手形のこと

手形の種類・・・約束手形と為替手形
法律上の手形はこの2種類であるが、実務上は手形を使用する目的により様々な名称が用いられている。
例)商業手形(商取引に基づき振出された手形)、回し手形、マル専手形(個人が車等を分割購入するときに振出す専用用紙による手形)等
約束手形の意義・・・約束手形とは、その振出人が受取人あるいは、所持人に対して満期(支払日)に一定の金額を支払うことを約束する証券です。支払確保や代金支払い等のために振り出します。
為替手形の意義・・・為替手形とは、振出人が支払人にあてて、受取人その他の手形所持人に対して一定金額を支払うべきことを委託する証券です。主として、国際取引の決済のための送金および取立の手段として用いられる。また、印紙税の関係で約束手形の代用として用いられることもある。
手形の性質
1.文言証券・・・証券上の権利の内容が証券上の記載によって決まる証券
2.設権証券・・・証券を作成交付すること自体によって権利を創設する証券
3.無因証券・・・証券の作成交付によって、その原因となった債務とは別個の債務が成立する証券
手形行為独立の原則・・・同一手形上になされた各個の行為はそれぞれ独立してその効力を生じ、論理的に前提となっている他の行為の実質的効力の有無によって影響を受けないとする原則(手形7条、32条2項参照)。これは手形行為の文言性に基づく当然の原則である(当然説)と解されている。したがって、例えば、手形が法定の形式を具備している以上その手形の裏書人は被裏書人が振出人の代表者名義が真実に反することを知っていたとしても、裏書人としての手形上の責任を免れない(最判昭33.3.20)ことになる。
意思表示
1.民法により権利能力を有する者はすべて手形権利能力を有する。
2.意志無能力者の手形行為は当然無効であり行為無能力者の手形行為が取消されたときは初めから無効なものとみなされ何人に対しても手形上の義務を負わない(物的抗弁)。
3.手形行為は転々流通すべき証券上の行為であるため善意の手形取得者の保護が強く要請される結果、意志の欠缺または瑕疵ある意思表示に関する民法の規定を手形行為に全面的に適用することは妥当ではない(多数の説がある)。
他人による手形行為
- 代理方式・・・他人によってされることが手形上に表示される場合
法人の手形行為の方式は代理方式に限られる(最判昭41.9.13)。代理関係の表示としては、署名者が自己のためではなく、本人の代理人(代表者)として本人のためにするものであることを認識できるような記載があればよい(大判明40.3.27)。手形上の記載からは法人のため振出したのか、代表者個人のために振出したのかが不明確(A合資会社Bと記載した場合)なときは手形所持人は法人および代表者個人のどちらに対しても手形金の請求ができ、請求を受けた者は、その振出が真実いずれの趣旨でなされたかを知っていた直接の相手方に対してはその旨の人的抗弁を主張できる(最判昭47.2.10)。
実質的要件として代理人に代理権があることを要する。代理権限を有することは手形行為の効果が本人に帰属することを主張する者が立証しなければならない。無権代理の場合には本人が追認せず、また表見代理が成立しない限り、本人は無権代理を物的抗弁として対抗できる。また、手形取引の安全を図るため、権限なしに手形上に代理関係を記載し署名した者には、本人が負担したであろう手形責任を負わせ、その責任を履行したときは本人と同一の権利を取得する(手形8条)。
参考判例
1.代理人が自己または第三者の利益を図る目的で約束手形を振出した場合において、権限濫用の事実を知りまたは知りうべかりし状態で手形の交付を受けた受取人が、これを他に裏書譲渡したときは本人は手形17条但書の規定により第三取得者が受取人の右知情について悪意であることを立証した場合に限り第三取得者に対する責任を免れることができる(最判昭44.4.3)。
2.手形行為も原則として商法265条にいう利益相反行為にあたるとし、取締役会の承認を得ていない場合は、会社は当該取締役に対して手形行為の無効を主張できるが、裏書譲渡を受けた第三者に対しては取締役会の承認がないことおよびその第三者の悪意を主張・立証しなければ会社は手形上の責任を免れない(相対的無効説、最判昭46.10.13)。
3.民法108条に違反して約束手形が振出された場合において、右手形が第三者に裏書譲渡されたときは右第三者に対して、本人は、その手形が双方代理行為によって振出されたものであることについて第三者が悪意であったことを主張・立証しない限り、振出人としての責任を免れない(最判昭47.4.4)。
4.実在しない法人の代表者名義で約束手形を振出した者は手形法8条の類推適用により、右手形の振出人としての責任を負う(最判昭38.11.19)。
5.約束手形が代理人の権限を越えて振出された場合、手形受取人にその権限があると信ずべき正当の理由を有しないときは、その後の手形所持人は、たとえこのような正当理由を有していても表見代理の成立は認められない(最判昭36.12.12)。なお、直接の相手が表見代理によって保護される場合には、受取人から裏書譲渡を受けた者に対しても、その者の善意悪意を問わず振出人としての責任を免れない(最判昭52.12.9)
- 機関方式・・・本人自らなしたように手形上に表示される場合
手形の偽造
