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1:訴状提出 (2000/9/22)
2:第1回弁論準備手続き(2000/11/7)
3:第1回裁判報告集会(2000/11/27)
4:第2回弁論準備手続き(2000/12/15)
5:第3回弁論準備手続き(2001/2/19)
6:ILOにレポート提出(2001/3/8)
7:3−8集会でレポート(2001/3/11)
8:第4回弁論準備手続き(2001/3/30)
9:第5回弁論準備手続き(2001/5/15)
10:第6回弁論準備手続き(2001/6/26)
11:第7回弁論準備手続き(2001/8/3)
12:女性学・ジェンダー研究フォーラムでレポート(2001/8/25〜26)
13:第8回弁論準備手続き(2001/10/5)
14:中野区職労伊達委員長に支援要請(2001/11/12)
15:ILOにカウンターレポートの添付資料を送付(2001/11/28)
16:東京都社会教育指導員会 研修会(2001/12/3)
17:原告 那覇市非常勤賃金差別裁判原告らと交流(01/12/26-27)
18: 第9回弁論準備手続き(2001/2/12)
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東京地方裁判所民事第11部 御中
原告ら訴訟代理人
弁護士 中 島 通 子
同 中 野 麻 美
同 菅 沼 友 子
同 秦 雅 子第1 非常勤制度および非常勤職員に適用される賃金の違法性
1 社会的身分による差別(憲法14条・労基法3条違反)
(1) 被告は、労基法3条の「社会的身分」の解釈として「生来的な地位のほか、後発的理由によるものであっても、一定期間にわたって自らの意思をもって離れることのできない固定した地位も含まれる」と解する説をあげながら、常勤職員と非常勤職員という職務上の地位は労基法3条の「社会的身分」に該当しないと主張する。しかし被告は、学説と反論の結論をあげるのみで、具体的な理由を一切述べず、原告の主張(平成13年2月9日付準備書面第4の2、同年5月15日付準備書面第4の1および同年6月18日付準備書面第1の1)に対して一切の具体的な反論をしていない。
原告は従来の主張の反復を避けるが、その骨子および補足として次のとおり主張する。
(2) 憲法14条に関しては、かつての「人の生まれによって決定される社会的地位」と狭く解釈する説から、「人が社会において占めている継続的な地位」と広く解釈する説が有力になり、最高裁も後者の説に基づいてその合理性を判断している。
(3) 憲法14条1項を広く解釈する立場から、「社会的身分」とは「自らの意思を以って離れることのできない固定せる地位と解するのは狭きに失し」、むしろ「人が社会において一時的ではなしに占めている地位をすべて含ましめるの」が適当であるから、「労働者たる地位、職業、或る地域の住民たる地位等もこれに含まれる」と解する有力説がある(法学協会『註解日本国憲法(上)』350頁)。
(4) 労基法3条は、憲法14条1項を受けて設けられたものであるが、「社会的身分」については狭く解釈する学説・判例が多かった。しかしそれは、労基法が罰則規定を有することから、もっぱら罪刑法定主義の原則を根拠としているものである。
労基法には、罰則を背景とした労働基準監督署によって実現される公法的性格と、私法的効力をもつ私法的性格の二面性を有する法律であることについてはすでに述べてきたところであり、この点に関しては異論はない。例えば後述の労基法4条違反に対しては罰則規定が設けられているが、この罰則が適用される行為は狭く解釈せざるを得ないが、同条違反として私法的効力が無効とされる範囲は広く解釈されるのが当然とされ、多数の判例が同条違反として、男女の賃金格差を違法としてきた。男女の賃金格差が労基法4条違反として罰則を適用するのは罪刑法定主義の原則からして問題がある場合があるとしても、私法上は違法・無効となり得ることについては、異論は全くない。
このような労基法の二面性から、労基法3条の私法的効力に関し、社会の要請に基づき規制を加えるべき現実的妥当性のある労働者の契約上の地位についても、積極的に本条の「社会的身分」に含ませる解釈をすることは十分可能であり、憲法14条1項におけるのと同様、パートタイム労働者という地位・身分を含ませて解釈し、パートタイム労働者であることのみを理由として正規従業員と差別することを規制する条文として本条を機能させることは、現実的な要請にみあうものであるという説が有力に主張されている(浅倉むつ子「パートタイム労働と均等待遇原則」労働法律旬報No.1387‐42頁。西谷敏「労働基準法の二面性と解釈の方法」『労働保護法の研究−外尾健一先生古稀記念』)。
(5) 本件で、被告は、毎年5月に募集される常勤職員の受験資格を、翌年の4月1日時点での年齢が28歳未満としている。ちなみに原告は1962年10月5日生まれであるから、被告に非常勤として採用された1992年4月1日と同じ日付で採用された常勤職員の募集時(1991年5月)には28歳であった。
被告は上記年齢をこえるものに対し受験資格を一切認めず、しかも非常勤職員として採用された者に対し常勤職員となる道を一切認めていない。非常勤職員として採用された28歳以上の者は何年勤続しても、どれだけ努力し区に貢献しても、非常勤という低い地位にとどめおかれ、自らの意思と努力によってそこから離れることができない固定した地位すなわち社会的身分そのものである。
したがって、上記「人が社会において占めている継続的地位」という広い解釈はもちろん、被告があげる「後発的理由によるものであっても、一定期間にわたって自らの意思をもって離れることのできない固定した地位」とする解釈によっても、非常勤職員という地位は、まさに社会的身分以外の何ものでもなく、それを理由とする労働条件についての差別的取扱いは、労基法3条に違反し、違法無効である。
(6) とくに本件被告は中野区という公権力行使の主体であるから、憲法14条1項の社会的身分による差別の禁止に関し、労基法3条を限定的に解釈することは許されない。
2 直接性差別(憲法14条・労基法4条違反)
(1) 本件非常勤職員制度は、一般的に家計補助的役割を担うものとして期待される女性を低賃金で処遇するための就業形態として設けられ、運用されているから、このような就業形態およびそれを理由とする賃金格差は女性であることを理由とする直接性差別である。
