慢性膵炎の種類
慢性膵炎を分類する基準としては、
@慢性膵炎の原因による分類、
A症状の重さによる分類
とがあります。
@原因による分類
<アルコール性慢性膵炎>
男性の慢性膵炎では7割前後、女性では1割前後の患者さんがアルコール性の慢性膵炎のようです。男性の慢性膵炎の患者が10名いたら、そのうちの7人がアルコール性で、女性患者10名だとアルコール性はほんの1名しかいらっしゃらないということですので、男女比のあまりの大きさに驚きます。私の知っている女性の患者さんも、ほとんどが非アルコール性です。しかし、患者の全体数も男性の方が圧倒的に多く、男女比はおよそ3:1だということです。一般的に男性の方が酒量は多いので、もしかすると男性患者の多さは、単に大酒家の数の差だけなのかもしれません。(男女比が3:1ということですから、仮に30名の男性患者と10名の女性患者がいるとして、非アルコール性患者の数を比べると、男性では30名−(30名×7割)=9名、女性では10名−(10名×1割)=9名ということになり、非アルコール性の患者は男女同数になります。)
どのくらいのアルコールを飲めば慢性膵炎が発症するかという目安については、もともとアルコールの摂取量を厳密に計測することなど難しいでしょうから大雑把な数値しか出ないように思うのですが、書物によると『ビール大瓶3本、または日本酒3合以上を7年以上』(「膵臓の病気」)、『30歳で1日3〜5合の日本酒にあたるアルコールを10年間飲んでいると』(「名医のわかりやすい膵臓の病気」)、『日本酒なら1日3合、ビールなら3本(大びん)を10年間以上』(「膵臓の原因と予防」)という量が紹介されています。ビール大瓶3本というのが共通する危険量のようです。ただし、その分量のアルコールを7〜10年間摂取する人が全員アルコール性膵炎になるというわけではもちろんなく、その中でもほんの1%ほどの人だとか。アルコール性慢性膵炎になってしまうとどうしても「ここまで飲んでしまった自分が悪いのか」と自分を責めてしまいがちになりますが、同じだけ飲んでいる人の99%はこの病気にならないのですから、なにか「事故」的な要素があるように思います。実際、発症の要因としてアルコールの量の多さだけではなく、アルコールとそれ以外の何かの要素が複合的に絡まっているのではないかという疑いもあるそうです。
そういえばブログやサイトに寄せられる皆さんの声の中には、もともとお腹が弱かったり、別の内臓の病気であったりといった人が多いということに思い至ります。私自身も子供の頃からよくガスがでる症状があったり、若い時から便がゆるいことが多かったということがあります。
元々お腹の健康にどこか不安定さをかかえている人が、酒好きで長期間その習慣を続けると非常に発症しやすくなるということなのかもしれません。
<特発性慢性膵炎>
膵炎に限らず医学用語では「原因不明」の場合に「特発性」と呼ぶ習慣があるようです。「原因不明性」や「原因不詳性」では名称としてカッコ悪いのかもしれません。もともと病気の中で原因がはっきりしているものはそんなに多くないような気がするのですが、慢性膵炎も特に女性の場合は特発性が大半を占めます。女性の場合、大体6割から7割が特発性です。もちろん女性の原因の第1位です。
<胆石性慢性膵炎>
膵炎の原因の第三位が胆石だそうです。女性では2割にも達するとか。胆管というものが胆嚢から出ていて、胆汁を運んでいるのだそうです。胆汁は消化酵素ではなく、膵液(これは十二指腸で活性化し消化酵素になります。)の活動を活発にする働きがあるそうです。胆管は膵臓の内部を通っていますが、一方で膵臓には膵管が通っていまして、この膵管と胆管が最後は合流して、十二指腸乳頭というところが出口となっているのだそうです。それで、胆石が出来たらどうして慢性膵炎になるのかということですが、この十二指腸乳頭という、膵管と胆管の合流部に胆石が詰まり、胆汁と膵液が出口を失って、そこで混じり合い、その刺激により本来膵臓内では活性化しないはずの膵液が活性化し、膵臓の細胞を傷つける(自己消化を起こす)というもののようです。また、胆石が詰まった状態で脂肪分を摂取すると胆汁がさらに分泌され膵管を逆流し、ダメージは膵臓全体におよぶということになるようです。
<遺伝性慢性膵炎>
遺伝子異常による膵炎というものもあるそうです。10歳代で急性膵炎を起こし、それを繰り返すうちに慢性膵炎へ進行するということが多いということです。
<自己免疫性膵炎>
日本膵臓学会では自己免疫性膵炎の診断基準を次のようにしています。
自己免疫性膵炎診断基準2002(日本膵臓学会)
1. 膵画像検査で膵管像で特徴的な主膵管狭細像を膵全体の1/3以上の範囲で認め, さらに膵腫大を認める.
