![]()
![]()
平成12年(行ウ)第240号
原告 平川景子
被告 中野区
準備書面
原告訴訟代理人 弁護士 中島通子
同 弁護士 中野麻美
同 弁護士 菅沼友子
同 弁護士 秦 雅子
平成13年2月19日
東京地方裁判所民事11部 御中
記
第1 職務の同一性
1 中野区女性会館の事業内容
自治体における男女平等のための取り組みは、自治体行政のなかでますます重要な位置を占めるようになっている。すなわち、女性差別撤廃条約の批准と各種法制度の見直しを経て男女共同参画社会基本法が制定されてきたわが国の経過のなかで、男女平等に向けた行政施策の重要性は衆目の一致するところであり、市民の生活に密着した自治体行政においてはとりわけ、そうした位置づけは将来ともに変わるところはないと考えられる。女性会館は、そうした男女平等に向けて発揮されるべき行政機能の中心に位置づけられてきたものであり、その事業は臨時的・一時的なものでは毛頭ない。
中野区では、女性問題に対する施策は、1980年代から重要課題の一つとしての位置づけをされてきた。具体的には、「中野区女性基本計画」(1989)にもとづき、1990年に「『中野区女性基本計画』推進プラン」として詳細に策定されている。上記プランは、その後も1993年、1995年、1998年に改定されるなど、女性施策の重要性は、ますます認識されるに至っている。その女性施策の内容は、@女性問題の調査研究、企画、総合調整、及び関係機関との連絡調整、女性問題の啓発、広報等とA女性問題に関する情報及び学習の機会提供などの区民への事業展開とに分類されており、@を同区の地域センター部内の女性・青年課の男女平等推進主査(係に相当)が担当し、Aについて、同区同部同課の係に相当する女性会館が担当している。
女性会館(1990年に「女性」と改められるまでは「『婦人』会館」であるが、以降法令名以外はすべて「『女性』会館」と呼ぶ)は、「中野区婦人会館条例」(事業概要1989参照)にもとづき、1984年に開設され、その事業内容は、
(1) 女性問題に関する場の提供に関すること
(2) 個人又は団体相互の交流の場の提供に関すること
(3) 女性問題に関する相談に関すること
(4) 内職の相談、あっせんに関すること
(5) その他区長が必要と認めること
とされている。この事業を施行するために、女性会館では、毎年、
@ 学習の機会と場の提供
A 情報提供
B 活動促進・交流の場の提供
C 相談事業
を4つの枠組み(4本柱)として、事業が計画されてきた。
2 原告の職務
(1)
原告は、92年4月1日付けで「中野区学習コーディネーター」として採用され、以降、女性・青少年課長(以下「課長」という)の指揮命令の下に置かれてその業務に従事してきた。この学習コーディネーターの地位は、1988年に策定された「中野区女性会館学習コーディネーター設置要綱(平成元年3月20日要綱第24号、以下単に「要綱」という)にもとづいている。そして、同要綱によれば、業務内容は、以下のように定められている。
ア 女性会館が主催する講座の運営に関すること
イ 女性会館以外の女性問題講座の主催者に対する情報提供及び相談
ウ 区民の自主グループによる女性問題の学習活動についての相談
エ その他課長の指示する事項に関する業務
これらは、上記の女性会館の4本柱の内、@Bに該当する。
(2)
原告の具体的な職務内容については、訴状別紙「担当職務一覧」にも記載されているが、追加補充した上で述べると、以下のとおりである。
@ 女性会館の事業計画策定
毎年の女性会館の事業計画は、女性会館の事業が予算化された後、事業の具体的な項目ごとに遂行すべき職務と担当が決定され、担当一覧が作成されるが(「女性会館事業担当一覧」)、これはすべて全職員の議論に基づいてなされ、原告もこの議論に参加していた。
A 講座の企画(上述4本柱の@、学習コーディネーターの業務のアの職務)
原告は、@で作成される事業計画の内のいくつかの講座について担当していた。当該講座の担当が原告一人であることもあったが、通常は一般行政職職員1人とともに担当していた。
講座の担当者は、まず講座内容の企画書を作成し、その内容を会館職員全員が出席する「第3月曜会」という毎月一度の会議に提出する。そして、そこでの検討内容を反映して企画書の起案を完成し、これを女性会館長(以下「館長」という)及び課長に提出して、決済を得る。
担当者内部では、非常勤・一般行政職職員の区別なく、上記作業を分担し、企画書作成段階で担当者内で話し合い、起案担当者も話し合いにより決定していた。決済を受けるべき最終的な企画書等の起案を原告が担当することもあった。但し、年度を重ねるにつれて、とになっていない講座についても相談を受けて処理してきた。
B 講座の準備(上述4本柱の@、学習コーディネーターの業務のアの職務)
講座の準備としての作業内容は以下のとおりである。
まず、企画内容作成中、あるいは決定後に講師と日程の候補を決め、その候補者と交渉する。講師と日程が定まった後は、区報・会館だより等で区民に周知し、応募者の中から受講者を決定・起案する。(受講者を限定せず公開する場合もある。)受講決定の通知を出し、一時保育を要する場合は子どもの人数・年齢等を勘案し、保育者と調整した。
そして、講師との間で講座の内容・進め方などを具体的に相談して決定する。講師との打ち合わせは、電話・FAXによる場合が多いが、出張することもあった。さらに、講師との打ち合わせに基づいて、講座参加者へ配布する資料を作成する。以上の職務に関しても、担当者内部では非常勤・一般行政職職員の区別なく、相談にもとづいて随時分担して行っていた。