(2) これに対し被告は、労基法4条は、合理的理由のない男女間の賃金格差を違法とする規定であるが、被告の非常勤制度は、常勤職員に比べ違法な賃金格差はなく、非常勤職員を女性であることを理由として、ことさらに賃金格差を設けている事実はないから直接性差別にあたらないと主張している。
(3) ところが一方で被告は、非常勤制度はそれ自体女性のみを対象とするものではないと言いながら、「女性の比率が高い原因としては、非常勤という勤務形態が女性にとって働きやすい側面があり、女性の就労希望者が多いこと等の理由が考えられ、女性自身の自主的選択による結果と解することもできる」と主張する(被告準備書面(4)4頁)。
また、「さらに、今日の国・地方公共団体を巡る経済、財政状況から見れば、いかに効率的に行政を執行し、最小の費用で最大の効果を上げるかといった行財政制度の効率的運営は国家的急務であり、地方公共団体といえどもこれら視点に立った非常勤職員制度の弾力的運用に無関心であってはならないはずである」と主張する(被告準備書面(3)5頁)。
(4) しかし、非常勤という勤務形態が女性にとって働きやすく、女性自身が自主的に選択しているという被告の主張は全く事実に反する。
本件で問題にしている被告のMランク非常勤職員は、1日の労働時間は常勤と同じ8時間で、事業の都合により土日や夜間も勤務が要求され、女性にとって働きやすい勤務形態では決してない。しかも常勤職員には保障されている育児休業や勤務時間短縮の制度もなく、子育て中の女性にとって非常勤は常勤より働きにくい側面さえある。一方、サラリーマンの妻である女性にとってのメリットとされる、いわゆる3号被保険者の優遇措置は、年収130万円以下であるから、被告が提出する非常勤職員の数には加えられていない。本件で具体的に問題とされているMランクの非常勤は全員そのような優遇措置は受けていない。
(5) このように決して働きやすくなく、社会保険等におけるメリットもなく、しかも賃金は自立できない低さであるにもかかわらず、なぜ非常勤職員の公募に多くの女性が応募するのかといえば、被告が受験資格に28歳未満という年齢制限を設けており、他の公務職場あるいは民間企業においても正規雇用に年齢制限を設けているため、家族的責任などの理由で職を中断した女性にとって、応募できるのは非常勤あるいはパートタイムしかないのである。常勤と非常勤のいずれでも選択できるにもかかわらずあえて非常勤を選択するのであれば「女性自身の自主的選択」ということはできるが、2つの選択肢がないところで非常勤に応募するしかなかった者に対し、自主的選択ということは決してできない。
(6) また、被告は前記のとおり「いかに効率的に行政を執行し、最小の費用で最大の効果を上げるか」が国家的急務と主張しているのであるから、被告は受験資格28歳未満の年齢制限により常勤職員となる道を閉ざされた女性が非常勤職員として応募することを容認し、これらの女性を最小の費用で最大の効果を上げるために非常勤職員として採用していることを自白したというべきであり、このような非常勤職員制度および非常勤職員に適用される賃金は直接的女性差別以外の何ものでもない。
3 間接性差別(憲法14条・労基法4条違反)
(1) 非常勤職員の圧倒的多数は女性であり、非常勤という基準による賃金制度は女性に不利益をもたらすから、間接性差別である。
これに対し被告は、三陽物産事件判決を引用し、間接差別とは、女性差別につながることを認識し、それを容認しつつ基準を設定した場合と定義し、本件非常勤制度は、女性差別につながることを認識し、それを容認しつつ当該制度をも設けているわけではないから間接性差別ではないと主張する。
前述のとおり、被告は28歳をこえた女性を非常勤として採用すれば最小の費用で最大の効果を上げることを認識し、それを容認しつつ非常勤制度を設けたのであり、この点では女性に対する差別意思があったものと言うべきである。
また、そもそも間接性差別とは、使用者の差別意思の有無にかかわらず、性に中立的な基準の適用が一方の性に不利益な結果をもたらす場合を違法とするものである。
(2) 上記の意味における間接性差別が、日本が批准したILO「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約」(100号−1951年採択1967年批准)、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(1966年採択、1979年批准) 第7条(a)、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(1979年採択、1985年批准) 第1条および第11条1項(d)に明記された男女同一労働または同一価値労働同一賃金原則の中に含まれていることは、国際的に確立された合意である。労基法4条はこれらの条約が要求する内容を含んでいるとして各条約が批准されたのであるから、労基法4条は間接差別を違法としていることは否定しようがない。
国際条約は法律に優位し、裁判規範となることもまた明らかである。従来日本においては、国際条約あるいは国際機関による勧告に関し裁判所が軽視する傾向があり、この点に関し国際人権規約委員会等から裁判官に対する国際人権条約についての研修が勧告されている。国際的視点に立った司法改革が進められている現在、批准された国際条約の内容に従った判断がなされるよう望まれる。
とくにILO100号条約と同時に採択された90号勧告においては、中央行政機関および地方行政機関における同一価値労働同一賃金原則の優先的適用を勧告していることに留意されるべきである。
(3) 被告は、平成13年4月1日現在被告において採用されている非常勤職員309名中男性は108人(35パーセント)、女性は201人(65パーセント)であると主張している。
しかし、乙第25号証ないし第27号証の非常勤職員には、深夜勤を含む学校施設管理員(警備員)、防災無線連絡員や再雇用等が含まれている。そこで原告らのMランクで比較するのが妥当と思われるが、下記のとおりその女性比率は1998年(平成10年)において94.7%の高率である。この数字は、社会保険の加入者のみであり、社会保険未加入者はほとんど女性と推定されるから、Mランクの女性比率はさらに上昇することは明らかである。これに対し常勤職員の女性比率は62.0%、女性が圧倒的に多い保育職を除く常勤職員の女性比率は50.8%である。
中野区職員(組合員) の男女構成 ―1998年―
総数(人)
男性(人)
女性(人)
女性比率(%)
常勤職員
3413
1296
2117
62.0
常勤職員(保育職除く)
2607
1282
1325
50.8
