この釣行記は、野釣りをはじめて1年目のできごとです。

この年は、一ヶ月以上あちこちのダムや川に通っていたのですが、5連続のボーズ。さすがに疲れ果ていました。正直言って、もう、野釣りはやめようかとも思っていました。

そんな時にパソコン通信の大先輩(たふまんさん)からお誘いがあり、飄助さんと突撃したのでした。



衝撃の「社(やしろ)池OLM」(兵庫県)


「あかんなぁ。これは……。」

悲しそうに、そして悔しそうに、たふまんさんがつぶやく。釣り台をセットしようとすると、足元にいつくかのタバコの吸い殻があった。

澄み切った水と小雨に濡れた新緑の木々、異常に近くから聞こえるウグイスのさえずりとは、確かに不釣り合いだ。ボクはヘラバッグの中から、ちょっと大き目のスーパーの買物袋を取り出した。いつもは帰り際に、でも、今日は釣る前から取り出した。釣り台をセットする前にゴミを拾ったのは、はじめての経験だった。釣り場へのたふまんさんの想いがヒシヒシと感じる。

「向かいに枯れ木が見えるやろ?でな、枯れ木のちょっと左側を狙うんや。」「右は藻があって、ナジミがでないから。」「タナは3本ぐらいや。」「竿は、18尺でええやろ。」ささやくように、だけどきっぱりとした口調で説明してくれた。ボクは、ただただ、うなずく。景色を見ることや、方向を確認する余裕は、まったくない。

「もうちょと前や、釣り台は。」釣り台を20cmほど前に、ずっ、と押し出されたときボクは一瞬、未知の世界に一歩踏み込んだ気がした。
とりあえずハリスは、1.5号を巻いた。長さは、よくわからない。最初に、上針にヤラズ8号、下針にヤラズ6号をチョィスした。餌は、両グル。「麩のバラケは、いらん。」という。

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「40上のヘラとは言え、1号のハリスが、ほんとに切れますかねぇ?」
「道糸2号、ハリス1号ってとこでいいんじゃないの?」
「丈八で3本のタナがあれば、そうはノサれることはないんじゃない?」
「ま、切れたら考えれいいんじゃない?」
「正解かもね。」

約束の待ち合わせ場所で、たふまんさんと合流する前に関西・中部連合が鳩首会談で出した結論だった。ボクはもちろん、何も分からない。
だいだい、野のヘラで40上なんて、水槽以外で見たこともない。

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「最低、1時間は我慢しなあかんで。勝負は午前中や。」

藻刈りをしている朝太郎さん、まきさんの隣りで たふまん さんが言っているのが聞こえた。こんどは、ちょっと大きめの声だ。離れたボクにもよく聞こえた。姿は見えないがすぐ側にいる飄助さんにも聞こえているはずだ。

約束の1時間が経過した。それまで、浮子はピクリともしない。
「今日は、クマワンさんが一番最初に、いい場所に座ってや。たふまんさんよろしくね。」
「今日は、絶対に釣れるよ。頑張ってや。」
釣り場に着いた時に、朝太郎さんとまきさんが励ましてくれた。ともかく、野の釣りをはじめて1年目。これまで、5連続のボーズを食らってる。内心、うんざりし始めていた。

と、突然、ナジミ際にさわりがあった。それまでとは、まったく違う浮子の動きだ。じっと見ていると、不自然なモドシ。そしてクッ、と押え込む。

ガツン!!!

手応えがあった。
ん??根がかりかな?と思ったら、グッ、ググ〜、と穂先が水面に引き込まれる。なんだ、こりゃ??

と、突然、力が抜けてしまった。手元にカラ針が戻ってくる。あれ?なんだ???え?
上針のチモトのところが切れている!!まるで何かに食いちぎられたように。
  んなアホな??急いでハリスを巻き直す。今度の針は、ヤラズ9号。3投ほど餌打ちをしたところで、浮子のナジミが不自然になった。トメだ!!!。

ナジミきったところで、今度は浮子がゆっくりと上がっていく。食い上げだ。!!!

