Commelina communis コメリナ コムニス
ツユクサ
ツユクサは田の周りや道端に普通に見られる1年草です。6月の初旬頃からボツボツ花
が咲き始め秋が深まると枯れてゆきます。 つぼみは二枚貝の殻に似ている苞葉の中に
2〜4個つき、花は数日おきに1個づつ花柄をのばし苞葉の外に出て咲きます。
花をよく見てみると下のようになっています。おしべの形がアルファベットのX、さかさまの
V,Oに似ているので、それぞれX字型おしべ、逆V字型おしべ、O字型おしべと呼ばれています。
花粉は逆V字型とO字型おしべの葯から出ますが、逆V字型おしべの花粉では種子ができない
ので仮おしべと呼ばれています。 X字型おしべは目立つので昆虫を引き寄せる働きをして
いるといわれています。 花を観察しているとハナアブがたまに訪れています。花は朝に咲
き始め昼には閉じてしまいます。閉じるときおしべもめしべもくるくる巻くので自家受粉すると
言われていますが、実際のところ早朝のつぼみのO字型おしべはすでに成熟していて、花粉は
めしべの柱頭に付いています。つまり花が開く前にすでに自家受粉をしています(このページの
一番下に写真を載せています)。
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1.花弁(2枚の青い花弁。小さい白い花弁は
3の下側に見えている) 2.X字型おしべ(3本)・・・・・仮おしべ 3.逆V字型おしべ(1本)・・・仮おしべ 4.O字型おしべ(2本)・・・・・おしべ (葯にベージュ色の花粉がついている のが見える) 5.めしべ(1本) 6.苞葉 透明な膜質のがくが3枚ある。苞葉の中に 隠れているので見えない。
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花の形に2タイプあるのに気づきました。1つは、上の写真のような細長い花と
もう1つは、花弁の巾が広い丸い外観の花です。 下に示すように仮にカンガルー形
とコアラ形と呼びます。
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さらにX字型おしべに注目すると、カンガルー形のツユクサとコアラ形のツユクサで違うことに気づきました。
前者のX字型は蝶に似ているので蝶形、後者のX字型はきのこに似ているのできのこ形と呼ぶことにします。
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出かけた先で採集したり、送っていただいたツユクサを調べると、カンガルー形の花のX字型おしべは蝶形で、
コアラ形の花のX字型おしべはきのこ形でした。
さて、1つのツユクサの花には3本のX字型おしべがありますが、その形は3本ともそっくりです。また同じ株
(1つの種子からの植物体)に咲いた花々のX字型おしべも互いに似ています。これらのこから、X字型おしべ
の形は遺伝子によって決定されている、と考えてもよさそうです。
X字型おしべの多型
次にカンガルー形とコアラ形のツユクサのX字型おしべの写真を各8株づつ載せました。1株あたり3つの花の
写真です。 まず蝶形のX字型おしべ(カンガルー形の花のおしべ)を見てみましょう。
↓
| 採集地
愛媛県
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| 愛媛県 | ![]() |
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| 愛媛県 | ![]() |
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| 愛媛県 | ![]() |
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| 愛媛県 | ![]() |
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| 茨城県 | ![]() |
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| 宮崎県 | ![]() |
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| 宮崎県 | ![]() |
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次にきのこ形X字型おしべ(コアラ形の花のおしべ)を見てみましょう。
↓
| 愛媛県 | ![]() |
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| 白花
園芸種 |
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| 長野県 | ![]() |
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| 長野県 | ![]() |
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| 岡山県 | ![]() |
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| 愛媛県 | ![]() |
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| 愛媛県 | ![]() |
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| 愛媛県 | ![]() |
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以上の写真から、蝶形および、きのこ形X字型おしべに多型がみられることがおわかり頂けたと思います。
X字型おしべは全て実体顕微鏡で20倍で見ています。
苞葉の葉脈上の散毛の有無
ツユクサの苞葉の葉脈に白毛(散毛というそうです)の生えているタイプと生えていないタイプがあります。
次の写真のようにカンガルー形の花の苞葉の葉脈には毛が無く、コアラ形には毛が生えていることが
わかりました。
| カンガルー形 | コアラ形 |
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ツユクサの花を(外観→X字型おしべの形→苞葉)で観察すると、(カンガルー形→蝶形→白毛なし)タイプと
(コアラ形→きのこ形→白毛あり)タイプがあることがわかりました。 ツユクサの花を見る機会がありましたら
どちらのタイプか観察してみるのも面白いのではないでしょうか。
また、鳥取大学の藤島氏ら*は、ツユクサの生態種2種として、苞葉の葉脈上の散毛の有無
でツユクサを分けています。論文によると散毛の無いタイプのツユクサの葉の気孔の大きさが
散毛のあるタイプの気孔より大きいということでしたので、私も観察したところ、その通りでした。
下の写真は、ツユクサの葉の裏側の表皮をはがして、顕微鏡で200倍で観察したものです。