C 講座の運営(上述4本柱の@、学習コーディネーターの業務のアの職務)
講座当日は、担当者は、会場設営・講師への対応・参加者の受付を行い、講座の形式によっては司会進行役をつとめることもあった。
D 講座修了者の自主グループ支援(上述4本柱のB、学習コーディネーターの業務のウの職務)
女性会館では、講座修了者が自主的にグループを形成して学習していくことを推奨していたが、グループ活動の場所の提供や一時保育の確保・講師の確保・交渉などについて、元の講座の担当者が相談に応じることになっていた。
この職務に関しても、担当者内部では非常勤・一般行政職職員の区別なく、随時職務を分担していた。但し、自主グループは何年にもわたって活動を続けることが多く、そのような場合には、主担当となることが多かった。
E 区内の住民の自主グループ活動支援
直接に講座を受講したことがない区民についても、自主的学習について相談を受けた場合は、女性会館はもとより、区内各地に出張して、相談に乗って支援することになっていた。このような活動支援の業務は、非常勤・一般行政職職員の区別なく講座の担当者が対応することとなっていたが、原告が担当することが多かった。
F 情報提供
女性会館は、女性問題に関する情報提供として情報図書室を運営していたが、その他に、「中野の女性史」を編纂したり、各種ハンドブックを作成・配布し、また会館だより(アンサンブル)を定期発行していた。原告の職務には、形式的には、上述学習コーディネーター要綱のとおり、本来情報提供は含まれていなかったが、課長が指示した業務として、これらに関与していた。「中野の女性史」については、一般行政職職員と情報図書館室専門員とともに担当者として、その校正を担当した。また、各種ハンドブックについても、一般行政職職員と情報図書館室専門員とともに担当者として、内容執筆を分担し、担当者全員で検討するなどの職務を担当した。さらに、会館だよりにも他の一般行政職職員等と同様、担当者の割り振りに従って記事執筆を分担していた。
G 報告業務
女性会館は、毎年度事業内容報告として、「中野区女性会館事業概要」を作成していたが、その作成は、全職員が自己の担当業務について報告を作成してこれを持ち寄り、館長が取りまとめるという形でなされていた。 原告も自己の担当業務について、担当していた他の一般行政職職員と分担しながら報告を作成していた。
H お昼当番
女性会館では、昼休みの図書の貸し出し・返却、会館内の会議室の予約・電話対応・終業時の茶器の洗浄の担当者を「お昼当番」としていたが、このお昼当番は、一般行政職職員・非常勤の全職員で分担していた。原告もその出勤日に合わせてこれを割り当てられて、お昼当番を分担していた。
3 「常勤」の一般行政職職員との職務の同一性
(1)担当した職務自体の同一性
前述のとおり、原告は、女性会館の4本柱となる職務を一般行政職職員とともに担当し、しかも担当者内部でも、企画立案、内部での検討、外部交渉、区民に対する直接のサービスの提供、いずれについても一般行政職職員同一の内容を分担していた。また、原告の学習コーディネーターとしての地位には、社会教育主事の資格あるいはこれと同程度の能力が必要とされていたが、中野区では社会教育主事が一般行政職として勤務しており、このことは、原告の職務の内容を一般行政職員たる社会教育主事との職務内容の同等を示すものである。また、女性問題に関する情報及び学習の機会提供などの区民への事業展開を課題とする女性会館においては、原告の知識がまさに臨時的ではなく、常に必要なのであって、原告の職務内容が常勤を必要とするものであったことを裏付けている。実際、1980年に社会教育事業の中で女性問題に関するセミナーが他と分けて開催されたときには、講座の企画・運営など後の原告と同じ職務内容について、一般行政職員の社会教育主事がこれを担当していた。
さらに、また、4本柱自体の業務以外の業務についても、お昼当番を分担するなど、一般行政職員と同様の取扱を受けていた。
(2)拘束時間の同一性
原告の職務が常勤を必要とするものであったことは、以下のとおり、原告の拘束時間についても一般行政職職員と量的にも質的にも異なるところがなかったことからも明らかである。
原告は、一般行政職職員の勤務時間の4分の3にあたる月15日間、一日8時間、女性会館に勤務していた。これだけの時間拘束された場合、女性会館の勤務が当該労働者にとって第一の主たる勤務先となることは当然であって、そもそも一般行政職職員と給与における取扱を異にする理由はまったくない。また、実際の原告の勤務時間は、一日12時間以上、午後9時頃までに及ぶことも少なくなく、実態としても、原告の職務には、「常勤」が必要であったことを物語っている。
そして、女性会館においては、サービスの性質上、夜間や土曜・日曜に出勤することが求められることが多く、原告もそのように柔軟に対応してやむなく勤務時間を変更していた。
3
以上のとおり、原告の職務及び勤務時間による拘束性は、一般職常勤職員と同一ないし同等というべきである。
第2 地方自治体における非常勤職員の位置づけ
1 被告は、
@地公法3条3項3号にいう特別職の非常勤職員は、地方自治体の事務に専ら専従するものではなく、特定の知識、経験に基づき、随時、地方自治体の行政に参画する職務としての性質を有するものであって、常勤職員との間には単に勤務時間が短いだけにとどまらない質的な差異がある。
