膵臓のしくみと酵素
「膵臓」とは一体どのような臓器なのでしょうか。ここでは膵臓のしくみや働きについてまとめています。
膵臓の位置と形
膵臓は胃の裏にあります。背骨と胃の間です。そのわかりにくい位置のため、日本では江戸時代半ばまでその存在すら知られていませんでした。「五臓六腑」という表現に膵臓が含まれていないという事実は、よく本やサイトで引用されています。この位置のわかりにくさは、同時に治療の難しさにもなっているようで、ドラマなどで野心的な外科医が膵臓癌の手術を自らの技術の優秀さを示すためにすすんで行うといった設定がなされたりします。膵臓の形ですが、よく「洋なし」にたとえられています。横向きに位置しており、片方(膵臓の所有者から見て右側)がふくらんでいて、反対側がしぼんでいるという形状です。ふくらんでいる部分を膵頭部、しぼんでいる方を膵尾部、中央部分を膵体部と呼ぶようです。膵頭部は十二指腸に接しており、十二指腸内に消化酵素を送っています。
膵臓の位置や形を示すイラストはネットに多数ありますが、以下のものが鮮明でリアルであり、わかりやすいと思います。
@ 膵臓全体(膵島部、膵尾部など)・・・国立癌センターのサイトから
A ファーター乳頭、膵管、総胆管・・・情報処理推進機構 教育用画像素材集から
膵臓が持つ2つの働き 〜外分泌と内分泌〜
膵臓には2つの働きがあります。
一つは消化酵素を作り出し、食べ物の消化を促進する働きです。これを外分泌機能といいます。もう一つは血液中に糖分濃度をコントロールするホルモンを放出する機能です。これを内分泌機能といいます。
外分泌機能
膵臓は消化に関わる器官ですが、胃や腸と大きく違うのは、膵臓の内部に食物が通ることがないということです。膵臓はいわば側面から消化を促進します。食べ物が口から入って食道を通り、胃を通過したら次に十二指腸に入りますが、膵臓はそこで食べ物を待ちかまえていて、側面から「消化酵素、発射!」ということで消化を助けるのです。ちなみに「外」分泌という名称は、膵臓が酵素をはき出す十二指腸が、結局は口と肛門によって人体の「外」につながっているということから来ているそうです。
消化酵素
膵臓が分泌する消化酵素の量については、書物やサイトによってばらつきがありますが、最大幅を取ると、一日およそ0.7リットルから2リットルくらいになるようです。2リットルというと、2リットル入りペットボトル1本分なので(当たり前ですが)、かなりの量だという感じがします。
消化酵素の種類ですが、これもいろいろな種類が分泌されているようですが、よく以下の3つが挙げられます。
@ アミラーゼ・・・炭水化物を分解
A トリプシン・・・タンパク質を分解
B リパーゼ・・・・脂肪を分解
「炭水化物(糖質)」「タンパク質」「脂肪(脂質)」と言えば、「三大栄養素」と呼ばれているものです。膵臓が分泌する酵素は、体を維持するための最も基本的な栄養素の摂取に関わっているわけで、こういう点からも膵臓の果たす役割の大きさが感じられます。
アミラーゼ
この酵素は膵臓の状態を示す指標として最も一般的です。その理由は、
@膵臓で作られる酵素には、初めからその酵素のままで分泌されるものと、初めは「酵素の元」のような状態で分泌され、十二指腸など膵臓外へ出て、そこで別の分泌物と反応することによって初めて効力を発揮するものとがあるが、アミラーゼは初めからアミラーゼとして作られる酵素なので測定がしやすい。
A採取したアミラーゼは室温で長時間放置しても(実際にはすぐに測定しているようですが)数値の増減があまりないので扱いやすい。
というものです。
そういう理由から職場などの健康診断では多用される指標です。
この酵素の働きですが、記述のように、ごはんなどの穀類や砂糖に多く含まれる炭水化物(「糖類」)を消化するということです。
そんな便利で安定的な酵素であるアミラーゼですが、それを分泌する部位が実は膵臓だけではないということが、ちょっと複雑なところです。膵臓以外では唾液にも含まれており、また肝臓や腎臓など他の臓器からも分泌されるそうです。膵臓からと唾液腺からとでは分子構造が違うそうで、膵臓由来のアミラーゼを「Pアミラーゼ」、唾液由来を「Sアミラーゼ」として区別しています。膵臓の状態を示すのはもちろんPアミラーゼの方で、もしSアミラーゼが高いと別の疾病の可能性が高くなるようです。