- 偽造とは署名(記名捺印)の代行権限を有しない者が他人の署名を偽って、あたかもその他人が手形行為したような外観を作出することをいう。
- 被偽造者の責任
原則として、被偽造者が手形上の責任を負わないのは当然である。
例外 1.表見理論・・・無権限者による機関方式の手形行為すべて偽造とし被偽造者に帰責原因があり手形取得者が善意無重過失であれば被偽造者の責任を認める。したがって、無権限者が機関方式により手形を振出し、本人名義の手形を偽造した場合であっても、右の手形振出が本人から付与された代理権の範囲を超えてなされたものであり、かつ、手形受取人において右無権限者が本人名義で手形を振出す権限ありと信ずるにつき正当の理由があるときは、本人は民法110条の類推適用により右手形について振出人としての責任を負う(最判昭43.12.24)。
例外2.使用者責任(民715条参照、最判昭36.6.9)
- 偽造者の責任・・・無権代理人の責任規定(手形8条)が類推適用される(最判昭49.6.28)。なお、偽造された手形と知って取得した所持人に対しては責任を負わない(最判昭55.9.5)
手形の変造
- 変造とは、手形に記載されている文言を無権限で変更することをいう。なお、記載の変更は、それに同意した者に対する関係では変造にならないが変更に同意しない者がいればその者に対する関係では変造になる。
- 変造後の手形に署名した者は変造された文言によって責任を負うが変造前の手形に署名していた者は原文言によって責任を負う(手形69条)。なお、受取人欄の無権限変更も偽造にあたるとする。したがって、例えば、約束手形の受取人欄の記載が無権限で抹消された場合において、変造後の所持人は、当初の受取人から手形を取得した経路とその取得をもって振出人に対抗しうる事由を主張・立証しないかぎり、振出人に対し手形金の支払を請求することはできない(最判昭41.11.10)。
参考判例
1.手形の満期の記載が変造された場合には、変造前の原文言については手形所持人が立証責任を負う(最判昭42.3.14)。
2.裏書の連続は、裏書の形式によりこれを判定すれば足り、約束手形の受取人欄の記載が変造された場合であっても手形面上変造後の受取人から現在の手形所持人へ連続した裏書の記載があるときは振出人に対する関係でも、右所持人は適法な所持人と推定される(最判昭49.12.24)。
約束手形の振出
- 約束手形の振出は手形用紙に手形要件等を記載してこれを受取人に交付する行為で、手形金額の支払義務の負担を目的とする手形行為です。
- 原則として手形の授受があっても原因関係上の権利は消滅せず、手形上の権利と併存する。したがって、手形は原則として、「支払のために」授受されたものと推定される(大判大7.10.29)。これに対し、特別の合意があれば手形の授受によって原因関係上の権利を消滅させることもできる。この場合は手形が「支払に代えて」授受されたことになる。
- まず、手形用紙は銀行から交付されたもの(統一手形用紙)を使用しなければなりません。銀行から手形用紙を受け取るには、その銀行に当座取引を開設する必要があります。なお、市販の用紙でも、無効になってしまうわけではありませんが、銀行では支払ってもらうことができません。
- 手形の記載事項・・・手形の記載事項には必要的記載事項(記載されていないと手形が原則として無効となる)、有益的記載事項(記載すれば効力がある事項)、無益的記載事項(記載しても意味のない事項)、有害的記載事項(記載すると無効となる事項)があります。なお、手形の記載方法は手形法に規定がありますが、実務では統一手形用紙で振出しますので手形用法にあるものは、それに従って記載することになります。
- 必要的記載事項
@約束手形という表示A一定の金額(手形に金額が複数記載された場合・・手形6条参照)B支払約束文句C満期日(支払期日)D支払地の表示E受取人の名称F振出地の表示G振出日の表示H振出人の署名
なお、@BDは初めから印刷されています。また、記載方法として、金額欄をアラビア数字で記載するときはチェックライターで記入しなければなりません(ペン書きすると銀行では支払ってもらえません)。また、当座勘定規定で振出日の記載がなくても支払ってもらえることになっています。振出人の署名には押印(銀行へ届けている印鑑)も必要です(当座勘定規定14条)。
Aについて・・・手形6条によれば、金額の記載が重複する場合に金額欄に記載した金額が優先するわけではないが、銀行取引においては、手形を受け入れまたは支払う場合には、複記のいかんにかかわらず所定の金額欄記載の金額によって扱われることとされている(当座勘定規定6条)。
Cについて・・・確定日払(特定の日を満期とするもの)、日付後定期払(手形記載の振出日から手形記載の一定期間を経過した日を満期とするもの)、一覧払(支払呈示の日を満期とするもの)、一覧後定期払(支払呈示の日から手形記載の一定期間を経過した日を満期とするもの)があります。なお、満期の記載がない約束手形は一覧払のものとみなされている(手形76条2項)。
Dについて・・・支払地の記載を欠くときは、振出地の記載があれば、そこが支払地とみなされ、振出地の記載が欠けていても、振出人の肩書地があれば、そこが振出地とみなされる(手形76条3,4項)
- 有益的記載事項
第三者方払文句、肩書地、利息文句、裏書禁止文句等