A常勤職員については給与条例に基づき「給料」や諸手当などの「給与」が支払われる(地方自治法204条1項ないし3項、283条1項)が、非常勤職員には「報酬」及び費用弁償のみが支払われるものとされ(地方自治法203条1項、3項)、それ以外のものは支払うことは許されない。
と主張する。
2 しかし、原告を含む地公法3条3項3号に基づく特別職の非常勤職員の実態は、本来同条項の予定しているものとは大幅にかけはなれている。
すなわち、本来法の予定している同条項に基づく非常勤職員は「地方公共団体の事務にもっぱら従事するのではなく特定の知識、経験に基づき、随時、地方公共団体の行政に参画する者または他に生業を有することを前提として、一定の場合に限り地方公共団体の業務を行う者の職をいう」ものと解されており(鹿児島重治「逐条地方公務員法」、具体的には非常勤の公民館長、非常勤の学校医、公立学校の非常勤講師などが例として挙げられている。「特定の知識、経験」とは、一般職ではなく特別職であることと関連するもので、特別職は、一般職のように使用従属関係の中で指揮命令に従って職務を遂行するものではなく、その知識や経験に基づいて必要な判断を行って仕事を完成させていく職と理解されている(「地方公共団体の臨時・非常勤職員等の身分取扱」地方公務員任用制度研究会編著17頁参照。なお、この文献は被告の提出している乙10と同一のものである)。確かに、これらの者については非常勤性が明らかであり、労働を提供するというより専門的知識や経験を活用するものであるという点も含めて、これらを常勤職員と異なる特質としてとらえることもできるだろう。
しかしながら、実際には多くの地方自治体が前記の範囲を超えて同条項による非常勤職員を任用している。
例えば、特別職とはいえないような事務補助、給食調理等の職にも同条項による非常勤職員が就いており、前掲の文献でも「使用従属関係にある非常勤の職として、地公法3条3項3号の職員が存在する可能性と、現実にそのような職員が存在すること」が問題として指摘されている。これは、同書でも述べられているとおり、地方自治体が「自治法や地公法上の定数・給与その他の制約から逃れるために、非常勤職員制度を活用(乱用?)」しているものである(同書27頁)。
さらに、同条項による非常勤職員の職が、このように拡大されるのに伴い、勤務時間も週30時間前後の者が増えたため、このような職が「非専務職」と言えるのか、という問題も指摘されるようになった(青木宗也外編著「自治体における民間委託・派遣・臨職の法的検討」)。
そのような中で、東京都は平成4年に非常勤職員制度を改訂し、非常勤職員をその職務内容に応じて(1)専門的非専務的非常勤(専門的資格、能力又は学識経験に基づいて高度専門的業務に従事する非常勤)、(2)臨時的非常勤(その都度の業務の必要性に応じて業務に従事する非常勤)、(3)専務的非常勤(勤務形態の多様性を活かし、専ら都行政の業務に従事するもので、月11回以上勤務する非常勤)、の3つに分類し、それぞれの特性に応じて勤務条件等を考慮することとした。これらの非常勤が地公法3条3項3号に基づくものであるならば「専務的」であってはならないはずであるが、同条項の乱用により法と現実のギャップが看過できないほど拡大している状況の中で、東京都は現実の非常勤職員に専務的な者が少ないことを認めざるを得なくなったのである。
本件について見ても、原告は女性会館学習コーディネーターとして任用されたが、実際には他の一般職の会館職員と同じ仕事をやっていたものであり、勤務時間も月15日(120時間)となっており、特別職という点でも、非専務性という点でも、地公法3条3項3号の予定する範囲から大きく外れていると言わざるをえない。これは、原告と同様の被告中野区のMランクの大半の非常勤職員について当てはまることであり、被告中野区は地公法3条3項3号を乱用して、同条項の予定する範囲を超えて非常勤として任用したものである。
したがって、被告のこの点に関する主張は、地公法3条3項3号の本来予定する範囲の非常勤職員には妥当しても、乱用によってその範囲を超えて任用された原告らと常勤職員とを別異に取り扱うことを正当化する理由とはなりえず、失当である。
3 地方自治体の非常勤職員について「報酬」及び費用弁償のみが支払われるとされているのは、前述のような本来法の予定している非常勤職員を前提としたものであり、原告のように専務的な非常勤職員を予定していないものである。
この点、国家公務員の場合には、一般職の非常勤職員を2つ類型に分け、「委員、顧問若しくは参与の職になる者又は人事院の指定するこれらに準ずる職にある者で、常勤を要しない職員」については、手当を支給することとし、それ以外の非常勤職員については、「常勤の職員の給与との権衡を考慮し、予算の範囲内で、給与を支給する」とされている(一般職の職員の給与に関する法律22条1項、2項)。これは同じ非常勤職員といっても、委員等のように本来の職業を有しながらその傍ら公務に参画するかたちの職員と、臨時またはパートタイム的であるにせよ、実質的に国に雇用されるかたちのその他の非常勤職員との2種類があり、その性格の違いに応じて、給与上の取扱もおのずと異なったものとして考えていくことが適当であるとの考慮によるものとされている(尾崎朝夷外編「公務員給与法精義」)。