2. 血液検査で高γグロブリン血症,高IgG血症,自己抗体のいずれかを認める.
3. 病理組織学的所見として膵にリンパ球,形質細胞を主とする著明な細胞浸潤と線維化を認める. 上記の1を含んで2項目以上満たす症例を自己免疫性膵炎と診断する.
素人にはとても難しい内容ですが、1については、前半は、膵臓の中心を走っている管である主膵管が3分の1以上の範囲で細くなっているということで、さらに膵臓が腫れているということのようです。(「膵腫大」とは「膵」が「腫大」しているということです。「膵腫」が「大」なのではなく。)2については、免疫機能、つまり我々の体に本来備わっている病原菌を細胞レベルで攻撃する機能に異常をきたし、それが血液検査によって明確な場合ということです。3は膵管ではなく、膵臓の肉の部分が傷んでいるということを言っているのではないでしょうか。線維化というのは「ほぼ全ての臓器に起こりうる慢性炎症の終末像として臓器機能不全の総称」[ステリック再生医科学研究所(http://www.stelic.com/jp/develop/project.html)]ということで、本来の膵臓の仕事ができなくなっている部分ということでしょうか。自己免疫性膵炎が他の膵炎と最も違うのは、免疫異常かどうかの検査が関わっているということです。なお、2002年に作られたこの基準もその後見直しが検討されています。
<腫瘤形成性膵炎>
「腫瘤(しゅりゅう)」とは「塊(かたまり)」ということで、炎症を起こした部分にかたまりが形成されるということのようです。この腫瘤は「腫瘍(しゅよう)」である膵臓癌との識別がとても難しいようです。腫瘤自体は癌ではないのですが、腫瘤が膵頭部にできると黄疸がでることもあり放っておくわけにもいかないようです。「腫瘤形成性膵炎」をネットで検索すると、医師向けに超音波検査やCTの画像における両者の識別の難しさの例としてよく紹介されています。
実際、腫瘤なのか腫瘍なのかは手術で腹を開いてみないとわからない、ということもあるそうです。
A症状の重さによる分類
症状の重さによる分類は本サイトの 「慢性膵炎の定義」のページでも紹介している「日本膵臓学会による診断基準(2001)」のなかで、「確診例」、「準確診例」、「疑診例」という分類が行われています。またその他に、その3つのどれにもあてはまらないと思われる「いわゆる慢性膵炎」という考え方もあるようなので、その4つについて簡単にまとめてみます。
<確診例>
医学的に厳密な定義は、日本膵臓学会診断基準の、「慢性膵炎の確診例」の項目に説明されています。確診ということなので内容としては、画像や数値に明らかに異常が見られる状態ということのようです。異常な主なポイントは@膵石の有無、A石灰化の有無、B膵管の拡張の有無、ということのようです。膵石がある場合は膵石症として慢性膵炎とは別の分類をすることもあるようです。
<準確診例>
日本膵臓学会診断基準の「慢性膵炎の準確診例」に説明がありますが、素人にはよくわからない内容です。確診例に比べると多少症状の明確さが劣る、ということでしょうか。確診例と準確診例との境自体があまり確信が持てる人が少ないのではないかしらん、と考えてしまいます。
<疑診例>
