昨晩は風邪のせいか、喉が痛くてよく眠れなかった。
それに両脇の下がポッコリと膨らんできて脇を締めるだけで痛い。
リンパ腺が腫れてきたのかもしれない。
今日は7時半に昨晩のH君と待ちあわせてラームナガルにリキシャで向かう予定。
ホテルのレセプションでその話をすると、さもインテリそうな若いフロントマンは『リキシャーで行くのは遠すぎる』とたいそう驚き、オートリキシャーかタクシーを勧める。
そんなことをいってもリキシャーワーラと約束しちゃったしなぁ。
『昨日はサイクルリキシャーでサルナートまで行ったんだよ』
というと、『クレージーだ』とさらに驚かれる。
普通は、あの距離をサイクルリキシャーで行ったりはしないんだろうか。
確かに時間はかかった。けつも痛かった。
でもこっちが言い出したわけじゃないし、、、
なかなか出てこないのでしびれを切らしてそのリキシャーニイチャンがやってきた。
フロントの彼と何かやり取りをし始める。
何を話しているのかさっぱりわからんが、どうやら説得されたらしく、インテリニイチャンはしぶしぶうなずいている。
よく分からんが、そうかそうか、じゃあ、ということで二人でリキシャーに乗り込む。
ラームナガルはたしかに遠い。
ガンガーにかかる橋のたもとまでで、だいたい40分。
これはオートリキシャを勧めるのもわかりそうな気がする。
下り坂になる手前でリキシャーを停め、そこからは霧にすっぽり包まれて視界はほぼ15m位の橋を3人で歩いて渡る。
この橋はなんかのタンクのような物を連ねて、その上に板を渡しただけの浮き橋。
今は人やオートリキシャが行き来しているけど、雨期になったらどうするんだろう。
「ほんとーに一緒にいてもらって良かったですよ」
H君が繰り返す。
「一人じゃ絶対にこんなところ来れなかったと思います」
気持ちは分かるし、そんな様子を傍目から見てると初々しくてほほえましいが、もっとリラックスした方がいいんじゃないかなあ。
あんまりそんな様子を見せていると悪いやつに付け込まれるよ。
先の見えない長い橋を10分ほどかけて渡りきると、対岸には意外にも街があった。
リキシャーニイチャンに誘われるままにチャイ屋で休憩。
なぜか、ここはニイチャンがおごってくれる。
そういえば、チャイだけは必ずおごってくれるな、こいつ。
どうせ、相当安いんだろうけど、気持ちはありがたい。裏がなければ。
このチャイ屋の目の前には煉瓦色の城壁に囲まれたラムナガール城が建っている。
ニイチャンに促されて門に向かうが、ライフル銃を構えた門番が立っており、開門は10時からということで入れてもらえない。
あと30分ほどなんだけどなぁ。逆の立場だったらノープロブレムじゃないの。
まあ、入れてくれないんなら仕方ない。
もともと、そんなに見たかったわけじゃないし、10時半には宿にタクシーが来るはずだし、帰るとするか。
「時間がないから帰るよ」
とニイチャンにいうと、
「なぜだ。10時まで待てば入れるんだぞ」
「そんなこと言ったって、タクシーが10時半に来るんだから仕方ないじゃん」
「だったら、タクシーにはホテルで待っててもらえばいい。そうだ、それがいい。俺がホテルに電話してきてやる」
う〜ん、そこまでして見る必要はないんだけどな。
と、H君と顔を見合わせていると、リキシャーのニイチャンはさっさと電話をしに行ってしまった。
この気の回し方はなにかあるな。
これを見れなかったらこっちが機嫌を損ねて金を払ってもらえないとでも、きっと思っているんだろう。
「OK、ホテルには電話しておいた。タクシーは待っててくれる」
ま、そこまでいうなら待つとするか。
それにしても10時まではまだ時間がある。
「ちょっと街を見てくるよ」
ニイチャンに声をかけてH君と歩き出す。
ここはラムナガール城から伸びる一本の道を中心として発展した街のようだ。
道の両側には八百屋、肉屋、雑貨屋などの商店が並ぶ。
ちょうど煙草が切れていたのでマールボロ・ライトを探すが、あるのは強そうなローカルの煙草のみ。
ガートの近くではあれほど見かけたのにまったく置いていない。
ここら辺までは外国人旅行者はあまり来ないんだろうか。
とうとう民家が途切れるあたりまで来てしまったので、そろそろ開門時間になりそうなため引き返す。
「まだだめだ」
10時5分ほど前に門に向かうと、守衛(軍人?)が腕時計を見て入れてくれない。
意外と硬物。
しょうがなく、門の前に腰をかけて時間をつぶす。
「タバコ吸うか?」
ニイチャンがビーリーを差し出す。
このインドローカルな葉巻は一袋で10Rsくらいだそうだ。
H君は『ローカルな普通のタバコよりはきつくない』とはいうもののそれなりにきつい。
ただ葉巻のせいで香りはいい。
やっと時間になったので入場料(一人7Rs)を払って中に入る。
2人分だけ払おうとしたらニイチャンも入りたいらしく『21Rsだ』だって。
もしかして、お前が入りたかったの?