ところが、地方公務員の場合には前述のように、このような非常勤職員の職務内容の性格の違いに応じた規定となっておらず、一律に「報酬」及び費用の弁償のみを支払うとされており、そもそも不合理なものであったところ、前述のように非常勤職員の範囲が地公法の予定するところを超えて大幅に拡大するに至り、ますますその矛盾が大きくなっているのである。
このような中で、前述の東京都の例のように、現実の非常勤職員の職務内容の違いに応じて賃金を含む勤務条件を別異に取り扱わざるをえないような状況が生じているのである。被告中野区も1999(平成11)年4月から施行されている「中野区に勤務する非常勤職員の勤務条件等に関する要綱」において、非常勤職員の額を「その職の複雑性、困難性及び勤務の不規則性等に応じ、かつ常勤職員の給与との均衡を考慮して区長が定める。」と規定するに至っている。これは地方自治法の形式的一律な規定の不合理性を被告中野区自身も認めたことに他ならない。
被告の主張は、現実とのギャップの中で合理性を持たなくなっている規定に基づく形式的なものであり、原告ら非常勤職員と常勤職員との取扱いの違いを正当化する理由とはなりえない。
第3 非常勤制度の濫用
1
原告のような非常勤職員は、常勤を必要としない業務について一定の学識経験のあるものを充てることとされ、常勤を必要とする業務については正規職員を充てるとするのが地方公務員法のそもそもの趣旨である。すなわち、常勤職員か非常勤職員かの区分は、職員が充てられる職務の基本的性質によって決定されるべきものであり、その職務の遂行に専門的な知識・経験を要し、かつ常時勤務を要しない場合に非常勤職員を充てることができるというもので、当該職員に専従性があるのか否かによって決められるべきものではない。そして、当該職務が常勤を必要とするかどうかは、恒常的に処理される必要のある職務であるか否かによって決定されるべきものであり、特定の知識・経験を要する職であるかは、一般職のように使用従属関係のなかで指揮命令に従って職務を遂行するものではなく、専門性に基づいて必要な判断を行い職務を完遂させるという特質を有するかいなかによって決せられるべきものである。
2
これについて、被告中野区は、地方公務員法にいうところの特別職たる非常勤の職は、非専従性に特質があり、常勤職員のような「もっぱら専従性」に欠け、特定の知識・経験に基づいて随時自治体行政に参画する性質を有すると主張するが、原告が地方公務員法3条3項3号の特別職非常勤職員であるから一般職である常勤職員とは処遇を異にするのも当然であるのは、その職務の専門性や常勤性ではなく、職員の専門性や専従性に常勤職員と非常勤職員を区別する特質があるかのように論理をすり替える。そして「職が恒久的なものであるか臨時的なものであるかは、常時勤務を必要としない職でなければならないというだけであって、必ずしも臨時的なものとは限られず、恒久的なものでも差し支えるものではない」とする地方公務員任用制度研究会の解釈や、国家公務員については、人事院規則が、非常勤職員の勤務時間は常勤職員の1週当たり勤務時間の4分の3を超えない範囲で定めるとしていることを論拠としながら、あたかも、原告ら自治体非常勤職員については、これにならってその勤務条件について「非専従性」が設定されているもので、紛れもなく非常勤職であるというかのようである。
また、被告中野区は、非常勤職員の右のような専門性や非専従性ゆえに、「もっぱら専従」性を特質とする常勤職員とは、その労務の提供に対する支払いの体系を異にしているとも主張する。確かに、常時勤務を要しない専門的な知識経験を発揮して労務を提供する非常勤職については、指揮命令を受けない労務提供の委託的な性格や、その収入によってもっぱら生計を維持するものではないところから、賃金たる給与ではなく報酬としての手当として支払うとされ、一般職常勤職員とは支払いの体系を質的に異にするものとされている。そして、被告中野区は、原告ら非常勤職員は、非専従性ゆえにこれによってもっぱら生計を維持するものではなく、身分及び勤務条件が保障されている常勤職員とはその取扱いを異にするのは当然であるというのである。
3
しかしながら、実際には、地方公務員法上の非常勤制度の基本的な趣旨とは異なって、常勤を必要とし、専門性を要しない業務についても、非常勤職員を充ててその業務を処理している実態が少なからず存在し、これが重大な問題であると指摘されるに至っていることは前述のとおり公知の事実である。そして、地方公務員制度調査研究会の「中間整理」は、こうした実態を問題とし、「現在の制度では、特別職の非常勤職員は一定の学識経験のある者、臨時職員は臨時的な職に充てるものとされているが、現実的には任命権者の判断でそれ以外の者も特別職の非常勤職員又は臨時職員として任用せざるを得ない状況にある」ことを指摘するに至っている。被告中野区の主張は、こうした重要な問題が指摘されている運用実態についてまで、何ら問題はないと強弁するものであって、到底容認しがたい。
さらに、同研究会中間整理は、地方公務員法上の非常勤職員がその法的枠組みを逸脱して活用されていることに加え、国家公務員においては、専門的な知識経験を必要とする常勤を要しない職員以外の非常勤職員については「手当」ではなく「給与」を支給することとし、給与は常勤職員との均衡を考慮して定めるとされているが、自治体非常勤職についてはそうした取扱になっていないとして、自治体非常勤職員の低い処遇を問題にしている。そして、前述のような非常勤制度の法を逸脱した運用のもとで採用された非常勤職員の低い処遇を改善するため、短時間公務員制度の新設も論議されるに至っている。
4