利息文句(手形5条)・・・一覧払および一覧後定期払の手形だけに認められ、確定日払およ日付後定期払の手形に利息文句を記載しても、これを記載しないものとみなされる(1項)。利息には利率を記載しないと利息文句自体が無効となる(2項)。利息はその起算日を別段定めないときは、手形に記載された振出日から発生する(3項)。
- 無益的記載事項
記載しても法定事項の反復であるものと手形法で記載しても記載しないものとみなされるものがある
- 有害的記載事項
記載すると手形自体が無効となるもので、法定の態様と異なる満期や分割払いの記載(手形33条)のように法が定めているもののほかに、手形の効力を原因関係にかからしめること、振出人が支払責任を負わないこと、支払に条件を付すこと、支払を反対給付にかからしめること等がある。
- 白地手形・・・手形要件の一部が欠けている(受取人、振出日がほとんどです)手形。白地手形は商慣習法上の指図証券として認められている(大判大10.10.1)。白地手形であるためには、少なくとも白地手形行為者(振出人に限らない)の署名がなければならない。また、要件欠缺による無効手形と白地手形の区別は、補充権の存否による。そして、補充権の授与は黙示的でもよい。なお、白地手形にあらかじめなした合意と異なる補充がなされた場合には所持人が悪意または重大な過失によって手形を取得したときを除いて、その所持人に対抗できない(手形10条)。この場合、所持人の悪意・重過失は請求を受けている白地手形行為者において立証する必要がある。統一手形用紙で振出した約束手形に、振出日などの要件が欠けているときは、受取人やその後の所持人に要件を補充する権限があたえられているとみられています。また、白地の補充は手形の支払日までに補充しますが、振出日又は受取人の記載のない手形が銀行に支払呈示された場合、振出人の当座預金から差し引けることになっています(当座勘定規定17条)。この場合にその白地手形が不渡りになったときは裏書人に対しても遡求権を行使できなくなるので注意が必要です。
参考判例
1.白地手形とは後日他人に手形の要件の全部または一部補充させる意志(主観説)で、故意にこれを記載しない紙片に署名して発行するものを指称する(大判大10.10.1)。しかしながら、最高裁になってからは主観説の立場をとったか否かは明確でない。
2.満期白地の手形の補充権の消滅時効については商法522条の規定が準用され、右補充権はこれを行使しうべきときから5年の経過により時効消滅する(最判昭44.2.20)
3.白地手形の満期が補充された場合、その他の手形要件の白地補充権は別個独立に時効によって消滅することなく、手形上の権利が消滅しない限り行使できる(最判平5.7.20)。
4.手形法10条の規定は、既に合意と異なる補充のされている手形を悪意または重大な過失なくして取得した所持人に対する場合のみならず、悪意または重大な過失なくして白地手形を取得した上、予めなされている合意と異なる補充を自らした所持人に対する場合にも適用があると解する(最判昭41.11.10)。
裏 書
- 手形は裏書によって譲渡することができる(法律上当然の指図証券性)。裏書禁止等の文言を記載して手形の指図証券性を奪うこともでき、この場合は氏名債権譲渡の方法(手形の交付は必要である)に従って、かつ、その効力をもってのみ譲渡することができる(手形11条)。
- 裏書の方式
裏書文句と被裏書人を記載し、裏書人が署名または記名捺印してなされる。このうち少なくとも裏書人の署名または記名捺印は不可欠です。統一手形用紙ではこれらの他に裏書年月日および裏書人の住所並びに目的(取立委任や質入の場合)の記載欄があり、また拒絶証書作成免除文言の記載がある。この他に無担保文言・裏書禁止文言(手形15条)の記載をすることができる。
- 裏書譲渡の効力
@指名債権の譲受人は自分が権利者であることを立証しなければならないが、被裏書人は裏書により権利の譲受けを推定される。A被裏書人は人的抗弁切断および善意取得の保護を受ける。B裏書人は原則、手形法上の担保責任を負う。
T.権利移転的効力(手形14条)・・・裏書により手形上の権利は一切被裏書人に移転する。しかし、受取人(または裏書人)が振出人(または前者)に対して有する原因関係上の権利や手形上の権利に付随する担保等は手形の裏書によって移転するわけではない。下記参考判例2は保証債務の随伴制によるものと解される。
U.担保的効力(手形15条)・・・裏書人は原則として被裏書人その他後者全員に対し担保責任(遡及義務)を負う。例外として無担保文句、期限後裏書(支払拒絶証書作成後または支払拒絶証書作成期間経過後の裏書)、取立委任裏書等がある。
V.資格授与的効力(手形16条)・・・手形上に被裏書人として記載された者はその裏書によって権利を取得したものと推定される。したがって、連続した裏書のある手形所持人は形式的資格者と認められる。
参考判例
1.約束手形の受取人甲が乙からその手形の割引を受け、裏書をしないでこれを乙に交付したときは、甲は指名債権譲渡の方法によって乙に手形債権を譲渡したものと解し、乙は振出人と甲間の売買契約が解除されたという抗弁の対抗を受ける(最判昭49.2.28)。
2.約束手形の振出人のために手形金債務の支払につき受取人との間で手形外保証契約が締結されている場合には裏書によって手形債権を取得した者は、これとともに保証債権を取得し、かつ、その保証債権の取得につき対抗要件を具備することなく、保証人に対し保証債務の履行を求めることができる(最判昭45.4.21、参考大判大1.12.27)。
