2002年7月の読書    BACK   6月へ  8月へ


『終着駅』森村誠一作・角川文庫
『黒魔術の女』森村誠一作・徳間文庫

 森村誠一は小学校時代の『人間の証明』『野生の証明』以来,大好きな作家だ。一番のお気に入りは中学1年のときに読んだ
『魔少年』(角川文庫)という作品である。今回,志津に久し振りに森村誠一を読んだ。ずいぶんと軽い文体になったなぁ……とい
うのが印象。赤川次郎が売れたことは,森村誠一のような社会派ミステリー作家にも影響を与えたのだなぁと改めて感じた。作
品自体は非常に楽しく読めた。2冊を読むのに8時間を費やしたが,時間がまったく惜しいとは感じられなかった。
 『終着駅』は都会に住む人間模様を二組のカップルを中心に描いた作品。『黒魔術の女』は性的に欠陥をもった女性が健康な
女性に嫉妬して殺すところから様々な事件に発展していくという作品。両者とも,プロットとしてはなかなか練られている。しかし,
『終着駅』の方はずいぶんと結末を強引に整合した雰囲気が否めない。こうしたところも赤川次郎に似ている。

『文学賞殺人事件』森村誠一作・徳間文庫
 文学賞でデビューした人気作家が,ゴーストライターを殺す物語。警察官がこの作家を少しずつ窮地に追い込んでいく,説得力
ある語りが印象的な作品。この作品をはじめとして,6編の短編が収められている。

『高橋和巳作品集8 エッセイ集2』河出書房新社
 今月末締切の「近代文学特論V」のレポート課題は,夏目漱石『それから』論である。まずは高橋和巳による漱石の捉え方を
追ってみる。「知識人の苦悩──夏目漱石」という一文は明晰な思考が展開されている。これは夏目漱石論というよりも高橋和
巳論の趣である。文学論とは,何を題材に選ぼうとも,どうしても自分のことを語ることになる。これは仕方ないことであり,文学
研究というものの本質でもある。

『愛のアフォリズム』ブリギッタ・ロート編・西川賢一訳・集英社新書
 古今東西の恋愛に関する格言・名言集である。退屈しのぎにいい。僕はトイレのお供にしていた。内容は馬鹿にできない,含
蓄のある名言に彩られている。

『日本の異端文学』川村湊著・集英社新書
 澁澤龍彦・中井英夫・稲垣足穂・山田風太郎・小栗虫太郎などなど,戦後幻想文学の系譜を,圧倒的な知識と資料とでその
意義を明らかにしていく。幸田露伴・尾崎紅葉・泉鏡花は,「異端文学のハシリ」であったという論述が印象的だった。

『社会人大学院で何を学ぶか』山田礼子著・岩波アクティブ新書
 自分の現在の立場上,書名に興味を抱いてなんとなく買った。あまり期待していなかった。内容はそのとおり,期待出来ない
ものだった。時間の無駄だった。社会人大学院の一般的傾向を教えられたという点では,知識は増えた。

『現場主義の知的生産法』関満博著・ちくま新書
 著者は経済学者。中小企業の現場を一件につき2時間ほど工事長と対話することによって,「現場」の生の姿,生の声を中心
に論文を書き続けてきたという。なかなか説得力ある論述。教育学者の中にも,こういう研究者が現れて欲しいと感じた。

『「わかる」とはどういうことか──認識の脳科学』山鳥重著・ちくま新書
 「わかる」という心象を医学的に検証しようという試み。わかりやすい論述だが,総花的な印象を拭えない。新しい情報はそれ
ほど多くはなかった。しかし,入門書としては最高の書だと思う。

『ザ・ディベート──自己責任時代の思考・表現技術』茂木秀昭著・ちくま新書
 ディベートが企業において判断の根拠を探るための手法であることは知っていたが,この本でその具体像がなんとなくわかっ
た感じだ。学校にも必要だなと感じだ。しかし,どのくらいの企業がこれを実践しているのだろうか。ここまでやっていれば,もう
少し責任感のある経営者と,判断力のある管理職が多かったはずだ。学校でも職員会議には無理だろうが,校務部会あたり
で導入すると,かなり学校を変えられると思った。研究部は割とこういう発想の会議が行われている。しかし,最もこれを必要
としているのは教務部であり,生徒指導部である。そして何より管理職だ。

『総合的学習を支え活かす国語科』堀裕嗣・研究集団ことのは著・明治図書
『教室プレゼンテーションの20の技術』堀裕嗣・研究集団ことのは著・明治図書
『聞き方スキルを鍛える授業づくり』堀裕嗣・研究集団ことのは著・明治図書
『受信型メモ・発信型メモの技術』對馬義幸・研究集団ことのは著・明治図書
『インタビュー・スキルを鍛える授業づくり』堀裕嗣・研究集団ことのは著・明治図書

 とうとう出た。送られてきたその日のうちに,すべて目を通した。手前味噌だが,なかなかの出来だと思う。特に2巻の「プレ
ゼンテーション」は自信作だ。どのくらい売れるのかなぁ……。