被告中野区は、中野区では、学習コ−ディネ−タ−は専門的な知識や経験が求められる職であり、また常時勤務を要しない職であったから地方公務員法3条3項3号の非常勤特別職としたと主張する。しかし、上記のような主張は原告の職務の実態をふまえないものであり、また何ゆえ常時勤務を要しない職であったのかについての具体的な根拠については何も説明していない。
まず、原告に充てられた中野区女性会館における学習コ−ディネ−タ−の業務は、前述のとおり地方自治体において常勤を必要とする業務であったことは明白である。原告は、中野区女性会館事業概要記載の業務を運営実施するための業務に従事していたものであるが、これらの業務は恒常的に必要とされる業務であって、それを常勤職員も含めて分担を決め、職員らは、女性・青少年課長の指揮命令のもとに連携しあってこれらの業務を遂行してきたものである。そして、原告に割り当てられ、従事してきた業務は、前述のように、正規職員と同様であった。以上からすると、原告については、一般職とは異なる専門性を要する業務に自己の判断に基づいて役割を発揮するといった勤務実態にはなく、一般職常勤職員とともに常時勤務を必要とする業務に従事していたことは明白である。
また、被告中野区は、前述のとおり、原告の勤務日は、1カ月に15日と常勤職員の4分の3とされていることについても、非常勤職員として処遇されるべき根拠であるとしている。しかし、勤務時間を常勤職員より短いものとして4分の3程度の範囲に制限しているのは、原告ら職員に「非常勤」の刻印を与えるための形に過ぎず、原告らに割り当てられた職務を遂行するために必要な勤務時間は到底このような限度で足りるものではなく、不合理極まりないものであった。すなわち、女性会館は、非常勤の週休日に充てられた日かどうかに関係なく運営され、事業概要記載の業務に従事する原告に求められる役割は、週休日を除いた特定の日だけの勤務では処理することができなかった。
たとえば、区民は非常勤である学習コーディネーターの出勤日とは無関係に開館日であれば各種の活動を展開しており、区民の要請によって講座や協議会の開催が求められた。原告が担当した保育室研究協議会は、週休日である土曜日に開催が求められたものであるが、前述の勤務の割り当てにより同協議会を担当することになった原告は、右週休日に出勤して職務を遂行していた。また、女性会館祭などは日曜日に開催されることから、出勤日を調整して業務を遂行する状況であった。原告の職務がこのように常時勤務を要する職務であるのに、非常勤の刻印を押すためだけに週労働日を常勤職員の4分の3とされていることから、業務を処理するために1日の勤務時間を延長せざるを得ず、任用から2年間はほとんど毎日9時ころまでサービス残業によって担当職務を処理せざるを得なかった。このような非常勤の勤務実態は、到底地方公務員法上の特別職非常勤職員に予定されたものであるとは言い難い。
ちなみに、被告は、原告ら非常勤職員については「もっぱら専従」性がなく、他に収入を挙げられる職員であるなどと主張するようである。しかし、要綱に掲げられるように、1カ月の勤務日数が15日というのは、週当たり4日勤務より1日少ないというに過ぎない。しかも、前述のように、週休日も区民の要請によって出勤せざるを得ない状況で、いったい他の何処に生活の糧を求められるというのであろうか。被告中野区の主張は、机上の空論に過ぎないことは誰の目にも明白というべきである。
以上に加え、被告は、被告に雇用される中野区非常勤職員の職務を常勤職員によって代替させる方向を示し、実際にもそれをすすめてきているのであって、それ自体、被告の主張が成り立ち得ないことを自認するものというべきである。すなわち、中野区は、財政健全化プランによって98年度をもって学習コーディネーターを廃止し、2000年度をもって情報図書室専門員を含む110名の非常勤職の廃止等を決定しているが、職務自体は存続させて常勤職員がこれに代替することを予定している。そのことは、まさに非常勤職員が担当してきた職務が、地方公務員法が予定している専門的で常勤を要しない職務ではないものであることを意味するものであると同時に、財政の許す限り安価に事業を運営する目的のもとに、非常勤制度を活用してきた事実を裏づけるものである。
5
以上のことから、原告に充てられた業務は、地方公務員法に定められるところの非常勤職員として予定されたものではなく、一般職常勤職員に充てられるべき常勤を必要とする業務であった。したがって、中野区は、原告に予定された業務に従事する職員を採用するのであれば、本来的には、常勤職員として採用すべきであったことは明白というべきである。
ところが被告中野区は、ここでも論理をすり替えて原告個人の受験資格を問題とし、原告がその時28歳より年上だったから常勤職で採用できなかった、したがって、濫用の指摘は当たらないなどと主張する。すなわち、被告は、原告が常勤職員として採用されるためには、特別区職員T類試験の合格者として任用候補者名簿に記載されることを要するところ、右受験資格には年齢制限があり、原告の採用時の年齢からすれば右の受験資格を充足していないとし、そうであれば、原告を常勤職として採用することは、受験資格がないのに採用するという点で地方公務員法に反する違法な採用となるというのである。そして、このような年齢による受験資格制限は、わが国において一般的な年功序列型配置や高齢者について今後予想される勤務年数や年金問題を配慮したもので合理性を有するとも述べる。