- 白地式裏書、抹消された裏書(手形16条)
最後の裏書が白地式裏書の場合は手形所持人は連続ある手形の所持人と推定される。抹消した裏書は裏書の連続の関係では記載しなかったものと推定される。白地式裏書に次いで他の裏書があるときは、その裏書人は白地式裏書で手形上の権利を取得したものと推定される。
参考判例
1.手形の裏書が抹消された場合には、これを抹消する権利を有する者がしたかどうかを問わず、右裏書は記載されなかったものとみなすべきである(最判昭36.11.10)。
2.約束手形の裏書のうち被裏書人の記載のみが抹消された場合、当該裏書は裏書の連続の関係においては白地式裏書となる(最判昭61.7.18)。
- 裏書不連続の権利行使
裏書不連続の手形所持人が権利行使するには、裏書不連続部分について実質的に権利が移転していることを立証しなければならない。
- 善意取得(手形16条2項)
善意取得とは、裏書によって善意無重過失で手形を取得した者は、その裏書が法律行為として無効でも手形上の権利を取得することをいう。要件としては、@裏書が連続している手形所持人からの取得であることA手形法的流通方法により取得したこと(記名式裏書または白地式裏書であって、権利移転的効力または質入れの効力を有する裏書によって取得したこと)B譲受人が善意無重過失であることである。
参考判例
1.甲会社取締役所長として約束手形を裏書譲渡した乙が、甲会社を代理する権限を有しなかった場合でも、裏書が形式的に連続しており、被裏書人に悪意または重大な過失がなかったときは、被裏書人は振出人に対してその手形上の権利を行使することができる(最判昭35.1.12)。これは一般に無権代理人からの善意取得を認めたものと評価されている。
- 手形抗弁・・・手形金の支払請求を受けた者がそれを拒むために主張しうる事由
@物的抗弁・・・何人に対しても主張できる抗弁。物的抗弁は手形上の債務自体の不発生、変更および消滅に関する抗弁
A人的抗弁・・・特定の者に対してしか主張できない抗弁。類型としては、特定の者に対して何人も主張できるもの(無権利の抗弁)と特定の者に対して他の特定の者のみが主張できるもの(狭義の人的抗弁)がある。そして、狭義の人的抗弁の対抗を受ける者から手形を取得した者をほごするのが人的抗弁の切断(手形法17条)である。17条但書の「害することを知って」とは「人的抗弁の存在をしって」という意味である。
参考判例
1.甲が乙に対する木材代金債務確保のため交付した手形を丙は同売買が乙の不履行により解除されるに至るべきことを熟知しながら乙より債務の弁済のために裏書譲渡を受けた場合には、丙の取得行為は手形法17条但書にあたる(最判昭30.5.31)。
2.融通手形の振出人は、直接の被融通者以外の手形所持人に対しては振出人に何ら手形上の責任を負わせないなど特段の合意があり所持人がこれを知って手形を取得した場合のたほか、所持人が融通手形であることを知っていたかどうかに関係なく、その支払を拒絶できない(最判昭34.7.14)。
3.甲および乙が交換的に同一金額の融通手形を振出し、もし乙がその振出した約束手形の支払をしなければ、甲も自己が振出した約束手形の支払をしない旨の約定をした場合において、乙がその約束手形の支払をしなかったときは、甲は、右約定および乙振出の約束手形の不渡り、あるいは不渡りになるべきことを知りながら甲振出の約束手形を取得した者に対し、いわゆる悪意の抗弁をもって対抗することができる(最判昭42.4.27)。
4.自己の債権の支払確保のために約束手形の裏書譲渡を受けた所持人が右債権の完済を受け原因関係が消滅したにもかかわらず、たまたま自己の手元にある手形をもって振出人に対し手形金の支払を求めることは権利濫用に該当する(最判昭43.12.25)。
- 特殊な裏書
1.無担保裏書(手形15条1項)・・・無担保文句(手形上の責任を負わない旨)をしてなされた裏書。移転的効力・資格授与的効力はある。
2.裏書禁止裏書(手形15条2項)・・・裏書禁止文句を記載してなされた裏書。以後の裏書ができないわけではなく、以後に裏書されても担保責任を負わないということである。移転的効力・資格授与的効力はある。
3.戻裏書(手形11条3項)・・・手形上の債務者を被裏書人とする裏書。
4.期限後裏書(手形20条)・・・支払拒絶証書作成後または支払拒絶証書作成期間経過後になされた裏書。指名債権譲渡の効力しかない。なお、支払拒絶証書作成前、かつ、作成期間経過前にされた裏書は、たとえ不渡りの附箋等により支払拒絶の事実が明らかになった後にされたものであっても満期前の裏書と同一の効力を有する(最判昭55.12.18)。裏書に日付がないときは、期限前にされたものと推定される。権利移転的効力と資格授与的効力がある。
5.取立委任裏書(手形18条)・・・取立委任文句を記載して裏書する。取立を目的として通常の裏書で譲渡することもできる(隠れた取立委任裏書)。被裏書人は代理権を取得するにすぎない(手形上の権利は裏書人の名において行使される)。被裏書人には代理人としての資格授与的効力が認められる。被裏書人は代理権を裏書により移転することはできる。また、民法と異なり、委任者の死亡または無能力によって代理権は消滅しない。
参考判例