確診、準確診ほどの明確な異常は出ていないが、腹痛が長く続き、アミラーゼ、リパーゼ、トリプシンなどの膵酵素の異常がみられる場合には「慢性膵炎の疑診例」と呼ぶようです。実際には疑診の方は非常に多いように感じます。疑診でも腹痛の激しさは相当な場合があり、日常生活も正常におくることができない、ということもあるので、このはっきりした病気の状態に対して「疑診」などという中途半端な名称がつけられている、ということに対しては何か腑に落ちないものを感じます。もっとも医学会では「疑診」という言葉は、診断が確定出来ない場合には広く用いられてはいるようです。しかし、少なくとも患者の側に立った用語ではないですね。日本膵臓学会診断基準に紹介されている英語の"possible chronic pancreatitis"にはそのようなニュアンスはないと思うのですが。(初めに訳した人がその日本語を使った、ということだけなのかもしれません。)いずれにしても、個人的にはもっとマシな言い方はないのか、と思える名称です。
<いわゆる慢性膵炎>
この言葉を初めて知ったのは『膵臓の病気』(保健同人社 小泉勝)という本の中でした。ちょっと長いですがその部分を引用します。
『 "いわゆる慢性膵炎"とは、膵炎の強い疑いがあるにもかかわらず、診断基準を満たさないために慢性膵炎と診断できない症例に対して、筆者が用いている言葉です。便利な言葉であり、いくつかの場で使われていますが、医学の教科書には掲載されていません。
基本的には軽い上腹部痛・圧痛が持続または再発継続し、尿中や血清中の膵臓の酵素の異常(アミラーゼの上昇)をともなう症例で、慢性膵炎の診断の基準を満たしませんが、患者さんの膵臓には明らかに異常が認められます。なお、区別すべき重要な病気として、膵がんや心身的なものがあります。
多くの患者さん、そして医師がこの状態への対応に苦労しています。しかし、慢性膵炎へ進行する例はほとんどありませんので、適切な薬物療法や心理療法も含めた内科治療をじっくり行う必要があります。』(p72)
示唆に富む文章だと思います。またいくつかの疑問も残ります。疑問の一つは、この「いわゆる慢性膵炎」は「膵炎疑診」と同じことなのかということです。二つの説明を比べると血清中の膵液に異常があり上腹部への痛みがある場合ということなので、同じなのかもしれません。ひょっとすると「膵炎疑診」を言い換えたものなのかもしれません。そこがいまいちわかりません。疑問のもう一つは「慢性膵炎へ進行する例はほとんどありません」という部分です。これは、この症状にとどまっている人にとってはある意味勇気付けられる言葉かもしれませんが、果たして本当でしょうか。例えば私はアルコール性の膵炎疑診だと自分では考えていて、実際アルコールを口にすると膵臓に大きな痛みが来るので全くといっていいほど飲めないのですが、もし私のような人がそれでもアルコールを飲み続けた場合でも(そんな例は多いと思うのですが)、慢性膵炎には進行することがほとんどないのでしょうか。膵臓が荒廃していくことがない、という保証があれば私だって少々の痛みを我慢してでも飲みたいのですが、しかしそうだとはとても思えないのです。もう一つこの文章のポイントとして「心身的な」部分に触れているということです。説明の前半では「区別すべき重要な病気」として「心身的なもの」は別だとしていますが、最後の部分では「心理療法も含めた」とあり、この症状が心理と関わっている可能性を示唆しています。膵炎の病状が、心理的なものに大きく関わるということはいろんな方からのコメントにあり、私も実感しているのですが、そういうことに触れる説明があまり多くないのです。また、その点については「膵炎疑診」より「いわゆる慢性膵炎」の方が意味する範囲は広いということなのかも知れません。