非常勤職員(Mランク)
131
7
124
94.7
常勤の女性比率50.8%に対し、非常勤の女性比率94.7%であるから、非常勤という基準が性に中立的であっても、これを適用して非常勤に対し賃金について差別的取扱いをすることは、明らかに間接性差別である。
4 均等待遇原則違反について
(1) 均等待遇原則に関する被告の反論は、
@@ 日本の労働法規上の規制には、同一労働同一賃金の原則・均等待遇原則を明言する規定がなく、
A また、日本の賃金体系は、年功序列及び職歴による賃金加算や扶養家族手当の支給などの制度により構成されており同一労働に単純に同一賃金を支給してきたわけではないので、
同原則が「公序」を形成していると言えない。
A 職種が異なる場合、労働価値の同一を客観的に判定することは困難であるから、同一価値労働同一賃金の原則は、著しく不合理な賃金格差を是正するための理念にすぎず、これに違反しても直ちに賃金格差は違反しない
B 均等待遇原則の適用を認めたとしても、本件では非常勤職員の報酬について「常勤職員の給料月額に準じる形で算出している」からその賃金格差は、「使用者に許された裁量の範囲を逸脱」していない、
との点にある。
以下、各点について反論する。
(2) 均等待遇原則が公序を形成していることについて(被告の反論@@に対する反論)
@ 均等待遇原則が、憲法13条、14条及び労働基準法3条及び4条の基礎理念という、実定法上の根拠を持ち、公序を形成していることはすでに2001年6月18日付原告準備書面3頁以下で述べたとおりであって、丸子警報器事件第1審判決(丸子警報器女性臨時社員賃金差別事件第1審判決、長野地方裁判所上田支部判決平成8年3月15日、控訴審で和解)も認めているところである。
A さらに、実定法上の根拠としては、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」)(1966年採択、1979年批准)の明文が存在している。
すなわち、社会権規約の7条(a)(@)は以下のとおり規定している。
『7条 この規約の締結国は、すべての者が公正かつ良好な労働条件を享受する権利を有することを認める。この労働条件は、特に次のものを確保する労働条件とする。
(a) すべての労働者に最小限度次のものを与える報酬
(i) 公正な賃金及びいかなる差別もない同一価値の労働についての同一報酬。特に、女子については、同一の労働についての同一報酬とともに男子が享受する労働条件に劣らない労働条件が保障されること。』
この規定は、国内的効力および裁判規範性を有している。一般に日本国が締結した条約について、日本国内において、国内法としての効力が認められるのが原則であり(憲法98条2項参照)、その効力は法律に優位するものとされている。この理は、日本政府が批准した社会権規約にも該当することはいうまでもない。さらに、裁判規範たりうるかについては、その当該条約が自力執行的な(self-executing)条約であれば、国内立法措置を待たずに効力を持ちうるとするのが通説・判例の立場であるところ、社会権規約の規定の中でも、たとえば本件で問題となっている7条の規定や、男女の平等な権利の保障(3条)の規定等、立法措置を必要としない規定については、自由権規約同様、裁判規範性を否定する理由がない。本規約中に予算措置・立法措置を必要とするいわゆる憲法上のプログラム規定的な性質の規定も存在していること、また同条約2条1項において、締結国の実施義務が「立法措置その他のすべての方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、(中略)行動をとることを約束する」と規定していることをもって、全規定の裁判規範性を否定することは、各規定が独立した内容を有していることを看過するものであって合理性がない。
この点について、国連の社会権規約人権委員会は、同委員会が締結国政府報告に対する審理の結果とは別に一般論として発表する、いわば公権的解釈としての性質も有する「一般的見解」の中でこのことを明確に述べている(一般的見解3、E/1991/23 AnnexIII)。
『社会権規約3条、7条(a)(@)、8条、10条(3)、13条(2)(a)、(3)、(4)及び15条(3)等、多くの司法制度内の裁判所及びその他の機関によって即時に適用することが可能と考えられる規定が存在する。これらの規定が性質上非自力執行的であるとの主張を維持することは非常に困難である。』
したがって、社会権規約7条(a)に定められている同一価値労働同一賃金の原則・均等待遇原則は、日本において裁判規範性を有しており、原告の主張を支える実定法上の根拠足りうることは明かである。仮に、裁判規範性自体を否定したとしても、少なくとも「公序」を形成していることは否定できないことである。
(3) 年功序列賃金制度と均等待遇原則が矛盾しないこと(被告の反論@Aに対する反論)
@ 年功序列及び職歴による賃金加算や扶養家族手当の支給などの制度が原告の主張する均等待遇原則と矛盾しないことについては、原告準備書面(2)の12頁(第4の3)でも反論したところである。原告は常勤職員と同様の年功序列賃金、手当及び退職金等を支給するよう求めているのであって、年功序列や職歴加算の適用を否定しているのではないのであるから、被告の批判は本件では成り立たない一般論である。
A また同一価値労働同一賃金の原則・均等待遇原則のもとでも、賃金決定要素としての合理性を持つ限り年功や職歴年功序列賃金や職歴加算の制度を認める余地があるのであって、同原則の適用を求めることと、年功序列賃金及び職歴加算の制度や各種手当てを求めることは、そもそも矛盾しない。日本の社会において年功序列賃金を採用した企業が多いとしても、十分に均等待遇原則を適用する余地があるのであって、均等待遇原則が「公序」を形成していないとは全く言えないのである。
B この点判例も、同一価値労働同一賃金・均等待遇原則違反の主張を採用した上で、年功序列賃金・職歴加算・退職金・各種手当ての差額の支払いを命じる取扱いをしており、年功序列賃金制度や職歴加算・諸手当の支給制度と均等待遇原則の適用が矛盾しないことは明かである。
上述の丸子警報器事件第1審判決において、裁判所は、均等待遇原則が公序を形成しているとした上で、正社員と同じ仕事をしていた臨時職員に対して正社員の年功賃金を基準に計算した差額賃金(の8割)の支払いを命じている。