このラ−ムナガル城は乗り物や武器、生活用品など昔のマハラジャの所有物が展示してあるが、乗り物などはただ単に置いてあるという感じで明かりもなく、埃だらけ。
武器の部屋ではじいさんがインドー語か英語かわからない言葉でかってに説明してバクシーシをねだる。
なんでこんなところにこんなやつがいるんだ。
当然、払わない。
3人で一通り見て回るが、事前の予想通り、ニイチャンには悪いが案の定興味はわかなかった。
もう10時半だ。まじでそろそろ宿に戻らなければ。
ニイチャンに必死に漕いでもらったがホテルまではやっぱり50分ほどかかった。
「いくら」いつものやり取り。
「600Rs」
「昨日、300Rsって言ったじゃん」
「2人なんだから600Rsくれよ」
「じゃ、400Rsでいいよな」これでも十分だろう。
400Rsを手渡すと「バクシーシくれよ」といいだす。
値段を決めてからさらにバクシーシはないだろう。
「じゃこれが料金でこっちがバクシーシな」
といったん300Rsを渡して100Rsを後に渡す。
他のリキシャーワーラに声をかけられてニヤニヤするニイチャン。
こいつも悪いやつではないんだけど金に関してはいつも真剣だ。
『もうお金は払ってあるから』と念を押した上で宿のレセプションで再度タクシーを頼む。
「もう行っちゃうんですよねぇ。寂しくなるなぁ」
H君は心細そう。
「ネパールに戻ろうかなぁ。でもあのバスにまた乗るのはいやだしなぁ」
がんばって一人旅を続けてくれたまえ。
きっと、後になったらいい笑い話にできるから。
20分ほどまってやっと来たタクシーとやらは、実は軽のワンボックスだった。
ま、こんなもんか。
かといってアンバサダーとどっちがいいかと問われると似たようなレベルだけど。
空港まではかなり遠く、郊外の道を飛ばしながらも1時間ほどかかった。
ターミナルの入り口でチケットを見せて中に入ると、バラナシ-アグラ間のIC7408は悪天候のためフライトキャンセルの掲示。
おいおい、街まで戻って駅に並ぶのはいやだぞ。
チェックインカウンターはまだ開いていなかったが、カウンターの向こう側にいた職員を捕まえて聞いてみる。
「アグラへのフライトはキャンセル?」
「そうだ。視界が悪くてキャンセルになった」
「チケット持ってるんだけどどうすればいいの」
「17:00にデリー行きがあるからそっちに乗れ」
「追加料金はなし?」
「そうだ」
ま、デリーからアグラまでは列車でも4時間くらいだからそれでもいいか。
昼飯を食べに2階のレストランに上がりテーブルに着くと隣りのテーブルに日本人のカップルがいた。
彼らもデリーに行くらしい。
一人でいても暇をもてあましそうなので声をかけてそっちに移る。
H君とは正反対で格好からしてインド慣れしていそう。
インドへ来る旅行者はこのどっちかのパターンが多いようだ。
彼らはダージリンのほうに行って来たそう。
「むちゃくちゃ寒かったけど、インドらしくないという意味でよかったですよ。風景もよかったし」
ダージリンかぁ、行ってみたいな。次はあっちのほうか南インドだな。
「でもバスはハードでした」
ぎくっ。
混んでいそうなので早めにチェックインをして手荷物検査場に並ぶ。
手荷物はX線検査を受けた後にさらにひとつひとつ開けて手作業でチェック。
時節柄か、ずいぶん念入りだ。
『歩き方』にも書いてあったように預け入れ荷物も自分のものを確認させられる。
だが、ここでちょっとした問題を発見。
ボーディングパスはデリー行きなのにバッゲージタグはアグラ行き。
おいおい、荷物だけアグラに行っちゃうということはないよな。
何気なく荷物を預けてしまったことを後悔する。持ち込みにするんだった。
