加藤健二郎『攻撃か、それとも自衛か』(現代人文社、1,500円)
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この本の白眉は「アメリカはこうして戦争を起こす」です。
例えばコソボ紛争は、どうやって拡大させられたか。
《コソボに入ってまだ一週間ほどしかたっていなかった私は、なぜ、セルビア 人の死体では取材する意味がないのか理解できていなかった。〔中略〕欧米の テレビ局は、〔中略〕「攻撃的なセルビア人」と「かわいそうなアルバニア人」 をつくり上げていたのである》(P154〜P160)
この構図のうえにアメリカの国防長官は、「空爆の目的はコソボ紛争の解決 ではなくユーゴスラビアを叩くこと」と明言し、コソボの停戦合意は破棄せざ るをえない状況に追い込まれてゆきます。
《これで米国は、再びユーゴスラビアを攻撃する口実を得ることができ、停戦 を破ったユーゴスラビアに対して、さらに厳しい要求を突き付けた。それは、 首都ベオグラードへも米軍を進駐させるという内容であり、ほとんどユーゴス ラビアの国家解体に近かった。当然ながら、ユーゴスラビア政府はその通告を 一蹴。そして、〔1999年〕三月二四日から米軍主体のNATO軍による大空爆 作戦が実施されることになる》(P170〜P171)
イラクを叩くこと自体が目的だったのに、大量破壊兵器がどうの、との大義 名分をつけて戦争を始めた構図と、まったくもってそっくりです。従順な日本 の首相(ポチ)ときたら、この尻馬に乗っかっただけでは飽き足らず、「イラ ク側が大量破壊兵器のないことを証明しなかったのが開戦の原因」(参議院、 2004年2月4日)と恐ろしいことを口にしていました。
さて、《約八〇日間に及ぶ連続空爆で、ユーゴスラビア政府はコソボ自治州 からの撤退など、米国側の言い分を受け入れることになる。〔中略〕米国の目 的は、米軍の軍事力行使がいかに効果的で世のため人のために役立っているか というイメージを世界に広めることである》(P181)
米軍は、"解放"のためセルビア人も大量に殺しましたが、それ以上にコソボ の人々を大きな危害を加えたのでした。
イラクの大量破壊兵器を暴くという大義が、次第にフセイン打倒という名目 に変わり、こうして「イラク人のため」に数万のイラク人を殺戮してしまった 米国軍は、コソボでもまったく同じことをやらかしていたのでした。
《別に米軍が出てこなくても結果が出ているような事態になって初めて大規模 空爆に踏み切っていることがわかる》(P186〜P187)
著者の加藤健二郎氏は1961年生まれのジャーナリストです。なかなかチャ メッ気もあるようで、本書にはこんなエピソードが綴られています。
《エチャックが私のことを、「ボスニアでもセルビア軍兵士をたくさん取材し ているセルビア贔屓のジャーナリストだ」と紹介してくれたので、すかさず、 セルビア兵の写っている写真などを見せる》(P161)
そして、とても正直な人です。
《取材規制の厳しい中で、このように隠し撮りをして逃げるような行動をして いると、自然と「セルビア=自分にとっての敵」という意識が芽生えているこ とに気づいた》(P169)
そして加藤さんは、とても強運な人でもあります。
《翌日わかったことだが、この参謀本部ビル攻撃とほぼ同時に、その二〇分前 まで私がウロウロしていたユーゴスラビアホテルのロビーも命中弾を受け、 ジャーナリスト一名が死亡し十数人が重傷を負っていた》(P179)
1987年から紛争地取材を続けてきた著者の発言は、凡百の専門家より数段説 得力があります。
《「東西冷戦構造の崩壊以降、さらに紛争は増え続けている」などという論評 が出ることがよくあるが、これはトータルに見て、大きな間違いである。東西 冷戦構造の崩壊以降、紛争の数は減っていて、戦争による犠牲者の数も激減し ている。〔中略〕ではなぜ、国際情勢を語る専門家たちは、「紛争は、冷戦後 も増えている」と言うのだろうか。一つは、激化する紛争は大きく報道される が、鎮静化された紛争はニュース種にならないから勘違いしてしまうのである。 もう一つは、戦場へ取材に行くジャーナリストやカメラマンたちは、「自分の 戦場体験はすごく危険だった」と表現したいから、「過去の戦争に比べたら大 したことはなかった」とは言いたくないのだ》(P216)
《米軍などいなくても、北朝鮮は日本の領土に侵攻することはできない。軍隊 が海を越えて補給ラインを維持し戦い続けることは、圧倒的な戦力、経済力を もってしてもきわめて困難なことなのである。近代戦では、一万人の部隊が戦 闘をする場合、弾薬、食料、燃料などで、一日に必要な補給量は二〇〇〇トン 以上になる。〔中略〕地形が複雑で人口密度も高い日本では、関東甲信越地方 を制圧するだけでも二〇〜三〇万人の部隊が必要》(P228〜229)なのに、安 倍幹事長に代表されるぼんぼん政治家たちが、北朝鮮脅威論を唱えては軍事力 強化を煽っているのですね。
著者の加藤さんは、自衛隊の訓練にもたびたび同行取材しており、実践的な 評価も随所でしています。
《小隊長の指示がなければ、一人ひとりの動き方を自分で判断できない隊員が 多い。小隊長が戦死してしまったら、この小隊はどうなってしまうのだろうか》 (P18)。《陸上自衛隊のほうでは、拳銃を抜こうとした不審者を射殺しては いない。一方、検問であろうが指揮所近くの後方であろうが、簡単に銃撃戦に なると考えているのが米軍だった》(P31)。《もう一つ気になったことは、 米海兵隊の兵士は、射撃訓練のときには、全員が手元に各自の射撃成績データ ノートを持っていて、これには風向・風速などの気象データから、自分の射撃 成績などまでが書き込まれていることである。陸上自衛隊ではこのような個人 データノートは見たことがない》(P33)。《陸上自衛隊では兵士同士の間隔 をあまり意識していない》(P41)。《一発ずつ撃っては評価確認をするとい うのんびりぶりだが、これでは戦車砲の猛反撃を食らっているはずである》 (P46)
戦場突入体験76回という著者の文章は、とても冷静です。ぜひお読みくださ い。
(「ガッキィファイター」2004年2月5日号に掲載) |
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