1.隠れた取立委任裏書は、手形債権の取立のため手形上の権利を信託的に移転するものである(最判昭44.3.27)。
2.隠れた取立委任裏書の当事者間では、手形上の権利は実質的には被裏書人に移転せず裏書人に帰属しているから、手形債務者は裏書人に対する人的抗弁事由を被裏書人に対抗することができる(最判昭39.10.16)。
6.質入裏書(手形19条)・・・質入文句を記載して裏書するもの。隠れた質入裏書をすることもできる(実際はこれがほとんど)。
手形の支払呈示
- 支払呈示とは支払呈示期間内に主たる債務者またはその支払担当者に対して、手形の所持人またはその代理人が支払呈示をなすべき場所において、支払いを求めて手形の呈示をすることをいいます。支払呈示期間は満期日(その日が休日であればその翌日)とそれに続く2取引日です(手形第38条)。振出人に対する権利は呈示期間内に呈示しなくても消滅しません(振出人に対しては満期日から3年間の時効まで手形の支払いを請求できます)が、銀行を支払場所とするものについては、銀行は呈示期間内に呈示された手形だけを支払うことになっています(当座勘定規定7条)。したがって、呈示期間内に銀行へ呈示しなかった場合は直接振出人の住所(営業所)へ手形の支払請求をすることになってしまいます。なお、振出人が支払いを拒絶したときには裏書人へ遡及することができますが、この遡及権を行使するためにも呈示期間内に呈示しておく必要があります(手形53条)。支払呈示の効力として、この他には付遅滞効(手形債務者を遅滞に付する効力)、時効中断効があります。
参考判例
1.為替手形の支払呈示期間経過後における支払のための呈示は支払地内にある手形の主たる債務者の住所(営業所)においてすることを要し支払場所に呈示しても手形債務者を遅滞に付する効力を有しない(最判昭42.11.8)。
- 不連続手形の呈示について・・・手形所持人はたとえ手形が裏書不連続のため形式的資格を有してなくても、実質的権利を証明するときは手形上の権利を行使することができる(最判昭33.10.24)。証明して呈示した場合に遅滞効を生ずるかについては争いがあります。遡及権保全効については、主たる手形債務者において正当に履行を拒むことができるような不完全な支払呈示がなされ、かつ、債務者がそれを理由に支払を拒絶したような場合には、かかる支払呈示をもって遡及権を保全するに足りる適法な呈示があったものとみることはできない(大阪高判昭55.2.29)としている。時効中断効はみとめられる(通説)。
- 白地手形による支払呈示は無効であり(大判昭12.12.12)、白地を補充しないと手形金請求はできない。したがって、手形金請求訴訟を提起して口頭弁論終結までに白地を補充しなければ敗訴する(大判昭10.3.27)。また、付遅滞効も遡及権保全効もない(最判昭33.3.7)が時効中断効はある。
参考判例
- 支払場所の記載は、その手形の支払呈示期間内における支払いについてのみ効力を有し、呈示期間経過後における支払いのための呈示は、支払地内にある手形の主たる債務者の営業所または住所においてすることを要し、支払場所に呈示しても、手形債務者を遅滞に付する効力を有しない(最大判昭42.11.8)。
- 裁判上手形金の支払いを請求した場合は手形の呈示を伴わないでも、支払督促の送達により債務者を遅滞に付する(最判昭30.2.1)。
- 時効中断のための催告(民153条)については、手形の呈示を伴う請求である必要はない(最大判昭38.1.30)。
- 自己の意思によらずその所持を失った手形権利者が手形を所持しないで手形債務者に対し裁判上の請求をなした場合も、時効中断の効力がある(最判昭39.11.24)。
- 手形債権に基づく強制執行をなす際は、債務者に手形を呈示する必要はない(大判大3.11.16)。
支 払
- 受戻証券性(手形39条)
全部支払いをする者は支払の際、所持人に対し証券に受け取りを証する記載をして手形を交付すべきことを請求することができます。なお、手形の受戻しがなくても手形債務は消滅するが手形が所持人の元にあるので後々の紛争につながる危険性があります。所持人は一部支払を拒むことはできない(呈示期間経過後の支払については、遡及権保全効がないので一部支払の受領を拒むことができる)。支払人は手形の受戻しはできないが、所持人に対して手形上に支払を受けた旨の記載及び受取証書の交付請求ができる。
- 満期前の支払(手形40条1,2項)
満期前においては所持人は弁済の受領を強制されないが手形債務者と所持人の合意で満期前に支払をすることは可能であり、この場合は支払人の危険において支払をするものとされている。
- 善意支払(手形40条3項)
満期において支払をする者は悪意または重過失ない限りその責任を免れる。この者は裏書が連続しているか否かを調査しなければならないが裏書人の署名を調査する義務はない。
参考判例
- 40条3項は満期後の支払についても適用され、「悪意」とは所持人が無権利であることを容易かつ確実に立証しうる証拠方法があることを知っていることを意味する(大阪高判昭57.12.17)。
- 支払銀行としては、白地手形を支払うにあたっては、振出人に対し電話その他の方法でその手形についての支払委託の有無を確認すべき義務がある(最判昭46.6.10)。
- 呈示期間経過後の支払(請求呈示)