基準値(正常値)は血清アミラーゼ(血中のアミラーゼ)で、
PとSの両方だと大体80〜240、
Pアミラーゼだけだと大体40〜110くらいです。
健診施設によりどちらを測定するかが異なるようです。
ちなみに急性膵炎や慢性膵炎の増悪期には、この数字が何千という値まで跳ね上がります。
アミラーゼの生成場所は唾液腺や膵臓などでしたが、アミラーゼの測定場所も血液中の他に尿中があります(「尿中アミラーゼ」、「尿アミラーゼ」)。
尿中アミラーゼの正常値は、
PとSの両方で100〜1000くらいです。
だいぶ幅がありますね。
血清アミラーゼと尿中アミラーゼの違いですが、血清アミラーゼは上昇も速いが低下も速く、尿中アミラーゼは血清アミラーゼより遅れて上昇し、高い期間もやや長いという傾向があります。
膵臓の検査で両方測ったら尿中アミラーゼだけが高いということがあるようです。それは血中アミラーゼだけが落ち着いて、尿中アミラーゼにはまだ異常が残っている状態であるということかもしれません。
しかし、尿中アミラーゼよりもさらに異常が持続するのが次のトリプシンやリパーゼです。
アミラーゼと検査についての解説サイト
トリプシン
トリプシンは、タンパク質を分解する酵素の一つです。タンパク質というと、私たちの体を作っている基本的な物質です。トリプシンがタンパク質を分解するなら私達の体のそのものを分解してしまいそうですが、それがそうならないような仕組みが人体にはきちんとできているようです。
膵臓はトリプシンという完成品を分泌するのではなく、トリプシンの一歩手前のトリプシノーゲンという物質を分泌します。その段階ではまだタンパク質を消化する作用を持ちません。ここで消化作用を発揮してしまうと、膵臓自体を消化してしまうからです。で、膵臓を出たトリプシノーゲンは、食べ物が胃を越えて十二指腸内に入ってくると「出動!」ということで十二指腸内に出て行くのですが、そこで待ちかまえているのが、十二指腸の粘膜から分泌されるエンテロキナーゼという物質です。エンテロキナーゼが、トリプシノーゲンと反応し、ここで初めて強力なタンパク質の消化作用を持つ「トリプシン」が生まれます。またトリプシンは、ただタンパク質を消化するだけではなく、他の多くの酵素を活性化させる役割があるらしく、「鍵酵素」などという異名もあるそうです。慢性膵炎の薬の代表格は「フオイパン」(主成分「メシル酸カモスタット」)ですが、これは「蛋白分解酵素阻害剤」と呼ばれています。
蛋白分解を行うトリプシンのような酵素の働きを抑えることで、同時にトリプシンが活性化させる他の酵素の働きをも抑えるということになるのでしょうか。またトリプシンは膵臓以外にはほとんど存在しない酵素でもあるので、膵炎の代表的な薬がそのような膵臓に特化した酵素をターゲットにしているということも理解できるような気がします。
トリプシンの正常値は100〜550ng/ml (RIA法)ということです。
リパーゼ
リパーゼは脂肪を分解する代表的な酵素です。さて、脂肪が胃を通過して十二指腸に送られると、まず胆汁が排出されます。脂肪は水に溶けにくい物質で、そのため胆汁の働きでまず「乳化」されます。そこで膵臓からのリパーゼが働いて脂肪を消化します。
リパーゼもアミラーゼ同様、そのままの状態で膵臓内に存在します。この酵素も膵臓に固有なのでリパーゼの異常は膵臓の異常ということにつながりやすいようです。
リパーゼの基準値は下は資料によって幅があり10から45位までで、上は50くらいです。ですから大きくとると10〜50IU/Lということでしょうか。もし急性膵炎になるとその値が4〜5倍に上昇し、慢性膵炎の時には2、3倍に上昇したまま持続するそうです。
リパーゼと検査についての解説サイト
内分泌機能
もう一つの内分泌機能については、膵臓の中に点在しているランゲルハンス島にある細胞が、血中の糖分濃度を上げるグルカゴンと糖分濃度を下げるインシュリンというホルモンを分泌しています。これらのホルモンは血液の中を流れるので「内」分泌と呼んでいるようです。膵炎の状態が長く続き、膵臓の細胞の荒廃が進むと内分泌機能も低下していきます。