はやる気持ちを押さえる。まだだ。まだだぞ。ほんとにヘラの食い上げなら、そっと合わせるんだぞ。もう、ちょっとだ。えぇ?浮子のボディが出てしまった。!!!

ゆっくりと竿を上げた。 ガツン!!!!

さっきと同じ手の感触だ。竿がのされる。「キッ、キュ、キュ、キュー」。2.5号の道糸が糸なりする。片手では体が前につんのめってしまう。な、なんじゃぁ、こりゃあ!!両手で竿を立てようとしたが、思うようにいかない。

「あ、クワマンさんが、絞ってる!!!」まきさんの声が聞こえた。
「あわてちゃ、いかん。もっと沖で泳がせて!!!」朝太郎さんか?
「そうだ、竿を立てるんだ!!!。」誰???
「がんばれ!!!」どこの人????????

右手で竿尻を強く握り、左手でそのちょっと上を持つ。腰がひけている。
バシャ、ゴボッ!!!やっと正体を現した。ヘラだ。しかも、でかい。慣れない手つきで、振り出しの玉網を左手に持つ。グッ、グググ〜。ガバッ〜!!!右手だけに竿を持ち替えたとたんに、また、暴れだした。

見ると竿が真ん中くらいから、水面に向かって折れ曲がっている。また、左手を竿に添えざるを得ない。今度は、目の前にある藻の中に突っ込んでいこうとする。また、最初からやり直しだ。

「ゆっくりやでぇ!!」「慌てるなぁ!!」
もう、誰が誰だか、わかんない。
ガボッ、ガボッ。やっとのことで顔を出した。はっきり見える1.5号のハリスは、口のなかに吸い込まれていた。

再び玉網ですくおうとした。ともかく、足元は藻が群生していて、魚を寄せることはできない。どんなヘボでも、柄の長い玉網を使わざるを得ないのだ。すくえない!!??
玉網を持つ左手が震えている。右手も震えている。膝も震えている。せっかく目の前に見たこともない大きさのヘラがいるのに、手が震えて取り込めないのだ。落ち着け、落ち着くんだ。と自分を励ます。

やっとのことですくったヘラは、玉網からはみ出している。ヤラズ9号の針は、がっちりとかかっている。「早くしてよ〜。」後ろに、いつのまにか、飄助さんが来てくれた。
記念撮影のために一ヶ月にしてやっと出番が回ってきたボクのカメラを持って、今や遅しと構えてくれている。

と、針がはずせない!!!
右手の震えは、極限に達している。気が付くと膝がわらっている。走ってもいないのに。

「クワマンさんに、足が震えるような野のヘラをあげてもらいたい。」と、ことあるごとに言っていた飄助さんの言葉を思い出す。
今だから正直に告白するが、たかがサカナを釣っただけで、そんなことはあるんだろうか、と思っていた。「巨ベラ」に本当にハマるんだろうか、とも思っていた。
現実は、YES、だった。ともかく、情けないとは思ったが、震えて針がはずせなかったし、魚体を手にとると、アタマ中が、真っ白になった。重い。指先まで震えることって、ほかにあるんだろうか、と思った。

でかいなぁ。検寸しようよ。」飄助さんがカメラを片手に寄ってきた。

!!!!!!43.5cm!!!!!!!

野の釣りで40上を釣ってしまった。しかも、本日、一発目のサカナ。自分でも信じられない。今までのボーズの辛さは、全部、すっとんだ。タナボタだろうと、出会い頭だろうと、釣れてしまったのだ。

でも、よくよく考えると、ただの「まぐれ」とは、違うと思った。手取り足取り、何から何まで準備万端。これで釣れないの?とも、ちと違うと思った。

「巨べら」に立ち向かうときは、その情報の収集、分析、実践、評価、そして的確な戦略と周到な作戦の展開。そしてサカナへの、釣り場への思いやり。これらがすべて合体したときにチャンスが生まれる。ただ漫然と糸を垂らしていただけでは、「巨ベラ」に出会うことができない。と、思った。