銃を携えた係員に聞いてみると『ノー・プロブレム』。
そのノー・プロブレムが一番怪しいんだよな。
念のため別なところにいた係員にも聞いてみたが答えはやはり『ノー・プロブレム』。
ちょっと不安ながらも仕方ない、幸運を祈るしかないだろう。
IC805便は飛び立った後、40分ほどで着陸。
さすが、飛行機だと思っていたらほとんどの乗客は降りようとしない。
???デリーじゃないの?
どうやらデリーの乗客はこのまま乗っていろとのアナウンス。
ここはどこなんだ。
ここ(たぶんLuckNow)で10人ほど乗ってきて再度離陸。
予定より1時間遅れの7時過ぎにデリーに到着した。
でもなんのお詫びもない。インドだなぁ。
「アグラに行きたいか?」
バッゲージクレームのあたりで職員らしき人が声をかけてきたが、いくらただで用意してくれるタクシーでもこれからアグラにいったら夜中になりそうなので断る。
先ほどのカップルとプリペイドタクシー(135Rs)をシェアしてメインバザールへ向かう。
市内への道はよく整備され快調。
さすがに首都、サイクルリキシャーはおろか、オートリキシャーも少ない。
それに4輪車もアンバサダーの比率が低い。
と、感心しているうちはよかったが、市内に入ると大晦日のせいかどうかは知らないが大渋滞。
この街も排ガスがひどく、のどが痛くなってくる。
なんでインドってどの街もこうなんだろうな。
それでもなんとかメインバザールに到着。
『歩き方』を片手に宿を捜す。
カップルと別れ、空港で出会った日本人のグループが『俺たちここにします』と言っていた、Ashoka Ocean DXを目指す。
「Hotel?」
例によって客引きが声をかけてきた。
「Ashoka Ocean?」
お、偶然。
「そうそう。そこに連れてけ」と先導させる。
Ashoka Ocean DXはメインバザールから路地を入ったところに建っていた。
結構ぼろそう。
「部屋あいてる?」
「はい」
「いくら?」
「その本に書いてある料金(213Rs)でいいよ」
やっぱり『歩き方』に書いてあると日本人客は多いんだろうな。
さっそく部屋を見せてもらう。
部屋にはA/C(寒いからどうせ使わないけど)ホットシャワーが付いている。
それ以外にはシングルベッドを2つくっつけたダブルベッド、木製の机があるだけ。
広さは6畳くらいか。
ベッドが無駄に場所を取っているので必要最小限のスペースしかない。
それに何日洗濯していないのか、シーツが汚い。
ま、シュラフに包れば関係ないし、面倒くさいし、一晩だけだからここでいいや。
一階に降りていきチェックインしていると先ほどの連中がやってきた。
「あ、ども」
「ここにしたんですか?どうですか?」
「まあ、それなりですね」
「じゃあ、とりあえず部屋を見せてもらいますよ」
「じゃ、後ほど」
と、彼らも部屋を見に行った。
安いからそれなりだよ〜。
ところでこのホテルの一階には旅行代理店がある。
ここを選んだ理由が実はこれだ。
フライトキャンセルになってしまったおかげで今日はアグラに行くことができなかったが、やはりどうしても行きたい。
でももう夜の8時は過ぎていてきっと駅の予約オフィスは営業していないだろう。
このメインバザールにはいくつもの旅行代理店はあるらしいが、悪いうわさもかなり聞いている。
ということでホテルが経営している代理店ならまだマシだろうと思ったわけだ。
「アグラに行きたい」
とマネージャに言うと一枚のチラシをくれた。
そこには各方面のチケットやパッケージツアーの値段が書かれている。
アグラ行きは、、、、、、バスで250Rsか。
サイクルリキシャーで何百ルピーも払っていたことを考えれば安いかな?