しかし、被告が原告を中野区職員として採用したうえ、地方公務員法上の本来的な非常勤職とは異なり、常時勤務の必要な職にあるものとかわらない勤務に従事させてきたことは、地方公務員法上予定された任用権限の枠組みを逸脱したものというべきであって、労働者の年齢がたまたま28歳を上回っていたから逸脱も許されるし、低い処遇も当然だというのは、どこをとっても社会的に通用する説明にはならない。被告の主張は、不合理極まりないもので、上記の被告の主張は、的外れという以外にない。
6
問題は、原告が常勤職員としての受験資格をもっていたかどうかではなく、地方公務員法上の非常勤制度の枠組みを逸脱して常勤職員によって充てるべき業務に従事させたということであり、また、そうでありながら、非常勤職員としての身分のみを理由として(あるいは非常勤でしか採用される余地はなかったことのみを理由として)、このような原告ら非常勤職に、前述のように専門的な知識・経験や担当職務の基本的性格にはまったく見合うことのない低い処遇のもとに置いたということである。これが、原告の主張する非常勤制度の濫用である。
また、地方公務員法3条3項3号の特別職非常勤職員に対しては、労働の対償としての賃金=給与ではなく、いわゆるところの報酬的性格を有する「手当」が支給されることになっており、その点で常勤職員とは質的に異なる支給体系が適用されることになっているが、上記の法の枠組みを逸脱した活用がなされている非常勤職員らに、そうした支給体系を適用することも、制度の枠組みを逸脱した濫用という以外にない。すなわち、地方公務員法上の特別職非常勤制度の濫用的運用がなされているところでは、特別職非常勤職に関する支払い体系を原告らに適用することも、法の枠組みを逸脱した取扱いと評価されるということである。
そして、原告ら、法の枠組みを逸脱して活用されている特別職非常勤職員の取扱いが違法性の指摘を免れるとすれば、「非常勤」の刻印を押すに過ぎない呼称や勤務時間にかかわらず、一般職常勤職員との均等待遇を保障した場合に限るというべきである。
第4 非常勤職員に対する賃金差別は違法
1 前述のとおり原告を非常勤職員として任用したことは、非常勤職員制度の濫用であるが、被告は、準備書面(一)第二の二において、同一労働同一賃金の原則は、法規範として存在していると認めることはできないとし、原告の主張を否定しているので、非常勤職員の賃金差別自体が違法であることについて、以下のとおり主張する。被告が同一労働同一賃金原則を否定する理由として挙げているのは次のとおりである。
(1) 同一労働同一賃金の原則についてこれを明言する実定法の規定は存在しないから、使用者が労働者との契約においてどのように賃金を定めるかは、基本的には契約自由の原則が支配する領域である。
(2) これまでのわが国では、国や地方公共団体はもとより多くの私企業において、年功序列による賃金体系を基本とし、さらに職歴による賃金の加算や、扶養家族手当の支給などさまざまな制度を設けてきたのであって、同一労働に単純に同一賃金を支給してきたわけではないから、公序違反とは言えない。
(3) 同一の労働には同一の賃金を支払うべきであると言っても、特に職種が異なる労働を比べるような場合、その労働価値が同一であるか否かを客観性をもって評価判定することは著しく困難であるから公序違反とは言えない。
2 しかし、国または地方公共団体における非常勤という雇用関係上の地位による差別的取扱いは、次のとおり憲法14条1項に違反し違法である。
(1) 憲法14条1項後段の「社会的身分」に関しては、かつて「人の生まれによって決定される社会的地位」と狭く解釈する説があったが、これでは「門地」と同義になるとの批判などがあり、「人が社会において一時的ではなく占めている地位」と広く解釈する説、およびその中間にあって、「人が社会において一時的ではなく占めている地位で、自分の力ではそれから脱却できず、それについて事実上ある種の社会的評価が伴っているもの」、「後天的に占める社会的地位で一定の社会的評価を伴うもの」などと解釈する説が有力に唱えられ、最高裁は、「人が社会において占めている継続的な地位をいう」と広く解釈している(最高裁大法廷昭和39年5月27日判決)。
非常勤職員であるということは、人が社会において占めている継続的な地位であり、被告が主張するとおり28歳を過ぎた者は常勤職員の道を完全に閉ざされ、非常勤職員として任用された者は自分の力ではそれから脱却できない地位であるから、上記広義に解釈する説はもちろん、中間説からみても、憲法14条1項後段の「社会的身分」に該当する。
(2) 憲法の基本的人権の規定は、第一に国あるいは地方公共団体が国民の人権を侵害することを許さないものである。資本主義の高度化にともない、社会的権力による人権侵害が重要視されるようになり、私人間にも憲法が間接適用されることが最高裁判決で認められるようになってきたが、このことは国あるいは地方公共団体等公権力による人権侵害に関しては憲法が直接適用されることに異論はない。
本件非常勤差別は、中野区によって行なわれているものであるから、憲法以外の実定法の有無にかかわらず、憲法14条1項が直接適用されるのであるから、実定法の有無によって非常勤職員に対する差別を不問に付すことはできない。
(3) 憲法の保障する人権規定に反する法律はもとより地方公共団体の条例は違法と判断されざるを得ないので、非常勤職員という社会的身分を理由とする政治的、経済的又は社会的関係における差別的取扱いは法律や条例に基づくものであっても憲法14条1項に違反することは明らかである。