また、正社員の男女差別に関する判例ではあるが、日ソ図書事件(東京地判平成4年8月27日、確定)や塩野義製薬事件(大阪地判平成11年7月28日、確定)においても、裁判所は、男女同一賃金の原則が同一労働同一賃金原則・均等待遇原則を基礎理念とすることを明らかにした上で、年功序列賃金制度を採用する職場においてもその原則が当然適用されることを明言し、年功序列賃金制度を適用した賃金差額の支給を命じている。これらの事件で、裁判所は原告が正職員であることを根拠として形式的に年功賃金の適用を命じたのではなく、同一労働を行っていることを評価した上で、年功賃金制度の均等な適用を命じているのであって、同一企業内で同一(価値)労働に従事している以上、同等の年功賃金・手当が支払われるべきであるとの判断を下した判例として本件にとっても重要な前例となっている。
(4) 均等待遇原則を設置要綱自体が求めていたこと(被告反論@に対する反論)
@ 中野区女性会館学習コーディネーター設置要綱(乙1)第12条2項は、学習コーディネータの給与について、「第1種報酬の額は、正規の職員の給与との『均衡』を考慮して区長が定める」と定めており、均等待遇原則の適用を明確に求めている。被告自身年功序列賃金のもとでも時間比例的な均等待遇原則を適用しなければならないと規定しているのである。
A そして、後述(6)のとおり、被告は、常勤職員との「均衡」を、前歴加算、昇給、調停手当、退職手当、期末・勤勉手当、住宅手当の支給を除外して論じている。しかし、上記のとおり、要綱は、「正規の職員の給与」との均衡を要求しているのであって、正規の職員の給与の一部を構成しているこれらの要素を除外することは、明らかに要綱違反である。
(6)でも述べるとおり、まず前歴加算や昇給はいずれも職員の経験を職務の質への評価として考慮するものであって、常勤職員と非常勤職員とで異なる理由がない。また調整手当は、大都市在勤で生活費が他の地域よりも高額になることを考慮して支給されるもので、本給の計算方法の一部とも言うべきものであり、これを非常勤と常勤とで区別する理由がない。退職手当、期末・勤勉手当は、その性質が賃金後払い的なものであれ功労を慰労する趣旨のものであれ、中野区で勤務してきており賃金が時間比例的に支払われるべきこと、功労を報いるべきであることは非常勤と常勤とで区別する理由はない。さらに、住宅手当は、勤務の基礎的な条件を整備するために支給されるものであって、非常勤であっても、少なくとも中野区での勤務だけで生計を維持せざるをえないほどの時間を拘束されている以上、常勤職員と異なる扱いをするべき理由はない。
したがって、学習コーディネーター設置要綱自体が「正規の職員の給与」との均衡を考慮しなければならないとして均等待遇原則を明記していること、「正規の職員の給与」に含まれる前歴加算、昇給、調停手当、退職手当、期末・勤勉手当、住宅手当を考慮しないで非常勤に対する給与を決定することは、要綱違反である。
B なお、被告は、地方自治法204条の2の規定により、原告に各手当を支給することができないことは明かである、と主張している。
しかし、地方自治法204条の2は、法律またはこれに基づく条例に基かずには、いかなる給与その他の給付も行ってはならないと規定しているところ、中野区の非常勤条例(乙10)は、給与の上限を定めているだけで、具体的な金額・給付項目は任命権者が定めるものとしている(第1条、2条)のであって、手当を支給することは条例に与えられた任命権者の権限内の行為であり、地方自治法違反とはなりえない。そして、中野区女性会館処務規程(「規程」)」3条に基づく学習コーディネーターの設置要綱12条2項の規定が上記のとおり「正規職員の給与との均衡」を求めており、正規職員の給与に諸手当の支給が条例上定められているということは、むしろ、諸手当を支給することは、条例およびこれに基づく諸規定により積極的に求められているというべきであって、被告の立論は全く成り立たない。
さらにいえば、仮に、諸手当の支給について、条例上の根拠がなく地方自治法違反となるとしても、均等待遇原則は憲法の基本原則を根拠とするものであり、法体系下位にある地方自治法等の規定がこの原則に反していたとすれば、当該規定が違法無効となり、均等待遇原則に基づき諸手当を支給することが求められるまでである。被告の主張は国内の法体系上の上下関係を無視した主張でありそもそも失当である。
(5) 労働価値の評価は本件で問題ではないこと(被告反論Aに対する反論)
本件では、職種が異なる労働間での同一賃金を主張しているのではなく、労働価値の比較が困難であるとする主張は全く意味をなさない議論である。
(6) 本件賃金格差(均等待遇原則違反の範囲と実際の賃金格差ー被告反論A及びBに対する反論)
@ 被告の主張
被告は、非常勤職員と常勤職員との間に均等待遇原則が適用されたとしても、本件では原告の賃金を「常勤職員の給料月額に準じる形で算出していた」から「裁量権逸脱」はない、と主張する。
しかし、被告の主張は、均等待遇原則違反の範囲を根拠なく狭めているのであって、原告と常勤職員の賃金格差は、勤務時間比例をしたとしても、なお訴状の第三(9頁以下)で述べたとおり1323万円にも及んでおり、「常勤職員の給料月額に準じた」ものとは到底言えない。
以下被告の算出根拠の誤りを項目毎に検討する。
A 常勤一般職員への本来の賃金
被告において、常勤一般職員には、訴状第三(9頁以下)記載のとおり、 A) 本給の支給があり、その金額について、以下の昇給がある。
a) 1年毎に1号級の昇給
b) 勤続5年となるまでに1度の特別昇給(昇級措置を3ヶ月早める)
B) 下記諸手当が支給される。
a) 調整手当
b) 住居手当
c) 期末手当・勤勉手当
d) 退職手当B 賃金格差
ア)前歴加算の不適用
被告は、採用時、原告に対して、常勤職員には適用される前歴加算を行わなかった。原告は、被告に採用された時点で、大学院前期課程終了後5年で職歴としては被告における職務とは異なる職に4年勤務しており、2級10号給が適用となるはずであったが、被告は、原告に対して、大学卒業後同種の職種に勤続4年後の者に適用される3級8号給を準用した。しかし、本給として支給された金額は、2級10号の本給額の時間比例換算額よりも低く、その差額は月間6000円であった。
イ)昇給の不適用
a)被告は、昇給制度も原告に適用しなかった。すなわち、被告は、原告に何の根拠もなく3級8号を適用した上で、恣意的に2年間に1号級だけ昇給させた後は退職まで5年間「3級9号」に張り付けにした。
なお、被告は、1号だけのわずかな昇給とベースアップの事実をもって「常勤職員の昇級に準じた取扱い」と強弁しているが、常勤職員であったならば、上記のとおり1年に1号給、また5年間の間に一度特別昇給するのであるから、7年間に1号級だけ、しかも全く恣意的になされた昇給が「常勤職員に準じた」昇給制度に当たるとはいえないことは明かである。
