今日はアグラへの移動の日だ。
6時に1階の事務所に来いと言われたので行ってノックをすると、まだ真っ暗な部屋の中から昨日のマネージャが目をこすりながらでてきた。
「6時になったから来たんだけど」
「うちのボーイが迎えが行くから部屋で待っててくれ」
だったら、最初からそういえよな。
部屋で待機していると、20分ほどして毛糸の帽子をかぶった男が迎えが来た。
まだ真っ暗なデリーの路地を男について歩く。
周りの迷惑も顧みずラジオをガンガンならしながら開店の準備をする食堂のおやじ。
道端でたき火をして暖を取っている路上生活者。
オートリキシャーのリアシートで小さくなって毛布にくるまり寝ているリキシャーワーラ。
昼間には見えない路地裏の生活が見えてくる。
途中、別なホテルに立ち寄りインド人家族と合流。
一人250Rsも払えるということは彼らは中流なのだろうな。
大通りにでると暗闇のなかに軽のワンボックスと大型バスが停まっていた。
まさか、その軽じゃないよな。
大体この人数は乗れそうにもないし。
かといって、大型バスに乗り込む様子はない。
『ここで待っていろ』と声をかけて案内役のニイチャンはどこかに行ってしまった。
バスがいつ来るのかわからないので朝飯を食いに行くわけにもいかない。
近くのシャッターが降りた店の前の石段に腰を降ろし、ぼんやりとバスを待つ。
段々薄明るくなってはきたが、それに伴って霧が濃くなり始めた。
ときおりそれらしいバスがやってきては出発していく。
旅先で周りから声をかけられることもなく、こんなふうに何もせずにじっとしているのは嫌いではない。
『自由旅行しているなぁ』と実感してくるからだ。
そういえばラオスでもこうやってトラックバスを待ってたっけ。
7時過ぎになってやっとわれわれのバスがやってきた。
わりとまともなバスみたいだ。
TATA製の観光バス。A/C リクライニングシート。
運転席との間は電車のようになぜか壁で仕切られていて、その中にはドライバーと助手が二人。
『No Smoking』としっかり書かれているのに中ではたばこを回し飲みしている。
ここらへんはタイと同じでドライバーが乗客よりも偉いんだろう。
乗客はそれをしっかり守っている、、、かと思えば後ろのほうから煙が流れてきた。
じゃあ、なんなんだよ、あのステッカーは。
郊外に出ると意外にちゃんと整備された道路をバスはひたすら飛ばしまくる。
霧がかかっているのにこんなに飛ばして大丈夫かよ。
と思ったら、案の定トラックがひっくりかえっていたり、ブタが轢き殺されていたり、バスが畑に突っ込んでいたり。
頼むから事故だけは避けてくれよ。
1時間ほど走ると途中で食事休憩。
他のバスもいくつか停まっているところをみるとどうやら日本での街道筋のドライブインみたいなものなのだろう。
オムレツ、チャイ、パンの食事を霧に濡れながら屋外の椅子に座り食べる。
オムレツを食パンに挟んだものは列車の中でも見かけたので結構ポピュラーなメニューなのかもしれない。
味はそれなり。まあ、あきらめていた朝飯が食えただけでもよしとしよう。
到着が遅れるのなんかぜんぜん気にしないかのようにここで1時間の停車ののち再出発。
代理店の人は4時間でアグラに着くようなことをいっていたがこりゃあ無理だ。
5割り増しの6時間ってところかな。
まあ、今日中に無事に着いてくれればいいや。
と思っていたら、今度は牛車の牛が轢かれていて、傍らでその牛車の持ち主と思われるおっさんが牛をのぞき込んで困り果てている。
