藤井孝一『週末起業』(ちくま新書、680円)



 今も経済的に活気のある中国、台湾、イタリアなどでは、職人や起業家が尊敬されています。以前にこの欄で取り上げた『フリーエージェント社会の到来』でも指摘されていたとおり、日本は先進諸国のなかにあって唯一、開業率が廃業率を下回っているため、健全な資本主義社会としての将来が危ぶまれているのです。

  実は『フリーエージェント社会の到来』の限界でもあったのですが、雇用されているか雇用するか、という二者択一、または会社員であるか独立するか、という二者択一しか視野に入れないのは、少なくとも「独立」が素朴に慶賀されない日本においては、非現実的なきらいがありました。

『週末起業』の優れているところは、《いま不安にさらされているのは「雇われる」という生き方》(P24)であるにもかかわらず、その一方《日本では、開業率(四%)が廃業率(六%)を下回るなど、海外と比較しても起業が少ないのです》(P190)という正しい現状認識の上に立って、そこからただちに独立を煽るのは《今まで泳ぎ方を教わったこともない人に「海に飛び込め」というようなもの》でハイリスクすぎることに警鐘を鳴らしつつ、フランチャイズに全人生を吸い取られても「独立さえすればいい」というのではなく、《自分の好きなことをビジネスにする》ための考え方、ノウハウを丁寧に書いている点です。この一文は、ちょっと長かったかなあ。

  この本の著者(中小企業診断士、エフズコンサルティング代表)は、一貫してローリスク・ローコストでの起業を呼びかけています。しかも、会社員であることを辞めずに、です。私が最近よく口にする「Win-Winの法則(いいとこ取りの法則)」や、先週のメルマガでも触れた「失敗しない選択肢」と通底する、というか同じ方法論だと言ってもいいわけです。要するに、ゼロか百か、という両極端主義を脱し、双方の「いいとこ」をとれば、そこに失敗はない、という便利な処世術であります。

  そんなことができるのでしょうか。
  できますとも!

  例えば本書でいう「週末起業」は、《自分の好きなことをビジネスにする》ことによる収入が、たとえ1カ月たった2,000円だったとしても、断崖絶壁に立っての独立開業でなく(私は個人的にこのような断崖絶壁が大好きなのですが、それは例外とします、ここでは)、会社からの給与を他方できっちり貰っているのですから、その2,000円は単純な利益としてプラスになります。
《週末起業で失うものは何もないのです》(P204)という見通しも、自宅のパソコンがネットワークに常時接続できる時代ならでは、と言えます。

  会社を辞めないで好きなビジネスを起業しよう、というコンセプト自体は『金持ち父さんの投資ガイド』にも見られた発想ですが、考えてみれば、自分で売れるものを模索し少しずつ実現してゆく、という処方は、いま属している企業にとっても長期的に見てプラスになるに決まっています。ただし、上司は理解しないでしょうから、くれぐれもバレないようにやりましょう。



(「ガッキィファイター」2003年09月30日号に掲載)

 




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