「アグラまでは何時間?」
「4時間。6時に出るから10時には着く」
「列車は?」
「列車は明日の朝にならないとチケットが買えない」
やっぱりそうか。思っていたとおりだ。
となると必然的にこのバスに決まりだな。
「じゃ、このチケットちょうだい」
「明日の朝は6時に迎えに来るからここに来るように」
これでうまくいけば念願のアグラにいけるはずだ。
(まだ完全には信頼していない)
チケットを買ってレセプションのところに戻ると先ほどの彼らが階段を降りてきた。
「どう?」
「まあ、いいんだけど、TVがないのがね」
「今日、タイタニックをやるらしいんですよ。それが見たくて」
「ここにしたんですよね?」
「そう」
「俺たちはほかを見てみますよ」
「じゃ、後でいっしょに飯でも」
「そうですね、30分後にここで」
晩飯を一緒に食べる約束をしていったん別れる。
30分後。
彼らがやってきた。宿は結局隣のBajrang DXにしたそうだ。
TVが付いているかどうかの違いで似たようなものらしい。
せっかくだからビールでも飲もうということでメインバザールを歩き回りちょっとまともそうなを見つける。(Food Point Restaurant)
「ビールある?」
ドアを開けて店員に聞いてみると、年配のほうはちょっと難しい顔をしたが、もう一人の若い方は
「あるよ。ノー・プロブレム」
との答え。
なんか訳有りそうだけど、ビールが飲めるんならいいや。
「OK、あるってよ」
さっそくテーブルに着いてオーダー取りを待っていると、
「二階に上がってくれ」
と言われおっさんについていくと、なんか事務所のような部屋に案内された。
「ここは私の部屋だ」
そりゃ、みれば普通の席じゃないことはわかるけど。
う〜ん、さっきのリアクションといい、通された部屋といい、きっと酒類の販売許可でもないんだろう。
ま、こっちは人数もいることだし、ビールさえ飲めればいいのでノープロブレム。
料理とビールを頼んで飲みながら話をする。
この3人組は実は2人+1人で、2人組のほうは学生時代からの友人でいっしょにあちこち旅行をしているそうだ。
片方は自動車メーカー、もう一方は市役所の職員。
もう一人の彼はやはりこれが初めての海外旅行。
3人とも明日のフライトで日本に帰るらしい。
「なんかトラブルはあった?」
と聞くと、意外にも2人組のほうが、
「デリーinでバラナシに行こうかと思ってチケットを買いに行ったらパッケ−ジツアーにされて、ひとり300USDも取られてしまったんですよ」
「でも帰りの飛行機が100USD以上することを考えれば、そんなにぼってないんじゃない」
「だけど不自由でつまんなかったですよ。やっと最後になって自由になれたって感じですよ」
あ、それはわかる。
去年のブータンのときに感じたんだけど、パッケージツアーって物事はトラブルなく進んで楽だし、考え様によっては安いんだけど、やっぱりつまらないもんね。
特にインドだったらなおさら。
「で、そっちは?」
もう一人のほうに振ってみる。
「特に問題はなかったですけど、やはり衝撃的でしたね」
彼にとっては見るものすべてが新鮮でショッキングだったそうだ。
確かに事前の予備知識がなかったらそうだろう。
でもその方が楽しめて(へたすると苦痛になってしまうかもしれないが)いいのかもしれないなと自分を振り返ってそう思った。
こうして、3人はビール、1人はラッシーで、今までに行った国の話で盛り上がりながら、ミレニアム・イブの夜は更けていったのであった。
since 2001/01/31