現場>

メンバーは女性が多いので、女性たちの身長に合わせて、足場の高さを決め、
周囲には手すりをつけて安全な足場を組んでもらいました。
シノピア(中塗り)壁を塗る前の日、我々は、自分たちが作ってきた5枚に分割した大きな下絵が、実際の壁にうまくはまって使用できるものかどうか、
どこを中心に大下図を広げていけばうまくつなぐことができるのかを確認するために、実際の天井に下図フィルムを打ち付けてみました。
このシュミレーションは予想よりもうまくいって、ほっと胸をなでおろしました。
いよいよ描画です。まず折り上げ天井の中の太陽から。描き終わった時は夜中の2時を回っていました。
実はしかし、太陽は失敗して作り変えました。
それからその周辺部分へと描き進みます。描画チームは朝10時から仕事を始めるので、左官チームは朝7時前から壁つくりです。
左官には2人。描画は夕方の交代を含めて、1日に6人から8人、さらにキャラクターが入る日には9人ほどが制作しました。
今年は特に猛暑が続き、天井付近は40℃に近くなりました。
部屋のクーラーは壁の乾燥を防ぐために使用禁止、その上、ドアを閉めて仕事です。
「豆の木」の茎の部分にある腰壁にかかった葉は、石灰モルタルで盛り上げて、着彩しました。
70平米の大フレスコ天井画のでき上がりです。
 

@ 描画

A 腰壁の上にモルタルで葉を盛り付けて着彩

<左官レシピ 鈴木忠>
・腰板の上の葉の盛り上げ
まず長さ6センチのビスを10本ぐらい木製の腰板に打ち込み、ハイラス(硬い金網)を下絵なりに切り抜き、
針金でハイラスをビスにからめ、白セメントモルタルで下塗りする。
2日後、最終日に石灰モルタルを彫刻用のへらで塗り付け、その後着彩した。

B 完成

<終わりに>

こうして過酷で充実した3週間が終わりました。
『壁画LABO』のメンバーが集合してから長くて短い7ヶ月でした。
メンバーは人数が多いにもかかわらず、気持ちを一つにして天井に向かいました。
そして日本では、なかなか無い、フレスコのために作られた建築に出会うことができた我々は幸せでした。
東京藝術大学壁画研究室非常勤講師 壁画LABO主催 大野 彩
 
描画:正木浩司 小野塚香 五十嵐洋子 山成美穂 田原祥子 山形麻衣子
   佐藤賀子 中村雅子 中村友香 庄司涼香 好宮佐知子 本間佳子
   内山美香 森勝也 大岸法隆 森谷尚子 瀬谷豊 小野久美子
   野依幸治 三浦展行 土屋多加史 粂智子(順不同)
記録:平山路子 伊藤恵里
左官施工:(有)巧左官工芸(代表 鈴木忠 )
(有)左菊 (代表 鈴木一史)
左官助手:土屋多加史
プロデュース:大野 彩
 

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