「社池」の40上は、たふまんさんが導き出した集大成なのだ。そしてそれが今回のボクの「まぐれ」を生み出してくれたんだ、と思う。
残念ながら、ボクはこれらのいずれにも貢献していない。ただここに来て、40上を釣っただけだ。いつかは、ボクも貢献できるのだろうか。

「なんや〜?」「一発目のアタリで、1号のハリスが切れたで〜」「どうなってんや。」まきさんが叫ぶ。「ひゃ〜、2号の道糸が、飛んだぁ〜〜。」1号のハリスを飛ばされてすぐ、飄助さんがまた、泣いている。これらを見て、にこにこする、たふまんさん。

朝、半信半疑で結んだ1.5号のハリスは正解だった。43.5cmを釣ったその直後、また、釣れた。ナジンで、ちょっとモドシて「ツンッ!!」と一節浮子が入った。

「ゴクン、ゴクン、ゴクン。」「キュ、キュ、キュ。」2.5号の道糸がまたも鳴る。
「あわてるなぁ!!」
「沖めで泳がせるんやでぇ」
「頑張ぃ〜!!」
朝太郎さんや、まきさんから、またも声援が届く。今度は、ちょっと慣れたな。ゆっくり引きを楽しもう。ってなつもりだったが、とんでもない!!!

竿の継ぎ目から音が聞こえる。今まで聞いたことのない音だ。竿は、やはり片手じゃ上がらない。両手でしばらく、ためるしかない。やっと上がって来た。安物の玉網の柄は、水面に向かって「く」の字になっている。

重い。41.5cm。40上のレンチャンである。足こそ震えなかったが、右肩に鈍痛が残る。

飄助さんは、40上の3連発だ。
「ふたりとも、ええかげんにせいやぁ〜。」「場所、かわろうかぁ?」この池の外道のカメを釣り上げてひょうきんになったまきさん。
「今日は、深場に軍配ありやな。」冷静な分析をするたふまんさん。
ボクも調子に乗って軽口。「40以下は、チャンベだからね。」いいかげんなもんである。さっきのチビリそうな感触がまだ残っているのに。

と、また、サワリがある。同じアタリで、また釣れた。穂先が水面につっこんでゆく。糸なりが止まない。両手で懸命にタメる。我慢する。こうなると格闘技だ。
朝太郎さんの声援が聞こえる。たふまんさんの声も今度は、はっきり聞こえる。余裕がでてきた。

と、玉網を取ろうと思ったら、ない。!!!!!ぎゃっ!!!!!!

思わず叫んでしまった。どうやっても届かないところにあった。サカナは、手前に寄せるとこはできない。「飄助さ〜ん。助けてあげて〜」朝太郎さんか、まきさんか。
「何やってんの、もう。」飄助さんがあきれている。検寸すると、ジャスト41cm。40上の3連発だ。世界が違う、と思った。

雨が本格的になって来た。アタリもなくなった。しばらくサワリもない。
まあ、しかたがないなぁ。今まで、出来すぎだもんなぁ。と、30分程餌打ちをしたところで、また、サワった。ここのヘラは、いきなり、何の前触れもなくサワる。そして、サワリがあると、必ずと言っていいほど、アタる。アタれば、ほとんどノル。ノッたサカナは、40上がレギュラー・サイズだ。1号のハリスは、難なく飛ばす。

じっと待ってみたが、この時は一度のサワリしかなかった。へんだな、と思った。なんとなく、サカナの気配はする。ちょっと、餌を柔らか目にして同じポイントに餌打ちした。
ナジミに変化が現れた。イヤイヤするように、ナジンでゆく。すぐにモドシがあり、一節浮子が入る。いままでより、意気地がない入り方だ。合わせるというよりも、竿を立てるといった感じで、ノッた。

「ヒュン。」というような糸鳴りがした、ような気がした。「ゴクン、ゴクン、ゴク、ゴクッ。」今までの3枚とは、違うノシ方だ。竿がギシッ、と鳴った。重い!!