おいおい、聖なる牛を轢いちゃっていいのかよ。
その他にもトラックの多重衝突があったりしてインドの郊外道路はすごい状態。
こりゃ、帰りは列車だな。
10時ころだといわれたのに、案の定遅れに遅れてアグラの街中に入ったのは午後の1時過ぎ。
途中から乗り込んできたわけのわからないおっさんが乗客にヒンドゥー語でなんか大声で説明している。
「おまえヒンドゥー語わかるか」
わかるわけないじゃん。
「じゃ、後で説明してやるから待っておれ」
どうやらこのおっさんは、このバスを運行している旅行会社の人で、バスはこのままアグラ・フォートに向かうらしい。
乗客のほとんどはそのようなツアーに組み込まれているらしく、自分一人だけが片道切符で乗り込んだ模様。
「もし、このバスがデリーに帰るんなら追加料金を払えば乗せていってくれるの?」
「ノープロブレム。バスはあしたデリーに出発するからそれに乗ればいい」
う〜ん、そういう意味でいったんじゃないけど、ま、いいか。
「どこで降りたいんだ」
「先にアグラ・カント駅にいってそれからアグラ・フォートに行きたい」
「このバスはアグラ・フォートに先に行く。それからアグラ・カント駅で降ろすからそれでいいか」
ま、どっちでもいいや。アグラ・フォートも見てみたいし。
アグラ・フォートに到着してバスを降りると、寄ってくる、寄ってくる、物売りやリキシャー、ガイドたち。さすがインド随一の観光地。
先ほどのおっさんが『こいつはうちの会社のドライバーだから安心しろ』とあるオートリキシャーのドライバーに引き合わせた。
安心しろといっても、おっさん自身の素性がわからないのにどうやって信頼すればいいんだよ。
「どこのホテルに泊まるんだ」リキシャーのドライバーが聞いてくる。
「まだ決めていないけど、かぜをひいて体調が悪いから、いいホテルに連れていってくれ」
この時はさすがに風邪でちょっと参っていた。
最初にリキシャーで連れていかれたのはHotel Chakraview。
前庭があったりしてなかなかいい雰囲気。
部屋はバスタブ(もちろんホットシャワー付き)、A/C(いらないけど)、ダブルベッド。
値段を聞くと600Rsとのこと。
今までで一番高いけど、気に入ったのでここにする。
ドライバーはカルカッタのじじいのように紹介料を請求することもない。
「風邪薬を買いに行くか」
薬屋にもつれていって、症状を説明してくれたうえに使用方法まで教えてくれる。
こいつ、なかなかいい奴だな。
「次はどこに行きたい」
「列車の切符を買いにアグラ・カント駅に行きたい」
いったん、駅まで行くが、
「駅で切符を買うのは外国人には難しい。旅行代理店で買った方がいい。それでいいか」親切なのか、引っかけようとしているのか。
なんか、いい奴ぽいので駅前の旅行代理店に連れていってもらう。
店に入り明日のデリー行きの切符を買いたいと伝えると、2A(2段ベッドの寝台)で790 + 120(サービスチャージ)ということ。
「OK、それでいいよ」
と金を渡して駅で買ってきたチケットを見ると3A(3段ベッドの寝台)
295Rs WLとしっかり書かれている。
これじゃ600Rs以上高いじゃないかよ。
こいつぅ、と思ってすぐに指摘すると、
「今日は2Aのウエイティングはクローズしていたので3Aで入れておいた。明日変更するから問題ない」
と言い訳する。ほんとうかぁ?