| 散毛の無いタイプの気孔 | 散毛のあるタイプの気孔 |
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*藤島弘純・橘 伸一:遺伝Vol. 27 No.3 (1973)
花の構造
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| 1つの苞葉に2つの花が咲い
ている。
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直立した花柄に1つの花がつい
ている。横に寝た花柄に果実、 花、つぼみがついている。** |
直立した花柄、横に寝
た花柄共に毛は生えて いない。 |
花。 花弁3、がく3。
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| 花。仮おしべ4、おしべ2、
めしべ1。 |
X字型 仮おしべ(葯)。 | 逆V字型 仮おしべ。
表側。 |
逆V字型 仮おしべ。
裏側。 |
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| O字型おしべ(花粉が見える) | O字型おしべ。 | めしべ。 | 子房。白毛が生えている。 |
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| 柱頭(花粉がついている)。
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果実が2裂し種子が4個できて
いる。種子の数は、ツユクサで は最高4個/果実***である。 |
ツユクサの芽生え。
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ツユクサの芽生え。
エンブリオテガ****から 芽生えが始まる。 |
** Commelinaの仲間のツユクサは、二枚貝のようなに折りたたまれた葉(苞葉)のなかにつぼみができる。
つぼみは2種類の花柄につく。直立する花柄と横に寝た花柄である。直立した花柄には普通、花がつかないか
ついても1個で、雄花であることが多い。
横に寝た花柄には2〜3個のつぼみがつき、それらが数日おきに1個づつ咲く(両性花)。
*** 観察した結果に限りますが、果実の中の種子に関して次のようなことがわかりました。
C.communis以外のCommelina属では果実が主室と別室に分かれていて、主室はさらに2つに分かれており
主室には2〜4個の種子が入っている。 別室には主室の種子よりやや大きい種子1個が果皮にしっかり包まれて
入っている。 ツユクサ(Commelina communis)には別室がなく、1果実内に4種子あるので、これを(::)で表すと、
オオボウシバナ(::)、マルバツユクサ(::/・)、シマツユクサ(::/・)、ホウライツユクサ(:/・)、コエレステス(::/・)、
種名の不明の3種とも(::/・)で表すことができる。
**** エンブリオテガ: 種子の表面に見える乳頭状突起。ここから発根、発芽する。ツユクサ科
の特徴の1つ。
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ツユクサの花の自家受粉 早朝まだつぼみの時期に、つぼみを開いてみると、めしべの柱頭には花粉が ついている。つまりつぼみのうちにすでに自家受粉しているので、他家受粉が おこりにくいと言える。 オレンジ色の矢印の先が柱頭。黄色い花粉がたくさんついているのが見える。 |
ツユクサの人工交配
X字型おしべが蝶形のツユクサ同士の人工交配
ツユクサの3枚の花弁のうち2枚は青く残りの1枚は白くて小さいのですが、この青い花弁の色とO字型おしべの
葯の色に相関がみられます。つぼみがまだ小さくて花弁が白い時期から、つぼみが大きくなり花弁が薄紫色に色づく
時期までのO字型おしべの葯の色は黄色からオレンジ色です。花弁の色が青くなる時期のO字型おしべの葯の色は
明るい灰色です。この時期になるとめしべの花柱も成長してきます。人工交配を行う前の日の夕方に花弁の色が
青いつぼみがついているツユクサを集めます(私の場合は庭から)。せいぜい1回に5〜10本ぐらいしか集められま
せん。茎の頂あたりについている苞葉につぼみが入っています。それより下側の苞葉の中には果実が入っています。
目的のつぼみが入っている苞葉だけを残し、ほかの苞葉は取り除きます。室内にガラス瓶などにいれ保管します
(1本の長さは15〜20センチぐらいです。ツユクサは節から容易に発根し屋内で育てることができます)。
次にピンセットで、目的のつぼみのがくと花弁を開きめしべを残し仮おしべやO字型おしべを取り除きます。もし同じ
苞葉内に別の若いつぼみがあればそれも除きます。花弁はもろく、めしべもおしべもくるくる丸まっていてなかなか
うまくいきませんが、繰り返しているうちに何とかできるようになります。花弁は無理に元のようにする必要はありま
せんが、めしべの乾燥を防ぐために苞葉は元のように閉じておきます。翌朝花弁は青々と開き丸まっていためしべ
は前方に伸びています。このようなめしべにその朝庭に咲いたツユクサの花粉をつけます。受粉に成功すると花柄
は反曲し子房が大きくなってきます。まだまだ技術的に未熟なのですが、この方法で5〜7割ぐらいの成功率です。
6月の室温で成熟した種子が採れるようになるのに約1ヶ月かかりました。
X字型おしべが「蝶形」のツユクサと「きのこ形」のツユクサとの人工交配
X字型おしべが「きのこ形」のツユクサ(以下では単に「きのこ形」と言うことにします。、標高が約700mの場所に毎年
咲いているものを使いました。去年は休耕田にたくさん咲いていましたが、今年はほとんど見られず田の縁におそらく
わずか1〜2株由来と思われる群れが花をつけている状態でした。付近の人の話ではその道の奥でトンネルが掘られて
いるので土を運ぶダンプカーが毎日のように通るそうです。そこのツユクサが絶えるのもそう先のことではないような気
がします。愛媛県では「きのこ形」のを見つけるのはなかなか大変なので非常に残念に思います。
人工交配は上で述べた方法をとりました。交配の組み合わせは@「きのこ形」のめしべ X 「蝶形」のおしべの花粉
A「蝶形」のめしべ X 「きのこ形」おしべの花粉でしました。@、Aとも30本ずつぐらい交配しました。「蝶形」同士の
交配に比べ成功率は低く、果実ができるまで残るものは2割ぐらいで、しかもそれらの果実はほとんど「しいな」**ばかりでした。
@の組み合わせでは、できた7個の果実のうちたった1個の果実からたった1個の種子(普通は1果実あたり4個の種子
ができる)が採れただけで残りの果実は「しいな」でした。Aの組み合わせではできた数少ない果実(6個)すべてが
「しいな」でした。調べた数は少ないのですが、この人工交配から次のようなことが考えられると思います。
↓
X字型おしべが「蝶形」のツユクサと「きのこ形」のツユクサは交雑子孫ができにくいので、
一見同じツユクサだが、上記の藤島氏ら*言っているように別の生態種かもしれない。
**:果実の中の種子は充実せず発芽は不可能、不妊。