昨日とまったく同じパターンで2度目の眠りから覚めたら11時になっていた。
まったく眠れないよりはましだけど不便なことこの上ない。
メラトニンを持ってくればよかった。
部屋の前に干しておいた洗濯物は完全に乾いていた。
雨や曇りがちな日もあるバンコクと違い天気もまあまあだし、なによりもいい風が吹いているおかげだろう。
もう1泊延泊しようとレセプションに向かう。
「あと1泊ね」
「予約が入っているから部屋を移って」
移れというならしかたないけど、予約なんてあるのか、こんな宿で。
「25人の団体が来てね」と新しい部屋に案内しながら彼女が言った。
ああ、そういえば長屋の部屋の隣に客が入っていたなぁ。
今度の部屋は1棟建て、三角屋根の正当派バンガロースタイル。
部屋を覗いてみると薄暗く狭いながらもA/C、冷蔵庫、TVがある。
この設備から見るときっと今までの部屋より上のクラスなのだろう。
「いくら?」
「800THBでいいわよ」
今までと同じ値段ならまあいいだろう。それでも相場からすると依然として高いけど。
今日の朝飯(?)はパット・シーイウ・ム〜(豚肉入り幅広麺の醤油味炒め)とビア・チャン。
ちなみにこの宿、部屋は高いものの食事とビールは安く料理の味もいい。
ビール小と料理一品でだいたい80THB前後。
バンコク市内のビアバーでビール一本飲むよりやすい。
起きがけのビールで一気に血圧を上げてビーチチェアに移る。
ここのビーチには小さな蟻が多くチェアをよく確かめてからじゃないと足といわず腹といわず常に蟻が歩き回りうっとうしくて仕方ない。
昨日はそれに気がつかず蟻の巣の真上のチェアに座ったものだからつま先を噛まれてしまったほどだ。
そのため今日はチェアの周りを蟻の行列が付近にないか入念にチェックしてから木陰になっているチェアを選んだ。
これで安心、とゆっくりと読書を始めると一昨日のマッサージのおばちゃんがやってきた。
「今日はマッサージは?」
「今日はいらないよ」うまけりゃ毎日頼んでもいいけど下手なんだもん。
「今日は客がいなくてまだ稼ぎが全くないの」
「この宿にファランが25人も来たっていってたよ」
「あそこの人たちがそうなんだけど全然商売にならないのよ。ペディキュアやらない?」
「それって女性向けでしょ。男はいらないよ」
「男なら爪を切って甘皮をきれいにするから。やらない?」
「いらないよ」
「今日は仕事がないのよ。☆□※▼は?」と裸足の足をつかんで削る仕草をする。
「いやいや、くすぐったいからいらない」
大変だね〜、おばちゃん。
海に入ったり読書をしたりしてのんびりと過ごしていると、柴犬くらい大きさの茶色い犬がやってきた。
何という種類かわからないが長い耳と毛からしてゴールデンレトリバーに近い種類かもしれない。
宿のレストランでもよく見かけた犬だ。
店にはこいつ以外にもプードル犬が3匹いたが、どの犬もバンコクの犬と違ってだらけておらず元気がいい。
この違いは犬種によるものなのかそれとも環境によるものなのだろうか。
口笛を吹きながら手招きをするとそいつがそばに寄ってきた。
よしよし。
何か食べているとき以外近寄ってこないプードルと違って愛想がいいぞ。
顎をなでてやると気持ちよさそうに目を細める。
首輪のところに何かかかれたプレートが下がっていた。
『Give me some food』
爆笑!