この点、上述の丸子警報器事件においても、臨時社員に対してその勤続年数に応じその基本給にABCの3段階の区分が設けられており、昇給制度の適用があったとの主張がなされていたが、裁判所は、3段階の差がわずかで、しかも勤続10年以上は一律であるような昇給制度は「正社員の年功序列制に準ずるものとは到底言えない」と断定している。
b)昇給制度の趣旨に鑑みても、その制度の均等な適用が均等待遇原則から要請されることは明かである。すなわち、昇給制度とは、勤続による労働の熟練度の上昇を加味して職務の内容の評価を行っているものであるところ、非常勤職員であったとしても、勤続によって熟達するのは同じであるから、常勤であるかどうかで昇給制度の採否を決定することは許されない。
判例上も、上述丸子警報器判決は、上述のとおり臨時職員に対して正社員の年功序列制に準ずる昇給制度がなかったと断定した上で、会社は正社員となる途を用意するか、正社員の賃金に準じた年功序列制の賃金体系を設ける必要があったとし、昇給制度の不適用による格差が均等待遇違反となると判断している。
c)本件では、昇給に関する均等待遇違反の結果、1998年の原告退職時には、時間比例した本給について月額7万5600円もの格差が生じている。格差はなかったとする被告の主張は全く成り立たたず、しかもその格差は著しい。
ウ)調整手当の不支給
被告は、原告に対して、調整手当を支給しなかった。調整手当は、訴状12頁、17頁でも述べたとおり、物価及び生計費が特に高い地域に在勤する職員に対して支給されるという手当である。本給額に比例して一定の支給率で支給され、期末・勤勉手当支給の際の基本賃金額にも加算されるものであり、当該地域に勤務する職員の本給額の一部としての性質を有している。大都市部に在勤しているという条件は、原告と常勤職員とでは何ら変わりがないのであって、その不支給は、賃金と同様、均等待遇原則違反の賃金格差に当然含まれる。
調整手当不支給による賃金格差は、月例賃金額と期末・勤勉手当額に格差を生じさせるが、月例賃金だけをとっても、その金額は1998年の原告退職時で月額2万9808円にも上っており、著しい格差を生じさせている。
エ)住宅手当は、労働の量や質に左右されない給付であるが、当該職場で労務を提供する者に対して、必要な基礎的条件を整備するために給付されるものであり、常勤職員であっても非常勤職員であっても、当該職場で労務を提供しているという条件が同等であり、しかも、他に専務する職を持ち得ないほどの拘束時間(月の4分の3)である以上、同等に支給されなければならず、その額全額が均等待遇原則違反の賃金格差となる。1998年の原告退職時で月額8000円もの格差となっている。
オ)期末・勤勉手当は、賃金の後払的性格ないし功労への慰労との性質を有しているとされるが、原告が常勤職員と同一の労働を行っていた以上、賃金が支払われるべきであるのも、功労が報いられなければならないのも常勤職員と全く同様であって、原告に対しても当然均等に支給される必要がある。
カ)退職手当不支給
被告は、退職手当を原告に支給しなかった。退職手当は、賃金後払い的性格ないし功労への慰労の性格を有しているとされるが、被告の賃金体系において重要な地位を占めており、常勤職員と同一の労働を行ってきた原告に対してその支払いを行わない合理的な理由はない。前述の丸子警報器判決においても、退職金を賃金格差として認めている。
退職手当の不支給による格差は、173万8800円にものぼっており、著しい格差となっている。
C 賃金格差まとめ〜著しい賃金格差
以上述べたとおり、「常勤職員に準じた」賃金を支給しており均等待遇原則違反がないとする被告の主張は、年功序列賃金制度のもとで原告に対しても当然適用されるべき昇給や手当支給を看過した誤った主張である。
被告が「常勤職員の給料月額に準じる賃金」と称しているのは、本給にかかる昇給の制度を根拠なく排除し、常勤職員の賃金の4割を占める手当をすべて不支給とした上で、一方的に定めた賃金に時間割合を乗じた数値である。根拠のない数字に4分の3(原告の勤務時間割合)をいくらかけても、常勤職員に「準じる」ことにはならないのであって、常勤職員と同様に昇給した賃金および支給されるべき手当ての合計に4分の3を掛けるのでなければ、「準じている」と言えないのは当然である。
原告に対して支給された賃金は、別紙のとおり、常勤職員との時間比例で4分の3とした賃金と比較して(住宅手当については上述のとおり全額)、最大で43%(1998年)、最小で61%(1994年)であり、到底裁量権の範囲とは言えず、均等待遇原則違反は明白であり、違法である。
第2 被告の地公法3条3項3号の濫用に関する主張に対する反論
1 任用における濫用について
(1) 被告の反論の要旨
被告の反論は、
@ 地公法3条3項3号に規定する特別職の非常勤を充てるべき職務は、常時勤務を要しない職でなければならないが、臨時的なものでなく恒常的なものでも差し支えない。
A 特定の職に常勤を充てるか非常勤を充てるかは、当該職務の内容、当該職員に求められる資格、定数の問題あるいは当該職務に要する事務量などを総合的に考慮して決定されるもので、当該職が恒常的なものかどうかは直接関係ない。
B 学習コーディネーターの職を設けた任命権者としては、その職にふさわしい専門的知識、経験を有する者を充ててその職にふさわしい職務を遂行することを期待していたものであって、実際にやっていたことが常勤職員のそれと変わらないという原告の主張は、当該職をもうけた任命権者の意図、当該職の設置の趣旨をまったく考慮しないものである。
C 年齢による受験資格の制限は、現実の年功序列型の人事配置を考慮して一定の幅を定めて資格要件(地公法19条2項)とすることが社会一般に認められている。
というものである。
(2) 地公法3条3項3号に規定する非常勤について
@ 「常時勤務を要しない職」の意味(被告の上記反論@)について