『ソシュール 一般言語学講義』小林英夫訳・岩波書店
 これを読むのは何年ぶりだろうか。前に通して読んだのは,大学2年のときだと思う。つまり,14年ぶりということだ。20世
紀はフッサールの世紀であり,ソシュールの世紀だった。言語の学にとっては,この人を始祖と呼んでいいだろうと思う。僕に
とっても,この『一般言語学講義』と吉本隆明の『言語にとって美とは何か』は,「人生の書」に等しい。これに時枝誠記『国語
学原論』が入るかな……?。

『わたしが・棄てた・女』遠藤周作作・講談社文庫
 酒井美紀主演『愛する』の原作だ。これまた大学時代以来,13年ぶりに読んだ。原作はこんなにも考えさせられることの多
い作品なのに,なぜあんなつまらない映画にしてしまうのだろうか。熊井啓は脚本づくりの方針を間違えたと思う。

『国語科の教育実践考』森田茂之著・教育出版センター
 「実践研究水輪」の今年度の活動方針を確認するために,全編を通して読み直した。改めて自分の原点を発見した。まだ,
多くを語ることはしないが,この書を無駄にはしないつもりだ。僕の人生をかけてこの内容を追究し続けようと思っている。

『日本人の心を育てた陽明学』吉田和男著・恒星出版
 大学時代から「陽明学」には多大なる興味をもっていた。三島由紀夫の影響である。しかし,卒論では「陽明学」にまで触れ
る時間も能力もなく,「陽明学」への興味は,あくまで興味で終わっていた。大学院進学を機に,「陽明学」を本格的に勉強し
ようと思い,まずは入門書として,本屋で目についたこの本を買って読んだ。内容はガサいが,いまの僕のレベルはこの本程
度なので,まずはこういう本から入る。三島の捉えの甘さに幻滅した。

『良心と至誠の精神史 日本陽明学の近現代』大橋健二著・勉誠出版
 安岡正篤・夏目漱石・西田幾太郎について語った第5章が面白かった。安岡・西田は当然としても,漱石が「陽明学」に影
響を受けていたとする論述は興味深いものがあった。僕の中には大学時代から三島由紀夫がいて,「陽明学」的発想があっ
た。「陽明学」はごく簡単に言えば「実践の哲学」だ。頭でっかちだけで「実践化」することをなめている研究者を見ると頭にく
るのはそのせいだ。僕のまわりにも,そういう輩が多くなった。腹の立つことも多くなった。言語哲学の概論ばかり頭に入れて
知識人ぶっている人間や,文学を読んだこともないのに読者論を語る阿呆ども……。実践せよ!行動せよ!見る前に跳べ!
これが僕の本音だ。三島と森田と鹿内から学んだ,僕のすべてだ。

『中学校国語科の絶対評価規準づくり』相澤秀夫編・明治図書
 くだらない。金返せ!

『言語表現法講義』加藤典洋著・岩波書店
 この書の存在を不明にして知らなかった。1996年に刊行されているというのに,6年間も知らなかった自分が恥ずかしい。
「学生に書くことを嫌いにさせないことをモットーとする」という講義手法は,ある意味で研究者としては真摯な態度であるかも
しれない。しかし,その方針が実は,学生の成長を小さなものにしてしまうことを,加藤典洋はわかっていない。研究者は自分
の全精力を込めた講義をこそすべきなのだ。これは実は,宇佐美先生にも言いたいことだ。人間をなめてはいけない。まあ,
なめたくなる人間もたくさんいることは確かだけれど……。

『文学の力×教材の力 理論編』田中実/須貝千里編・教育出版
『文学の力×教材の力 中学校編1年』田中実/須貝千里編・教育出版
『文学の力×教材の力 中学校編2年』田中実/須貝千里編・教育出版
『文学の力×教材の力 中学校編3年』田中実/須貝千里編・教育出版

 玉石混淆。「玉」は1冊につき5編程度。あとは「石」。バルトやスコールズを研究の基盤にするのは良い。しかし,バルト理
論やスコールズ理論を紹介するだけで論文になると思いこんでいるのが許せない。バルトについて5頁語ったら,それに基づ
く解釈を20頁語り,それに伴う実践を30頁語らなくてはならないのだ。なぜ,そういうことがわからないのだろう。僕の言う「
頭でっかち」が書く「ゴミ」というのは,こういう論文のことを言う。しかし,理論編の中の対談だけは面白い。

『近代読者の成立』前田愛著・岩波同時代ライブラリー
 これを読むのも14年ぶりだ。当時は4研にあった前田愛の著作集で読んだ。文学批評界において,東の筆頭を平岡敏夫
とすれば,西の筆頭は前田愛だ。僕は文学の見方としては「西」に位置するけれど,東もずいぶんとのぞいた。この10年,
主に東をのぞきつづけてきたことを踏まえて本書を読むと,大学時代とは違った,新しい感銘を受けるものだ。