(4) もっとも百里基地訴訟のように、「国と私人間の土地売買契約に関しては、国が私人と対等の立場で締結する私法上の契約は、実質的にみて公権力の発動と何ら変わりがないといえるような特段上の事情がない限り、憲法の直接適用を受けず、私法の適用を受けるにすぎない」とする判決があるが、これに対する批判は多数である他、本件のように公務を行う職員を任用し、継続的に公務を行わせ、その労働条件を一方的に決定する関係はまさに公権力の行使そのものであり、地方公共団体が私人と対等な関係で締結する私法上の契約であるということはとうていできない。
(5) しかも、賃金は公務に従事する職員にとって最も重要な事項であり、憲法25条の生存権に関わる労働条件であるから、公権力が非常勤職員であることを理由として常勤職員と差別的に取り扱うことの違法性は重大である。諸外国では、労働者の差別的取扱いの是正が私企業に先行して公務員に関して行なわれてきたのも、そのためである。
(6) したがって、原告の賃金を非常勤職員であることを理由として常勤職員と差別的に取り扱った被告の行為は、憲法14条1項に違反し、違法無効である。
3 社会的身分を理由とする異なる取扱いであっても、それが合理的な理由によるものである場合は差別的取扱いといえない場合がある。しかし次のとおり被告が主張する理由はすべて非常勤職員の賃金を低く抑える合理的理由にはなり得ない。
(1) 被告は、年功序列賃金体系、職歴加算、扶養家族手当などがあるから同一労働に単純に同一賃金を支給できないと主張する。
しかし、原告は同一労働に単純に同一賃金を支給せよと主張しているのではない。非常勤職員に対しても常勤職員と同等の年功を加えた昇給、職歴加算を行い、扶養家族手当や住宅手当、調整手当、一時金および退職金を支給すべきだと主張しているのである。
年功序列賃金が同一(価値)労働同一賃金原則を適用できない理由とされることがあるが、日ソ図書事件判決(平成4.8.27東京地裁)や塩野義製薬事件判決(平成11.7.28大阪地裁)、丸子警報器事件判決(平成4.3.15長野地裁)など、年功賃金の職場では同程度の年功の労働者との同一賃金を問題にすれば足りることで、同一賃金原則の適用を否定する合理的理由には全くなり得ない。
家族手当や住宅手当は年功賃金とも関係なく、その要件の有無によって支給されているのであり、その要件に女性差別があれば違法となるが、手当があること自体は、それ以外の賃金に関する同一賃金を否定する合理的理由には全くなり得ない。
(2) 被告は、職種が異なる労働の価値を評価することは著しく困難であるから同一賃金を支給できないと主張する。これは同一価値労働同一賃金原則の適用が困難であるとの主張と思われるが、本件では、職種が全く異なる労働の価値を評価して同一賃金を支給せよと主張しているのではない。
そもそも被告は、常勤職員の一般職については、さまざまな職種に従事する職員に対し、被告が主張するとおり年功序列賃金を支給しているのである。これに対し非常勤職員である原告は、前述のとおり、同じ女性会館の常勤職員の職務と同一または同等の職務に従事していたにもかかわらず、非常勤職員という理由だけで賃金に関し差別的取扱いを受けていたのである。
したがって被告の主張する異なる職種の価値の評価が困難であるという一般論は、本件については成り立たない。
4 原告は本件賃金格差の違法性の理由として、女性差別であることを主張しているが、被告はこれに対し何らの反論もしていない。この点は本件訴えの重要な柱の一つであるので、被告の反論を待ってさらに原告の主張を述べる。
![]()
第100号条約適用状況に関する報告
Observation on the application of Convention No.100
2001年3月8日
ILO事務局長殿
東京都新宿区天神町15―703
原告 平川景子
日本国政府が1967年に批准したILO100号条約に違反する賃金差別が日本において行われていることに関する情報をILO憲章23条に基づいて以下の通り提出する。
記
1 自治体における「非常勤」制度
わが国においては、地方公務員法で、地方自治体は、一般職常勤職員とならんで臨時職員及び非常勤職員として採用し、その職務に従事させることができることが定められているが、臨時ないし非常勤職員は、常時勤務を要しない業務に従事するものとして採用されることになっている。ところがわが国の自治体は例外なく常時勤務を要する業務に充てるために臨時ないし非常勤職員を採用し、これらの労働者に低賃金かつ不安定な地位を強いてきた。
2 中野区女性会館の非常勤職員
平川さんは、92年4月1日に中野区に学習コ−ディネ−タ−として採用され、98年3月31日まで中野区女性会館で勤務した。地方公務員法上の身分は三条三項三号の非常勤職員である。中野区では、非常勤職員の労働時間は一般職の四分の三に相当するものとして決定されていたので、一般行政職とは違って毎週金曜日が週休日とされている(しかし休日として定められた金曜から日曜の週休日の出勤も度々あった)ほかは、勤務の実態は一般行政職とまったくかわらなかった。一般行政職と非常勤職員は、ペアを組んで仕事を担当することも少なくなく、職務は重なり合っていて、一般行政職職員が非常勤職員を指揮監督するといった上下関係のもとで仕事をするわけでもないし、両者の職務権限に違いがあったわけでもなかった。そして、平川さんの雇用が終了になって学習コ−ディネ−タ−の採用がなくなった後は、平川さんの職務は一般行政職に引き継がれていった。