呈示期間が経過しても所持人は手形債務者及びその手形保証人に対して手形金の請求ができる。請求呈示にも付遅滞効と時効中断効はあるが遡及保全効はない(手形53条)。なお、遅延損害金は請求呈示の翌日から請求できるにとどまる(最判昭55.3.27)。
遡 及
- 遡及とは、満期に支払が拒絶された場合または満期前における支払の可能性が著しく減退した場合に原則として拒絶証書を作成し所持人が自己の前者(裏書人等)に対して手形金額、利息、拒絶証書作成費用、通知費用等の弁済を請求することをいいます。
- 実質的要件
満期・・・呈示期間内に適法な呈示をしたが支払を拒絶されたこと。なお、支払義務者の資金不足または取引なしの事由により6ヶ月内に2回支払拒絶(不渡り)となったときは支払義務者は銀行取引停止処分を受け、その交換所に加盟している金融機関と当座勘定取引および貸出取引を2年間できなくなります(手形交換所規則)。実際としては、1度でも不渡りを出すと金融機関は事情によって以後の取引に応じないことも考えられます。
満期前・・・為替手形について明文で認められている(手形43条)。約束手形には引受の制度はないから、それに関する部分は準用されないが、振出人の破産等、支払停止、振出人に対する強制執行の不奏効(不効果)の場合には認めてもよいと解されているようである。
参考判例
1.振出人に対する訴訟提起は、遡及権行使要件である支払呈示としての効力を有せず、このことは満期前に提起し弁論終結前に満期が到来した場合も同じである(最判平5.10.22)。
- 形式的要件
原則として拒絶証書(公正証書)の作成が必要です(手形44条)。拒絶証書は呈示期間内に公証人または執行官により手形の裏面または附箋に法定の事項を記載して作成される。
拒絶証書不要の場合
1.作成が免除されている場合(手形46条)・・・遡及義務者は拒絶証書作成免除文句を記載し、かつ署名して所持人に対して作成を免除できる。
2.満期前遡及における支払人等の破産等の場合(手形44条)
3.不可抗力が満期から30日を超えて継続する場合(手形54条)・・・支払呈示も不要。
参考判例
1.約束手形の振出人がした拒絶証書作成免除は無意義であり全く手形上の効力を生じない(大判大13.3.7)
- 遡及の通知(手形45条)
遡及に際し所持人は拒絶証書作成の日(作成免除のときは呈示の日)に次ぐ4取引日内に直接の遡及義務者に対して支払拒絶または引受拒絶があったことを通知しなければならない。そして通知を受けた者は順次、通知を受けた日に次ぐ2取引日内に自己の裏書人に対し前の通知者全員の名称及び宛所を示し、自己の受けた通知を通知しなければならない。
- 銀行取引における不渡り処分と銀行取引停止処分
1.手形交換の仕組み・・・手形所持人は満期の到来が迫ると取引銀行に取立依頼をします。依頼を受けた取立(持出)銀行は、手形の満期に手形交換所を経由して支払銀行に手形の支払呈示をし、手形金の支払をしてもらい取立依頼人の取引口座に入金します。一方、手形交換所を経由して支払呈示を受けた支払銀行は、振出人の当座勘定取引口座から手形金額を引き落として取立銀行に手形金を支払います。→実際の決済は、銀行が支払呈示する手形と交換所で他の銀行から支払を請求された手形の差額(交換尻)について、各銀行が日本銀行に持っている当座預金勘定を増減させて行われる。
2.不渡事由
第1号不渡事由・・・@資金不足A取引なし→不渡届が出る(異議申立不可)
第2号不渡事由・・・@契約不履行A詐取B紛失C盗難D印鑑相違E偽造、変造F金額欄記載方法相違G取締役会承認等不存在→不渡届が出る(異議申立可)
0号不渡事由・・・手形法により適法な呈示でないことを理由とするもの。@形式不備A裏書不備B引受なしC呈示期間経過後D期日未到来E依頼返却F振出人等の死亡G破産法、和議法、会社更正法、商法による財産保全処分中→不渡届はでない
なお、異議申立とは、不渡り処分を猶予するため交換日の翌々営業日の営業時限までに、交換所に不渡手形金額相当額(異議申立提供金)を提供して異議の申立をすることをいいます。
3.不渡り処分・・・手形が不渡りになると、支払銀行と取立銀行は手形交換所に不渡届を提出します。手形交換所では、不渡手形を出した振出人を不渡報告に掲載して、その手形交換所に加盟しているすべての銀行に対して不渡りの発生を通知して、その後の取引について注意するよう警告することをいう。
4.取引停止処分・・・不渡報告に掲載された者が最初の不渡りを出してから6ヶ月以内に再度手形・小切手を不渡りにすると取引停止報告書に掲載され、各銀行に配布されると、その手形交換所に参加している銀行の各営業店では配布日から2年間その振出人との当座勘定取引と貸出取引が禁止されます。
手形債権の消滅時効
1.振出人に対する債権・・・満期から3年間(手形70条1項)
2.所持人の前者に対する遡及権・・・拒絶証書作成日(作成免除のときは満期)から1年間
3.償還をした裏書人、保証人、参加引受人の前者に対する再遡及権・・・手形受戻日または償還の訴えを受けた日(訴状送達日)から6ヶ月間(なお、手形86条1項参照)
なお、手形債権は各々独立しているから、特定の遡及権が時効消滅しても振出人対する権利に影響はないが振出人に対する権利が時効消滅した場合は遡及権も消滅する。
参考判例
1.白地手形であっても時効は手形記載の満期から進行する(大判大9.12.27)。
2.手形債権について支払命令が確定して手形債権の時効期間が10年に延長されたときは原因債権の時効期間もその時から10年に延長される(最判昭53.1.23)。