でも今はどうしようもないな。
リキシャーのドライバーがしきりと突っかかっているが、とりあえずこの場は信じるしかないか。
途中で両替(1USD=42.3Rs さらに40Rsの手数料がかかる)を済ます。
念のためしっかり数えてみたがごまかされたりババをひかされたりすることはなかった。今度は「何か食べるか」とドライバーが聞いてきた。
「いまはいい」
「風邪薬を飲むためにも何か食べた方がいい」
「そうか、じゃ、サモサ」
「サモサ?外国人にはそこら辺の店で食べるのは体によくない。外国人がよく行く店に連れていってやる」
と半ば強制的にきちんとした食堂に連れていかれる。
サモサが好きなんだけどなぁ。
さてこれでやるべきことはすべてやった。
次はいよいよ、タージマハルだ。
「タージマハルの近くはなんでも高いから声をかけられてもなにも買うな」
とまたも親切?なアドバイス。
こいつ、信じちゃっていいのかなぁ。
チケット売り場に並んでいるうちに通常の見学時間である4時を過ぎてしまった。
まだ5分くらいなのだが、窓口のおっさんたちは並んでいるインド人たちがいくら叫んでも相手にせず無視している。
「ひとり」
と、15Rsを差し出すと
「505Rs」
とおやじ。えっ。
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タージマハルのチケット |
たしかに1/1から8時前と16時以降は外国人は505Rsとは書いてある。
でも、たった数分だぜ。
ちょっと躊躇したけどここまで来たんだからしかたない。
しぶしぶチケットを買う。
タージマハル。ここも楽しみにしていた場所のひとつ。
切符もぎりの列に並ぶインド人をしり目に外国人特権(505Rs特権?)で門をくぐると、どわ〜んと真っ白なタージマハルが目に飛び込んできた。
そのタージマハルにむかってまっすぐに水路と遊歩道が伸びている。
インド人のお上りさんも多いらしく、あちこちでカメラを構えて記念写真をしている。
その観光客たちが多すぎるのが玉にきずだけど、近付いていくに従ってつくづくその偉大さ、美しさに圧倒される。
これを作ったおかげでムガール帝国の屋台骨が傾いてしまったそうだがこれだけの量の大理石をつかってこんなに大きな墓を建てたら無理もないかもしれない。
とにかくここは圧巻のひとこと。
いままででこれだけ圧倒されたのはこことアンコールワット、グランドキャニオンくらいだ。
505Rsはちょっと高いけど思い切って入ってよかった。
タージマハルを出てリキシャーに戻ると『面白い(interesting)ところに連れて行ってやる。織物工場に行こう』と絨毯屋に連れていかれる。
そうか、これが目的か。タイのトゥクトゥクと同じじゃん。
興味がなさそうな態度をしていると『見るだけ、見るだけ』と運ちゃん。
しぶしぶ絨毯屋に行き工場を見せてもらうが、全く興味がわかない。
見学の後はお約束の商品説明。
マネージャらしき人がいろいろだしてきて説明してくれるが、ぜんぜん買う気無し。
「どれがいい。こっちか、それともこっちか」
「どれも欲しくない。興味ない」
と値段も聞かずに答えるとあっさりと解放してくれた。
ここら辺はインドは楽だと思う。
次は土産物ストリートの宝石店。
『俺の兄弟は日本でとても有名なんだ』とターバンを巻いたがっしりしたニイチャン。
うん?なんだ?
