短歌なんだ
<たての未散>



2001.05.11 ADDED

★★★★★★★★★二度目の春は……

桜咲くここにあなたがいないこと受け入れながら今日が始まる

人事異動 あなたが残していったもの サンダル一足それから私

ふと顔を上げれば桜一色に染め上げられた空があり 春

淋しさに耐えかね車を走らせたサンダル抱えてあなたの元へ

「忘れてもいいんだよ」なんて言わないでいつものような笑顔のままで

先のことはあまり考えないと言う ふと垣間見た君の中の闇

待つことは許してくれた君の背がだんだん遠くなる駐車場



きらきらと違反のピアスを光らせてお嬢は今日も遅刻してくる

暴れ馬手懐けをればマダム笑う「まるで彼らは子犬みたいね」

主任という肩書きついてばたばたと外道女教師廊下を走る

えせ医者のごとき白衣を翻し女教師今日も教壇に立つ

暴れ馬のその上を行く野獣ども さてと一体どうしたものか

厚化粧の下に何を塗り込めた? 素顔のままではいられぬ少女

十代の少女のままの我もをり子等と一緒に「雨傘」を読む

ジャケットの裾をつかんで歩いてたそんな二人ははるかに遠く

「先生は結婚しないの」「今のところそんな予定は全然ないね」

吾の前をゆっくり歩いていた君は今は誰かの隣にいるの?



気が付けば繰り返している言葉あり「どうしてあなたはここにいないの?」

女教師の仮面外せばつまらない一人の女であるこの自分

もし君が「いいよ」と言ってくれるなら死ぬまでそばにいていいですか



★★★★★★★★★日々不穏

いっそのこと転んでみようか思い切り同行二人の昏い道行

慎重に言葉を選ぶ 転ばぬよう 踏み外したらそのまま奈落へ

首筋にひたりとあたる刃物あり吾の罪を知る誰かの視線

「もっと早くあんたに逢えていたなら」とそんな不実は囁かぬ君

吾のもとで過ごさぬ君の休日の時間をなにで贖えるのか

ヨカナンの生首を得て微笑せりサロメとなりし夢の中の吾

吾のなかでのたうちまわる獣ありそをなだめかね「嫉妬」と名 付く

身のうちを灼き尽くさんと毒を吐くそのいきものは吾の貌に似 て

狂はば狂へ吾が中にすむけだものよ心すべてを食い尽くすまで

嫌われる方が遙かにましかしら私があなたを嫌いになるより



★★★★★★★★★けだものどもとともに

 ひとつひとつゆっくりやろう吾にはまだ「できないこと」の多き うれしさ

 初恋のマドンナの娘登場し農場長の青いワイシャツ

 トラクターハコ乗りをして暴走す 吾がいとしみし野獣軍団

 アイガモがすいすい泳ぐ水田で子等神妙に実習をせり

 牛の目は優しきものと知り初むる何てったって農業高校



★★★★★★★★★採用試験直後

 参考書曇った空に投げ上げてこの一年のすべてが終わる

   来年の今頃どこにいるんだろうどんぶらこっことながるるままに



  ★★★★★★★★★学年末カウントダウン

   流行風邪引き込みながら八時過ぎ期末テストを印刷している

 病みつかれ微睡みながら見る夢は温泉卵のようにとろりと

 薄紙をへりへりはがしていくように風邪と月日が私から去る



★★★★★★★★★日々是荒日……

 「愛してると言ったのはただ一人だけ」他のヒトにはなんて言っ たの?

 ぼんやりと男の背中見てをりぬいったいいつまで追えるか君を

 吾のことを「女の子」という少年よ君が知らないいくつもの傷

 吾だけの君ではなくて向こう側腕をつかんでいるのはだあれ?

 贅沢な望みであるか吾だけを見つめて欲しいと考えること

 傾国と言われるほどの代物になってみたしと思う一瞬

 丸ごとの君を得られるものならば悪魔とだって契約しよう

 「好きだよ」とさらりと言われし朝なれどチーズケーキと同じ分類

 癒されずいや増す孤独飼い馴らし吾の日常が今日も始まる



膝抱えユーミンを聴く真夜中 君の風景垣間見たくて

右耳にさやけく光るピアスの金膝枕にて眠る少年

絵葉書のような車窓を見ることがごく日常となりし通勤

いくつかの吾の風景を知りしひとそれらはすべてセピア色して

愛し子よけだものたちよこれからは街であっても教師と呼ぶな

荒れ狂う子等前にして立ちすくむ吾は振り上げる拳を持たず

うち砕く強き拳を持たぬ吾に子等抱きしめる腕のみがあり

そばにいる君の心に触れられず まるで水面に映る月影

             人として向かい合うことなかりせばいだきあひても孤独と孤独

淋しくはないのか君はその腕に己の孤独だきしめること

やわらかでまあるい型はいびつなる吾には収まり悪くて女

暴れ馬ひとりはぐれてふらふらといったいどこへ向かってゆくか








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