
大きな書店で「鉄道」のコーナーで本を買いあさっておりましたら、調べて いたテーマとは無関係なのですが、この本に目がとまりました。
たった漢字4文字なのに、とても魅力的な書名だと感じ入ったのです。
『定刻発車』。副題は「日本社会に刷り込まれた鉄道のリズム」。
前から、多くの日本人は、気づいていたのではないでしょうか。日本の交通 機関の正確さに。そのことを端的にあらわしたタイトルです。『青いバラ』の ような見事なタイトルですね。
さっそく読んでみました。これは、当然予想されたことですが、日本の文化 論になっています。
《日本では一列車あたりの遅れは、JR東日本の数字(一九九九年度)で、新 幹線が平均〇・三分、在来線で平均一・〇分である。新幹線の九五パーセント と、在来線の八七パーセントが定刻に発着する(遅延一分未満)。
〔中略〕ヨーロッパにも同様な数字はあり〔中略〕イギリス、フランス、イタ リアでも、だいたい九〇パーセント前後の定時運転率があがっている。
なんだ、大して違わないじゃないか、と思うかもしれない。ただし、日本の 統計と外国の統計には大きな違いがある。日本の統計では、一分以上遅れた列 車はすべて「遅れ」として数えられているのに対し、外国の統計では、一〇分 や一五分の遅れは、なんと「遅れ」とは見なされないのである》(P7)
そう言えば、この「Gファイター」で公開募集して行った今春のイラクでも、 私たち一行は試みに列車でバビロンに行ってみることにしました。「南に行っ てみたい」人と「列車に乗ってみたい」人と「おんぼろ車に飽きた」人と「バ ビロンの遺跡を見たい」人がいたので、隊長としては「じゃあ列車で南の町バ ビロンに行こう」と発案したわけです。
駅舎も略奪の被害に遭っていましたが、かろうじて1日に2往復程度の運行 がありました。
バグダッド中央駅からの出発時刻を前日夕方に調べておき、翌朝、定刻より 30分も前に着いて切符を買いました。10分前には指定された車両に座りました が、なかなか出ません。しびれを切らして、というより、40度以上はあるため 暑すぎて、涼みに出たり、外に新聞を買いに行ったり、で、私はおもむろに先 頭の機関車輌まで行って中を覗きますと、運転手がいませんでした。出発する わきゃねえだろこれじゃ。
さらに35分ほど経って、ガツンッという大きな音がしたので見てみると、な んと、給油を始めたではありませんか。
あのな。
ま、このようなことは、アジアやアフリカや南米や中近東では、珍しいこと ではありません。
ともかく、もともと時間の流れがゆったりであった、と江戸や明治に訪日し た外国人が共通して感想を抱いていたこの国で(例えば江戸の遊女たちは"働 いた時間"を線香時計で測っていたのですよ)、なぜ「定刻発車」が完成した のか、の謎に著者はぐんぐん迫っていきます。
大学で数理経済学を専攻した方のようで、その「正確さ」が本書にも生きて いました。
地味なのにスリリングな本です。
(「ガッキィファイター」2003年11月11日号に掲載)
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