梶原一騎主義者からの罵詈雑言


 この世代(著者は昭和34年生まれ)は、前後に団塊世代と無気力世代あるいはオタク世代に挟まれて、なぜかネーミングもなされなかったわけですが、総じて「まじめなわりにはおっちょこちょいで熱い」という感じが否めませんね。

 さて、書名にある一騎主義は「イッキズム」と読み、もちろん一騎は梶原一騎氏のことです。帯には、こうあります。

《がーん
 そ、そうだったのか!
 初めて解明された、天才・梶原一騎の
 マンガ原作の奥義!》

 とにかく、おもしろかったです、この本。サービス精神も旺盛なので、全編を通じてよく笑かしてくれます。
 梶原作品では無視されることの多かった「タイガーマスク」はもとより、
「チャンピオン太」や「巨人軍一刀斎」までフォローしているのも嬉しい。

 が、しかし!
「プロローグ 『週刊エコノミスト』巻頭の妄言が、おれに本書執筆を決意させた」が、タイトルも長いといいますか、ざけんなよ、といいますか。
 本書の第1行目は、次のようにして始まります。

《「うおおおおっ!!」
 突如こみ上げ、ほとばしる憤怒。おれはわれを忘れて叫んだ。伴宙太のごとくに。
 わなわなと震える手にはねじり上げられグシャグシャとなった『週刊エコノミスト』誌2002年2月19日号が握りしめられていた。その巻頭コラム「敢闘言」(日垣隆)が、おれの激情に火をつけたのだ》

 なかなか偉いですね。立ち読みではなく、ちゃんと「敢闘言」掲載誌を定期購読なさっておられるらしい。

 私は、『巨人の星』を小学生のときに読み、毎週土曜日の放映を何よりも楽しみに、草野球をして育った世代であります。だから敢えて、東京オリンピック以降に常態と化した部活の異様さをテーマとして、《日本のスポーツ、とりわけ学校課外スポーツに与えた『巨人の星』の罪深い影響力について最近、私は真剣に考えている。少年時代の私もバスのなかで爪先立ちをして"自分を鍛えて"いた者の一人だ。冗談はともかく、汗と忍耐と根性は至上の善であり、監督コーチへの忠誠心と一分でも多い練習量が勝利への唯一の方程式だと信じて疑わなかった『巨人の星』時代。〔後略〕》(「敢闘言」)と書き起しました。

 私は、『巨人の星』の主人公や登場人物たちが、《汗と忍耐と根性は至上の善であり、監督コーチへの忠誠心と一分でも多い練習量が勝利への唯一の方程式だと信じて疑わなかった》 と書いのではありません。そのような一時代を『巨人の星』読者は不幸にして作ってしまった、というふうに私は考えています。

 その後の『キャプテン翼』がサッカー少年や指導者に与えた影響、あるいは『スラムダンク』が日本のバスケットに与えた影響とは、明らかに異質だったという意味です。部活に与えた罪深い影響力という点では、『巨人の星』ではなく、むしろ『アタックNo.1』をもってくるべきだったかもしれません。

 確かに、飛雄馬の大リーグボールはすべて監督やコーチとは無関係に編み出されたものでしたし、青雲高校野球部のコーチとしての星一徹は暴力的ではまったくなく、理論と意欲を重視する 野村+星野÷2 という感じでした。一徹がちゃぶ台を引っくり返すのも、全編通じて本当は1度だけなのに、アニメ放映時にテーマソングの背景動画として毎週何度も何度も流されたための単なる思い込みであったわけですよね。

『一騎主義宣言』著者の池田氏が書いているように、『巨人の星』からヘンな影響を受けることを《勝手にしたやつがいたとしても、それはまったく作品や作者の罪ではない》は正しい。そして、『巨人の星』にあった《勝利への唯一の方程式》は、忠誠心とか練習量とかではなく、《魔球だよ、魔球》(笑)というのも、たぶん正しいのでしょう。

 この著者は、本書をまじめに書いているのでしょうか。
《おれは、この回の『敢闘言』全体の論旨には反対ではない。と言うよりほぼ賛成なのだ〔がくっ――日垣註〕》

《『敢闘言』という連載コラム自体も嫌いではない。と言うより、ハッキリ言っておれは愛読者なのだ〔どひゃっ――日垣註〕》

 音楽家クリストフと星飛雄馬の共通点として、《後先考えぬ向こう見ずでかなり非常識。鼻っ柱が強くケンカッ早い。その一方で過剰なまでに友達思いで義侠心に富む。感情の振幅が激しくひどく涙もろい。そのくせ単純直情型ではなく、幾重にも屈折した内向型》を挙げています。親近さを感じるなあ。これってフツーじゃないの?(笑)

 著者は、ともかくこうして"憤怒"から本書執筆に立ち上がります。
《日垣隆にして、この勘違い大爆発。このままでは、梶原作品について誤ったイメージがどんどん増幅してしまう。伝播拡散はとめどなく、そちらの方が世に定着してしまう! だから今こそ、やらねばならぬのだっ。おれはやるぞ!
 どこまでも、命を懸けて! おれがやらねば、誰がやる!》

 まじめなんだか不まじめなんだか。この世代って、やっぱり……。





このページに関するお問い合わせはガッキィファイター編集室:info@gfighter.comまで。