3.約束手形の裏書人が所持人に対して自己の償還義務について消滅時効の利益放棄をした上、自己固有の債務として手形金の支払をする旨を約したときは振出人の手形債務の時効消滅を理由に自己の償還義務の消滅を主張することは信義則に反し許されない(最判昭57.7.15)。
4.満期が変造された場合は変造前の満期が時効起算日となる(最判昭55.11.27)
5.共同振出人の1人に対する請求(時効中断効)は他の共同振出人の時効を中断しない(最判昭36.7.31)。但し反対の判例(大判昭8.5.9)がある。
利得償還請求権
- 手形上の権利が手続きの欠缺または時効により消滅した場合、所持人が振出人、引受人または裏書人に対してその受けた利益の限度で償還請求できる権利をいいます(手形85条)。
- 行使の要件
1.手形上の権利が有効に存在していたこと
手形要件を欠く手形については利得償還請求権は発生しない。
2.請求者が権利を有していたこと
実質的権利者であればよい(形式的資格は必要ない)。
3.時効または手続の欠缺による権利消滅
すべての手形債務者に対する手形上の権利も原因関係上の権利もすべてないことを要する(最判昭36.12.22)。
4.手形債務者が利得を得ていること
この利得は単に手形債務を免れたことをいうのではなく、原因関係においても利益を得たことをいう(大判大6.7.5)。
- 利得償還請求権の消滅時効は5年間です(最判昭42.3.31)。
参考判例
1.利益を受けた場合とは約束手形の振出しにあたり積極的に金員の交付を受けた場合だけでなく、消極的に既存債務の支払を免れた場合も含む(大判大5.10.4)。
2.利得償還請求権を裁判上行使する場合には除権判決取得を要しない(東京地判平6.3.10)。
手形保証
- 手形保証とは手形債務者の信用を補うため、その者の義務を担保することをいいます(手形30条)。
保証は全部保証でも一部保証でもかまいませんし、条件付き保証でも手形所持人にとっては有利であるので有効と解されていいものと思われる(しかし、反対の下級審判例(東京地判昭28.2.18)あり。)。保証は手形またはその補箋に「保証」その他これと同一の意義を有する文字で表示し、保証される者の名称を記載(記載しないときは振出人のために保証したものとみなされる)し、保証人が署名する方式(正式保証)と、手形の表面に保証の趣旨で保証人が単に署名する方式(略式保証)があります。なお、隠れた手形保証をした者は手形行為の形式に従った責任を負い保証の目的であることは人的抗弁事由になるにすぎない(東京控判昭5.12.11)。隠れた手形保証をした者が数人いるときは民法465条1項が適用される。
参考判例
1.約束手形に振出人の署名があり振出人以外の者の契印をした補箋の表面に振出人以外の者の単なる署名捺印がなされている場合は、たとえ保証等の表示がなくても手形保証とみなされる(最判昭35.4.12)。
2.何人のために手形保証をしたかは、手形以外に存する事実または証拠により判定することはできない(大判大15.12.16)。
- 保証人の責任と地位(手形32条)
手形保証人は被保証者と同一の責任を負う。被担保債務が方式の瑕疵を除き他のいかなる事由によって無効となっても手形保証は有効です。手形保証債務を履行した保証人は被保証者及びその手形債務者に対し、手形上の権利を取得する。手形保証人が原因債務について民事上の保証債務を負うかどうかは、保証人の意志による。つまり、保証人が借り主から依頼され貸し主と交渉しないで手形の裏書をした場合は金融のための手形と知って裏書したというだけでは手形保証人に民事保証の意志があるとは推認できない(最判昭52.11.15)が保証人が貸し主と交渉し手形の裏書をした場合手形保証人は貸し主の保証を求める意志を認識して裏書したとして民事保証を認める(最判平2.9.7)。
参考判例
1.手形保証人は、手形保証という手形行為をすることによって独立に手形上の債務を負担するものであり、振出人のために手形保証をした者は振出人が受取人に対して有する人的抗弁をもって受取人に対抗することはできない(手形保証独立性、最判昭30.9.22)。
2.主たる債務者の手形債務が時効消滅したときは手形保証債務も消滅する(最判昭45.6.18)
3.手形振出の原因関係上の債務の不発生が確定した場合に受取人が振出人のための保証人に対し手形金の支払を請求することは権利濫用であり許されない(最判昭45.3.31)。
4.被保証人は所持人に対して有する人的抗弁をもって害意のない保証人に対抗できない(高松高判昭29.5.6)。
公示催告と除権判決
- 除権判決とは、公示催告手続きを経て権利と証券を切離して有価証券を無効とするものです。
- 手続きは、手形等を喪失した者が支払地を管轄する簡易裁判所に公示催告の申立をすると裁判所は申立を審理し許可すると公示催告(手形等につき権利を主張する者がいるときは一定の期日までにその権利の届出と手形等を提出するように催告し、かつ、その期間内に届出がなければ手形等の無効宣言(除権判決)をする旨を告げる)をする。公示催告は裁判所の掲示板に掲示され、かつ、官報に掲載される。
- 公示期間中に権利を届出る者がいないときは、除権判決がなされる。申立人は判決正本により権利を主張できる。
