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織田淳太郎『コーチ論』
+小林信也『大リーグは本当にすごいのか?』


  松井選手はニューヨーク・ヤンキースへの入団が決まり、中村ノリは近鉄に留まりました。それぞれスジを通したのは立派だったと思います。

  近鉄を退団した野茂英雄投手が、米大リーグのドジャースと契約したのは95年2月のことです。その渡米時、日本のスポーツ・メディアは野茂をバッシングしたのは、もう忘れるべきことでしょうか。野球解説者たちも、「わがままだ」「日本を捨てる気か」「愛国心がない」と、ハッキリと口にしていました。

  日本人が本場の大リーグで通用するわけがない、と断じる屈折した心理は、85年に江夏豊が米ブリュワーズの入団テストに失敗したことで決定的となったのでした。しかし、江夏は当時すでに37歳だったのです。あれは日米格差の問題ではなく、年齢の問題だったというべきでしょう。ノーヒット・ノーランを達成した20代半ばで渡米していたなら事情は大きく異なっていたはずです。

  日本人などまだ本場で通用するわけがない、と思い込んでいたのは一部の"専門家"たちだけだったろうと思います。すでに73年頃から、実は日米対抗野球でプロ・アマを問わず日本はずっと互角に戦ってきていたのです。

  そこで、この2冊をお薦めしたいと思います。
 織田淳太郎『コーチ論』(光文社新書、2002年12月20日刊、700円)は、一言でいえば、日本のスポーツと、とりわけ現場指導者を叱った本です。小林信也『大リーグは本当にすごいのか?』(草思社、2002年4月30日刊、1,500円)は、日本野球の底力を見直そうと提起しています。
  一見すると2冊は対照的であり、全く別の事例を扱っていますが、実は同じメダルの両面を考察した本です。

『コーチ論』は、丸刈り、水分補給の禁止、だらだら続く長い練習、しごき、恣意的な選手起用、自分の成功体験の押し付け、不勉強など、要するに日本における部活顧問や少年スポーツチームのコーチ陣に広く見られる莫迦げた"伝統"や妄信を批判しつつ、同時に日本の監督、コーチ、トレーナーに取材してその良質な理論と実践を紹介しています。

  私も書いたことがありますが(文庫版『敢闘言』P290など)、日本の野球コーチにおける「ダウンスイング」や「両手でボールをとれ」という強要理論の浸透ぶりは、ただの妄信というほかありません。「ダウンスイング」でまともに打てるわきゃねえだろってんだよ。

《このダウンスイングが日本に紹介されたのは、川上巨人がドジャースの本拠地であるベロビーチで初めてキャンプを張った昭和三六年にまで遡る。貧打に喘ぐドジャース打線が戦法の一つとして導入したのが発端とされている。巨人は当時から最も影響力のある球団だった。ダウンスイングが唯一絶対的なスイングとして、全国のアマチュア野球に急速に普及していくまでに時間はかからなかった》(『コーチ論』P178−179)
  しかし、長島や王や落合その他は、ダウンスイングなんかしていたか?

『大リーグは本当にすごいのか?』は、タイトルどおりの本ですが、同時に日本のスポーツ報道への激しい批判の書でもあります。
  両方を続けてお読みになれば、日本の高校以下の部活スポーツ指導の悲惨さと、にもかかわらず有能な日本人選手が陸続と出ているのはなぜか、という疑問もかなり解けると思います。

  そういうわけで、私も『部活活廃止論』執筆を急がなければなりません。正月休みに4冊くらい他の本もばりばり書いて完成させられるといいのですが。無理なら、このメルマガかどこかで連載することにします。



(「ガッキィファイター」2002年12月23日号に掲載)

 




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