地方自治体の職務のうち、恒常的に処理される必要のあるものについては常勤一般職の職員をあてるのが地方公務員法のそもそもの趣旨であり、「常時勤務を要しない職」というのは恒常的に処理される必要のある職務かどうかで判断されるべきである。既に原告の平成13年2月19日付け準備書面で述べたとおり(5頁)、地公法3条3項3号の「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職」とは、「地方公共団体の事務にもっぱら従事するのではなく特定の知識、経験に基づき、随時、地方公共団体の行政に参加する者または他に生業を有することを前提として、一定の場合に限り地方公共団体の業務を行う者の職をいう」ものと解されており(鹿児島重治「逐条地方公務員法」)、具体的な例としては非常勤の公民館長、非常勤の学校医、公立学校の非常勤講師などがこれにあたるとされている。これらの例を見れば明らかなように、同法3条3項3号に定める非常勤は、恒常的に処理されるべき職務ではなく、随時あるいは一定の場合に必要となる職務をスポット的に担当するものをいうのが本来の趣旨である。地方自治法203条が非常勤職員に対しては「報酬」及び費用の弁償のみを支払うとしているのも、非常勤の職が前述のようにスポット的であることが前提となっているためである。
ところが実際には、定数の制約の中で増大する業務を遂行するために、地公法上の非常勤制度の基本的な趣旨を越えて、非常勤が濫用され、それが重大な問題であると指摘されるに至っていることは、既に原告の平成13年2月19日付け準備書面で述べたとおりである(5〜8頁)。被告自身も定数の問題が常勤か非常勤かを決める判断要素となっていることを認めているが、実際には常勤を要する職についても非常勤制度が濫用されているのである。
被告は、本件学習コーディネーターは非常勤制度を濫用したものではなく「常時勤務を要しない職」であるから非常勤の特別職とするのは正当だ、などと主張するが、学習コーディネーターの職が常時勤務を要する職であることは、
(i)女性会館における業務を常勤職員とともに割り振って担当処理てきたこと、
(ii)担当業務は、学習コーデイネーターでなければ処理できないというものでないばかりか、広く一般職常勤職員が担当してきた業務も含まれており、
(iii)被告が主張するように学習コーデイネーターの職を廃止した後においても、原告が担当してきた業務を一般職常勤職員が担っていること、等からみても明白である。この事実は、原告が従事してきた職務が中野区女性会館学習コーディネーター設置要綱によって創設された業務ではなく、女性会館が行うべき恒常的事業のための業務そのものであることを意味する。このような職務を担当する職が「常時勤務を要する職」でないとする理由は全くない。
要するに、被告の主張は、同じ業務を行う職であっても、常勤職員がその職に就けば「常時勤務を要する職」となり、非常勤職員が就けば「常時勤務を要しない職」となる、と述べているに過ぎない。これでは非常勤職員を充てることが出来る職が無制限に広がることになってしまい、かかる解釈が取りえないことは明らかである。
A 専門的な知識、経験(被告の上記反論B)について
地公法3条3項3号に定める特別職の非常勤について前提とされている専門性については、既に原告の平成13年2月19日付け準備書面(5〜6頁)で述べたとおりであり、使用従属関係の中で指揮命令に従って発揮される程度のものではなく、その知識や経験に基づいて独自に必要な判断を行って仕事を完成させていくような高い専門性や知識を想定しているものである。これは、このような高い専門性や知識を必要とする業務は必ずしも恒常的に存在するものではなく、一定の場合あるいは随時必要となることが多いので、その専門に関する他の生業に就いている者を非常勤としてスポット的に活用することに合理性があることによる。そして、このような高い専門性や知識を有する者に対しては時給も相当程度に高額に設定されるため、前述のようにこれらの者がその専門性に関する他の生業による収入を得ていることと相俟って、「報酬」及び費用の弁償のみを支払うとすることにも(地方自治法203条)合理性があるといえる。
ところが、本件学習コーディネーターに必要とされる専門性は、女性会館の館長を中心とする組織の中で指揮命令に従って発揮されるものであり、地公法3条3項3号において前提とされているものとは異なる。被告は、学習コーディネーターの職を設けた任命権者としては、その職にふさわしい専門的知識、経験を有する者を充ててその職にふさわしい職務を遂行することを期待していたなどと述べるが、被告の策定した設置要綱でも「コーディネーターは、地域センター部女性・青少年課長の指揮監督を受け、次の各号に掲げる職務を行う。」とされており(第3条)、任命権者としてもその専門性が組織の指揮命令に従って発揮されることを期待していたものである。
また、被告が学習コーディネーターに必要とされる専門性を高く評価していたのであれば、その「報酬」もその専門性に見合うべく相当程度の額とすべきであるが、実際には常勤一般職の賃金を時給換算したものより低い金額しか支払っていないのであるから、その主張は自らが現実的に行っていることと矛盾したものであって、何ら説得力をもたない。
B 学習コーディネーターを非常勤特別職とするのは濫用(被告の上記反論Aへの反論)
被告は、当該職務に常勤を充てるか非常勤を充てるかは、当該職務の内容、当該職員に求められる資格、定数の問題あるいは当該職務に要する事務量などを総合的に考慮して決定される、と述べるが、本件学習コーディネーターを非常勤の特別職とした理由として具体的に挙げているのは、上記の「常時勤務を要しない職」であるということと女性問題についての専門的な知識や経験が必要であるということだけである。しかし、学習コーディネーターの職が「常時勤務を要しない職」とは到底言えないこと、及び、専門的な知識や経験が必要だということが非常勤とすべき理由にはならないことは既に述べたとおりである。
問題は、学習コーディネーターの担当すべき職務が常時勤務を要し、勤務時間等当該職への拘束の度合いも他に主たる生計維持のための就業の機会を得ることが客観的に不可能な条件に設定されているにも関わらず、その有する専門的な知識・技能・経験を発揮してこれを生業として収入を得ながら副業として自治体の業務にも従事することを予定した特別職非常勤職員として任用しようというところにある。これによって、学習コーディネーターの職に就こうとする者は、それだけでは生計維持が不可能なほどの低い「報酬」(及び費用弁償)しか得ることができず、他の就業の機会を得ることもできない、という著しく劣悪な労働条件を強いられることになるのである。しかも、常勤一般職となることは、年齢による受験資格制限のため全く可能性がない。
被告はこのような処遇も「最小の費用で最大の効果を上げる」という行財政制度の効率的運営のための非常勤制度の弾力的運用である(被告準備書面C5頁)と主張するのであろうが、経費負担回避のために上記のような大きな不利益を労働者に強いることは許されないというべきであって、地公法3条3項3号の濫用であると言わざるをえない。