- 届出人がいるときは手続きは中止され、権利者がどちらであるか争われ、申立人の権利が認められれば届出人に対し手形等の引渡請求ができる。
参考判例
1.白地手形を喪失した者は手形について除権判決を得た場合でも手形債務者に対し喪失手形と同一内容の手形の再発行を請求する権利を有しない(最判昭51.4.8)。
2.約束手形に振出人として署名したが、これを流通に置く前に盗取されまたは紛失した者の得た除権判決は、右振出署名者において除権判決後その手形を取得した者に対し支払を拒絶しうる効力を有するにとどまり、除権判決前に手形を悪意または重大な過失なく取得し、振出署名者に対し振出人としての責任を追及しえた者の有する実質的権利までも消滅させる効力を有するものではない。したがって、無効となった手形を所持する実質的権利者は、除権判決前すでに手形上の権利を取得し、除権判決当時手形の適法な所持人であったことを主張・立証することにより、その権利を行使することができる(最判昭47.4.6)。
支払猶予
- 支払猶予の方法として@旧手形の満期よりも後の日付を満期とする手形を振出す(手形書替)A満期を訂正するB手形外の特約により支払猶予の約束をする方法があります。Aの場合は手形関係者全員の同意(訂正印)が必要です。Bの場合は約束当事者しか拘束されないので遡及権を保全するには呈示期間内に支払呈示をし、拒絶証書を作成しておく必要がありなす。
- 手形書替
@.旧手形を回収する場合
更改の場合と支払延期の手段としてなされる場合があり、当事者の意志が不明のときは、支払延期の手段としてなされたものと推定される(大判大12.6.13)。支払延期手段のときは、旧手形債務と新手形債務とは法的同一性を有している(法律的同一性)。
A.旧手形を回収しない場合
当事者の意志は旧手形上の債務を存続させて、新手形の担保とすることと解される(最判昭31.4.27)。新旧どちらの手形でも権利を行使できる(最判昭42.3.28)。手形債務者は一方の手形で請求された場合新旧両手形との引き換えを請求できる(東京控判昭11.10.28)。
B.実務の面から・・・所持人にとっては、できれば旧手形を返還しないほうがよいでしょう。新手形を振出人から直接差し入れてもらい旧手形を返還してしまうと新手形が不渡りになったときに旧手形の所持人に遡及できなくなります。なお、旧手形を返還しないときは、必ず旧手形の満期に支払呈示をしたうえ、依頼返却(支払呈示と支払拒絶の効力がある)の手続きをとるようにします(遡及権確保のため)。
参考判例
1.手形の書替は通常支払延期のためにされるものであり、旧手形取得の際、人的抗弁事由の存在を知らない所持人は、書替の際、抗弁事由を知っていても悪意の取得者とはいえない(最判昭35.2.11)。
その他
- 補箋と附箋・・・補箋とは手形行為の記載をする余白が手形面上にないとき手形につぎたして結合させた紙片のことで補箋上できる手形行為は裏書と保証に限られます。附箋とは拒絶証書作成の余白がないときに、その作成のため手形につぎたした紙片のことをいいます。
- 当座勘定規定・・・取引先が銀行に資金を預け入れ(当座預金)、当該銀行を支払人として振出した小切手、為替手形やその銀行を支払場所として振出した約束手形の支払の委託契約(当座勘定取引契約)に関する銀行取引約款をいいます。
- 銀行取引約定書・・・手形取引等により取引先が銀行に対して負担する債務の履行に関する銀行と取引先との間の約定書で多くは銀行の権利の確保および免責に関する規定です。
- 手形交換所規則・・・手形交換とは、同一地域内にある銀行等が相互に取りたてるべき手形・小切手その他の証券を手形交換所に一定の時刻に持ち寄り支払呈示し、交換によって集団的な資金の決済を行うことをいう。そして、手形交換の手続きを定めているのが手形交換所規則です。
- 見せ手形・・・通常、所持人の資力を仮装する目的で他に譲渡しない約束で振出された手形。
- 約束手形用法
1.この手形用紙は当店における貴方名義の当座勘定にかぎり使用し、他の当座勘定に使用したり、他人に譲渡しないでください。
2.手形の振出にあたっては、金額、住所、支払期日を明確に記入し、記名捺印に際しては当店へお届けのご印章を使用してください。住所の記載があれば振出地の記入は省略できます。なお、改ざん防止のために消しにくい筆記具をしようしてください。
3.振出日、受取人の記載は、手形要件となっておりますからできるだけ記入してください。
4.(1)金額は所定の金額欄に記入してください。(2)金額をアラビア数字で記入するときは、チェックライターを使用し、金額の頭には「¥」、その終わりには※、☆などの終始符号を印字してください。なお、文字による復記はしないでください。(3)金額を文字で記入するときは、文字の間をつめ、壱、弐、参、拾など改ざんしにくい文字を使用し、金額の頭には「金」を、その終わりには「円」を記入してください。
5.金額を語気されたときは、訂正しないで新しい手形用紙を使用してください。金額以外の記載事項を訂正するときは訂正個所に届出印を捺印してください。
6.手形用紙の右上辺、右辺ならびに下辺などの余白部分は使用しないでください。
7.手形用紙は大切に保管し万一、紛失、盗難などの事故があったときは当行所定の受取書に記名捺印(届出印)のうえ請求してください。
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