3 不合理な差別
中野区女性会館の非常勤職員の職務は明かに一般職で対応すべき常時勤務を要するものであった。そして、非常勤職員と一般常勤職員との間に職務の違いがないばかりか その職務を遂行するうえでは勤務時間を4分の3にすること自体不合理だったし、平川さんたち非常勤職員は業務の必要に応じて休日も出勤して働いた。それなのに多くの自治体が非常勤職員を短時間勤務であるとしたのは、家族的責任を負担して「仕事と家庭との両立」を求める女性用の就業形態として一般常勤職と賃金等処遇において異なる取扱をなすための方便以外のなにものでもなかった。また、地域住民のニ−ズにこたえた円滑な職務の遂行のためには、勤務の継続による経験や熟練の蓄積が求められ、1年単位で雇用が繰り返されなければならない必然性もなかった。日本において、圧倒的多数の非常勤職員は、そうした要請にこたえて例外なく勤務を継続し、長いものでは二〇年を超えて勤務を継続してきている。
以上のような実態にもかかわらず、非常勤職員の賃金等処遇はおしなべて低すぎるもので、一般常勤職との間に以下のような大きな格差がある。
(1)前歴加算に差があるため初任給格付けが一般常勤職より低い。
(2)毎年昇級措置が講じられて昇給が保障され、また5年ごとに特別昇級が保障される一般常勤職とは違って、昇級措置が講じられない。
(3)物価手当に相当する調整手当、住居手当が支給されない
(4)年間で支給される期末手当及び勤勉手当、退職金が支給されない。
これは、非常勤職員が短時間勤務であるというだけでは説明できない顕著な格差であって、明かに同一労働同一賃金原則に違反する。
4 間接差別の存在
平川さんと同じようなランクの非常勤職員(中野区では非常勤職員を15ランクに分類しているが、平川さんはMランクに位置づけられている)は非常勤職員の約四割を占めているが、性別構成は圧倒的多数が女性である。98年ではMランク186名のうの組合員資格を有しない131名中女性は124名で94・7パーセント、男性は7名で5・3パーセントにすぎない。中野区職員の組合員資格のない労働者の男女比率は88年で男性38パーセント、女性62パーセントであり、これに照らしても非常勤職員の女性比率の高さは顕著である。このことから、非常勤職員を常勤に比べて著しく低額の賃金で処遇する扱いは、非常勤の圧倒的多数を占める原告ら女性に不利益をもたらしているといえる。そして、中野区が、Mランクの非常勤職員らを、担当する職務遂行の必要からは本来短時間勤務の非常勤とする必要性も合理性もないにもかかわらず、あえて非常勤として採用しているのは、主として家族的責任を負担する女性用の就業形態として、一般行政職より著しい低賃金で処遇するための方便にすぎない。
Mランクの非常勤職員多くが既婚者であるが、中野区は、家族的責任によりいったん離職した後の再就職者については年齢制限によって常勤職員の対象から排除しているので、非常勤職員以外の選択肢はない。
このような非常勤ゆえの格差は間接性差別であり、平川さんには一般常勤職員と同一の賃金が支払われなければならないはずである。
5 日本の法制度の限界
ところが、日本の法制度では、間接差別を排除する明確な規定はなく、採用=任用形態の違いを使用者が主張すれば、性による格差であっても是正を免れられるという不合理が許されている。平川さんと同じ立場に置かれた自治体非常勤職員の数は30万人を超えるともいわれ、公務労働における最も重要な問題の一つになっている。ILO100号条約の要請するところによれば、このケースのような間接差別も排除されなければならないはずであり、日本の政府・自治体が「非常勤」職の濫用的活用により女性に低賃金を強いている状況を解消するよう求める。
2001年3・8国際女性デー おんなたちの祭り 第9回
労働分科会 「間接差別NO!」
2001/3/11
パート賃金差別裁判の現在
―間接差別としての自治体非常勤職員問題―
中野区非常勤職員賃金差別裁判 原告
平川景子
はじめに
・ 被告 中野区:99年9月提訴
・ 女性会館学習コーディネーター:92年4月就職、98年3月退職、
・ 裁判は賃金差別を争うが、最大の課題は雇用不安
1 「原告側準備書面(2001.2.19)」の論点
(ILOレポート参照)
第1 職務の同一性
第2 地方自治体における非常勤職員の位置づけ
第3 非常勤制度の濫用
2 賃金の格差の内容(時効2年)
@ 本給―時間比例の原則―
A 調整手当(都市勤務手当相当)―同率―
B 期末・勤勉手当(ボーナス)退職金―同率―
C 住居手当―これだけは「同等」―
3 争点となりそうなこと
@ 原告側 間接(性)差別―自治労調べ(97年)で9割
A 被告側 採用(「任用」)が違う→ILOへ
B 被告側 「職務専念義務」→生活保障、年金制度との関係
4 裁判を起こして感じたこと
―反響をとおして
@ 2000年度の非常勤職員の雇用不安
―全国から5自治体の非常勤職員が連絡
A 女性施設の雇用不安
―中野区、東京都、など
B 労働紛争解決の手段(組合・地労委・裁判所など)
―パートに開かれていない、パートの孤立化、泣き寝入り
C 「主婦」アイデンティティの問題―内なる性差別
おわりに
主婦(「失業者」by女のユニオンかながわ)と働く女性の結節点としてのパート
間接差別の禁止を、司法・立法・行政・組合・そして職場で実現しよう
アクション2003へ
![]()