私の授業を支える表の5冊・裏の5冊      BACK
  ──理論の実践化は,実践家の仕事である

1.表の5冊―実践化は実践家の仕事である
 9月,佐渡に渡った。佐和田町立沢根小学校の研究会に参加するためである。
 市毛勝雄氏が作文の授業をした。市毛氏が提唱する「はじめ・なか・まとめ・むすび」(起承束
結)を用いた作文指導の提案授業である。
 はっきり言って,小学校の授業としては心許無いものであった。おそらく,参観した誰もがそう
思ったに違いない。居眠りをしていた参観者も少なからずいた。買った本に目を通す者もいた。
 私はそれに腹が立ってしかたがなかった。
 市毛氏に失礼だなどという単純な理由からではない。教師の資質の問題である。
 市毛氏の授業は,確かに授業としては決して良かったと言えるものではない。だが,市毛氏の提
案はすばらしいものだった。市毛氏が現在,現場人ではないという事実を考えるべきである,と強
く感じた。あの授業の価値は,授業の巧拙にあるのではない。「提案主旨」そのものにあるのであ
る。
 研究会の参加者は肝に命ずるべきである。理論の実践化は実践家の仕事である,ということを!
 野口氏や向山氏の授業を見て,そこから教育技術を学ぶことだけが現場人の研究だと思ったら大
間違いである,ということを!

 私は,いわゆる「こう実践しました」という教育書をあまり読まない(ただし,それでも普通の
人よりは読んでいるつもりである)。どちらかと言うと,研究者の理論を参考文献まで細かく読み,
自分なりに理解した上で,どう自分の実践に取り入れるか,という発想が主である。
 この観点に則って,教育書として以下の5冊を挙げたい。
@『国語科の教育実践考』森田茂之著(教育出版センター)¥4,000
  私の大学時代の恩師森田茂之の著書である。この本が出たのは,今年の4月。
 現在の私がこの本をもとに実践している,というわけではない。この本に載っているすべての論
 文が,私にとっては既に目を通しているものばかりであり,新しい情報はほとんどない。
  だが,私は大学で4年間,森田茂之に師事し,私の実践の起点がここにある。現場に出てから
 7年間にわたる森田との共同研究の成果もこれに載っている。私の原点とも言える書物である。
A『国語科教材分析の観点と方法』大内善一著(明治図書)¥2,370
  私にとって「言語技術教育」のバイブルとも言えるのが,この本である。大内氏が長年にわた
 る表現研究の末に編み出した「観点と方法」は,国語教育に携わる者にとって必読である。この
 本を読ま ずして,「言語技術教育」を語ってはいけないと思う。
B『西尾実国語教育全集』第4巻(教育出版)¥5,500
  「T 国語教育学の構想」「U 戦後国語教育研究の出発点」「V 言葉とその文化」の3章
 からなる第4巻。戦後国語教育の基礎の基礎がこの第4巻にある。
C『説明文の読み方・書き方』市毛勝雄著(明治図書)¥1,650
  説明的文章の授業,そして作文授業の発想の根幹は,すべてこの本から学んだと言っても過言
 ではない。説明文授業の目標が,「説明文を書ける」ようにすることであることを,この本は私
 達に投げかけている。
D『国語教育と読者論』関口安義著(明治図書)¥2,580
  最後に,学生時代に読んで最も影響を受けたこの本を挙げないわけにはいかない。関口氏の提
 案と「言語技術教育」とを,止揚・統合することが私のライフワークである。

2.裏の5冊―授業に直接に生きている5冊
 先に述べた「理論の実践化」は,教育理論についてのみ述べたわけではない。文学理論を始め,
その他の理論についても,同様のことが言える。
@『ミメシスとエクスタシス―文学と批評の原点』
 米須興文著(勁草書房)¥1,900
 「礎石」に連載している「構造主義的教材解釈」の結論は,文学の主題はすべからく「認識論的
視座」と「存在論的視座」との相剋にある,ということである。それが,私にとっての「メタ構造」
で ある。たぶん,そこまで辿り着くのに,1年くらいかかると思うが……。その起点となったの
がこの 本である。大学2年の冬,この本と出会わなければ,私の現在はない。この本を起点とし
て,私は新 批評,構造主義,読者論,そしてハイデガーやイザーを読んだ。私の文学論,文学教
育論,国語教育 論の出発点と言って良い本である。ちなみに,この本との出会いは,鹿内信善先
生との合宿だった。
A『文学とは何か―現代批評への招待』
 T・イーグルトン著・大橋洋一訳(岩波書店)¥3,700
 上記『ミメシスとエクスタシス』同様,私に「文学の定義」を考える契機を与えてくれたのが,
この本である。文芸批評に関する入門書としての価値だけでなく,知的生産技術の見本として活用
している。一見,関係のない事象群に構造的なつながりがあることを,私に改めて知らしめてくれ
たのがこの本である。20回は読み返していると思う。
B『沈黙の世界』マックス・ピカート著(みすず書房)¥1,200
 この本を読むと,授業中の生徒の沈黙が怖くなくなる。価値ある沈黙をこそ,教師は授業中に起
こさなければならないのである。まだお読みでない方は是非!
C『ベストセラーの構造』中島 梓著(講談社文庫)¥380
 文明論として読むとたいへん面白い。生徒や親の現状を考える時,たいへん納得できる論述であ
る。
D様々な文学体験
 「いつもイライラして,人でも殺せそうな気がする」と語った生保家庭の生徒がいた。私は,永
山則夫の「無知の涙」から,永山の事件とともに成育歴を読んで聞かせた。彼は哲学するようにな
った。いじめられっ子の学習障害児を担任していたことがある。机を投げ付けたたり,椅子を振り
回したりする。担任である私自身が徹底してその子につらく当たった。しかも,みんなの前でであ
る。「先生,そこまでしなくても良いのに…」という気持ちを,学級全体に持たせた。もちろん,
その学習障 害児の子には,愛情をもって接し,しかも裏で毎日毎日フォローした。その子は,み
んなからスキー やプールに誘われるようになった。もう怖くてできない対応の仕方である。しか
し,こうやって,学 級全体を先導する仕方は開高健『パニック』に学んだ。私の実践の中で,文
学はこのように使われる。