(3) 年齢による受験資格の制限と女性差別(被告の上記反論C)について
被告は、現実の年功序列型の人事配置を考慮して一定の幅の年齢であることを資格要件(地公法19条2項)とすることが社会一般に認められているなどと主張する。しかし、M字型雇用といわれるように女性が未だに家庭責任等のためにいったん仕事を中断せざるをえない状況が続いている中では、年齢による資格制限が女性に不利益に働いていることは争いようのない事実である。一方でこのような不合理な差別的結果を生み出している資格制限を、現実の社会でそのような制限がなされることが少なくないという一事のみで正当化することは到底できないというべきである。しかし、被告は年齢制限の合理性について、それ以上の具体的な理由は何ら述べていない。年功序列型の人事配置は以前から見直しが必要であると指摘されており、それを積極的に推進する理由はなく、まして家庭責任を実際上負っている女性が受験資格から排除されるという重大な問題に何の手当もせずに年齢制限を行うのは、全く合理性がない。
被告は自ら、地方自治体もいかに効率的に行政を執行し最小の費用で最大の効果をあげるかという視点に立って非常勤職員制度の弾力的運用に関心を持つ必要がある、と述べているが、要するに年齢によって受験資格を制限することによって女性を常勤から排除する一方で、地公法3条3項3号を濫用して、それらの女性を非常勤として常勤職員より低い労働条件で働かせているものであり、女性差別以外の何物でもない。
2 処遇における濫用について
処遇における濫用について、被告は、地公法3条3項3号の濫用はないので原告の主張はその前提を欠くと主張するが、かかる反論が失当であることは前述のとおりである。
また、被告は常勤職員の給与と非常勤の報酬について、給料(本給)の額に不合理な格差が設けられているとはいえないと主張するが、それが失当であることは既に第1の4で述べたとおりである。
第3 濫用による法的効果と被告中野区の義務
被告中野区が、特別職非常勤職員に適用される報酬基準を原告に適用することについて濫用の謗りを免れることができるとすれば、常勤職に匹敵する報酬基準を適用して、その格差を解消する以外にない。被告中野区には、原告を上記のような勤務条件のもとに任用した以上、原告に対し、常勤職員に匹敵する給与ないし報酬を支給すべき作為義務があるというべきである。
ところで、被告中野区は、原告には一般職常勤職員に関する条例を適用して給与の支給を行なうべきであったとの原告の主張に対し、そのような支給は地方自治法に違反すると主張する。しかし、前述のように、本来法が予定する特別職非常勤制度の枠組みを逸脱して原告を任用したことそのものに濫用による違法があり、そうすると、原告と被告中野区との間には、特別職非常勤職としての公法上の任用関係が濫用によって違法とされる結果として、原告が一般職常勤職員と同等の勤務を義務付けられて被告中野区に対して労務を提供するという事実上の関係が残ることになる。そして、被告には、前述の常勤職に匹敵する給与ないし報酬を支給すべき作為義務を負うのであるから、その義務を履行しない以上、原告にはその作為義務違反に基づいて、実際に支給を得た給与額と常勤職員に匹敵する給与額との差額について、損害賠償を求める権利がある。
上記の損害を特定するにあたり、常勤職に匹敵する給与額とはいかなるものであるか問題になるが、これが、原告の主張するところの、被告中野区の条例に基づいて一般常勤職員に保障されている給与水準となる。 以上
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平成12年(行ウ)第240号 損害賠償請求事件
原 告 平 川 景 子
被 告 中 野 区東京地方裁判所民事第11部 御中
被告指定代理人 河野 通孝
同 森岡 清和
同 小川 正明
同 大谷 良二
同 江川 宏
同 大内山高幸
同 片岡 和則第1 年齢制限について
1.原告は、パートタイム労働者であることを理由として正規職員と差別することが社会的身分による差別に当たることの根拠として、被告の職員採用における年齢制限を挙げている。すなわち、被告が常勤職員の受験資格について、翌年の4月1日時点での年齢を28歳末満とし、この年齢を超える者に対し受験を一切認めないことは、これにより非常勤職員を、自らの意思と努力によって、そこから離れることができないという固定した地位に置くことになるから、非常勤職員であることは社会的身分そのものであるというのである。
しかし、パートタイム労働者であることが社会的身分にあたらないことはすでに平成13年3月30日付被告準備書面(2)で述べているところである。
補足するならば、被告の常勤職採用における年齢制限は国民一般に等しく適用され、誰もが平等にその制約を受けるのであるから、たまたま何らかの事情でその機会を失し、あるいは採用試験に不合格となり常勤職員としての地位に就くことができなくなったからといって、非常勤職員であることがそれだけで社会的身分にあたるとすることはできないと解される。原告の主張は、常勤職に任用される機会が平等に付与されていたという事情を考慮せず、常勤職と非常勤職という局面だけに着目するものであって、妥当とは思われない。
年齢制限の問題は、年齢制限を設けること自体あるいは具体的な年齢、たとえば本件の場合28歳という年齢による制限が合理的か否かという問題にはなり得るとしても、年齢制限により常勤職として採用されることが不可能となったことを理由として、現に非常勤職員であることが社会的身分にあたるとすることはできないはずである。
2.なお、一般的に常勤職の採用に年齢制限が設けられるのは、公務が法律に基づいて安定的、継続的そして確実に遂行されなければならないという性格を有しているため、それを担う公務員組織が人員面及び組織全体としての能力面において安定的かつ継続的なものであることを求められているからである。
とりわけ、恒常的、継続的に一定水準の行政事務を遂行していくためには、単に一定の人員が確保されるだけでは足りず、何よりも組織全体から見た職員の総合的能力が常に一定水準に保たれていることが必要不可欠である。
一般的に組織は常に新陳代謝を繰り返していかなければその存続自体立ち行かなくなるのであるが、とりわけ公務員組織は規模が大きく毎年大量の退職者が生じるのが常態となっている。したがって、これら退職者による欠員をその都度便宜的な方法で充実していくことは非常に困難であり、しかも多数の実績と経験を積んだ退職者に代わり得る人材を常時補填するということとなれば、それはほとんど不可能と言わざるを得ない。