すると車椅子姿の上田馬之助との写真や日本のスポーツ新聞を持ってきて
「これが兄貴だ。知ってるだろう」
おお、タイガー・ジェット・シンじゃないか。
サーベルを口にくわえて反則負けしてばかりいた姿を思い出す。
よくテレビに出ていたのは20年くらい前かなぁ、なつかしい。今どうしてるんだろう。
宝石や絵などをいろいろ出して説明してくれたけど、「まったく興味ない」「ほしくない」でここでもあっさり引き下がった。
宝石なんか買ってもしょうがないもん。
3番目は宝石屋の前にある、なぜかサイババの写真が飾ってある真鍮細工の店。
ここでも日本語をちょっと話すおっさんがいろいろと説明してくれるが、ここもまったく興味がないのですぐに店を出る。
最後は紅茶屋。ここでは日本にもいたことがあるという店員(店長?)の青年と話す。
彼は日本人の性格を知っているのか、最初から強引に商品を勧めるようなことはしない。日本のことやインドのことを話していると、先ほど宝石店にいた、スーツをびしっと着込んだ長髪・口髭のおっさんがやって来た。
なにかことあるごとに『ジキジキ、ジキジキ』としきりに騒いでいる。
彼の自慢はナニが大きいことらしい。そんなこと聞いちゃいないんだけどなぁ。
どうやらこのおやじは青年の実の父親だとのこと。
「どう思う?お前の父親」
「友達だ」とあきれ顔。
彼はまともっぽいのにねぇ。
他のみやげ物はまったく興味がなかったが、会社で飲むために紅茶くらいは買っていってもいいだろう。
いろいろと説明を聞いた後で一番香りのよかったダージリンティーを買う。300Rs。
『エキスポートタックスが高いので宝石を日本に持っていってくれないか』
と持ちかけるジキジキオヤジを無視し、
「インドでは酒がなかなか飲めないよね」と青年に話題を振ると
「日本人は毎晩ビールを飲むけど、インドではビールはあまり飲まない。それでも酒を飲めるところはいくらでもある」
「これから酒を飲みに行くけど一緒にどうだ」とオヤジ。
先ほどの宝石屋で飲むらしい。せっかくだからちょっとだけ付き合うことにする。
まさか睡眠薬入りってことはないよな。
宝石店に戻ると例の自称タイガー・ジェット・シンの弟を囲んで4人ほどがウイスキーを飲んでいる。
「まあ、飲め」
と言うことでリキシャーマンと一緒に輪に加わる。
非常に汚いと言われている水を避けストレートでインドウイスキーを一杯ごちそうになる。
そういえば、シーク教徒って酒は飲んでもいいんだっけ。
「シーク教徒がだめなのはタバコだけ。酒は問題ない」
だって。
「明日、駅に向かう前にここに寄って朝飯を食べていけ」
と誘ってくれるが、なんか裏がありそう。
時間も遅くなってきたし、霧も濃くなってきたようなのでホテルに帰る。
ホテルのロビーで夕飯を食べる。
野菜チャーハンは期待通りマサラ味でいわゆるドライカレーだった。
ホテルのマネージャーが話しかけてきたので、気になっていたリキシャーの料金を聞いてみた。
最初は『払いたいと思うだけ払えばいい。あまり払いたくなければそれでもいいし、たくさん払いたければそれでもいい。お前の考え方次第だ』
といかにもインドらしい答え。
でもそれじゃ、答えになっとらん。
「じゃあ、あんただったらいくら払う?」
と質問を変えてみると
「う〜ん、2日で400Rsくらいだろう。貧乏人だから少しでも喜ぶよ」
と教えてくれた。明日の交渉はここら辺がベースだな。
ちなみにこのオヤジは軍隊に30年勤めたのちにこのホテルを開いたそうで、かっぷくがよく笑顔が憎めない、なかなかいい味を出していた。
部屋に戻ると暖房がないために非常に寒い。
風邪のせいかもしれないが震えが来てたまらない。
宿の人に頼むとブータンでよく見かけた電気ヒータを持ってきてくれた(100Rs追加)が、さすがにインド、物事はすんなりとはいかない。
最初に持ってきたヒータは案の定壊れていてうんともすんとも言わない。
で、次に持ってきたものは、今度は電源コンセントの形状が違うらしく、ささらない。
もう一台持ってきたが、それも動かない。
さて、どうするつもりだろうかと思って見ていると、電線を持ってきて一方を電源プラグに巻きつけ、もう片方を直接コンセントに差し込んだ。
日本だったら変換プラグを用意するのが普通の考えだろうけど無いなら無いなりになんとかしてしまうのがアジアらしい。
それでもショートが心配らしく、接続部分は床に置かずにゴミ箱の中にたらしている。
う〜ん、夜中に火を吹いたりしないだろうな。
ちょっと心配だったかが、ヒータを点けっぱなしにして、かつ、寝袋にくるまって寝る。
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