『授業が変わる 認知心理学と教育実践が手を結ぶとき』J・T・ブルーアー著・北大路書房
 スキーマ理論を中心に。「教育心理学特論U」のレポート用だ。今更,「スキーマ」や「フレーム」を語らなければならないこ
とに,ある種の恥ずかしさや照れを感じる。こんなレベルの低い概論を,わざわざ大学院で研究する必要はない。こんなもの
は学部の研究だ。レポートだから仕方ないけどね……。

『国語科授業批判』宇佐美寛著・明治図書
 これまた「教育心理学特論U」のレポートのための再読。「第10章 かくれたカリキュラム」と「第7章 アウグスティヌスの
パラドクス』を中心に。

『実験授業による授業改革への提案』全国大学国語教育学会編・明治図書
 大学研究者から見れば「画期的な試み」,学校現場人から見れば「研究者のための研究」に堕した試み。どちらの立場に
立つかはその人の自由。

『国語科教育学研究の成果と展望』全国大学国語教育学会編・明治図書
 この書はいい。何がいいかって,発想がいい。こういう書を5年に一度くらい刊行してほしい。研究を整理するためだ。これ
こそ「累積科学」化への道である。今後,何度も読み返すことになること間違いない,必携の一書である。ただし,執筆者は
偏りすぎの感がある。

『国語力をつける「基礎・基本・統合発信力」ワーク 小学1年』瀬川栄志監修・明治図書
『国語力をつける「基礎・基本・統合発信力」ワーク 小学2年』瀬川栄志監修・明治図書
『国語力をつける「基礎・基本・統合発信力」ワーク 小学3年』瀬川栄志監修・明治図書
『国語力をつける「基礎・基本・統合発信力」ワーク 小学4年』瀬川栄志監修・明治図書
『国語力をつける「基礎・基本・統合発信力」ワーク 小学5年』瀬川栄志監修・明治図書
『国語力をつける「基礎・基本・統合発信力」ワーク 小学6年』瀬川栄志監修・明治図書

 悪くない試みだ。「話すこと・聞くことマスターカード」の試みよりも,数段上である。これは国語教師なら,セットで揃えてお
くべき教材集だと思う。

『国語科到達度・絶対評価ワークシート 第1巻 基礎(視写・聴写・音読)編』
『国語科到達度・絶対評価ワークシート 第2巻 基本・言語事項編』
『国語科到達度・絶対評価ワークシート 第3巻 基本・説明文・文学教材編』
             市毛勝雄編・日本言語技術教育学会東京神田支部著・明治図書

 これは売れるだろうと思う。内容はただのテストだけどね。こういうワークを作れという依頼が江部さんから「ことのは」にも
来ているけれど,どうもいまいち乗り気になれない。売れるんだろうけどねぇ……。でも,これは中学教師から見ると,ずいぶ
ん馬鹿馬鹿しい試みだ。この程度で絶対評価ができるのであれば,誰も苦労しない。

『論理的思考力を育てるドリル 第1集』
              市毛勝雄編・日本言語技術教育学会早稲田支部著・明治図書

『論理的思考力を育てるドリル 第2集』
              市毛勝雄編・日本言語技術教育学会東京神田支部著・明治図書

 最近の市毛さんを突き動かしているものは何なのだろう。研究者としての晩年を迎えて,少し焦っているのではないか。簡
単につまらない教材集を作りすぎなのではないか。そんな気がする。このシリーズは「到達度・絶対評価ワークシート」よりは
格段に検討されているけれど……。それにしても市毛さんのこういう動きは哀しいものがある。

『私家版日本語文法』井上ひさし著・新潮社
『日本語よ どこへ行く 講演とシンポジウム』井上ひさし他著・岩波書店

 少々意図があって,この2冊を読み直す。けっこう馬鹿にしていたのだが,本質を突いている論述がある。少し使ってみよう
という気になってきている。しかし,井上ひさしを読み始めようという気にはまだなれない。

『えらい人はみな変わってはる』谷沢永一著・新潮社
 これは久し振りに面白い本だった。爆笑エピソード満載。しかし,なかなか考えさせられる。

『文化変容のなかの子ども 経験・他者・関係性』高橋勝著・東信堂
 著者は横浜国立大学の教授である。この本は僕にとって,「子どもの変容」についてもっとも説得力のある本だった。この
書と出会えて良かった。いずれ,僕の文章にも次々に引用される本だ。これで2300円は安かった。

『「詩の授業」の現象学』田端健人著・川島書店
 これまたスゴい本だ。ハイデガーをこれだけ国語教育に取り入れようとする試みは類書を見ない。垣内・芦田・西尾という
国語教育の主流をなしてきた研究者・実践家をしっかり検討しているところも好感が持てる。この人は並の研究者ではない。
会ってみたい人だ。絶対に会おうと思う。きっと変人に違いない。この書は5000円もするが,5000円は安い。

『教育改革幻想をはねかえす』諏訪哲二著・洋泉社
 久し振りの新刊。ちょっとワンパターンに陥ってきた感が強い。