第一感はうまく表現できない。ともかく、重いというほかない。竿が真ん中から曲がったまま、動かない。動くと両手で持っていても池に引きづり込まれそうになる。例によって声援が聞こえる。が、誰の声かはわからない。冷静さを失っている。さっきの41とは違うんだ。きっと。竿は、右へ左へとノサれる。糸鳴りがどんどん大きな音になってゆく。やたら、重い。ただ、重い。

今までの倍以上の時間をかけた。寄って来たサカナは、まぎれもなくヘラだ。が、顔つきがちょっと違う。睨んでいる。思わず、腰が引けた。玉網に入れると、大きさがよくわかる。!!!で、でかい。しかも、ハラんでいる。

ボクにとって、40上そのものが信じられないほどの大きさだが、こいつは、もう一まわり大きい。急いで検寸する。なんと、45.00cm。

ほ、ホンキかよ??????
もう一度、検寸する。間違いない。
「尺半だぁ〜〜。45cmだぁ〜」恥じも外聞もなく叫ぶ。「おめでとう〜〜!!」朝太郎さん達3人組みから、エール。「なんで1年目で釣れちゃうのぉ〜。」飄助さんがカメラを構える。(ごめん。ま、これも運命なのよ、と思ったかどうかは、秘密。)

「これでクワマンさんも、りっぱなアホの仲間入りだ。」と、たふまん さん。
全身の筋肉が緩んだ。肩が痛い。腰も痛い。全身ずぶ濡れだが、妙に体が火照っている。これが「尺半」の攻撃威力か。

その後、昼食をはさんで再開した。41cmを1枚釣ったが、よく憶えていない。バサーのアベックが近寄って、「まあ、大きい。それって、鯉ですか?」とボケたことを言う。「ヘラだよ、ヘラ鮒。41cmしかないよ。」と驚かせてやった。

尺半を釣ってからは、体のすべての機能が停止してしまったようだ。ハリスを2号にして、もっと大きのが来ないかと密かに祈ったが、そんなに甘くはない。午後からは2度のバラシで、肩の痛みが倍増した。

帰りの運転は、肩の痛みで眠気がすっとんだ。今日は、尺半の二日酔いだ。
まきさんは、とうとう45.6cmという最長寸をゲットした。いきなりの登録で尺半アップである。
飄助さんは、45.3cmをゲットした。もちろん、記録更新だ。
朝太郎さんは、午後からイレパク状態だ。しかも、すべて40上。たふまんさんは、おしくも更新がならなかったが、隊長としての責務をまっとうして、満足そうだった。
「この池だって、ボーズはあるんだよ。今日は、すばらしい日だったね。」

この「社(やしろ)池」というのは正式なこの池の名前ではない。この地区を中心とする近辺にある100以上もある野池のひとつだという。15年程前は、そこかしこでヘラ鮒釣りができた池があったそうだが、心無い釣り人によって、出入り禁止になってしまったという。
たふまんさんがNIFTYの会議室で使った、「仮称」という意味を知ったとき、悲しくなった。

納竿のときが来た。今年は、もう、来ることはないだろう。修行?を重ね、砂を噛むような日々を過ごしたとき、思い出すだろう。ここは、聖地なのだ。「誰でも入れる40上ヘラが釣れる野池」なのではない。この環境を守るためならば、1年に1回の釣行で満足だ。その時、たとえ、いつもどおりボーズでも。

誰かが落としていった、水辺にそぐわない小さな紫色のワームとオレンジ色のラインを拾いながら、そう思った。

おしまい。最後までお付き合いしていただきありがとうございました。

「社池」のへら鮒 野釣りでは、初めて40上を釣り上げることができました。足が震えました。
はじめて釣り上げた尺半(45cm)のへら鮒 いわゆる「尺半」(45cm)ってやつです。
5連続ボーズのことも、すっかり忘れてしまいました。

釣行データ

【釣行日 】98年5月16日
【時  間】7:00〜16:00
【都道府県】兵庫県
【釣り場名】社池(仮称)
【ポイント】枯れ木前
【天  気】雨
【使用竿 】18尺
【道  糸】2.5号
【ハリス】上1.5号30cm/下1号40cm
【水  深】4本ぐらい
【タ  ナ】3本ぐらい
【上針と餌】やらず9号/新ベラグルテン
【下針と餌】同