そうはいってもなぁ〜、なにもないぞ。
日が傾き始めた頃また例のおばちゃんがやってきた。
「今日の稼ぎはまったくなしよ、本当に。昨日は客がいたのに。マッサージやらない?」
「あはは、全くなしかい」
「笑ってる!」
それでも真剣じゃないところを見るとインドあたりと違って今日の飯に困るほど生活はせっぱ詰まってはいないのだろう。
ビーチ沿いを散歩に出てみた。
宿からちょっと南に歩くとこのビーチで一番にぎやかなエリア。
レストランを併設した宿にバー、インターネット屋まである。
ファラン旅行者も多くビーチチェアのみならず砂浜に直接トドのように転がっている奴もいる。
一方、地元の若いにいちゃんたちは水で湿った重いボールでサッカーごっこ。
初日に見つからなかったWhite sand resortは南の端で今の宿とは全くの反対方向にあった。
どうりでおととい見つからなかったわけだ。
Tシャツを着込まないと肌寒いくらいになってきたのでいったん部屋に戻ると部屋の前に扇風機が置かれていた。
A/Cがあるんじゃないのか、と部屋に入ってからA/Cのスイッチを入れてみるとブレーカーはあがっているのに電源が入らない。
そうか、そういうことだったのか。
しかも昼には気がつかなかったが室内の電灯をつけても前の部屋より薄暗い。
部屋の中を再点検してみると、、、、
ベッドがセミダブルになった
トイレが手桶式じゃなく普通の水洗になった
TV・冷蔵庫・タンスがある
石鹸がついていた
ゴミ箱があった
コンセントの数が増えた
海まで若干近くなった
トイレ臭くなくなった
狭い
薄暗い
洗面台がない
トイレットペーパーがない
灰皿がない
洗濯物を干すスペースがない
鏡台のランプが点かない(電球が入ってなかった!)
A/Cが動作しない(涼しいから必要ではないが)
ということで五分五分で最初に感じたほど優位点はなかった。
そんな薄暗い部屋にいてもしょうがないのでレストランのテラスでコーヒーでも飲むことにする。
もはや顔見知りとなったウェイターのにいちゃんに『ガフェー・ローン(ホットコーヒー)』とだけ声をかけ定位置のテーブルにつく。
持参の文庫本は先ほどですべて読み終わってしまったので暇つぶしに日記を書くことにした。
ときおり海の方を眺めながら日記を書いているとサンダル履きの足下にかゆみが走った。
ふと足下を見ると片足に3,4匹ぐらいずつ蚊がまとわりついている。
うわっ!蚊の集中攻撃だ。
近くにデブファランでもいればそっちに攻撃が移るだろうがこの時間はあいにく客は誰もいない。
足をふるわせておくような防御だけでは振り切れなくなり積極攻撃に変更。
つまり片っ端から叩きつぶし始める。
5匹目ぐらいまでは数えてはいたもののそのうち数えるのも億劫になるほど次から次へとやってくる。
そうしているうちに足下には蚊の死骸が無数に散らばり始めた。
その死骸を蟻たちがせっせと巣に運んでいる。
彼らもきょうはごちそうがたくさんあってさぞ幸せだろう。
しかしこっちはとてもじゃないが日記を書いているような暇はない。
足をふるわせるにも疲れてきた頃、近くに店員が通りかかったのでヤー・ガン・ユン(蚊取り線香)をくれるように頼む。
コーラの瓶にぶら下げられた蚊取り線香がやってくるとそれまでわんわんしていた蚊が嘘のようにいなくなった。
こんなに効くなら最初からもらっておくんだった。
コーヒーからビールに移りつまみをちょっと頼みそろそろちゃんと食べようかと注文しようとしたらもう
『もう終わりです』とつれない返事。
おいおい、まだ8時過ぎだぜ。
こんな時間にあの薄暗い部屋に戻ってもなにもやることないしなぁ。
ちょっと散歩にでも行くか。気の利いた飲み屋でもあるかもしれないし。
ビーチを明るいほうに歩いていくと音楽をガンガン鳴らしたバーやレストランがまだまだ営業していた。
どこか気の利いたところはないかとぶらぶらしているとビーチに直接ゴザをしき三角枕、ちゃぶ台のようなテーブルを置いた店があった。
フレンチフライとビアチャンを注文して星空を眺めながら横になる。
昼間の日向はあれほど暑かったのにこの時間になるとひんやりとしている。
日本でいうと9月中旬から下旬くらいの気温だろう。
こんな気候で星を眺めながらビールを飲んでいると北海道の開陽台でキャンプをしていたころをふと思い出した。
あそこで毎年会っていた連中は今ごろどこで何をしているんだろうか。