以上のような公務の性格と公務員組織の実状を考慮し、しかも組織として安定的、継続的かつ確実に一定水準の公務を遂行していくためには、実績と経験を積んだ多数の退職者に代わり得る人材を組織内部で絶えず生み出していく組織形態を考案せざるを得ないこととなるが、これがまさに現行の公務員制度にほかならない。
すなわち、現行の公務員制度は、採用にあたって厳格な能力実証を求めることにより一定の能力を有する者のみを職員とするとともに(地方公務員法15条)、一定の年齢制限を設け、職員全体がほぼ同一の勤務年数を有するように配慮した上で、それら職員を終身雇用的任用制度のもとで長期的かつ計画的に育成していくという形態をとっている。そして、このような制度、組織のもとにおいては、経験、実績を積んで高度の能力を有することとなった高齢職員が毎年大量に退職していくとしても、それによって欠ける部分はその翌年の退職者によって確実に補填され、翌年の退職者の後には翌々年の退職者が続くという形で、間断なく、適切、有能な人材が安定的に補填されることとなり、組織全体としての公務遂行能力を常時一定水準に保つことが可能となる。
以上のように、年齢制限はまさにこのような人事システムに不可欠な、根幹的な制度として位置づけられるものなのである。
以上が公務員の採用段階において年齢制限が求められる実質的な理由であるが、採用試験において一定の年齢の幅に受験資格を限ることは国、地方公共団体を問わず自明のこととして当然に採用されているところである(平成12年12月15日付被告準備書面(1)3頁以下)。
原告は、年齢制限がなされていること自体が憲法14条に反するかのような前提に立ち、常勤職員の受験資格に年齢制限が設けられているゆえに非常勤職員という地位が社会的身分そのものとなると主張するのであるが、年齢制限自体は、上記のとおり合理的かつ当然に認められている制度であるから、年齢制限の存在自体を根拠に非常勤職員たる地位が社会的身分であるとする原告の主張はその前提を誤るものと言わなければならない。
なお、具体的に年齢制限を何歳とするかは、上記のような公務員制度の趣旨に照らせば、国あるいは各地方公共団体が当該公務員組織の規模、実状等を考慮しつつ決定すべきものであり、その意味で各任命権者の裁量的判断の余地は多分に大きいと解される。
したがって、当該公共団体等の実情を無視して何歳が妥当な年齢制限であるかを一般論として論じることはできないが、その年齢制限が当該公共団体における公務員組織の安定的、継続的運営という観点から判断し、到底容認できないほどに不合理でない限りは違法、無効となることはないはずである。被告における28歳という年齢制限は他の団体と比較しても特別ではなく、また特段明らかに不合理であるとの事情も見出すことができないから、これをもって披告の年齢制限が違法、無効であるとすることはできない。
第2 地方自治法204条の2の解釈について
原告は、地方自治法204条の2の規定は、「いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずには支給することができない」と規定しているところ、被告の非常勤条例は給与の上限を定めているだけで具体的な金額・給付項目は任命権者が定めるものとしていることから、手当を支給することは条例に与えられた任命権者の権限内の行為であり、地方自治法違反とはなりえない、しかも学習コーディネーター設置要綱が「正規職員の給与との均衡」を求めているのだから、非常勤職員に条例に基づいて諸手当を支給することは積極的に求められていると言うべきであると主張する。
しかし、地方自治法204条の2の規定は、非常勤職員に対して支給し得る報酬等について規定する203条、常勤職員に対して支給し得る給料、手当等について規定する204条の規定を当然に前提とする規定であるから、それらの規定を無視して204条の2の規定の文言だけから、非常勤職員に対しても条例に基づけばいかなる給与その他の給付も支給しえると解するのは明らかな誤りである。
さらに、原告は、地方自治法204条の2についての上記の解釈を前提として、学習コーディネーター設置要網が「正規職員の給与との均衡」について定めているのであるから条例上非常勤職員についても諸手当を支給することが当然求められているのであり、これを行わないことは要綱違反となる旨主張する。
しかし、上記のように前提となる204条の2の規定についての原告の解釈が誤りであること、本来要綱の解釈は上位法である法律あるいは条例の定めに適合するようになされるべきであることからすれば、原告の主張が成り立ち得ないことは明らかである。
また、原告は、仮に諸手当の支給が地方自治法違反となるとしても均等待遇原則は憲法の基本原則を根拠とするものであるから、地方自治法自体が違憲、無効なのであり、非常勤職員にも諸手当を当然に支給し得ると主張する。
しかし、常勤職と非常勤職とはその任用原理がまったく異なるのであるから、地方自治法203粂および204条の規定が直ちに憲法に違反するとの主張には根拠がなく、非常勤職員に対して当然に手当等を支給できるとする原告の主張には理由がない。したがって、その主張を前提とする全体としての賃金格差の主張にも理由がないといわなければならない。
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平成12年(行ウ)第240号 損害賠償請求事件
原告 平 川 景 子
被 告 中野区東京地方裁判所民事11部御中 原告ら訴訟代理人
弁護士 中 島 通 子
同 中 野 麻 美
同 菅 沼 友 子
同 秦 雅 子記
甲号証
番号
証拠の標目
作成者
作 成
年月日
原写
の別
立証趣旨
甲1
発令通知書
中野区長
神山好市
1992年
(平成4年)
4月
写
原告の地位
甲2の
1
女性会館事
業概要
中野区女
性会館
1993年
(平成5年)
9月
写
原告が勤務していた女性会館の位置づけ、
事業の概要。原告の職務である学習コーデ
ィネーターの設置要綱及び原告の職務内
容。
甲2の
2
同上
同上
1994年
(平成6年)
10月
写
同上
甲2の
3
同上
同上
1995年
(平成7年)
9月
写
同上
甲2の
4
同上
1996年
度事業実績
1997年
度事業概要
同上
1997年
(平成9年)
10月
写
同上
甲2の
5
同上
1997年
同上
1998年
(平成10年)
写
同上
度事業実績
1998年
度事業概要
10月
甲2の
6
同上
1998年
度事業実績
1999年
度事業概要
同上
1999年
(平成11年)
4月